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第20話:最終局面
緑の狐改め、赤い狐
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1556年1月9日巳の刻(午前10時)
武蔵国品川湊北4町
東雲尚政
(酒を飲みながら戦場指揮をするようになった大胡の(顔が)赤い狐)
「大隊長。
酔っぱらって馬から落ちないようお願いします。
酒がもったいないですから」
直属の部下たちが皆笑う。
うヰすきいの入った瓢箪から、猪口に中之条の好きだったそれを注いで口に含む。
「酔っぱらって、作戦指揮を間違わないように願いますぜ」
間違えるかよ。
頭は至って冷静だ。
というよりも今は
考えがあらぬ方へ行かぬようにするために飲んでいる。
中之条の事を考えないようにしないように。
「第1列目。
発射位置に到達。
第1小隊が火蓋を切りました」
向え打つ敵、後備えに向けて第1列目が左右両端にいる小隊長と分隊長の号令一下、引き金を落とし50間(100m)先の敵足軽に射撃を加える。
既に敵の弓矢は遠矢で連射をし始めている。
数名の隊員が手傷を負って後退した。
それに怯むような根性無しはこの隊には居ない。
敵陣を見ると第一射で十数名の者が倒れた。
敵は恐れつつも隊列を乱さない。
流石は武田の兵だ。
「第1列目、その場で弾込め開始。
第2列1列目の前に出ました……
静止して火ぶたを切ります……
射撃」
発砲音と共に敵の長柄前列20名以上の者が倒れる。
味方銃列の2列目は1列目の1間前で静止しての銃撃だ。
そしてその場で徐に弾込めを始める。
3列目の射撃。
20名以上が手負いとなる。
敵長柄の第1列目100名余りの内、半数が落伍、1列目が崩れる。
もう2列目の士気が崩壊寸前となっているのが見える。
4列目射撃。2列目潰走。
5射目射撃。3列目潰走。
6射目をする前に後備えの長柄が全て潰走した。
なんだ、他愛無いもない。
こちらの銃列は、あと2列残っているのに。
だが敵の身になれば然もありなん。
反撃を許されず、ただ鉄砲の的になるためだけに戦場で列を作っている事、誰が平気でいられようか。
こちらの作戦行動もできるような部隊は、根性の座っている兵と指揮官が必要だ。
殊に兵の間隔が1間以上開いている。
兵の間を次の列の兵が通り抜ける必要があるからだ。
普通の長柄の間隔の倍はある。
この心許なさはやってみればわかる。
兵は隣に戦友がいるから安心するのだ。
この日ノ本で大胡の兵以外で、これが出来ようはずがない。
ここまではまずまずの出来だが、これからが本番だ。
右の台地からの弓を警戒せねばならん。
あとは左の茂みからの奇襲。
既に足元は綺麗にしてある(作者注:罠の解除)。
この先、進むにつれ狭隘な戦場が急に広くなる。
そこには本陣だけでなく攻囲戦をしている主力がいよう。
本陣への突入を楽しんでいれば左右から包囲される危険がある。
これに対応できるかが今回の戦の要諦だ。
敵には相当「できる」奴がいるようだ。
だが今回は決して失敗はしない。
中之条の仇を討ってやる。
……ああ、また思い出しちまった。
いかぬな、冷静でいなくては。
俺はうヰすきいを、猪口で一気に喉へ流し込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
武田信繫本陣
山本勘助
(狐の好敵手)
「後備え、壊乱します。
ばらばらに後退中。
敵は殆ど損害無し」
典厩様と側に控える儂の斜め前で騎乗、周囲を観察している兵が報告する。
敵は東雲の竜騎兵と言ったか、騎乗して移動後鉄砲を射撃、そしてまた移動を繰り返す厄介な部隊。
それがどうしたのか、馬を降り普通の鉄砲隊の様に戦っている。
いや、普通ではないか。
武田の鉄砲隊を束ねる春日殿の話によれば、鉄砲隊は主に防御に適しているとのこと。
攻撃のための道具ではない。
なぜならば移動すれば隊列が乱れて銃撃が乱雑となり、敵へ与える打撃が減ると。
しかしどうじゃ。
あの大胡の陣。
遅いが着実にこちらへ向かってきよる。
見事にこちらへ攻めてきている。
しかも強大な打撃力を持ち、こちらの兵の士気を簡単に砕きおった。
「本陣を後退させ、内藤と馬場の備えを左右に広げ包囲をする。
敵は左右が弱いと見た。
勘助の見立てはどうじゃ」
普段ならばそれでうまくいこう。
じゃがあの東雲はそのような事、お見通しじゃろう。
彼奴は切れる。
儂と良い勝負であろう。
「あの者。そのような状況には対策を練っておりましょう。多分、あの銃列の左右、見えぬところに騎馬武者の一団を控えさせていると見まする」
典厩様は、床几から立ち上がり北の戦場を見渡す。
儂も立って見渡すが、この片目では遠くが見えぬ。
先ほどの馬周りに左右に伏兵がいないか問いただす。
「馬を連れた兵が左右におよそ100見えまする」
「敵の部将は中央か……」
目の行き届く場所に居座っているな。
これは厄介だ。
あれを崩すとなると……
側撃か。
台地の上には50余りの弓兵を潜ませている。
右の茂みにも50の弩弓。
これらも読まれていると見てよい。
内藤殿の備えは既に消耗している。
兵も600を切っている。
馬場殿の備えは無傷だが300しかいない。
小宮山殿の備えは200もいないし消耗も著しい。
本陣には800。
合わせて1800弱で800を包囲か。
普通ならば包囲殲滅できる程の戦力だが、あの鉄砲の銃列は間違いなく中央を分断しよう。
そして本陣の中央に突っ込んでくる。
典厩様が危うい。
進言しよう。
「ここは引くべきかと。勝機は殆どありませぬ。打撃力が違いすぎまする。包囲するまで本陣は持たぬかと」
典厩様はまだ落ち着いている。
内心はどうか知らぬが流石は晴信様の弟にして副将。
ここで失うわけにはいかぬ。
「……引くか。
品川は諦めるしかないか。ここまで来て、という気もせぬではないがこのままでは全滅か? 退き口は何処がある?」
儂は
「目黒川沿いに北西に退く道」と
「荷と馬・甲冑を捨てて目黒川を泳いで渡る」ことと、
そして……
「後備えを捨て石に搦め手門まで回り込み、品川へ侵入。品川に立て籠るか、そこに係留してある舟にて川を渡って撤退」
の3つが考えられることを進言した。
「苦しい選択じゃな。北西は既に我ら武田自身の手により罠が仕掛けられ、さらには当たり前のように伏兵が居ろう。これを突破しているうちに後ろを襲われ挟み撃ちか。泳いで渡ればこの正月、兵の体力が持たぬ。
そこへ川を渡った大胡兵が追ってくる。
あとは搦め手門か」
品川の防壁をぐるりと回り込み搦め手まで移動するうちに大手門まで東雲の陣が到着して品川内部から射撃されるやもしれぬ。
いや、既に侵入している保科殿が抵抗するか。
何をするにももう時間がない。
敵はもう北3町に迫っている。
今すぐできることは……
その時、情勢が一気に動いた。
「大手門が開け放たれましてございまする! 内藤様の兵が侵入を開始!!」
武蔵国品川湊北4町
東雲尚政
(酒を飲みながら戦場指揮をするようになった大胡の(顔が)赤い狐)
「大隊長。
酔っぱらって馬から落ちないようお願いします。
酒がもったいないですから」
直属の部下たちが皆笑う。
うヰすきいの入った瓢箪から、猪口に中之条の好きだったそれを注いで口に含む。
「酔っぱらって、作戦指揮を間違わないように願いますぜ」
間違えるかよ。
頭は至って冷静だ。
というよりも今は
考えがあらぬ方へ行かぬようにするために飲んでいる。
中之条の事を考えないようにしないように。
「第1列目。
発射位置に到達。
第1小隊が火蓋を切りました」
向え打つ敵、後備えに向けて第1列目が左右両端にいる小隊長と分隊長の号令一下、引き金を落とし50間(100m)先の敵足軽に射撃を加える。
既に敵の弓矢は遠矢で連射をし始めている。
数名の隊員が手傷を負って後退した。
それに怯むような根性無しはこの隊には居ない。
敵陣を見ると第一射で十数名の者が倒れた。
敵は恐れつつも隊列を乱さない。
流石は武田の兵だ。
「第1列目、その場で弾込め開始。
第2列1列目の前に出ました……
静止して火ぶたを切ります……
射撃」
発砲音と共に敵の長柄前列20名以上の者が倒れる。
味方銃列の2列目は1列目の1間前で静止しての銃撃だ。
そしてその場で徐に弾込めを始める。
3列目の射撃。
20名以上が手負いとなる。
敵長柄の第1列目100名余りの内、半数が落伍、1列目が崩れる。
もう2列目の士気が崩壊寸前となっているのが見える。
4列目射撃。2列目潰走。
5射目射撃。3列目潰走。
6射目をする前に後備えの長柄が全て潰走した。
なんだ、他愛無いもない。
こちらの銃列は、あと2列残っているのに。
だが敵の身になれば然もありなん。
反撃を許されず、ただ鉄砲の的になるためだけに戦場で列を作っている事、誰が平気でいられようか。
こちらの作戦行動もできるような部隊は、根性の座っている兵と指揮官が必要だ。
殊に兵の間隔が1間以上開いている。
兵の間を次の列の兵が通り抜ける必要があるからだ。
普通の長柄の間隔の倍はある。
この心許なさはやってみればわかる。
兵は隣に戦友がいるから安心するのだ。
この日ノ本で大胡の兵以外で、これが出来ようはずがない。
ここまではまずまずの出来だが、これからが本番だ。
右の台地からの弓を警戒せねばならん。
あとは左の茂みからの奇襲。
既に足元は綺麗にしてある(作者注:罠の解除)。
この先、進むにつれ狭隘な戦場が急に広くなる。
そこには本陣だけでなく攻囲戦をしている主力がいよう。
本陣への突入を楽しんでいれば左右から包囲される危険がある。
これに対応できるかが今回の戦の要諦だ。
敵には相当「できる」奴がいるようだ。
だが今回は決して失敗はしない。
中之条の仇を討ってやる。
……ああ、また思い出しちまった。
いかぬな、冷静でいなくては。
俺はうヰすきいを、猪口で一気に喉へ流し込んだ。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
武田信繫本陣
山本勘助
(狐の好敵手)
「後備え、壊乱します。
ばらばらに後退中。
敵は殆ど損害無し」
典厩様と側に控える儂の斜め前で騎乗、周囲を観察している兵が報告する。
敵は東雲の竜騎兵と言ったか、騎乗して移動後鉄砲を射撃、そしてまた移動を繰り返す厄介な部隊。
それがどうしたのか、馬を降り普通の鉄砲隊の様に戦っている。
いや、普通ではないか。
武田の鉄砲隊を束ねる春日殿の話によれば、鉄砲隊は主に防御に適しているとのこと。
攻撃のための道具ではない。
なぜならば移動すれば隊列が乱れて銃撃が乱雑となり、敵へ与える打撃が減ると。
しかしどうじゃ。
あの大胡の陣。
遅いが着実にこちらへ向かってきよる。
見事にこちらへ攻めてきている。
しかも強大な打撃力を持ち、こちらの兵の士気を簡単に砕きおった。
「本陣を後退させ、内藤と馬場の備えを左右に広げ包囲をする。
敵は左右が弱いと見た。
勘助の見立てはどうじゃ」
普段ならばそれでうまくいこう。
じゃがあの東雲はそのような事、お見通しじゃろう。
彼奴は切れる。
儂と良い勝負であろう。
「あの者。そのような状況には対策を練っておりましょう。多分、あの銃列の左右、見えぬところに騎馬武者の一団を控えさせていると見まする」
典厩様は、床几から立ち上がり北の戦場を見渡す。
儂も立って見渡すが、この片目では遠くが見えぬ。
先ほどの馬周りに左右に伏兵がいないか問いただす。
「馬を連れた兵が左右におよそ100見えまする」
「敵の部将は中央か……」
目の行き届く場所に居座っているな。
これは厄介だ。
あれを崩すとなると……
側撃か。
台地の上には50余りの弓兵を潜ませている。
右の茂みにも50の弩弓。
これらも読まれていると見てよい。
内藤殿の備えは既に消耗している。
兵も600を切っている。
馬場殿の備えは無傷だが300しかいない。
小宮山殿の備えは200もいないし消耗も著しい。
本陣には800。
合わせて1800弱で800を包囲か。
普通ならば包囲殲滅できる程の戦力だが、あの鉄砲の銃列は間違いなく中央を分断しよう。
そして本陣の中央に突っ込んでくる。
典厩様が危うい。
進言しよう。
「ここは引くべきかと。勝機は殆どありませぬ。打撃力が違いすぎまする。包囲するまで本陣は持たぬかと」
典厩様はまだ落ち着いている。
内心はどうか知らぬが流石は晴信様の弟にして副将。
ここで失うわけにはいかぬ。
「……引くか。
品川は諦めるしかないか。ここまで来て、という気もせぬではないがこのままでは全滅か? 退き口は何処がある?」
儂は
「目黒川沿いに北西に退く道」と
「荷と馬・甲冑を捨てて目黒川を泳いで渡る」ことと、
そして……
「後備えを捨て石に搦め手門まで回り込み、品川へ侵入。品川に立て籠るか、そこに係留してある舟にて川を渡って撤退」
の3つが考えられることを進言した。
「苦しい選択じゃな。北西は既に我ら武田自身の手により罠が仕掛けられ、さらには当たり前のように伏兵が居ろう。これを突破しているうちに後ろを襲われ挟み撃ちか。泳いで渡ればこの正月、兵の体力が持たぬ。
そこへ川を渡った大胡兵が追ってくる。
あとは搦め手門か」
品川の防壁をぐるりと回り込み搦め手まで移動するうちに大手門まで東雲の陣が到着して品川内部から射撃されるやもしれぬ。
いや、既に侵入している保科殿が抵抗するか。
何をするにももう時間がない。
敵はもう北3町に迫っている。
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あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
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