首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第23章:桶狭間の戦闘状況が全然正史と違う【桶狭間の戦い】

来ちゃったよ。桶狭間

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 1556年6月上旬
 尾張国那古野城
 織田信長
(かなり政賢に影響されちゃった魔王)


 目の前には約半年ぶりに会う大胡左中弁がいる。

 なぜ『兵は出せぬ』と言っていたくせに『本人が』4000近くの兵を連れて海路でやって来たと問うたら、
「いや~。思ったより状況がいいんで、のぶにゃんへ直接支援の方が効果的だなって♪」
 等と言う。

 東関東と武田が動く余裕がないのと、今川が西進する確証が掴めたからだという。
 その確証はどのようなものだ、問うたら「な~いしょ♪」と言うてきた。
 どうせ素ッ破(ああ忍者と言っていたか)を使っての情報戦争だろう。

「やっぱ、お市ちゃんの甘えん坊スキル、ぱないね~。ついつい無理しちゃったよ。一応作戦は立ててきたからね」

 火薬が少ないと聞いていたが、それはどうなんだと聞いてもやはり言わぬな。
 どこかから掠め取って来たのか? 

 此奴ならやりかねん。

「大高城方面を任せてもよいのだな」

 改めて作戦概要を確認する。
 既に大胡は尾張に到着し、5月上旬より『野戦築城』を開始している。

 敵方大高城の北東に構築していた丸根と鷲巣の砦周辺を、大胡の守備地域として充てた。既に今川方には察知されていると思うが、その兵力や武装は秘匿されているらしい。

 素ッ破……
 忍者の半数をこちらへ向けているという。
 豪勢なものだ。

「大高城方面は三河の兵と一向宗だという事だよん。
 総兵力35000って、なにそれ大胡の10倍? 
 たまんないねぇ」

「それを撃破するのが楽しいのじゃろうが、松風は」

 全然困っていない顔の政賢にツッコミを入れる。

 こういう時はツッコミを、と政影とか言う大男に言われていたが、こういうことか。

「うんうん。楽しいよ~。だって相手は御坊けんにょのために死ねば極楽浄土へ行けると信じているんでしょ? 
 だったらそのお手伝いを……
 ああ、こう言っているとまた大胡は鬼だ! とか言われちゃうんだろうなぁ。
 でも幸せって人それぞれだからね。大胡は恐れられることで人々を武士支配から解放する。
 で、のぶにゃんは、大胡の味方? 
 それとも敵?」

 ニヘラと笑いながら軽く言っているが、これは本心からの問いだろう。
 俺の答えは決まっている。

「ああ。天下を一統することならば本望。
 金融経済? それもほぼ同じ考えだ。
 あとは……」

「だれが指導者になるかだよね。それは後にしようね」

 大胡は西に出るのは難しい。
 だから「今は」三河より東は任せる。

 その代わり西は織田が取る。
 それぞれ危機や力が足りぬ時は援軍を送る。
 遠いが今回の様に海路を使えば早い。

 そのために市を送った。
 まだ幼いが立派な織田の娘よ。

 俺としては寂しいが此奴も俺と同じ匂いがする。
 市も寂しくはないだろう。

 畳の上をゴロゴロと転がりながら目の前の地図を見ている松風。

 ここへ到着してまず初めにしたことは、この地図の作成であった。
 物見を立てて測量班を送り、鎌倉街道や東浦街道、大高道などの距離を測った。
 これで俺の本隊が『義元の本陣』を奇襲出来る進路を決めるための参考にせよと。

「実際はさ。のぶにゃんだけでこの戦、勝てると思っていたんだけど、変な坊さんが暗躍したので僕が出張って来なくちゃならなくなったんだよね~。
 彼奴、今度お尻ペンペンの刑だぁ~」

 彼奴とは北条長綱改め幻庵宗哲だろう。
 そこかしこで一向宗を誑かしている。
 お蔭で三河が危険な存在となった。
 大胡に頼るしかない。

「取り敢えずさ。大胡は全部大高城方面でいい? 
 今度はあまり死なせたくないんだ、この前大分死なせちゃったから」

 それは『大胡の兵』を死なせたくないのであろう。
 一向宗徒はどれだけ死人を……
 いや考えないでおこう。
 この男ではないが天下一統を邪魔だてするものは撃破するのみ。

 幾らでも罵れ。
 魔王と言われてもよいぞ。
 この男よりも恐れられねば、天下を取ることは出来ぬ。
 こ奴と出会ったお蔭で、考えもしなかった天下布武、叶えて見たくなったわ!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年6月中旬
 丸根砦跡地
 上泉秀胤
(もうそろそろ一端の参謀)


 急な殿自らの出馬。
 これには皆が猛反対した。まだ品川の傷は癒えていない。

 東雲隊は当分使えぬであろう。太田殿は江戸方面の調略に掛かりっ切り。
 後藤殿の隊は未だ後藤殿の采配で動けるようになるのには時間が掛かる。
 官兵衛殿を失った重大さ、改めて皆が認識した。

 動けるとすれば是政隊だが、忍城での集成砲兵隊による火薬の大量消費。これが響いている。

 この半年でようやっと是政隊だけならば戦闘が可能なまでに備蓄を増やせた。最小限の訓練をしながらの備蓄だから大した量ではないが。

 里見は本格的に江戸城に根拠地を移動した。

 殿に言わせれば悪手だ。
 まだ地盤がしっかりしていないから、自らの居城を江戸城へ移して直接国衆の統制に乗り出しているのだろう。

 河越で眼を光らせている太田殿への対応でもある。
 だがそれにより常時江戸城に3000以上の兵を置かねばならなくなった。

 つまり上総下総で動員を行い、それを江戸城に詰めさせることで生産力の低下と兵糧の輸送・消費に国力を奪われる。

 益々軍備の増強が遅くなる。
 そうさせているのは大胡なのだが。

 今は里見の目は宇都宮と佐野殿に向いている。
 どうやら宇都宮と連携を持っての大胡対策を考えている節がある。
 だがそれはまだまだ先であろう。

 越後の長尾政虎殿は越中へ出兵し、武田は現在内政と海津城の築城に銭を吸い取られている。出兵できるような態勢ではない。
 であるならば大胡も内政を、という意見が評定では当たり前ではあるが大勢を占めた。

 しかし某と殿は違う。
 大胡の一大事とは武田と里見・宇都宮、そして今川が一斉に攻めてくることだ。
 それを出来るだけ起させない。
 起きてしまった時に備えてどこかの勢力を削っておくこと。
 これが大胡に取って最善の安全保障だと主張した。

 殿は『予防戦争と言って戦争を仕掛ける』と、暗い目をされていたが。

 一番の大事は折角できた同盟国の1つ、お市様を送ってきた織田殿の命運。これが風前の灯火だという事。

 50000対5000。これでどうせよと?

 大胡は伊豆を取るだけ。

 もしくは葛山殿の領地を大胡の傘下に収めるだけ。
 その予定であった。

 そのために風魔を動かし、小田原城に後藤隊の半数を詰めさせ、今川の戦力誘引のみを行う筈であったのだが。

 そこへ一向宗30000が加わった。

 殿は
「これじゃ『みらくるのぶ』が誕生しない! 
『魔術師のぶ』がいない戦国なんて、香りのないこおひいです!」
 と仰り、是政隊に後方支援部隊1000を付けて伊丹殿を中心とした水軍の実戦投入をされた。

 皆からすればとんでもない綱渡りに見えるが、殿と智円殿と某が成功する確率が高いと踏んでの出兵である。

「お市まじっくに、してやられたけどね」という、
 殿の小声は聞こえなかったことにしよう。




<もちろん嘘です笑>


 ◇ ◇ ◇ ◇

「あ~あ。また雨だぁ。
 小氷河期だから気候も違うのかなぁ。
 6月上旬でもう梅雨入り? 
 そんなことないか」

 また降り出した雨を眺めながら殿が愚痴る。

 天候が安定しない。
 2~3日降ったかと思えばカンカン照りの日が2~3日続く。
 だがその晴れている時でも急な土砂降りになる。

 殿の言葉では『げりら雷雨』と言うそうだ。
 急に発達した入道雲で夕立が起きる。

「この天候がのぶにゃんに味方したのか。でも、今回はどうだろ?
 鉄砲は使えなくなっちゃったからね。鉄砲足軽、大丈夫かな。戦力になればいいけどね」

 殿は信長殿に
「決戦になって雨降っていたら
 潔く鉄砲はポイッしちゃうといいよ」
 と助言したらしい。

 潔い信長殿の事だ。その重要性は理解したであろう。

「それよりさ。こっちの野戦築城はどうなの?
 忍びの報告ではもう沓掛城が落ちて今川の半数は鎌倉街道を西進、鳴海城目指しているでしょ。半数はこっち向かっているし。まあこっちは囮だからいいんだけどね。40000超えちゃうよ、敵兵力」

 殿の髷が少々解けてきた。

「鎌倉街道を10000以上の兵を長蛇の列にて進軍するのは愚の骨頂でしょう。
 それにそこは大胡の工兵隊が幾重にも鉄条網を敷いています故、今川兵の半数は遊兵化するやもしれませぬ」

「だといいんだけどね。東浦街道に仕掛けた罠が見つからない内に義元君の本陣が南下してくれれば、数千は孤立するね」

 沓掛城は織田勢が岡崎まで三河を侵略した後、長良川に転進した際に防御として佐久間盛重殿が入っていた。

 しかし今川の総攻撃に合い最後まで戦い玉砕の後落城。
 盛重殿は討ち死にしたそうだ。

「梁田殿の指図に従い弩弓による罠を100基余り設置いたしました。他にも様々な罠を。これにて西進した今川兵が引き返し、東裏街道を南下して義元本隊へ合流しようとも、相当な時間稼ぎが出来るはず」

「そうだねぇ。ぶーびーとらっぷは危険です」

 『ぶーびーとらっぷ』とは様々な仕掛けを敵の居る場所に施し、疑心暗鬼で身動きが取れないようにするという。

 某も見たが、あれがあるところに自分がいると分かれば堪らないだろう。

「で、今川本隊は長坂道か手越道を通るしかなくなるわけね。あそこって道が狭くって大集団は作れないでしょ。各個撃破にちょうどいい。さあ、のぶにゃんの運を信じよう!」

 殿は胸の前で十字を描いて両手指を組んでお願いの仕草を取る。
 これは南蛮の御祈りだそうだ。

 信じてもいない神に祈るのは単なるボケとしても逆効果になるのではというと、今度は履いている長靴で泥の地面に十文字を描き、踏みつけている。

『踏み十字』だというが意味が分からぬ。
 某の顔にまで泥が飛ぶ。

「さあて、1カ月で仕上げたにしてはよくできたこの塹壕。どれだけの働きするかなぁ。石が少なくて大助かり。楽に掘れたから2町の長さでも簡単に作れたね」

 ここには元からあった砦を無視して塹壕を掘った。
 砦の高台は物見がいるがあまり役には立たない筈。

 ここの地形は起伏が多い。
 遠くまで見通せるはずもない。
 大高城が見えるだけでよいのだ。
 なぜならば大胡は一切動かぬ。
 塹壕からは一切出ないで勝利を掴む。

「一向宗徒の皆さんはあの針地獄みたらなんと言うでしょうねぇ。極楽へ早く行きたくなるのかな?」

 殿もお人が悪い。
 塹壕の前には、有刺鉄線で作られた螺旋で構築された迷路がある。

 勿論、狭い通路は絶好の射撃箇所だ。
 数少ない火薬を有効に使用するために、今回は弾幕射撃はやらぬ。
 大胡の鉄砲上手をかき集めてここへ配備した。

 殿に言わせると『精密誘導射撃』だそうだ。

 誘導とは正面攻撃を諦めた敵が有刺鉄線の迷路により、目の前の大高川を越えて大胡勢の東へ出よるように誘導する。

 そこでまた精密な狙撃をする箇所を無数に作ったことを指しているという。
 西の天白川を渡る兵も出る事を想定して、そちらへは「移動式の」鉄条網を設置している。

 これは勿論、敵に横撃を食らわせるためだ。
 正面と左翼の敵がいなくなった時には、ここに血の川ができるであろう。

「雨が止んだね。
 そろそろかな?
 今川の進軍が始まるね」

 一体、この戦、どうなるのであろうか?

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