首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第20話:最終局面

大砲の上手な使い方入門

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 1556年1月9日巳の刻(午前10時)
 武蔵国品川湊大手門右櫓
 真田政輝
(なんで此奴主人公枠取っちまいそうな活躍しているんだよ、オイ)


 ありゃ~。狐先生。
 それ、俺の発案じゃね?

 でもうまいなぁ。さすが正規兵。
 さっきの西上野衆上がりの総予備よりも、遥かに攻撃力あるな。

 ……軽装だから遠矢でやられちゃうか。
 遠矢なら1町(100m)以上は飛ぶしな。
 普通の桶側胴なんかでも防げるけど、竜騎兵の装備じゃ、当たれば簡単に戦線離脱だよ。

 それでも前進するのをやめないのは、大胡の士気の高さ、というより皆目的意識を持ち始めたからね。
 殿さんが上洛する前に、那波にいる大胡の領民1万人の前で演説した時は、皆震えが止まらなかったよ。

『大胡は今や55万石くらいになっちゃった。まあどこの大名が攻めてきても簡単には滅ぼすことはできないけど、今とんでもない悪者が、いくつもの大名を操り大胡を潰そうとしているんで~す。その悪者がね。今まで皆さんが苦しい生活を強いられていた元凶なんです! 
 みんなが工夫して努力を重ね良い生活、豊かな生活をして幸せに暮らしたくて頑張ったとしてもそれを邪魔する奴、搾取する奴がいるのです。
 そいつらは何故そんなことをするかというと~、自分たちが私腹を肥やすためなのですっ! 
 たったそれだけ、たったそれだけの目的で日ノ本全ての人の未来を奪っているのです!! 
 僕は許せないなぁ。
 絶対に許せない。
 だから大胡政賢はこれから修羅の道を歩みます。
 今までは自分が大胡が生き残るための戦いだったけどね、今やそれだけでは本当の幸せが掴めなくなっちゃった。
 だから大胡のこの力をあいつらをやっつけるために使わせてください!
 お願いします。
 僕と一緒に日ノ本の未来を明るいものにしてください。少しでも明るい未来へ前進させてください!
 この通り!!!』


 殿さんの土下座って初めて見たよ。領民に土下座する大名がいるんかよ。

 55万石の大名にここまでさせる物。

 それが
「未来を明るいものにする。そのために命を掛けてくれ」か。

 平民は
「やっと上野国が平穏になったのにまた戦か」
 そう思うのが当たり前だろうに。

 この殿さんに土下座されて、皆盛り上がっちまった。

 泣いて叫ぶ者もいたよな。
 泣きながら笑っている者もいた。

 あとで親父が
「群集心理と言うやつだ」
 と教えてくれた。

 でも話の中身は時がたつにつれて分かって来た。

 米や味噌・塩が高くなった。
 これが西国商人の仕業だと。

 既に大胡は戦争を仕掛けられているという事を実感した。
 もう何も知らない百姓町人じゃあなくなったんだ。

 目覚めたんだ。
 明日を切り開くのは大名武士坊さんではなく、自分たち百姓ひゃくせいだという事に。

 ここの大胡兵もそれに感化されている。
 だから落城寸前でも、必死になって抵抗しようとしているんだな。

 手や足を負傷した連中が物陰に隠れて、道定さんに指導されつつ最後の火薬樽の火薬を使い早合を作っている。
 相当重傷な者も、手さえ動かせれば役に立つと無理している。

「道定さん。ちょっと聞いていい? 
 できればこっちに来てほしいんだけど」

 俺はさっき気づいたことを確認したいので、道定さんに来てもらった。
 手を休め、負傷者に指示を出してから俺のところまで来てもらう。

「あのさ。そこに見える大手門の上の壁。あれ、なにで出来てるの? 
 やけに脆そうなんだけど」

 道定さんは頭の後ろを掻きつつ、煤だらけにした顔でバツの悪そうな表情を作り説明した。

「あれはの。実は張りぼてじゃ。「こんくり」が足りなくなってしもうてな。
 ナマコ塀で堅固そうに見せている」

 ナマコ塀というと土か。
 板材の外側を粘土で塗ってあるだけ。
 横からの矢、特に火矢対策か。
 じゃあ上からの衝撃は……

「それは考えていないの。その必要はないであろう?」

 これはいけるんでない?

 先ほど閃いた考えを説明する。
 道定さんは少し考えた後、返答した。

「それは可能であろうな。
 じゃが動かせるのか? 
 あの大砲を」

 それは……気合と根性だ!

 殿さんが冗談で言っていた通りだ。
 それしかねえよ。
 あとは工夫だ。

「冬木のねーちゃん。すこし頭を貸してくれ」

 兄貴に肩を貸してもらい、登り口を上がってこの櫓で包帯を巻いて止血していた副官は、億劫おっくうそうに立ち上がってこちらへ来た。

 これは大分血が出ちまったな。
 早くけりを付けないと危ないぜ。

「あの1欣半砲(12ポンド砲)、どのくらいの重さがあるんだ?」

「約300欣(1.2t)というところでしょうか」

 そのくらいあれば「破壊」出来るか?

「じゃあ、あれをこの大手門上まで引きずってくることは出来るかな?」

「可能だと思います。元々、発射の反動を押さえるための綱と車輪が台車に付けられていますから、数名いればここまで持ってくるのは容易たやすいかと」

 そこまではいいんだよな。
 問題はここからだ。

「あの大手門直上にある狭間の上を乗り越えさせることは出来るかねぇ。
 それ出来ちゃうとこの戦、半ば勝っちゃうんじゃね?」

 冬木のねーちゃんも察したらしい。
 頭いいよな、このねーちゃん。
 嫌いじゃねえぜ。

「たしか弾薬庫からこちらへ重量のある台座を持ち上げるための滑車と梃子てこがあった筈。
 それを使えば可能でしょう!」

 そっか! 
 これは楽しくなるぜ。
 できるだけ早く準備して、ちょうどよい時期に落とせれば「門を破壊」できる。
 そして通行不能にできる。

 そうすれば敵本陣を孤立させることが可能。
 武田(弟くん)を狐師匠が喰らうことも可能だ。

 作業を急がせよう!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 大手門北10間(20m)
 山本勘助
(ギリギリの選択を迫られる軍師)


 あと少しだ。

 大手門を潜って中から攻撃をすれば形勢が逆転する。既に本陣の半数は戦力を為していない。
 士気が崩壊寸前だ。
 だが品川に逃げ込めばそれもすぐ元に戻る。

 まずは典厩様を中へ逃す。
 殿軍しんがりは儂がやる。

 あの攻撃を凌ぐ方法を考えられる知恵者はここにはいない。

「お~い。その立派な兜を頭にのっけてるのは、武田の大将(弟)かぁ? 遅かったねぇ。それ以上門に近づくと兜よりもっと重いのを頭にのっけちゃうことになるから、近づくなよぉ~」

 何を言うか。
 もう火薬も残り少ないだろう。
 大筒も撃てまいて。

 何かを落とす? 
 あの櫓の上……
 大筒を落とす気か!?

「典厩様。急ぎ門を潜り……」

「そぉ~れっ!」

 大筒が落ちてきた。

 開かれている大手門の上にある梁とナマコ塀に当たる!

 そして、

 ぐしゃ!
 ずごごご~ん。

 大手門の上のナマコ塀が半壊し、開かれた大手門にその破片が落ち始めている。
 急いで入らねば!

「あっれ~? 
 やっぱ1つじゃ無理か? 
 じゃあもう一丁! 
 おとせ~い」

 今度は西の櫓から大筒が落ちてきた。
 ナマコ塀の右端に当たり、遂に完全に門が塞がれてしまった!

「では、武田(弟)さん。
 大胡の鉄砲の的になってね。
 さいなら~」

 振り返らずとも状況は分かる。

 既にあの周囲の枯草と同じ黄色の服を着た備えが一歩一歩着実に前進してきており、大手門へ向かい駆け足で距離を稼いだ本陣に迫りつつある。


「典厩様、貴方様だけはお逃げください。
 生き残らねば。
 武田には副将が必要です。
 貴方様は失ってはいけぬ唯一無二の武将でござる。
 ここはなんとしても生き残り、他日を期すべき時」

 典厩様は大手門と迫りくる大胡の黄色の備えを交互に見据えた後、悲壮な表情をして仰られた。

「わかった。後は任せる。必ずや仇は取る。内藤らに退陣の指示を」

「畏まってござる。典厩様、川を渡るのは危険。川沿いにも伏兵がいるのは必定。台地の上をお逃げください。
 あそこには大した罠もござりませぬ。騎馬でも行けましょう。
 足が命でござる。北西8町に品川館跡があります故、内藤とはそこで落ち合うのが良策。ご幸運を」

「武運ではないか、ふふ。だが甲斐に帰ってから武運が必要じゃな。ここは幸運の方が必要じゃ。
 勘助、本陣を頼む。時間稼ぎが済んだら士分だけでも逃げよ。大胡は足軽には手を出さぬ」

 儂は膝をつき無言で頷く。
 典厩様が20名程の騎馬武者に囲まれながら、北西にある台地へ向かうのを見て立ち上がる。
  さて、最後のご奉公か。

 幸綱殿の子か? 
 あの策を考えたのは。

 ようやる。

 流石は儂が見込んで調略しようとした武将の子よ。
 あの失敗がこの事態を招いたか?

 いやそれだけではあるまい。

 もっと時間があれば何が敗因なのか、きちんと振り返り、次の戦の糧にできるのだが。

 もうそれもできぬか。

 楽しくはなかったが、やり甲斐のある人生じゃった。

 さて、今一度、やり甲斐のある仕事をするか。

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