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第26章:四境戦争
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1559年3月下旬
尾張国政秀寺
武田信虎
「ではこれにて」
儂は眼の前に座る沢彦殿に礼をとる。
「お力になれず申し訳ござらぬ。臨済宗は大胡に絡めとられております故、織田家への調略は難しいかと」
この坊主。
織田家の外交顧問をしている。
儂の居る京に偶々足を運んだ事を聞き、足を運んだ。
なんとか武田の生き残りに手を貸したい。
将軍家も駄目だった。
大胡に組して居る。本願寺は大胡と敵対しているが三好との関係もあり直接的な支援は出来ぬという。
あれだけ宗門の者が虐殺されても抵抗できぬとは。
東国に門徒が少ないのが災いしたか?
上杉も加賀で一向宗を大虐殺したからどちらとも言えぬか。
織田は多分、武田へ兵を差し向ける。
普通に考えたら伊那谷を通って諏訪を目指すであろう。信長がどこまで本腰を入れるか分からぬが掠め取れるときに掠めるのがこの乱世。伊那谷辺りは切り取られる可能性がある。
それを防ぎたかったが無駄であった。
あとはあの男か。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年3月下旬
遠江国掛川城下
武田信虎
「それではまた。
何処かで」
目の前に座る坊主に頭を下げる。
幻庵宗哲。
今川が凋落を始めるきっかけを作った男と儂は思うている。
あの桶狭間の戦いの折、松平があのように多数の一揆勢を集めなければ大胡の援軍か来なかった筈。
葛山に反旗を翻させないように手当すれば武田はもっと多くの援軍を南下させたであろう。
これも後知恵の妄想か。
今なら今川を生き長らえさせることもできると思うた。
恩ある今川に一つでも良いことをしたい。
その思いで策を練った。
大胡は降った兵には優しい。
いま、今川を降参させれば大胡からの支援が届くであろう。
それを使ってまた三河にて一揆をおこさせる。
今度は松平に織田への反旗を翻らせる。
今はその程度しかできぬ。
この話を三河の一向宗徒へ伝手があるこの坊主に頼んだが断られた。
「自分は今川で厄介者扱いされている」
「当主の氏真が松平憎しで凝り固まっている」
ということがその言い分じゃ。
それは致し方ない事。
見事に裏切られたからの。
しかしこのご時世、その程度は日常茶飯事。
そのようなことで頭に来ていては生きていけぬ。
若さ故の過ちが国を亡ぼすか。
では次へ行ってみよう。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年3月下旬
伊豆国三嶋大社
武田信虎
「では、これにて失礼仕る。お役に立てず申し訳ござらぬ」
目の前に座っている『赤い男』が立ち上がり去っていく。
儂の諱の「虎」を与えた武将。
原虎胤。
晴信に追い出されたと聞き、一時は仲を取り持とうとしたが、よういかなんだ。
その間に大胡に身を寄せてしまった。
大胡近辺は、あ奴の好きな浄土宗の楽園と聞く。
もういかぬと思うた。
此度、武田の危急存亡の折、昔の縁を頼りに調略を仕掛けに来た。無理かと思うたがやるだけやってみた。
じゃが既に晴信が虎胤の息子を差し向けて調略を試みていた。頬を殴りつけようとするくらいの勢いで追い返したと聞く。
こ奴らしい。
この三嶋にあ奴が率いる大胡の赤備騎馬隊が駐留しているのは、武田の南下に備えているのであろう。武田の鉄砲隊がいなければこの騎馬隊、恐ろしい戦力となろう。
特に富士川近辺の平地。
ここまで南下しての決戦ともなれば危うい。
せめてこの虎胤を動かさないように仕向けたかったが無駄じゃった。
「この軍勢は某の軍勢ではござらぬ。某が大胡の命令を無視すればその場にて解任されまする。反旗などもっての外」
とぬかしおった。
大胡の軍は武将に忠義を尽くすのではないそうだ。
民百姓の為に戦うと。
だからか。
あ奴の信条である【助ける】という行為そのものを体現するために最適の大名なのか。これは無理だの。
さて次は誰じゃ。
あと伝手があるのは……
◇ ◇ ◇ ◇
1559年4月上旬
駿河国浅間大社本宮
武田信虎
「そうであるか! それは有難い。流石、我が血筋に連なる漢。もう調略なされたか。婿殿、感謝じゃ」
目の前に座る病身の男と、その息子の功績を大げさに褒めたたえた。
我が長女を娶らせた穴山信友とその息子、穴山信君(後の梅雪)。
既に形勢が明らかに大胡不利と分かった時点で、あの裏切り者葛山を寝返らせることが出来たという。
大手柄じゃ。
あ奴は伊豆北部から駿河東部河西地方の盟主。そこが武田に靡くとすれば虎胤の軍勢に奇襲をかけられるやもしれぬ。
富士宮には武田の南下に備えた大胡勢が1400程いるが、4000もいれば駿河は落ちたも同然。
念願の海が手に入る。
品川のような遠い海ではない。儂が作り上げた甲府から直ぐの海じゃ。何度ここが欲しいと思うたかしれぬ。
ここを入手できれば武田に新たなる時代が開けよう。
そろそろ儂は公方様を動かすために都へ帰るとするか。
大胡との一戦が終わったならば駿河を切り取った時点で調停をしていただこう。
「行きましたな。父上」
「軽いもんじゃ。裏も取らずに動くと痛い目に合うという事、確と覚えよ。決っして穴山家を潰すな」
「肝に銘じまする。お家大事。我が穴山家は武田のものではござらぬ」
「よしよし。それでよい。儂はもう疲れた故、直ぐに隠居じゃ。後は任せた」
「は。お任せあれ。この世を、するりするりと渡っていき申す」
息子の口元がにやりと曲がった。
尾張国政秀寺
武田信虎
「ではこれにて」
儂は眼の前に座る沢彦殿に礼をとる。
「お力になれず申し訳ござらぬ。臨済宗は大胡に絡めとられております故、織田家への調略は難しいかと」
この坊主。
織田家の外交顧問をしている。
儂の居る京に偶々足を運んだ事を聞き、足を運んだ。
なんとか武田の生き残りに手を貸したい。
将軍家も駄目だった。
大胡に組して居る。本願寺は大胡と敵対しているが三好との関係もあり直接的な支援は出来ぬという。
あれだけ宗門の者が虐殺されても抵抗できぬとは。
東国に門徒が少ないのが災いしたか?
上杉も加賀で一向宗を大虐殺したからどちらとも言えぬか。
織田は多分、武田へ兵を差し向ける。
普通に考えたら伊那谷を通って諏訪を目指すであろう。信長がどこまで本腰を入れるか分からぬが掠め取れるときに掠めるのがこの乱世。伊那谷辺りは切り取られる可能性がある。
それを防ぎたかったが無駄であった。
あとはあの男か。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年3月下旬
遠江国掛川城下
武田信虎
「それではまた。
何処かで」
目の前に座る坊主に頭を下げる。
幻庵宗哲。
今川が凋落を始めるきっかけを作った男と儂は思うている。
あの桶狭間の戦いの折、松平があのように多数の一揆勢を集めなければ大胡の援軍か来なかった筈。
葛山に反旗を翻させないように手当すれば武田はもっと多くの援軍を南下させたであろう。
これも後知恵の妄想か。
今なら今川を生き長らえさせることもできると思うた。
恩ある今川に一つでも良いことをしたい。
その思いで策を練った。
大胡は降った兵には優しい。
いま、今川を降参させれば大胡からの支援が届くであろう。
それを使ってまた三河にて一揆をおこさせる。
今度は松平に織田への反旗を翻らせる。
今はその程度しかできぬ。
この話を三河の一向宗徒へ伝手があるこの坊主に頼んだが断られた。
「自分は今川で厄介者扱いされている」
「当主の氏真が松平憎しで凝り固まっている」
ということがその言い分じゃ。
それは致し方ない事。
見事に裏切られたからの。
しかしこのご時世、その程度は日常茶飯事。
そのようなことで頭に来ていては生きていけぬ。
若さ故の過ちが国を亡ぼすか。
では次へ行ってみよう。
◇ ◇ ◇ ◇
1559年3月下旬
伊豆国三嶋大社
武田信虎
「では、これにて失礼仕る。お役に立てず申し訳ござらぬ」
目の前に座っている『赤い男』が立ち上がり去っていく。
儂の諱の「虎」を与えた武将。
原虎胤。
晴信に追い出されたと聞き、一時は仲を取り持とうとしたが、よういかなんだ。
その間に大胡に身を寄せてしまった。
大胡近辺は、あ奴の好きな浄土宗の楽園と聞く。
もういかぬと思うた。
此度、武田の危急存亡の折、昔の縁を頼りに調略を仕掛けに来た。無理かと思うたがやるだけやってみた。
じゃが既に晴信が虎胤の息子を差し向けて調略を試みていた。頬を殴りつけようとするくらいの勢いで追い返したと聞く。
こ奴らしい。
この三嶋にあ奴が率いる大胡の赤備騎馬隊が駐留しているのは、武田の南下に備えているのであろう。武田の鉄砲隊がいなければこの騎馬隊、恐ろしい戦力となろう。
特に富士川近辺の平地。
ここまで南下しての決戦ともなれば危うい。
せめてこの虎胤を動かさないように仕向けたかったが無駄じゃった。
「この軍勢は某の軍勢ではござらぬ。某が大胡の命令を無視すればその場にて解任されまする。反旗などもっての外」
とぬかしおった。
大胡の軍は武将に忠義を尽くすのではないそうだ。
民百姓の為に戦うと。
だからか。
あ奴の信条である【助ける】という行為そのものを体現するために最適の大名なのか。これは無理だの。
さて次は誰じゃ。
あと伝手があるのは……
◇ ◇ ◇ ◇
1559年4月上旬
駿河国浅間大社本宮
武田信虎
「そうであるか! それは有難い。流石、我が血筋に連なる漢。もう調略なされたか。婿殿、感謝じゃ」
目の前に座る病身の男と、その息子の功績を大げさに褒めたたえた。
我が長女を娶らせた穴山信友とその息子、穴山信君(後の梅雪)。
既に形勢が明らかに大胡不利と分かった時点で、あの裏切り者葛山を寝返らせることが出来たという。
大手柄じゃ。
あ奴は伊豆北部から駿河東部河西地方の盟主。そこが武田に靡くとすれば虎胤の軍勢に奇襲をかけられるやもしれぬ。
富士宮には武田の南下に備えた大胡勢が1400程いるが、4000もいれば駿河は落ちたも同然。
念願の海が手に入る。
品川のような遠い海ではない。儂が作り上げた甲府から直ぐの海じゃ。何度ここが欲しいと思うたかしれぬ。
ここを入手できれば武田に新たなる時代が開けよう。
そろそろ儂は公方様を動かすために都へ帰るとするか。
大胡との一戦が終わったならば駿河を切り取った時点で調停をしていただこう。
「行きましたな。父上」
「軽いもんじゃ。裏も取らずに動くと痛い目に合うという事、確と覚えよ。決っして穴山家を潰すな」
「肝に銘じまする。お家大事。我が穴山家は武田のものではござらぬ」
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