首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第23章:桶狭間の戦闘状況が全然正史と違う【桶狭間の戦い】

雹が降るとこだけ正史

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 1556年6月中旬
 尾張国大高城東
 酒井忠次
(松平家。この人いなかったらどうなっていた?)


 先手の備えから、次から次へと討ち死にの報が入ってくる。
 やはりあの時、強引にでも殿をお止めするべきであった。幻庵坊主の口車に乗せられて一向宗の力を借りる等という手に出なければ大胡も動かなかった筈。

 50000対4000。

 これだけ一方的な兵力差になれば同盟勢力の敗戦は必定。
 大胡が大軍を派兵する後押しをしたようなもの。

 幻庵は西を固めて東へ誘導しようとしたらしいが、そうそう義元殿が乗る筈がない。大風呂敷を掲げ過ぎたの。

 北陸にも手を伸ばしたというが、そんなことよりも北条の跡取りの教育に注力すればよいものを。

 松平も偉そうな事、言えぬか……

 盛り立てていかねばならぬ主君である元康様が、決定的な間違いを犯してしまわれた。戦略と戦術の主導権を手放されてしまわれたのだ。

 いくら家臣の半数が一向宗門徒とはいえ、それにおもねることをすれば、今後松平の家よりも本願寺の命に従う事になる。

 松平の家の存亡を懸けた決断であったが。

 今は亡き雪斎殿が、大胡政賢の事績などを例に採り戦や内政の事を教えるから、『政賢よりも己が』という焦りを産んでしまわれた。
 政賢は今の殿と同じ14の頃、既に北条の大軍を蹴散らしていた。

 だから我にも出来る、と思い込んだのか?
 若しくは源応尼に甘やかされたのか?

 それはもう過ぎた事。
 重要なことはこれからどう挽回するかじゃ。

「殿。家中に聞こえると大騒ぎは必定にござるが、幸いにも主だった一向宗かぶれの家臣どもは半数が討ち死にしました。
 ここが引き時かと」

 殿がこちらを向く。
 これはご自身も意図されていたな。

 同じ三河の家臣。できれば失いたくはない。
 しかし、それを押さえつけるだけの威信がない。
 だからこの戦となった。

 が、これで勝っても威信が上がるわけではない。
 それならばいっそ松平の中の一向宗勢力を削ぐ。
 そう思われていたのだろう。
 
 もうここまで来るとそれが正解なのだろう。
 殿は儂を見て暗く冷たい目つきで頷いた。

「松平はこれより大高川の南へ引く。負傷者は出来るだけ連れていけ。お家を一番の大事とせよ!」


 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日午の刻(正午)
 細根山南
 織田信長
(勝利は君を待っている筈……?)


「今川本隊。この先5町、手越川向こう、武侍山から石塚山にかけて布陣。
 昼餉を取っています! 
 先陣は手越川前にて布陣、武侍山を挟んで二手に分かれて間道上におります。
 義元本陣はその向こう石塚山手前。
 その数およそ800!」

 いよいよこの時が来た。

 どこで昼餉を取るか。
 これが一番の大事。
 そこを突く。

 敵はすぐに長坂道に布陣し始める鉄砲隊に気づく筈。
 今川の先手はそれを包囲しようとするだろう。

 井伊の備えは西から。
 松井は中央。
 そして今川本隊は東から。

 義元は今、昼餉を取っている場所からすぐには動けまい。

 この狭隘地。
 間道を通り長柄を持っての移動、相当な時間が掛かる。

 手越川を先手が渡り始める頃に太子ケ根を駆けのぼり降りた勢いで敵の中央を突破。

 義元の首を取る。
 奇襲だ。

 どれだけ敵を慌てさせることが出来るかで勝敗が決まる。
 手越川より北には敵の物見は来させておらぬ。
 武侍山には敵の物見が数名いるが、大胡の忍びと弓の名手が潜んでいる。

 ここも一気に駆け上がれるであろう。
 その登り道も地図に書き込まれている。

 問題はここからだ。
 狭隘な道端で昼餉を食う程、義元も阿呆ではあるまい。
 様子からすると石塚山山頂にて昼餉を食うている筈。
 これが下へ降りてくる時に、そこへ突入できれば最高の戦機。

 石塚山に居ようとも800は布陣できまい。
 そのような大きさの山ではない。

「皆に、静々と南下せよと再度伝えよ。
 はみをしっかり嚙ませよ。
 馬を嘶かせるな」

 太子ケ根に500は登らせたい。
 敵先手3000は西にいる。

 本隊の先手は1800、武侍山の左右にいる。
 そのうち800がいる西側を突破する。

 先頭は幼き時から儂と一緒に戦のために練ってきた連中。
 錐の先のように鋭く進むであろう。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日未の刻(午後1時)
 石塚山
 今川義元
(食いしん坊な弓取り)


「織田鉄砲隊、発見いたしました! 
 手越川北、東長坂道上に布陣しております。
 数600程!」

 ちょうど最後の盛飯を食い終わり、重箱の中の煮物に箸をつけるところだった。
 好物の味噌田楽だった。
 これを食うてからでも遅くはなかろう。

 食い終わり、竹筒からの水を茶碗に注がせ、それを飲み干してから立ち上がる。

「では手筈通り、尾張の鉄砲隊を囲めい。本隊は左向きに回り込み敵本隊が来るのを手越道にて待ち伏せる」

 儂は采配を持とうとして味噌で手が汚れているのに気がついた。
 小姓に懐紙を出させ拭き取った後、采配を振り下ろす。

「尾張の虎の子倅を討ち取った者には褒美、望む儘ぞ!」

 これで念願の東尾張知多郡を手に入れる。

 織田の兵4000。
 その内2000近くは鳴海と沓掛方面の防備で手いっぱいであろう。
 大胡も一向宗の相手で手いっぱいの筈。
 1000程度の本隊が襲ってきても包囲して殲滅できよう。

 この狭隘な地形。
 どちらに有利か。

 織田が各個撃破をしようとしても、次の備えが回り込んで包囲して仕舞よ。

 ここは儂と信長との運勝負じゃ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 鷲巣砦跡
 滝川一益
(鉄砲の一大合戦があるので、ついつい付いてきちまった)


 すっげぇ見物みものが眼下で繰り広げられているが、殿はそれを見ていない。
 しきりと北東を見ている。
 織田本隊と今川本隊との決戦だな。
 その行方次第で大胡は天白川から船に乗り撤退する。

 無理ならば川を渡り星崎城へ。
 だがこの分じゃ、その必要すらなさそうだぜ。

 一向宗のほぼ半数は手傷を負っているか、そこら辺に転がっている。

 殆どが顔面を撃ち貫かれたから死者の多い事と言ったらないぜ。
 大胡の敵には回りたくねぇな。

 一向宗の兵は殆ど士気を喪失している。
 逃げ出さないだけましだが、もうどんなに坊主共が尻を引っぱたいても前進しない。極楽に行くためにはこの地獄絵図に突っ込まねばならぬとなれば、それは腰が砕けるのが普通よ。

 勿論坊主共は先頭に立って近づくことはせぬ。
 腐れ坊主め。

 そうか。
 殿はこの地獄絵図から目を逸らすためにも北東を向いているのか? 

 大胡に来てからまだ間もないが、重臣の方から聞く殿の傷つきやすさというか優しさ、敵(足軽だけじゃが)をも慈しむ心と方針が、実は豪快な武将が率いる勢力よりもこの大胡を強くしていることが分かってきた。

 まだ『甘っちょろい』という気が拭えないが、実際に大胡の士気が他とは比べ物にならぬほど高いのは事実。

 その装備も殿がいなかったら揃えられなかったという。

 英雄だな。
 人が一人で出来ることは限られている。
 最初の爆発は小さくてもいい。
 発火薬と同じさ。

 それが点火して発射薬の大きな爆発になる。
 そして弾が飛び出す。
 これが大胡だろう。

 殿はその発火薬を作られた。そして今は火口ほくち役なのだろう。だから繊細でいい。

 いや、繊細でないといかぬ。
 細かい発火薬を正確に発火させるためには大雑把な火ではいかぬ。

 正確な場所を正確な大きさで突く。
 それが政賢という男の仕事か。

 では、俺は何になろうか?
 この大胡でどんな部品になろう?

 「意志を持った」部品。

 殿の思いを正確に伝える部品……
 ああ、そうか。俺は照門と照星か?
 このとんでもねぇ幸運で、きちっと攻撃を当てる役目をしようか。

「おおおおおっ~と! 
 流石、のぶにゃんまじっくっ! 
 ひょうが降ってきたよ。
 天は我に味方したってか? 
 あとは布陣が史実通りならうまく行くんだけどね……」

 殿が、北西を向いて叫ばれた。
 急な入道雲が北から流れてくる。
 こちらもその内降ってくるであろう。

 向こうは向こうで精いっぱい頑張ってもらおう。

 こっちはこっちの仕事をするまでさ。
 遠くに聞こえる雷鳴が、これから始まる新しき世を切り開く天の号令に聞こえた。

 殿の明るい声が静まった後に漂う『不安と物悲しさ』を感じながら、風向きが変わって夕立のような雨が近づいてくるのを遠くに見た。

 南から先ほどまで無かった、血の臭いが辺りに漂ってきた。


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