首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第23章:桶狭間の戦闘状況が全然正史と違う【桶狭間の戦い】

えっ?君の名は。

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 1556年6月中旬
 尾張国知多郡武侍山南麓
 前田又座衛門
(槍の又座と呼ばれる前の前田だ!)


 雹交じりの雷雨の中、山をおりるが……滑りやがるっ!
 大胡の奴ら、精密な測量で地図を作ったは良いが、土質までは調べなかったな。
 まあ雨が降らねば分からんか。

 兎に角、くだりはいい。

 だがあの石塚山。
 義元が陣を張っているらしい山頂まで、この泥濘の中を登ってたどり着けるのか?
 
 一応皆、足半あしなか(注1)を履いている。
 これは殿が大胡殿から使った方が良いと言われたらしい。

 正解であったな。

 まさか雷雨で下が泥濘と化すとは思わなかった。
 山の斜面から、滝の様に水が流れ始めた。

 注1)草履の一種。
 踵の部分がないため泥濘地でスパイク効果が期待できる


 手越道は狭い。
 小さな川が手越川に流れ込んでいる谷を間道が走っているだけだ。

 足軽でも2人がやっと通れる程度。騎馬だと1騎だけでもぎりぎりだ。
 両脇にたまに狭い田畑があるが、残り殆どが雑木林だ。
 槍持っていてはとても通れん。

 この中を今川の兵が長蛇を為している。
 これを手槍一本振り回して追い払い、味方の後続を石塚山に登らせる。
 俺が先頭を行きたいが殿からきつく言われている。

 「犬! できる限り多くの兵を石塚山に登らせよ」と。

 この突破口を確保する事。
 これが此度の戦で俺の前田家が担う役目だ。先陣を切る服部や毛利が羨ましいわ!

 手越川へ向かっていた今川本隊の主力が戻ってきた。
 此奴らをこの狭隘地にて押しとどめる。

 さすれば敵本陣数百に対し、殿に昔から付き従ってきた子飼いの者たち300を先頭として、兵2500による追撃戦となろう。

 俺は殿軍しんがりとは名ばかりの置いてけぼりだ。

 糞っ!
 自棄の大暴れだ。

 誰にも止められないぜ!!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 石塚山北面山麓
 服部小平太
(正史通り義元に最初の一太刀を浴びせられるか?)


 悪いな、犬千代(前田利家の幼名)。
 お前の分まで功名を立ててやるぜ。

 足元が悪い。
 なんだこりゃ。
 滝見てぇじゃねぇか。

 確かに殿と野山を幾度となく駆けまわっていたが、雷雨の中を山に登ったのは一度しかない。流石に危険と皆が止めた。
 その時は砂利のような道だったから何ともなかったが、ここの坂は粘土が多い!
(注2)

 滑りすぎる。

 手槍を杖にして登って行く。
 もう獣道は滝のようになっているので、下生えのある所を我武者羅に進んでいく。

 出た!
 視界が開けた。

 畜生め!
 雷雨が上がってやがる。
 今川の兵が雨宿りしていた筈の天幕や木の影から出て、こちらへ向かって来る! 

 低い位置で迎え撃つ形になった。
 まずい。

「皆、左右に展開じゃ! 後続を待とうぞ!」

 ここで突っ込んだら犬死ぞ。
 じゃが……

 逃げていく。
 首が逃げていく!
 義元の首が。

 300の旗本を壁として、200程の敵の馬廻りに囲まれて騎乗して東方へ逃げる義元。

 これで勝機が失われたのか?

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻同場所
 今川義元
(あまり騎乗が得意でない東海一の弓取り)

 
 間一髪じゃったな。
 儂が腹痛を起こさねば、今頃はあの泥沼になっている谷筋の間道を北上しているところじゃった。

 今頃本陣の横腹を突かれ、首を取られていたわ。
 先程食べた田楽が腐っていたか?
 田楽様様じゃな。

 石塚山から降り南西の東浦街道に出るのが楽であるが、それでは戦場から遠ざかって何もできぬ。そのまま尾根伝いに東の尾崎山まで行こう。そこならば本隊の全体が見渡せる。

 しかし足元が悪い。
 騎馬だからよいようなものの、徒では最近太ってきた儂の足では動作が鈍くなる。

 危険ではあるが騎乗したまま移動しよう。
 まあ馬印でどうせ儂だとわかるがな。

「御屋形様。後方より千以上の敵が追撃をしております。お急ぎください」

 よくもそんなに多数の兵をここに集められたものよ。
 感心する。

 が、最後の詰めが甘かったようじゃ。
 石塚山の斜面の泥に足を掬われたか、信長よ。

 もうすぐ逃げ場はなくなるぞ。
 井伊も南へ戻ってこよう。
 さすれば包囲できる。



「何奴? 
 織田のものか!?」

 前を行く馬廻り親衛隊の者が誰何すいかする。
 その向こうに天を衝くばかりの大男1人と、その両脇に弓を番えて立つ小兵が2人。

 旗差し物は立てていない。

「おお。そこへ逃げるは、東海一の屁っぴり腰、今川殿か! 
 何処へお逃げなさる? 
 地獄へならばお送りいたそう故、そう申されよ」

 大男の大音声が石塚山に響き渡る。
 それと共に3人はゆっくりとこちらへ歩き始めた。

 馬廻りが騎馬で詰め寄る。

 が、小兵2人の矢で正確に顔面を射られ落馬する。
 20騎も射止められてこちらの士気が衰えたのを待っていたかのように、大男は3間もあろうかという長手槍を片手で振り回し突撃してきた。

「我こそは織田家一等の大武辺者!
 前田慶次郎利益!
 義元殿。
 その首、いただこうか」

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻 
 同場所
 織田信長
(焦る天下人第一予約者)


 義元が逃げる!
 一足遅かったか!?

 ほんの少し遅れたばかりに計画が崩れた?

 何故じゃ? 
 地図を見て時間を正確に測ったはず。
 細根山ではしっかりと時間調整のために立ち止まって休止を入れた。

 そのせいか??

 義元は尾崎山に本陣を構えるつもりのようだ。
 厄介な。

 このままでは包囲される。
 突撃しようにも敵の馬廻りの壁が厚すぎる。

 ??

 その壁が薄くなってきた!
 義元の向かう尾崎山へ馬廻りが移動している?

 馬鹿な!

 しかし、今は勝機!

「皆の者。
 今を置いて勝機無し! 
 突撃じゃぁ~~~!!!」

 応!

 との、答えと共に幼き頃から野山を一緒に駆けまわっていた馬廻りが、義元の首へ向けて駆け出した。




 その暫し後。
 
「今川義元の首! 
 織田家家臣、毛利良勝(新介)が討ち取ったぁ!」

 周りから、勝鬨が上がる。

 その後今川勢は勢い冷めやらぬ織田勢の猛追を受け、多数の討ち死にを出しつつ敗走していった。

 大高城の一向宗はそのまま逃げ散り、松平元康は捨て城となっていた岡崎城に入る。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年6月中旬
 鳴海城(岡部さん開城しました)
 滝川一益(焦るあんちゃん)


 ヤバイ。
 蒸し暑さのせいだけでない汗が首筋を濡らす。
 彼奴、やりおった。
 この大事な戦で勝手働き。

 自分が命じられていた場所を守備せず、山観ヤマカンで勝手に戦場を歩き回り大胡の兵と共に敵本陣へ突っ込むだと?

 それも一番槍で。
 しかも寄りにもよって義元に最初に槍をつけるとは!

 前田家の名前を継いでから
 直ぐのこの所業(注3)。

 利家殿も自分の配下で戦うものとばかりに待っていたものをすっぽかされ、カンカンになっている。目の下に矢を受け重傷にも関わらず、この首実検に出席していることでもわかる。

 俺も『実の弟』のやらかしの尻拭いをせねばなるまい。

「申せ!」

 織田の殿さまの甲高い声が上がる。
 隣には大胡の殿が座っている。

「はっ? 
 何を話せばよいやら。先程まで戦の喧騒と血風の中に居ました故、頭が混乱しておりまする」

 ここでも傾奇くつもりか?
 儂が代わりに膝を突き、許しを請い願わねばならぬか。
 いつもの事じゃ、幼き頃から変わらぬ。

「上総介殿。ここは某に免じて矛をお納めくださらぬか?
 某の手の者を2人救ってくれたこと故。感謝いたす事、感状を与えたい程じゃ」

 殿に先を越された。

 じゃが、なんだか変な(殿らしくない真面まともな)言い回しだから、うちの殿さんに見えぬ。
 兎に角、殿が救いの手を出してくれたらしい。

「利益、であったか。勝手働き、そっ首刎ねられても文句は言えぬはず。
 なぜじゃ?」

 信長様の問いに、彼奴め、鼻を穿ほじろうとしたらしく左小指を立てたが途中で止めた。もしこれが終わって生きていたらその鼻が曲がる程、拳をお見舞いしてくれる。

「利家殿が側をかすめるように尾崎山へ登っていく女子おなごを2人見かけた故、危なしと見て声を掛けようとしたら弓を向けられ、大胡の兵であると明かされ申した。
 大胡は女子2人でこのような激戦の地へ送り込むのかと問うたら、勝手働きじゃ』という。では大胡に負けず織田も勝手働きをして大功を立てる者もいなくてはと対抗意識が燃え盛り、いても立っても居られずこの女子たちの露払いをしており申した。
 したら、目の前に敵の大将首が転がって来申した故、突き刺したまでの事」


 ……

 皆があきれている音がする。

 女子おなごの露払いをしていたら敵の大将首が目の前に転がってきた?
 それを突き刺した?
 勝手働きのお供だ?

「それは誠にあっぱれ!
 流石、花の慶次……じゃなかった、一無庵でもない、
 天下一の傾奇き者!
 上総介殿、もしこの者の始末、適当に付けて大高城近くに転がして置いてくだされば、それを此度の戦の土産として拾って帰ります。
 他は要らぬ故」

「なんと!」
「誠か?」
「遠江半国でも収まらぬ功績を
 このような傾奇者と交換とは!」

 皆が口々に疑義を発し非難をするも、それが大胡への非難ともなりうることに気づき、その声は煙の様に消えていく。

「ほう。左中弁殿はこの者の値打ち、遠江半国と見たか。それは大きく出たな。
 そういえば、もう一人欲しい者がおると言うていたが、その者はどの程度の値段なのじゃ?」

 そんな奴がいるのか?
 聞いたこともないが。
 殿のお眼鏡にかなうとは相当な奴じゃのう。

「ああ。彼奴ですか。どうでしょうねぇ。
 使い方によりますな。使いようによっては武蔵一国でも足りますまい」

 皆があっけに取られているうちに、お二人の殿の間で弟の処遇が決まった。
  ……大胡に来るんなら早く来やがれ。
 鉄砲でしごいてやる! 
 逃げ出そうとしても、忍者を張り付けておくから逃げられはせんぞ!

 殿がこちらへ向けて『さむずあっぷ』をされている。

 読唇術で読むと

「兄弟えすえすあぁる、
 おっもちかえりぃ~」

 と読めた。

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