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第28章:泥沼の忍城
忍城・7
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1559年4月下旬
武蔵国忍城北半里(2km)
東雲尚政
殿には突撃は出来るだけしないで、と言われた。
だがこれだけ兵力に差があると遅滞運動もままならない。
機動防御の要諦は
「敵の攻撃力を破砕する」
ことだ。
漸減作戦だな。
それにはある程度、敵に損害を与えねば意味がない。館林攻防戦の時は色々有利な条件がそろっていた。敵が焦っていた、鉄砲の威力を知らない、夕暮れだった。
友軍も多数いた。
しかしこの状況で損害を与えるとなれば少々の無理は必要。
幸い、忍城の危険は去った。
本気で攻める気はなかっただろうが、梅雨前ならば我攻めも選択肢としてある。
その振りをするだけでもこちらは手を出さずにはいられない。
城兵の士気にかかわる。
すぐそこまで後詰が来ていて何もせんでは大胡への信頼が消し飛ぶであろう。
結局、政虎の目論見通りだった。
クソッ!
気持ちを切り替えよう。
すでに戦闘は始まった。
目の前に大きな穴が開いた。
新田の指揮は万全だな。
彼奴は強襲が得意だ。
敵左翼の中軍に大穴を空けてくれた。
盾も騎兵銃も拳銃も、そして長巻もうまく戦力になったようだ。
あとは斬首が出来るかどうか。
これは新田に任せよう。
さて。
敵の本隊はどう出る?
向こうからでは、こちらの第1大隊が大回りしての迂回攻撃、まだ見つけていないだろう。
ちょうどよい頃合いは政虎がこの第2大隊か第4大隊に襲い掛かって逆包囲を開始した時に、第1大隊が発見され右往左往することだが。
そううまく事が運ぶとは思えん。
取り敢えず、ここは想定通りに孤立しているように見える第4大隊が騎幕(注)を張っているように見える箇所に強襲をかけてくれることを期待しよう。
それをしてこなければ、こちらの第2大隊へ向かって来る?
まさか。
第4大隊と挟撃されに来るとでも?
軍神とかいう奴は何をするかわからん。
まあ、こっちも向こうからすると何をするかわからんと見えるだろうがな。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
東雲竜騎兵第2大隊長
新田義国
「よ~し。第3中隊よくやった!
結構不発は少なかったな。大事に持って帰れよ!
今のうちに弾込めて置け!」
「言われんでも!」
皆が笑って答える。この敵陣ど真ん中で笑えるとは。我が隊は日ノ本一だぜ!
左右から包囲せんと寄せてくる敵右翼と左翼を、残る第4中隊200で支える。
第1と第3中隊400は敵後方へ。
第3中隊は拳銃装填後、敵の背後を銃撃しつつ攪乱。
第1中隊は俺と共に敵部将の居る左翼本陣へ突入する。
本陣は手薄だな。
200といまい。
「よし。第1中隊。 漢は黙って、拳銃発射! 女子はいないが貴様らのでかいモノを食らわせてやれ!」
応!
長柄や長巻を構える敵馬廻りの届かない距離からの拳銃射撃で数十人の馬廻りが倒れる。
その後は数に物を言わせる。
300対150。
それも騎馬と徒多数。
先ほど騎馬武者の半数は討ち取った。
怯えてやがる。
何が越後の龍だ。
弱兵ばかりじゃねえか。
「敵の部将、発見! 囲みます!」
いくら強くとも数名掛かりでは勝てない。
必勝の型だ。
生き残りの馬廻りはまだ装填されていた残りの拳銃にて威嚇する。
「敵部将。討ち取ったぁ!!」
名乗りはない。
そんなものいるかい。
できれば敵の部将の名前は知りたいが、それよりも素早く撤退することが重要。
俺は腰に付けていた煙弾発射用の拳銃を取り出し上空へ放った。
赤い狼煙が気持ちいいぜ。
武蔵国忍城北半里(2km)
東雲尚政
殿には突撃は出来るだけしないで、と言われた。
だがこれだけ兵力に差があると遅滞運動もままならない。
機動防御の要諦は
「敵の攻撃力を破砕する」
ことだ。
漸減作戦だな。
それにはある程度、敵に損害を与えねば意味がない。館林攻防戦の時は色々有利な条件がそろっていた。敵が焦っていた、鉄砲の威力を知らない、夕暮れだった。
友軍も多数いた。
しかしこの状況で損害を与えるとなれば少々の無理は必要。
幸い、忍城の危険は去った。
本気で攻める気はなかっただろうが、梅雨前ならば我攻めも選択肢としてある。
その振りをするだけでもこちらは手を出さずにはいられない。
城兵の士気にかかわる。
すぐそこまで後詰が来ていて何もせんでは大胡への信頼が消し飛ぶであろう。
結局、政虎の目論見通りだった。
クソッ!
気持ちを切り替えよう。
すでに戦闘は始まった。
目の前に大きな穴が開いた。
新田の指揮は万全だな。
彼奴は強襲が得意だ。
敵左翼の中軍に大穴を空けてくれた。
盾も騎兵銃も拳銃も、そして長巻もうまく戦力になったようだ。
あとは斬首が出来るかどうか。
これは新田に任せよう。
さて。
敵の本隊はどう出る?
向こうからでは、こちらの第1大隊が大回りしての迂回攻撃、まだ見つけていないだろう。
ちょうどよい頃合いは政虎がこの第2大隊か第4大隊に襲い掛かって逆包囲を開始した時に、第1大隊が発見され右往左往することだが。
そううまく事が運ぶとは思えん。
取り敢えず、ここは想定通りに孤立しているように見える第4大隊が騎幕(注)を張っているように見える箇所に強襲をかけてくれることを期待しよう。
それをしてこなければ、こちらの第2大隊へ向かって来る?
まさか。
第4大隊と挟撃されに来るとでも?
軍神とかいう奴は何をするかわからん。
まあ、こっちも向こうからすると何をするかわからんと見えるだろうがな。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
東雲竜騎兵第2大隊長
新田義国
「よ~し。第3中隊よくやった!
結構不発は少なかったな。大事に持って帰れよ!
今のうちに弾込めて置け!」
「言われんでも!」
皆が笑って答える。この敵陣ど真ん中で笑えるとは。我が隊は日ノ本一だぜ!
左右から包囲せんと寄せてくる敵右翼と左翼を、残る第4中隊200で支える。
第1と第3中隊400は敵後方へ。
第3中隊は拳銃装填後、敵の背後を銃撃しつつ攪乱。
第1中隊は俺と共に敵部将の居る左翼本陣へ突入する。
本陣は手薄だな。
200といまい。
「よし。第1中隊。 漢は黙って、拳銃発射! 女子はいないが貴様らのでかいモノを食らわせてやれ!」
応!
長柄や長巻を構える敵馬廻りの届かない距離からの拳銃射撃で数十人の馬廻りが倒れる。
その後は数に物を言わせる。
300対150。
それも騎馬と徒多数。
先ほど騎馬武者の半数は討ち取った。
怯えてやがる。
何が越後の龍だ。
弱兵ばかりじゃねえか。
「敵の部将、発見! 囲みます!」
いくら強くとも数名掛かりでは勝てない。
必勝の型だ。
生き残りの馬廻りはまだ装填されていた残りの拳銃にて威嚇する。
「敵部将。討ち取ったぁ!!」
名乗りはない。
そんなものいるかい。
できれば敵の部将の名前は知りたいが、それよりも素早く撤退することが重要。
俺は腰に付けていた煙弾発射用の拳銃を取り出し上空へ放った。
赤い狼煙が気持ちいいぜ。
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