首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第21章:北条滅亡?

罠にはまる!誰が?

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 1556年1月上旬
 相模国三浦半島沖浦賀水道
 上泉伊勢守
(政賢の親衛隊隊長兼斬り込み隊隊長? よくわからなくなってきた人)

 
「その船、止まれぃ! 
 ここから先は船標がない者は通さぬ。
 持っているならば示されよ!」

 3隻の小早が周りを取り囲み、大声で船標の提示を求めてくる。
 普通ならば帆柱の先端などに付けておくものであるが、そのような物は用意できなかった。
 注:小早(駆逐艦クラスの高速船)
   船標(旗でできたパスポートのような物)

「失礼いたす!
 某、北条家水軍梶原景宗と申す! 此度は急な要件にて、先ほどまで三浦にて鈴木殿より、この水道の通行許可を頂いていた」

「梶原? 
 あまり聞かぬ名じゃ! 兎に角船標を出せぃ!」

 梶原殿は、儂をちらと見て了承を得る。

 梶原殿は紀伊から品川にかけての水運と水軍の傭兵のようなことをしている猛者だ。

「急ぎ故、この場にて臨時にお支払いいたす!
 何方かこちらへ参られい!」

 どの道こうなるのであろう。
 房総水軍は既に里見の指示で、海路上野へ帰ろうとする殿を捕えようと網を張っている。船標があろうとなかろうと接弦し臨検してくる。

 船のともで腰を下ろしている女性が小袖を頭から羽織り、顔を隠す。
 両側に侍る2人の女官も身なりを正した。

「わかった。接舷して乗り込むぞ! 
 無駄な抵抗はするな。幾ら大型船というても軍船には敵わぬからな」

 こちらの船は檜垣船だ。荷を運ぶには良いが軍船になるには華奢だ。
 船員も少ない。 

 房総水軍の水夫かこが舷側を登って来た。

 7人か。
 この程度なら弟子2人とならば、一瞬で倒せるが‥‥

 水夫頭が船の帆柱付近で梶原殿と臨時徴収される銭の交渉をしている間に、残りの水夫が艫の物陰に隠れている3人の女子に眼を付けた。

「おお、これは良い荷を積んでいるなぁ。儂らが海賊ならば絶対に見逃さぬお宝じゃ。そうじゃな、皆の者?」

「そうじゃそうじゃ。
 おっと、しまった。涎が出ておったぞ、じゅるり」

「他の汁が出るより上品じゃ。
 じゃがこのままでは漏れそうじゃな」

「せめて顔だけでも拝みたいものじゃ。
 今夜のオカズにでもするかの」

 下卑た笑いを聞きつけ、交渉の終わった水夫頭と梶原殿が艫へとやってくる。

 梶原殿は渋い顔をしている。
 相当ぼられたらしい。

 それよりもこの状況、いかに切り抜けるか?


「梶原殿。この女性にょしょう何処いずこへ参られるのかの?」

「はい。縁あって関宿の鎌倉公方様の御許へ参られる途中にて。佐治水軍の佐治殿から護衛をと頼まれた次第。身元は某が保証いたす」

 水夫頭は納得したように頷くが、興味をそそられているらしい。

 京の女子の容姿を見て見たいと言い出した。
「少しならば減るのでもなし良かろう」と引かない。

 身元が確認できれば引き下がると思うたが、そう簡単にはいかぬか。

「頭、やっぱり顔を確かめるのが筋というものでしょう、
 ひひひ」

「そ、そうじゃな。
 梶原殿、その女性の顔、確認させて頂こう」

 何もないとは思うが、周りの護衛に目配せをする。
 女官に扮した素ッ破も警戒態勢に入る。
 あとは小袖を羽織った者が上手く対処してくれるかだが……

 水夫頭が言い慣れない言葉使いで、その女性に近づき声を掛ける。

「失礼仕るが、その小袖を下ろしてくれぬかな。
 これもお役目での」

 女性はためらいを見せ、上半身を左右に揺すり「否や」を表現した。
 これに納得がいかぬ水夫共が騒ぎ出す。

「おい、お高くとまっているんじゃねえぞ!」
「ここは里見の領海だ! 里見のしきたりに従ってもらおう!」
「京など何ぼのもんじゃい!」

 騒ぎがどんどん大きくなっていく。

 それを待っていたかのように、その女性は立ち上がり、うち掛けていた小袖を降ろし、こう啖呵を切った。

「京女を舐めるんじゃないよっ!
 これが里見刑部少輔のやり方かい? 
 私はこんな半端者の公家の娘だけどね。兄の関白近衛前久は、里見の刑部少輔ごとき、なんとでもできる身分なのさ! さっさとそこをどきなさい。
 兄に言いつけてやるからね!!」

 里見家に仕える房総水軍の猛者が、この剣幕にたじろぎ里見家に何かあってはいけないと早々に立ち去って行った。

「あの。これでよかったですか? 公家とは仕草台詞ともに、かけ離れていると思うのですが……」

 儂は笑いを堪えつつ頷いた。

「上手であった。其方の地を出せば里見の水夫など、びっくりして帰っていくであろうと殿が仰っていた。もっと殿を信用せよ」

 儂は、普段の髪を公家の娘風に結いなおした外見の弓兵に笑顔で答えた。

 これでこの船を沈め、
「関白様、縁の姫」が行方知れずとなれば、十分な里見への宣戦布告材料となろう。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年1月上旬
 相模国足柄峠
 石堂順蔵
(真田家上野素ッ破の長。ダンディ紳士)


 幸綱様を通して大胡家に仕えるようになって、早9年。

 政賢様にお会いすることはあまりないが、このお方の奇妙な行動にはいつも驚かされる。此度は危険を冒しての尾張から上野への帰還。

 ようやっと手配の付いた以前より調略の手を伸ばしていた、駿河の葛山と三浦の鈴木を使っての海路を選択せず、足柄の険しい山道を進んでいる。

 殿ご自身、自分の体力に自信がないと仰っているが、この険しさ女子供は何日もかかるであろう。

 もう少し道が整備されておれば楽なのであろうが、先に降った雪が融けて泥濘ぬかるみとなっている。

 先ほどから何度も滑って転んで今では泥人形と化している。


「足柄山なんだから熊にまたがって軽々と峠を越したいんだけどねぇ。
 酒呑童子が出ないだけましかぁ、あ……」

 また滑りなすった。

「殿、いい加減、某の背負子に乗りなされ。
 見ておれませぬ」

 政影殿が見るに見かねて声を掛けるが、

「いあいあ。そろそろね。「れべる解放」できたから僕も体力向上「えいちぴい」「えすてぃいあある」なんかも「れべあげ」して上げていかないとなんだよ。
「ぱわあれべりんぐ」できる「ちいと」ないかなぁ」

 ふうふう言いながら、まじないのような文言の羅列を仰られる。
 智円殿の占いの方がまだしも真面に思える。

 「某の素ッ破を鍛える手法や甚六殿の修験道による修行ではいかぬのでしょうか」

 殿に提案するも一蹴されてしまう。

「それ、すんごく厳しそう。体壊れちゃうし、それに割く時間無さそう」

 無茶なことを言う。
 時間をかけて修行せねば体力など付かぬものだ。

 しかし大胡の領地全ての差配をしつつの修行では、いくら体力があっても厳しいであろう。それは分かっておられるであろうから単なる愚痴か。

「殿。その曲がり角を過ぎれば、松田城まであと1里。
 しばらくの辛抱でござる」

 風魔の小太郎が一行の先頭から殿の近くまで報告に来た。
 風魔は箱根を捨てて以来、140名程度の戦闘可能な者を3手に分け2手は品川で待機、休養。1手は山野での鉄砲を使用した山岳部隊として錬成をしている。

 今回は古巣の箱根周辺で訓練をしていたので、直ぐに繋ぎを付けられ殿の護衛に参加している。

「しかし誠に松田が内応に応じたのでござりましょうか?
 松田は譜代の北条宿老。しかも殿に手玉に取られた恨みもござろうに」

 同行している智円殿が殿に問う。

「う~ん。賭けだね。あの人、予定では関宿の代官になる筈だったけど、その話が無くなってかなりがっかりしていた筈。あそこ実入りがいいから。
 鎌倉公方を何とかすれば、あそこ上げるよって餌蒔いたら釣れたんだけどね。それだけじゃ足りないよね。だから今、さらなる餌を考え中~。
 何かいい餌ある?」

 外交の事は某にはわからぬ。
 真田の殿ならば、何か思いつくのではとは思うが……
 しかし某が調べている事だけは伝えておかねばならぬ。

「殿、某の調べによれば、松田盛秀の嫡子憲秀ですが、内政に秀で外交も父親よりも遥かに優れているとの噂。大胡との決戦の後、外交の失敗の引責で隠居した父親の名誉を挽回しようと躍起になっているとの事。しかも1万石以上あった知行も1000石程度に減らされ不満も漏らしているとのぼやきも聞いておりまする」

 某の話を受けて小太郎殿が更なる重要な情報を出してきた。

「父の方は北条への忠誠、殊に厚く、罠である確率は高いかと。ですが此度の内応の約束は嫡子憲秀。既に実権はこちらへ移っておりましょう。
 北条内では強硬派と見られ対大胡の急先鋒に見られがちですが、現実主義者の一面もありまする。理を以って交渉に当たれば、内応の儀が欺きであろうとも心の内、変わりましょう」

 そうとなれば話は変わってくる。
 まずは智円殿を送り……

「それは賭ける価値はあるね。あの人前歴があるから。ああ、後歴かぁ」
 
 またいつもの独り言を仰る。

「じゃあね。僕が行こう。智円の兄さんだけじゃきっと欺かれるよ。ここぞというときに裏切られるより、餌をあげて心の内を探ってみようよ。
 僕、餌だぁ~♪」

 なんと大胆な!

 しかしその後話された策を聞いて流石、殿! 
 と納得したのであった。

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