首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第26章:四境戦争

軍神の実像

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 1559年4月上旬
 越後国春日山城
 直江景綱
(きっと髪の毛が砂漠化)


 遂に実行してしまわれた。
 あれだけ大胡政賢と意気投合したような間柄であったにもかかわらず関東管領の職に就いた直後の同盟解消。

 そればかりか里見と示し合わせての政賢の捕縛後大胡領の接収とは。
 それも失敗して逃がしてしまわれた……。

 そして遅まきながらの大胡追討令。これを古河公方様の名にて出された。
 もう引き返せぬ。

 我ら重臣に一言も相談なさらなかった。もっと大胡との同盟について確認すればよかったか。関東管領を受けて坂東へ兵を進めるとすれば大胡はどうするのか? 
 必ずや問題となる。
 宇佐美殿が問うたがはぐらかされた。

 既にその時は決めていたのか? 
 軒猿にご自身で里見と繋ぎを付けていたらしい。


 先月3月中旬。
 大胡との同盟解消が決定的となった時、直江津に繋いである大胡の船2隻を拿捕せよと命が下された。

 実行しようとしたその直前に船は出港していった。
 軒猿の走りよりも速い?
 それほど真田の素ッ破は速いのか? 

 何かがある筈だがそれは後で探らせよう。


「それでは。これまで長年にわたり真に有難うございました。上杉様のお引き立てがなければこの蔵田屋、ここまでの身代には決してなれはしませんでした。これからも上杉様の御活躍、陰ながらお祈り申し上げます」

 長年、御用商人としての付き合い以上に尽してくれた蔵田屋が去っていく。

 これは痛い。

 この上杉の金庫番を任せていたような存在であった。
 ほぼ丸投げのような扱いにもかかわらず無理を言うてもどこかしらから銭を用立てしてきた。越後上布の販路なども開拓し、2倍3倍にも収入を増やしてくれた。

 この者が去ってしまう。


 政虎様は軽く見過ぎておられる。
 銭の力を。

 その収益のあげ方を。
 銭は家臣に任せる、そういうて憚らぬ。

 しかしそれでは小荷駄の把握はどうなさる。
 この前の加賀平定も補給路はギリギリの長さであった。
 あれ以上戦が長引けば前線にて兵糧が不足、撤退もあり得た。

「それまでに勝てばよかろう」というて、本当に勝ってしまわれる。

 去っていく蔵田屋の背中が見えなくなると共に、越後の行く末が見えなくなっていく感じがする。

「景綱殿。今年の越山、可能であろうか? 
 忌憚ない数字を教えてくれぬか」

 同席していた宇佐美殿が儂に問うてきた。
 これから殿の命にて越山。
 大胡の重要な領国である上野へ侵攻する。
 その大将に任ぜられた。

「政虎様が8000を引き連れていかれました。あちらは里見からの補給を念頭に行動しまする。宇佐美殿の軍勢は最大で20000を切りまする。2~3000は越前北部と加賀、越中に置かねばなりますまい。
 さすれば15000と考え、銭兵糧は3カ月が限度。そしてこれからすぐに出立しても6月には田植えの農繁期がござる。総動員をかければ秋の収穫が半分以下になるかと。これは避けねば。
 越山するならば7月から9月末までの3カ月。
 これ以外にはありませぬ」

 宇佐美殿が瞑目した。
 暫しの後、観念したように儂に問いかけてきた。 

「年貢に影響の出ない範囲での動員で3カ月ならば、どのくらいの兵が養えるか?」

 難しい。
 政虎様が既にその余裕分の兵を引き連れて行ってしまわれている。

「5000、いや6000というところでしょうか。
 これでも年貢は2割程度減少するかと」

 厳しい。
 大体この時期に総動員しての越山とか、どれだけ国衆に負担を掛けるか。
 そのせいで多くの謀反が起きるのだ。

「あとは……乱取りか。それしかあるまい。幸い北上野は肥えておる。
 兵が喜ぶ。士気が上がる」

 大胡は肥えている。
 兵は喜んで奪い、殺すであろう。
 沼田の辺りは頓に肥えているらしい。

 元々、越後が外征をする目的は、その【略奪】だったのだから。
 兵を養うために兵を動かす。
 これが毘沙門天の実像だ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1559年4月上旬
 上野国沼田城下
 太助
(まだ塩原ではないらしい)


「ええ出来じゃ。質が均一になってきた。これならば評判がよくなり益々売れる。他の所で作っているまがい物とは全く違う評価となるな」

 俺が運営を任された、この練炭と炭団の製造工場に訪れる流通専門の問屋の旦那が太鼓判を押す。

 最近はよそでも練炭を作り始めた。
 だがここ沼田の技術は他の追随を許さない。
 火力が最後まで落ちず均一に燃える。専用の焜炉も火力を調節できるようになった。
 これで多くの料理に対応できる。

「じゃ、もっと職人の賃金を上げられるな。その後、工場の増設か。だがもう沼田では人手がないぞ」

 そうなのだ。

 もう男手は農閑期だけの働きでは足りず、大胡様の作られた農機具で効率を上げても間に合わねえほど人手がいる。
 女子衆は鮎が働いている機織り場で作業をしているから、こっちにはこれねえ。
 既に家庭の仕事も厳しくなってきている。

「たった6年で暮らし向きがこんなに変わるとは。これも全て大胡の殿様のお蔭。
 毎日拝まねばなぁ。では今度またこっちへ引っ越してきたいという者を紹介するから匿ってくれな。今度は北の山超えた越後から来たいんだと。
 向こうも大変なんだろうなぁ」

 逃散は重罪だ。

 一揆の次に重罪。
 捕まれば半殺し。
 それでも来たいというものが多い。

 それはそうだ。他の大名の領民の10倍以上の収入がある。
 そして徴兵もねえ。これで来たいと思わねえ奴がいるか?

 大胡様の怖さは日ノ本中に広まっているという。
 この沼田には矢沢様が堅城を作り守ってくださっている。

 これ程有難いことはねえ。俺らは出来る限り働き、稼いで少しばかりの税金を払えば生きていける。

 なんという幸せ。
 この幸せがずっと続くことを祈った。

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