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第24章:金融戦争始まる【金融戦争】
モフモフ大作戦はお預け
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1556年8月中旬
武蔵国河越城
太田資正
(度を越したモフ中毒者)
「わっぷっ。
えげげげ。
ひぃい。
噛まない!
たっくるしない!」
殿が儂の庭犬
(作者注:御庭番のつもりらしい)
と戯れている。
モフモフさせて~♪
と、急な来城。
先月まで尾張であの今川を撃破してきて、すぐその足でこの河越に来られた。
殿は一頻り犬と戯れた後、身なりを整え城主の居室前の濡れ縁に座り外を眺める。
上座が嫌だというのとこの蒸し暑い中、少しでも風通しが良い所をというお考えらしい。
「すけちゃんさ。武蔵切り取り、どのくらいまで進んでいる?」
やはりそれだろうな。
お知りになりたいことは。
己が本願故、忘れがちだがこれは『懲罰』だ。
残りの期限、半年を切った。
「は。小さき国衆は大方、内応の約定を交わしておりまする。
しかし5000石以上の大身は殆どが長子を人質に取られている故、腰が重い状況にて」
大身の半数は元からの土着豪族、太田一族に縁のものだ。
気持ちは既に大胡であろう。
その旨は文にて確認してある。
しかし残りの半数は里見が新たに配置した譜代の家臣。
これを如何に調略、もしくは叩き出すか。
「江戸城に里見ちゃん入っちゃったから1年じゃ無理かな?
その分、軍備増強内政整備の邪魔できたけどね。
う~ん」
手詰まりだ。
何かのきっかけが欲しい。あの連中を動かす何か。利でも名誉でも人脈でも弱みでも、いっそ闇討ち……
「言い案、思いいつかないや。
経済侵略はもうやっているんでしょ?
あと宗教関連。
疑心暗鬼とか?
古河公方との仲たがい。
江戸湾周辺の水運や漁業を握っている連中への調略。
里見家臣団への調略……」
「既に全て……」
殿は庭を眺めながら髷を弄っている。
話が終わる頃には犬よりモフモフできる毛並みには……ならぬか。
なぜ人の髪はモフモフせんのだ。
これは一生追求するべき問題だな。
特に女子の髪の毛が……
「あのね。
一カ所だけなんだよね、こういうのって。
一カ所だけ小さな穴が開けばそれが徐々に広がって、気づいた時にはもう遅い。
一気にこっちへ靡いてくる。
どこかに穴作っとこうよ。
金融?
経済?
産業?
教育?
なんでもいいよ。
特に思ったのは市場ね。
ここいらの特産物、サツマイモ……はまだだっけ。
江戸周辺の何かを買い取る市場を作っておくとかして、常に人の行き来をさせとかない? そうすれば間者も入れやすいし向こうの人の生の声が聞けるから、調略の糸口が出来るんじゃない? まあ、今作っている京の市みたいに」
成程。
江戸周辺で取れる物をこちらで買い取る。
こちらからは大胡札を向こうへばら撒く。
大胡札の使い勝手を知らしめると共に何か策を練れるか。
今までの行商や既存の商人への策略よりも、直接農民が持ってこれる距離に小さな定期市を作るか。
それは面白い。
殿に御礼を申し上げるが、果たしてあと半年で何が出来るだろうか。
「ん~、その方策だとあと1年は最低でもかかるよね。ちょうどさ、尾張で火薬を大量消費しちゃったからもうすっからかんなんだ。だから今、里見と事を構えることできない。最低でも1年は待たないと一会戦すらできないよ。
やるなら農繁期。里見が動員できない時期だね。すると来年の5月6月か9月と言ったところ? 余裕見て来年の9月かな。
あれ、ちょうど京の市が開所する月だね。そっちと組んで経済戦争を仕掛けるのもいいねぇ」
大胡も大きくなったものだ。
坂東の端、房総の戦を仕掛けるのに京での動きを連動させるなど、普通の大名ではできぬ。
考えることすらできぬであろう。
そこまで京の情勢を知らんし手を伸ばすことなど全くできぬ。
精々外交で将軍家を動かすくらいだ。
「じゃあ、そゆことで。
お願いね。
で~わ~!
再びモフリに行くますっ!」
シュピッと立ち上がり殿がこちらを向いた。
う~む。
髷の解け具合が絶妙だな。
両側に垂れてまるで犬の耳じゃ。
モフりたくなったが、これは流石にまずいじゃろう。
……だが、
あとでちょっとだけ
触らしてもらおう……
武蔵国河越城
太田資正
(度を越したモフ中毒者)
「わっぷっ。
えげげげ。
ひぃい。
噛まない!
たっくるしない!」
殿が儂の庭犬
(作者注:御庭番のつもりらしい)
と戯れている。
モフモフさせて~♪
と、急な来城。
先月まで尾張であの今川を撃破してきて、すぐその足でこの河越に来られた。
殿は一頻り犬と戯れた後、身なりを整え城主の居室前の濡れ縁に座り外を眺める。
上座が嫌だというのとこの蒸し暑い中、少しでも風通しが良い所をというお考えらしい。
「すけちゃんさ。武蔵切り取り、どのくらいまで進んでいる?」
やはりそれだろうな。
お知りになりたいことは。
己が本願故、忘れがちだがこれは『懲罰』だ。
残りの期限、半年を切った。
「は。小さき国衆は大方、内応の約定を交わしておりまする。
しかし5000石以上の大身は殆どが長子を人質に取られている故、腰が重い状況にて」
大身の半数は元からの土着豪族、太田一族に縁のものだ。
気持ちは既に大胡であろう。
その旨は文にて確認してある。
しかし残りの半数は里見が新たに配置した譜代の家臣。
これを如何に調略、もしくは叩き出すか。
「江戸城に里見ちゃん入っちゃったから1年じゃ無理かな?
その分、軍備増強内政整備の邪魔できたけどね。
う~ん」
手詰まりだ。
何かのきっかけが欲しい。あの連中を動かす何か。利でも名誉でも人脈でも弱みでも、いっそ闇討ち……
「言い案、思いいつかないや。
経済侵略はもうやっているんでしょ?
あと宗教関連。
疑心暗鬼とか?
古河公方との仲たがい。
江戸湾周辺の水運や漁業を握っている連中への調略。
里見家臣団への調略……」
「既に全て……」
殿は庭を眺めながら髷を弄っている。
話が終わる頃には犬よりモフモフできる毛並みには……ならぬか。
なぜ人の髪はモフモフせんのだ。
これは一生追求するべき問題だな。
特に女子の髪の毛が……
「あのね。
一カ所だけなんだよね、こういうのって。
一カ所だけ小さな穴が開けばそれが徐々に広がって、気づいた時にはもう遅い。
一気にこっちへ靡いてくる。
どこかに穴作っとこうよ。
金融?
経済?
産業?
教育?
なんでもいいよ。
特に思ったのは市場ね。
ここいらの特産物、サツマイモ……はまだだっけ。
江戸周辺の何かを買い取る市場を作っておくとかして、常に人の行き来をさせとかない? そうすれば間者も入れやすいし向こうの人の生の声が聞けるから、調略の糸口が出来るんじゃない? まあ、今作っている京の市みたいに」
成程。
江戸周辺で取れる物をこちらで買い取る。
こちらからは大胡札を向こうへばら撒く。
大胡札の使い勝手を知らしめると共に何か策を練れるか。
今までの行商や既存の商人への策略よりも、直接農民が持ってこれる距離に小さな定期市を作るか。
それは面白い。
殿に御礼を申し上げるが、果たしてあと半年で何が出来るだろうか。
「ん~、その方策だとあと1年は最低でもかかるよね。ちょうどさ、尾張で火薬を大量消費しちゃったからもうすっからかんなんだ。だから今、里見と事を構えることできない。最低でも1年は待たないと一会戦すらできないよ。
やるなら農繁期。里見が動員できない時期だね。すると来年の5月6月か9月と言ったところ? 余裕見て来年の9月かな。
あれ、ちょうど京の市が開所する月だね。そっちと組んで経済戦争を仕掛けるのもいいねぇ」
大胡も大きくなったものだ。
坂東の端、房総の戦を仕掛けるのに京での動きを連動させるなど、普通の大名ではできぬ。
考えることすらできぬであろう。
そこまで京の情勢を知らんし手を伸ばすことなど全くできぬ。
精々外交で将軍家を動かすくらいだ。
「じゃあ、そゆことで。
お願いね。
で~わ~!
再びモフリに行くますっ!」
シュピッと立ち上がり殿がこちらを向いた。
う~む。
髷の解け具合が絶妙だな。
両側に垂れてまるで犬の耳じゃ。
モフりたくなったが、これは流石にまずいじゃろう。
……だが、
あとでちょっとだけ
触らしてもらおう……
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