212 / 339
第23章:桶狭間の戦闘状況が全然正史と違う【桶狭間の戦い】
正史よりもハードモード
しおりを挟む
1556年4月中旬
尾張国那古野城
木下藤吉郎
(いったいどっちに行くんだ、このお猿?)
「申せ!」
「はっ。今は援軍を出せぬと。その代わり兵5000程度は駿河に誘引、拘束致すとの事。それからこの文をお渡しせよと」
大胡の政賢様の書状をお渡しする。
多分ではあるが、火薬はこれ以上渡せぬと書かれているはずだ。
最重要機密ではあるが、お市の方様より政賢様のボヤキとして伝えられた。
早くもお市様はお役目を務められている。
政賢様もそれを知っていて、それとなく情報をこちらへ流しているのであろうが……
「今川はどうじゃ」
「大胡の素ッ破からの情報では総動員の触れが出ているとの事。
しかしそれが尾張に来るか箱根を越えて相模に出るかは、まだ分からぬと」
それなのだ、問題は。
未だ今川の目的が分からない。
大動員をかけて東を襲うか、西進するか。
北は多分あり得ないな。
武田を襲う必要はない。
かといって大胡に勝てるとも思えない。
あの武田の精鋭すら品川で壊滅に近い敗北を喫した。
大胡にも相当な被害が出たらしいが、討ち取られた武将の多さが、その勝敗を物語っている。
双方、副将を討ち取られたものの、大胡は既に引退間近の老部将であった事に対し、武田は30代の、しかも晴信(今は信玄か)の弟を亡くした。
これは痛いな。
当分兵を二つに分けての戦は出来ないだろう。
それに比べ大胡は人材が豊富。
真田幸綱殿は副将としても十二分すぎる逸材。
東雲という武将も相当丹力があり、尚且つ切れ者だという。
政賢殿の信任も厚い。
「兵力は?」
梁田様への下問だ。
「は。
駿河で9000、
遠江にて10000。
三河の松平家臣団が3000。
それから……三河一向宗が約3万」
うへぇ。兵55000かい。
3万の一向宗はどのくらいの戦力になるかは知らんが、戦は数の勝負でもあるからな。
大胡が駿河で5000を拘束できるならば大変助かる。
しかし50000で尾張に襲い掛かられてはどうなることやら。
信長様は顔には出さないが、大分いらだっているな。
「(丹羽)五郎左と(柴田)権六を呼べ!」
2人の重臣が到着、着座するが早いか、信長様は仰られた。
「火薬は如何程か?」
何斉射できるかという質問だな。
信長様の質問は短いから、相当先を読んで丁寧に答えないと癇癪が起きる。
今も目の前で癇癪を起されているが、やっと意思が疎通できたようだ。
火薬の備蓄は先の今川の軍勢6000を打ち破った際に使った量の2倍はあるという。しかし、撃たれても撃たれても襲って来るであろう一向宗相手に、どれだけ射撃が続くか。
信長様にこの場に居よと言われて、この重臣の中に足軽頭並みの儂がいるのは肩身が狭いが、多分あの事なんじゃねえかな、理由は。
「猿! 弩弓を送ってくるそうだ。お前なら何処に置く?」
やはりな。
10年以上も前になるのか?
大胡の飛躍のきっかけとなった赤石防衛戦で使われた大量の弩弓。
あれを送ってよこすのか。
聞くところによれば据え置きの、40丁もの弩弓を一斉に発射できる装置だという。
多分それが20基以上。これを罠の様に置いておくのであろうか。
(作者注:偽クレイモア地雷です笑。1基で何人殺れるか?)
「はっ! 丸根と鷲津砦へ続く東浦街道が狭くなっている所。其処へ据え置きのものを置いて、遠方より操作するが良いかと。殺すのが目的ではなく、足を止める目的に使うべきかと」
重臣御2人は嫌そうな顔をしているがこれも致し方ない。
出る杭になるしかないのがこの世の常。
だが、大胡ではどうなのだろう?
飛び出した杭でも打たれないのか?
「梁田、場所を定めておけ。近々弩弓が来る故、五郎左と権六は前線での弩弓操練。操典も来るそうだ」
大胡の弩弓か。
どのくらい使えるのであろうか。
赤石砦では一瞬で兵100程が倒されたと聞く。
これは桶側胴も貫通したとか。
一向宗は桶側胴など付けていない。
これは相当打撃を与えられるな。
だが、それでも数の暴力、抗しがたいだろうな。
どのように切り抜けるか、殿は。
それを見てから大胡へ行くかどうかを決めても遅くはないか?
遅いかもしれぬか。
死んじまえば元も子もない。
ここはよう考えねば。
ああ、政賢様の宿題の解答ももっと練らねば。
さて、やることが山積し始めた。
面白くなったぞ!
◇ ◇ ◇ ◇
同日
織田信長
(やばいよやばいよ。正史よりもやばい状況)
皆を帰した。
早い。早すぎる。
あと2年、いや1年後ならば今川を跳ね返し、逆に屠ることも可能であった。
三河には、いくつもの調略の手を入れていた。
既に幾人もの国衆の内応も取り付けてある。
しかしこの状況の変化でそれも全て振出しに戻った。
一気に三河を手に入れるための策は尽きた。
あと5年の間に三河を織田の色に変え、東を盤石にする。
できうるならば今川を大胡と分け取りとする。
その後、美濃へと出るはずじゃった。
今はもうそれどころではなくなった。
一向宗3万だと?
あの死をも恐れぬ連中をどうやって潰すか。宗滴殿の如く他の宗派連中を集めて迎え撃つか。
いや、そのような奴ら烏合の衆じゃ。大胡も品川で痛い目を見ているという。
それよりも三河との境に広がる地形を生かしての各個撃破で義元の首を取る。義元がいなければ松平の小僧でもよい。
支柱をなくさせる。
これが狙いじゃ。
いや、これしかない。
もう少し早く市を嫁がせて居れば、東西で協調作戦の手配が済むはずであった。
今更、過ぎたことを悔いても仕方ない。
鉄砲足軽600。
これを如何に使うか。
問題はこれ以上遅くなると梅雨が来る。
さすれば地獄よ。
天の時地の利人の和。
地の利だけか、確実なのは。
これから今川からの調略が入っている者のあたりを付けねばならぬ。
その者をどこに置くか。
裏切りを画策する前に戦に突入すればよい。
やはり梁田の探り働きが頼りか。
……そういえば、
猿が言うには大胡の素ッ破の名前を変えたという。
たしか忍者とか。
その忍者を幾名かこちらへ寄こすと言うていた。
これが使えるか、信用置けるかは別として手が増えるのは良いことだ。
最重要は今川の矛先がこちらへ向いているか、大胡へ向いているかだ。
まさか両方へは向いていまいな。
そこまで義元は馬鹿ではなかろう。
いや……まてよ。
一向宗は単なる脅しで、全軍大胡へ向かうという手もあるが……
三河を探らせねばならぬな。
あとは、無理ではあろうが大胡への再度の救援依頼じゃな。
市を送ったばかりの救援依頼。
無理を通せるかもしれぬが、大胡も疲弊している筈。
高くつきそうじゃ。
尾張国那古野城
木下藤吉郎
(いったいどっちに行くんだ、このお猿?)
「申せ!」
「はっ。今は援軍を出せぬと。その代わり兵5000程度は駿河に誘引、拘束致すとの事。それからこの文をお渡しせよと」
大胡の政賢様の書状をお渡しする。
多分ではあるが、火薬はこれ以上渡せぬと書かれているはずだ。
最重要機密ではあるが、お市の方様より政賢様のボヤキとして伝えられた。
早くもお市様はお役目を務められている。
政賢様もそれを知っていて、それとなく情報をこちらへ流しているのであろうが……
「今川はどうじゃ」
「大胡の素ッ破からの情報では総動員の触れが出ているとの事。
しかしそれが尾張に来るか箱根を越えて相模に出るかは、まだ分からぬと」
それなのだ、問題は。
未だ今川の目的が分からない。
大動員をかけて東を襲うか、西進するか。
北は多分あり得ないな。
武田を襲う必要はない。
かといって大胡に勝てるとも思えない。
あの武田の精鋭すら品川で壊滅に近い敗北を喫した。
大胡にも相当な被害が出たらしいが、討ち取られた武将の多さが、その勝敗を物語っている。
双方、副将を討ち取られたものの、大胡は既に引退間近の老部将であった事に対し、武田は30代の、しかも晴信(今は信玄か)の弟を亡くした。
これは痛いな。
当分兵を二つに分けての戦は出来ないだろう。
それに比べ大胡は人材が豊富。
真田幸綱殿は副将としても十二分すぎる逸材。
東雲という武将も相当丹力があり、尚且つ切れ者だという。
政賢殿の信任も厚い。
「兵力は?」
梁田様への下問だ。
「は。
駿河で9000、
遠江にて10000。
三河の松平家臣団が3000。
それから……三河一向宗が約3万」
うへぇ。兵55000かい。
3万の一向宗はどのくらいの戦力になるかは知らんが、戦は数の勝負でもあるからな。
大胡が駿河で5000を拘束できるならば大変助かる。
しかし50000で尾張に襲い掛かられてはどうなることやら。
信長様は顔には出さないが、大分いらだっているな。
「(丹羽)五郎左と(柴田)権六を呼べ!」
2人の重臣が到着、着座するが早いか、信長様は仰られた。
「火薬は如何程か?」
何斉射できるかという質問だな。
信長様の質問は短いから、相当先を読んで丁寧に答えないと癇癪が起きる。
今も目の前で癇癪を起されているが、やっと意思が疎通できたようだ。
火薬の備蓄は先の今川の軍勢6000を打ち破った際に使った量の2倍はあるという。しかし、撃たれても撃たれても襲って来るであろう一向宗相手に、どれだけ射撃が続くか。
信長様にこの場に居よと言われて、この重臣の中に足軽頭並みの儂がいるのは肩身が狭いが、多分あの事なんじゃねえかな、理由は。
「猿! 弩弓を送ってくるそうだ。お前なら何処に置く?」
やはりな。
10年以上も前になるのか?
大胡の飛躍のきっかけとなった赤石防衛戦で使われた大量の弩弓。
あれを送ってよこすのか。
聞くところによれば据え置きの、40丁もの弩弓を一斉に発射できる装置だという。
多分それが20基以上。これを罠の様に置いておくのであろうか。
(作者注:偽クレイモア地雷です笑。1基で何人殺れるか?)
「はっ! 丸根と鷲津砦へ続く東浦街道が狭くなっている所。其処へ据え置きのものを置いて、遠方より操作するが良いかと。殺すのが目的ではなく、足を止める目的に使うべきかと」
重臣御2人は嫌そうな顔をしているがこれも致し方ない。
出る杭になるしかないのがこの世の常。
だが、大胡ではどうなのだろう?
飛び出した杭でも打たれないのか?
「梁田、場所を定めておけ。近々弩弓が来る故、五郎左と権六は前線での弩弓操練。操典も来るそうだ」
大胡の弩弓か。
どのくらい使えるのであろうか。
赤石砦では一瞬で兵100程が倒されたと聞く。
これは桶側胴も貫通したとか。
一向宗は桶側胴など付けていない。
これは相当打撃を与えられるな。
だが、それでも数の暴力、抗しがたいだろうな。
どのように切り抜けるか、殿は。
それを見てから大胡へ行くかどうかを決めても遅くはないか?
遅いかもしれぬか。
死んじまえば元も子もない。
ここはよう考えねば。
ああ、政賢様の宿題の解答ももっと練らねば。
さて、やることが山積し始めた。
面白くなったぞ!
◇ ◇ ◇ ◇
同日
織田信長
(やばいよやばいよ。正史よりもやばい状況)
皆を帰した。
早い。早すぎる。
あと2年、いや1年後ならば今川を跳ね返し、逆に屠ることも可能であった。
三河には、いくつもの調略の手を入れていた。
既に幾人もの国衆の内応も取り付けてある。
しかしこの状況の変化でそれも全て振出しに戻った。
一気に三河を手に入れるための策は尽きた。
あと5年の間に三河を織田の色に変え、東を盤石にする。
できうるならば今川を大胡と分け取りとする。
その後、美濃へと出るはずじゃった。
今はもうそれどころではなくなった。
一向宗3万だと?
あの死をも恐れぬ連中をどうやって潰すか。宗滴殿の如く他の宗派連中を集めて迎え撃つか。
いや、そのような奴ら烏合の衆じゃ。大胡も品川で痛い目を見ているという。
それよりも三河との境に広がる地形を生かしての各個撃破で義元の首を取る。義元がいなければ松平の小僧でもよい。
支柱をなくさせる。
これが狙いじゃ。
いや、これしかない。
もう少し早く市を嫁がせて居れば、東西で協調作戦の手配が済むはずであった。
今更、過ぎたことを悔いても仕方ない。
鉄砲足軽600。
これを如何に使うか。
問題はこれ以上遅くなると梅雨が来る。
さすれば地獄よ。
天の時地の利人の和。
地の利だけか、確実なのは。
これから今川からの調略が入っている者のあたりを付けねばならぬ。
その者をどこに置くか。
裏切りを画策する前に戦に突入すればよい。
やはり梁田の探り働きが頼りか。
……そういえば、
猿が言うには大胡の素ッ破の名前を変えたという。
たしか忍者とか。
その忍者を幾名かこちらへ寄こすと言うていた。
これが使えるか、信用置けるかは別として手が増えるのは良いことだ。
最重要は今川の矛先がこちらへ向いているか、大胡へ向いているかだ。
まさか両方へは向いていまいな。
そこまで義元は馬鹿ではなかろう。
いや……まてよ。
一向宗は単なる脅しで、全軍大胡へ向かうという手もあるが……
三河を探らせねばならぬな。
あとは、無理ではあろうが大胡への再度の救援依頼じゃな。
市を送ったばかりの救援依頼。
無理を通せるかもしれぬが、大胡も疲弊している筈。
高くつきそうじゃ。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版
カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。
そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。
勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か?
いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。
史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。
運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。
もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。
明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。
結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。
この話はそんな奇妙なコメディである。
設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。
特に序盤は有名武将は登場しません。
不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】サキュバスでもいいの?
月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】
勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる