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第26章:四境戦争
やっぱりあ奴が使われるのか
しおりを挟む1559年4月上旬
甲斐国躑躅が崎館
馬場信春
「大胡は碓井峠を中心として、西牧、南牧、十石峠に要害を築いておりまする。
西上野を手に入れてから6年の間に、大量の銭を投入して作った城塞地帯。元からの峻険な地形と相まって難攻不落にございまする。もしここを突破しようとすれば、如何に我が精鋭の武田勢も跳ね返されること明白」
内藤殿が広間に集まった諸将に大胡の配備を説明している。
御屋形様は上座にて御旗盾無(注)を背にして座っていらっしゃる。
皆からは見えぬであろうが、小刻みに足が震えている。
大胡の鉄砲傷が原因か?
将又、大胡への決定的な一撃を与えられないこの状況にイラついているのか?
「大菩薩峠や笹子峠を東進して武蔵西部、青梅や八王子に出る進路には新たに大規模な山城が築かれましてござる。勝沼城と八王子城との中間、滝山に巨大な山城が新たに出来つつあり先の二つの城への後詰の役割を果たしており申す。
ここも強固な守りになっておりまする」
碓井を抜けるよりもましであろうが、先の勝沼での三田の連中のようにすぐに投降するなどあり得ぬからひどい戦となろう。
「次に岩殿城より東進、相模に抜ける道。狭いながらも八王子を通らずに厚木方面に抜ける事可能。しかし八王子からの軍勢にて横腹を突かれるのは覚悟せねばなりますまい。
岩殿城より大月を通り小田原と伊豆北部の三崎に抜ける道は、まだ十分な防備が出来ておりませぬ。
富士川を南下し、富士宮へ抜ける道はこの中で一番容易な道かと」
それはそうじゃ。
今川とは何度も戦った。それはあの道が甲斐から海へ抜けるための街道。
古来から様々な荷が通るため整備がされている。
「故に大胡の備えは富士川に沿った道に集中するしかござらぬ。そこなれば平野が多く大軍を持って合戦出来ましょう。各々方、ご意見はござらぬか?」
討議に入る。
駿河に出て海を今一度確実に手に入れたいというもの。
上杉と里見が大胡の主力を東に拘束する間に、八王子から狭山に出る事。
今度こそ品川と相模野の肥沃な領土を保持するべきと主張する者。
誰もが東に目を向ける。
当たり前であろう。多分これが最後の機会。
大胡を滅ぼすために包囲網を作った。これでだめならば、もう大胡は手に追えぬものとなろう。
だが……
「伊那谷はどうなっておりますかな。織田は?」
諜報を請け負っていた勘助がいない。
今は直接御屋形様の指示で三ツ者が動いている。
頭目が少々頼りないが致し方あるまい。信濃北部の素ッ破を大量に仕官させた大胡に有能な者を持って行かれた。
歩き巫女も御師も大胡が手にしている。細々と諏訪の歩き巫女と伊賀出身のこの地に根付いた者を使っている。
「それがどうやら援軍を送る気配がありまする。米や皮革が動いていると。海路駿河に来るか伊那に来るかは未だ」
伊那へ来れば織田、5000は持って来よう。
2000は拘束される。
海津と佐久にそれぞれ1000。
合わせて4000は置かねばならぬ。
今の武田は90万石で23000人が動員できる最大の人数だ。
それも多くの士分を失っている。
質が、組織が弱くなっている。
故に使いまわしが良いように、自由に使える約20000を半数に分けるか。狭い地にて合戦ともなれば20000はいらぬ。善光寺平程の広さがあれば別だが。
此度兵を集中するとすれば富士宮。
それは大胡も読んでいよう。
だが大胡の東には強敵上杉がいる。
それを見越して駿河に出る事も一つの手。織田の手勢を伊那の城にて防いでいるうちに遠江まで攻め入るか。
伊豆を掠めるか。
「ご意見は出尽くしたかな?
信春殿は如何に?」
儂はまだ意見を言うておらぬか。
では秘策を披露するか。
「大胡は大きな軍を3つ持っておりまするな。
後藤、大胡是政、太田。これが基軸。
このうちどれか1つを富士宮に持ってこようかと。
然らば残り2つ。
これが主力10000は下りませぬ。主力が生きているうちは何処を取っても同じこと。取り返され申す。
御屋形様。
政虎から共闘の文が届いておりませぬか? 挟み撃ちにしたいと。
もしそうなれば勘助が手を付けなかった者に手を伸ばして準備をさせていた西上野を掠め取り、大胡を東西から挟み撃ちできるのではと思慮いたします」
なんと!
まさか!
あ奴か!?
皆には内密に御屋形様の許可をいただき西上野の小幡を使い、元の本拠である富岡の国峰城を奪取。
あの地までの道を確保する算段が付いた。
勘助の置き土産よ。
己を悪者にして儂からの手を取りやすくして置きよった。
惜しい奴を無くした。
伊那が堅固で富士宮と岩殿が安全ならば、碓井峠を通り大胡の脇腹に食いつき、上杉の軍勢と挟み撃ち可能となろう。
皆が御屋形様を見る。
そして
「西上野を取る! 御旗楯無も御照覧あれ!」
これで決まった。
我ら武田と大胡。
どちらかが倒れるまで上野の地で戦う。
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