首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第26章:四境戦争

逆手に取られた。大胡も肩も痛い

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 1559年3月中旬
 相模国鎌倉鶴岡八幡宮
 長野政影
(きっと口から出血多量で眩暈が……)


 2本の大銀杏の間を武者の行列が下りてくる。

 先頭は上杉政虎様だ。
 此度晴れて上杉の名跡を継ぎ上杉政虎と名乗った。
 しっかりと階段を確かめるように踏みしめながら降りてくる。

 さぞや感慨深いであろう。
 ご自分を頼って逃げてきた山内上杉関東管領をお助けし、坂東へ討って出られた。
 それに手を貸し、帰還を成し遂げたもののご本人が呆けて出家なされて宙に浮いていた関東管領職。
 これを朝廷と公方様より移譲、譲り受けよとの命。

 しかしそれは我が殿の工作によってなされたものであるともいえる。自ら手に入れたものではなかった。
 それ故、公方様より命を授かり北陸を平らげてからの関東管領職への就任だ。

 大戦果を皆が称えた。

 殿が「記念撮影を」とボケていらっしゃるが、上杉殿以外はのけぞって引いている。

 最近、殿は畏まった場以外は本来の殿を見せるようになった。

「もう必要ないでしょ?」
 との答えに
「成程」と納得いたした。

 もう250万石を超える大大名だ。

 その者がどのような人物であろうとも
「己が手にて切り取って全てを強固に支配している」
 こと自体がすべてを打ち消す。

 それがたとえ女子であろうとも軽々には扱かわれぬであろう。
 ならば剽軽な殿の姿を出す事は問題なかろう。

 かえってその方が
「大胡が必要とする者」が集まる筈。

 それが武士でなくともよいのだ。
 そう思った。

「関東の勇ましき武士もののふ者共よ。これから先、この関東管領を助けこの地を安らかなるものに! 統制の取れた安定した世を!」

 応!

 ここに集まった武者たちは拳を振り上げて応じる。

 しかし……

「恐れながら、関東管領様。暫し宜しいでしょうか?」

 里見義堯だ。

 現在武田を除いて大胡に取って最大の敵国だ。
 武田は関東ではないからここにはいない。

 しかしよくここに来られたものだ。関東管領家と同盟を組んでいる大胡の軍勢がいるのだから、肝が据わっていると感心する。

 上杉様の許しを受けて発言する。

「ここにはその忠誠を誓う武士もののふを多数屠った者がおりまする。故に関東の武者は半数以下となっており、関東管領様の下知をお受けできる者は我が里見家の武者と宇都宮、佐竹の両家の武者のみ」

 上杉様の右前にて膝を突き里見が申している。

「武者ならば大胡にも沢山おろう」

「いえ。大胡の武者は殆どが元は百姓、職人、果ては河原者など。八幡太郎義家様に付き従った武士もののふは全て討たれましてございまする」

 ……無礼ではあるが、嘘は言うておらぬ。

 雑兵などからも有能な者は士官として昇進していく。
 大胡の軍勢の屋台骨だ。

 上杉様は少し間を置いてから、我が殿に声を掛けた。

「大胡左中弁殿。この言、どう受け止めよう?」

 殿は上杉殿の斜め左に膝をつき、こう申し述べた。

「某は先帝の御心である、坂東に光と安寧をとの願いを形にいたしたまでの事。その際に勇ましき者共が我が大胡とその民の血を吸いに来た故、ぺちんと叩いたまで。どうやらその蚊が武士という名前であったと後で気が付き申した」

 皆が呆れている。
 先程まで剽軽に騒いでいた者がこうまで堂々と喧嘩を売るとは。
 しかもその相手に自分も含まれている。

 大丈夫なのか?


「成程。関東管領職は公方様の命に服するが、元はと言えば帝より補任されるもの。その帝の御心と武士の在り様が違うという事か。されば公方様の在り様も違いなさるという事。
 そういう事じゃな? 
 里見刑部少輔殿」

 迫力のある声だ。
 臆病なものであったら卒倒するような気を放っている。

「はっ。帝のご意思をうつつにする者こそ公方様であり、関東管領様と心得ており申す。まさか公方様が帝のご意思を取り違えるはずもなく。大胡殿はご遺志と申しておりまするが、それを何方かお聞きになられたのでしょうや? 
 坂東武者を根絶やしにせよと? そのような事、言う筈もなかろうかと愚考いたす。坂東の武者、その殆どが清和源氏か桓武平氏(注)。
 ああ、大胡殿は在原でござったな」

 この戦乱の世で出自が大事と?
 このような奴がまだいたのか?
 それも80万石も支配している大名に。

 多分、日ノ本中、このような奴腹ばかりなのであろう。
 そうでない方が少ない。
 我が殿や織田殿が珍しいのだ。
 忘れていた。

「どうかな? 
 左中弁殿。先帝のご遺志というからには勅書などがござろう。
 それを拝見出来ましょうか」

 殿が返答に窮している。
 密勅を逆手に取られた!

 関白様を巻き込むわけにはいかぬ。
 ここで関白様を巻き込んだら次がない。
 朝廷への伝手が無くなるのはこの場合、大胡の死命を制する。
 そこまで大胡は大きくなっているのだ。

「返答がないのは、勅書がないと見える。
 然らば勅を偽った大逆。
 里見殿、こ奴をひっ捕らえて牢に捉えておけ。
 後で直々に詰問いたす」

 明るい返事と共に里見が殿の背中を蹴り飛ばし、肩を極めて地面へ押さえつける。

 謀られた!

 既に上杉殿と里見は手を結んでいたか!?

 遠くに控えていた某は、思わず駆け寄ろうとしたが大胡の皆に止められた。
 振り向くと皆の唇が血に染まっていた。皆が唇を食いきる程の悔しさと怒りを堪えている。

「堪えよ。
 ここは堪えよ。
 無駄なことはするな。冷静になりこれから戦を始めようぞ」

 副将の真田殿が、小さき声で皆に言い聞かせた。

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