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第24章:金融戦争始まる【金融戦争】
大胡札増刷
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1557年9月中旬
山城国東山公界市
友野二郎兵衛
(京の通貨安定供給所所長になっちゃった人)
9月1日から『れえと』改め、通貨の為替取引が始まりました。
最初はびくびくものでしたが、まだ想定よりも少ない取引なので対応に困ることはありません。
現在は毎日巳の刻の鐘が鳴る時を合図に、取引所の門を開けて正午までの1刻半の取引です。
慣れてくれば午後にも2刻程度増やす予定です。
毎日の取引価格は、各地の225種類の商品の価格と取引量によって変わります。
つまり安く取引された品が多くあれば、相対的に銭の価値が高くなります。そうなると大胡札の価値は鉄の値段ですから鉄の価格が変動しない限り、銭よりも大胡札の価値が低くなります。
それをこの交換所にて『現在、大胡札は銭とこの比率で交換されていますよ』と表示することにより、より安全に且つ簡単に商取引が出来ます。
これは交換比率はおぷしょん価格も加味した複雑な計算を元に決めています。
これはまだ京の商取引にしか通用しません。
なぜならたとえば大胡で今商取引したとしても、その為替情報は少なくとも1日前のものになるからです。
最速の通信手段は、最高機密です。
一つは伝書鳩。
二つ目は山間に住む者たち頼みです。
特に河原者が多いのですが、その人たちに情報を記した文の付いた矢を弩弓にて順繰りに射てもらい、毎日京まで届けてもらっています。
大型弩弓の消耗が激しいので、弓の屈曲部を補充するのが大変だという難点があるので、出来る限り伝書鳩を使用します。
ですが伝書鳩は途中で鷹などに襲われることが多く、当てにならないことが多いのです。伝書鳩も片道しか役に立たないため、その輸送が大変です。
敵対勢力の目を掻い潜っての通信。
早く天下を一つにしないと効率が悪すぎるのです。
現在、多く情報が集まるのは
博多、
下関と堺、
それから勝幡、
品川・河越。
この6つの市場での取引を元に、和田の先物取引所に集まった情報と照らし合わせて為替相場を決めていきます。
私も少しだけこの理論が分かってきましたが、あまりにも複雑な計算をしての為替相場の算出。
そのほとんどを元東班衆の2人に任せきりとなっている。
もっとここに人数を当てないといけないとの危惧もあるけれど何分人手が足りません。大胡とその領国は兎に角人手不足。
つまり経済発展が凄まじいという事ですね。
悪いことではありません。
開所したばかりでしたが昨日まで5日間、帝の崩御に伴い喪に服し為替取引は中止されていました。
この5日間で大きな動きが無ければよいのですが……
「しょ、所長!
大変です!
開門前から正門前に人の波が押し寄せて来て門が押し破られましたっ!」
「何が起きたのです??」
血相を変えて所長室へ飛び込んできた取引場主任に聞く。
「そ、それが……
堺にて琉球から大船団が到着したため唐国産の大量の商品が売りに出され、安い鉄を買い求める者が多くなり銭が不足、銭の値段が高くなりました。
皆、銭の高いうちに大胡札を欲しがっております。大胡札の在庫が足りなくなります!」
大胡札が大量に出回ることは願ったりかなったりです。
しかしこのままですと交換停止となり開所早々信用が落ちてしまいます。
でも仕方ありません。
取り付け騒ぎ対策はしてありますがその逆の対策はしてありません。
精々
『さあきっとぶれいかあ』(注1)
を発動する程度です。
交換比率に2割以上変化があった場合、交換停止をする。
取引所の利用約款に書かれている事です。
「では利用約款の抜き書きを高札で門前に掲げておいてください。
それから大胡から至急大胡札の搬入願いを。予備として保管してあった印刷器を使います。新たにハンコを使用する旨、内裏の左大弁様(注2)にお伝えして許可を頂きましょう」
処理は早い方が良い。
この為替取引というモノは心休まる時がないのかもしれませんね。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
摂津国堺納屋
今井宗久
(なんだか魑魅魍魎になっている人)
「そうですか。半刻と持たず、大胡札はなくなりましたか」
京に在番する番頭の報告を大番頭と共に聞く。
まだまだ数倍の交換希望者がいるとの事。
「では、第二段階の準備をしましょう。三左衛門さん、鉄と銭はどのくらい手持ちがございますか?」
大番頭の三左衛門に最終確認する。
もう何度も確認しているが聞くたびに大胡の吠え面が目に浮かぶため聞くことをやめることが出来ない。
「はい大旦那様。納屋だけでも現在の交換比率、大胡札1円に付き鉄1匁で計算すると大胡札で12万円、鉄が12000匁(約48t)。
銭の方は永楽銭が90000貫文が使えますが……
これを全部使うおつもりですか?
失敗すると納屋が潰れます」
大番頭が不安そうに私の顔色を伺う。
「大丈夫ですよ。失敗しても全部回収不能になるわけではありません。それにこの堺の半数の会合衆の方々が参加してくださるこの大相場。総額40万貫文を大胡と東国商人だけで吸収できると思いますか?」
これから始まること。
鉄を中心として大量の商品を放出する事により、西国への大胡札を急激に普及させる。ついでに鉄の買い占めをするとどうなるでしょう?
益々大胡札は高騰します。
大胡札の増刷を誘うわけです。
その後その鉄を日ノ本各地の西国商人の店にて安価にて売り出します。武田や里見にも協力してもらいます。
西国商人から買った安い鉄を大胡へ持って行き、それを売るだけで簡単に利益を得られますから。
それと同時に大胡札の信用を無くすような流言飛語を流す。庶民は挙って我々の思い通りの右往左往をするでしょう。
どうやら大胡の取引所は大胡と京の間は2日、下関からですと3日間で情報を伝えられるようです。鳩を使っているとの情報もあります。
ですからその間に大量の大胡札の交換を繰り返します。
私共だけではない。
多くの民衆がそれに追随するでしょう。
私共はあらかじめ計画されたように各地の相場を作り出しますので、その次の日、もしくは2日目に大暴騰・大暴落が起きるのが分かっています。
それに合わせて取引をするのみ。
もし為替交換所が長期に閉鎖されればそれだけで大胡札の信用はガタ落ち。それどころか、もう二度と使われなくなるでしょう。そうすれば東国商人は致命的な打撃を受けて没落。
それを基盤とした大胡は収入の基盤を無くし、軍備も崩壊。
武田や里見に抗しえなくなる。
はははは。
これで東国まで堺の勢力圏が広がります。
日ノ本の裏からの支配。これが私の手で行えるとは。
なんたる愉悦!
大胡の犬にかまれて動かなくなったこの手で大胡を倒す。夢にまで見た事、今現実になる日が来ました。
見ていろ!
政賢!
◇ ◇ ◇ ◇
注1:「サーキットブレーカー」
株式などで取り決めの変動以上になると取引が止まるシステム。「ストップ高」などという言葉と同じです
https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/price-limit-cb/index.html
現代は勿論為替には通用しません。
でも大胡は試行中で自信がないから使っています。
注2:太政官の中でも財務担当に相当する最高職。財務大臣? ちなみに主人公は副大臣です。
山城国東山公界市
友野二郎兵衛
(京の通貨安定供給所所長になっちゃった人)
9月1日から『れえと』改め、通貨の為替取引が始まりました。
最初はびくびくものでしたが、まだ想定よりも少ない取引なので対応に困ることはありません。
現在は毎日巳の刻の鐘が鳴る時を合図に、取引所の門を開けて正午までの1刻半の取引です。
慣れてくれば午後にも2刻程度増やす予定です。
毎日の取引価格は、各地の225種類の商品の価格と取引量によって変わります。
つまり安く取引された品が多くあれば、相対的に銭の価値が高くなります。そうなると大胡札の価値は鉄の値段ですから鉄の価格が変動しない限り、銭よりも大胡札の価値が低くなります。
それをこの交換所にて『現在、大胡札は銭とこの比率で交換されていますよ』と表示することにより、より安全に且つ簡単に商取引が出来ます。
これは交換比率はおぷしょん価格も加味した複雑な計算を元に決めています。
これはまだ京の商取引にしか通用しません。
なぜならたとえば大胡で今商取引したとしても、その為替情報は少なくとも1日前のものになるからです。
最速の通信手段は、最高機密です。
一つは伝書鳩。
二つ目は山間に住む者たち頼みです。
特に河原者が多いのですが、その人たちに情報を記した文の付いた矢を弩弓にて順繰りに射てもらい、毎日京まで届けてもらっています。
大型弩弓の消耗が激しいので、弓の屈曲部を補充するのが大変だという難点があるので、出来る限り伝書鳩を使用します。
ですが伝書鳩は途中で鷹などに襲われることが多く、当てにならないことが多いのです。伝書鳩も片道しか役に立たないため、その輸送が大変です。
敵対勢力の目を掻い潜っての通信。
早く天下を一つにしないと効率が悪すぎるのです。
現在、多く情報が集まるのは
博多、
下関と堺、
それから勝幡、
品川・河越。
この6つの市場での取引を元に、和田の先物取引所に集まった情報と照らし合わせて為替相場を決めていきます。
私も少しだけこの理論が分かってきましたが、あまりにも複雑な計算をしての為替相場の算出。
そのほとんどを元東班衆の2人に任せきりとなっている。
もっとここに人数を当てないといけないとの危惧もあるけれど何分人手が足りません。大胡とその領国は兎に角人手不足。
つまり経済発展が凄まじいという事ですね。
悪いことではありません。
開所したばかりでしたが昨日まで5日間、帝の崩御に伴い喪に服し為替取引は中止されていました。
この5日間で大きな動きが無ければよいのですが……
「しょ、所長!
大変です!
開門前から正門前に人の波が押し寄せて来て門が押し破られましたっ!」
「何が起きたのです??」
血相を変えて所長室へ飛び込んできた取引場主任に聞く。
「そ、それが……
堺にて琉球から大船団が到着したため唐国産の大量の商品が売りに出され、安い鉄を買い求める者が多くなり銭が不足、銭の値段が高くなりました。
皆、銭の高いうちに大胡札を欲しがっております。大胡札の在庫が足りなくなります!」
大胡札が大量に出回ることは願ったりかなったりです。
しかしこのままですと交換停止となり開所早々信用が落ちてしまいます。
でも仕方ありません。
取り付け騒ぎ対策はしてありますがその逆の対策はしてありません。
精々
『さあきっとぶれいかあ』(注1)
を発動する程度です。
交換比率に2割以上変化があった場合、交換停止をする。
取引所の利用約款に書かれている事です。
「では利用約款の抜き書きを高札で門前に掲げておいてください。
それから大胡から至急大胡札の搬入願いを。予備として保管してあった印刷器を使います。新たにハンコを使用する旨、内裏の左大弁様(注2)にお伝えして許可を頂きましょう」
処理は早い方が良い。
この為替取引というモノは心休まる時がないのかもしれませんね。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
摂津国堺納屋
今井宗久
(なんだか魑魅魍魎になっている人)
「そうですか。半刻と持たず、大胡札はなくなりましたか」
京に在番する番頭の報告を大番頭と共に聞く。
まだまだ数倍の交換希望者がいるとの事。
「では、第二段階の準備をしましょう。三左衛門さん、鉄と銭はどのくらい手持ちがございますか?」
大番頭の三左衛門に最終確認する。
もう何度も確認しているが聞くたびに大胡の吠え面が目に浮かぶため聞くことをやめることが出来ない。
「はい大旦那様。納屋だけでも現在の交換比率、大胡札1円に付き鉄1匁で計算すると大胡札で12万円、鉄が12000匁(約48t)。
銭の方は永楽銭が90000貫文が使えますが……
これを全部使うおつもりですか?
失敗すると納屋が潰れます」
大番頭が不安そうに私の顔色を伺う。
「大丈夫ですよ。失敗しても全部回収不能になるわけではありません。それにこの堺の半数の会合衆の方々が参加してくださるこの大相場。総額40万貫文を大胡と東国商人だけで吸収できると思いますか?」
これから始まること。
鉄を中心として大量の商品を放出する事により、西国への大胡札を急激に普及させる。ついでに鉄の買い占めをするとどうなるでしょう?
益々大胡札は高騰します。
大胡札の増刷を誘うわけです。
その後その鉄を日ノ本各地の西国商人の店にて安価にて売り出します。武田や里見にも協力してもらいます。
西国商人から買った安い鉄を大胡へ持って行き、それを売るだけで簡単に利益を得られますから。
それと同時に大胡札の信用を無くすような流言飛語を流す。庶民は挙って我々の思い通りの右往左往をするでしょう。
どうやら大胡の取引所は大胡と京の間は2日、下関からですと3日間で情報を伝えられるようです。鳩を使っているとの情報もあります。
ですからその間に大量の大胡札の交換を繰り返します。
私共だけではない。
多くの民衆がそれに追随するでしょう。
私共はあらかじめ計画されたように各地の相場を作り出しますので、その次の日、もしくは2日目に大暴騰・大暴落が起きるのが分かっています。
それに合わせて取引をするのみ。
もし為替交換所が長期に閉鎖されればそれだけで大胡札の信用はガタ落ち。それどころか、もう二度と使われなくなるでしょう。そうすれば東国商人は致命的な打撃を受けて没落。
それを基盤とした大胡は収入の基盤を無くし、軍備も崩壊。
武田や里見に抗しえなくなる。
はははは。
これで東国まで堺の勢力圏が広がります。
日ノ本の裏からの支配。これが私の手で行えるとは。
なんたる愉悦!
大胡の犬にかまれて動かなくなったこの手で大胡を倒す。夢にまで見た事、今現実になる日が来ました。
見ていろ!
政賢!
◇ ◇ ◇ ◇
注1:「サーキットブレーカー」
株式などで取り決めの変動以上になると取引が止まるシステム。「ストップ高」などという言葉と同じです
https://www.jpx.co.jp/derivatives/rules/price-limit-cb/index.html
現代は勿論為替には通用しません。
でも大胡は試行中で自信がないから使っています。
注2:太政官の中でも財務担当に相当する最高職。財務大臣? ちなみに主人公は副大臣です。
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