首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第19章:激戦!【品川包囲戦】

始まったぞ反乱祭り

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 1556年1月上旬
 武蔵国西部滝山
 疋田豊五郎
(レンジャー部隊生みの親です)


 朝日が既に中空へと昇りつつある。
 巳の刻(午前11時)も終わろうとしているか。
 昨夜はこの滝山に野営の設置をした。

 ここは敵陣真っただ中だ。
 簡易な物しかできぬ。

 だがあまり簡易だと、これから始める「げりら戦」が長期に渡った場合は、体力の維持が困難となる。

 ただでさえ煮炊きが制限されるのだ。
 この寒空ではきつい。

 殿がこの辺りを武田の目を盗み盗み巡視した際
「この滝山、欲しいねぇ。
 きっと巨大な山城出来るね。
 山城嫌いだけど(登るのが)」
 と仰っていた。

 まだここは武田には目を付けられていない様子。
 しかし場所としては重要な位置であろう。


 武田が甲斐から坂東に出るには、主に二つの道がある。
 一つは笹子峠を通り大月から南の相模に出るか、北の八王子に抜ける道。
 もう一つは険しい大菩薩峠を通り、青梅に抜ける道。

 青梅の勝沼城と八王子城が北条の最前線であったが、その中間に位置するこの滝山に、なぜ城を作らなかったのか不思議だ。
 ここならばその両城を後詰するための絶好の拠点となろうに。

 その要地に人知れず拠点を置いて、今夜からその両方に存在する武田の後方拠点を破壊、物資を焼く。

 山を通り、谷を抜け、夜道を行軍する訓練は数数え切れずしてきた。

 おなじみのサンカの者を道案内として各班に配置し、一番通り抜けやすい道を選びつつ奇襲を繰り返す。

 時には夜襲ついでに士分の首を獲る。
 それを高札を掲げて近くの村にさらしていく。
 

『この者。武田の武士なり。
 甲州にて悪政を布く武田晴信の元、民百姓を苦しめ、今武蔵の民を苦しめんとここへ侵略しに来たる。よって天に変わわって御仕置を致すよ!


 勿論、誰がやったかは書かぬ。
 書かんでも分かろう。
 このような事をする、出来る者は大胡しかおらぬ。

 武蔵の者は既に大胡の実力と善政を知っている。
 早くここにも大胡が来てくれぬかと願っている者が多い。
 実際多くの村から、その旨の請願が送られてきている。
 今暫しじゃ、今暫し待っておれ。
 必ずや悪政から解放する。

 秋の収穫を楽しみに出来る世を、政賢様と皆で作る!!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日亥の刻(午後11時)
 勝沼城城下町
 疋田豊五郎


 ドスッ

 小屋の中で「夜戦」を行っていた武士を左手のみにて羽交い絞めにしつつ、女子おなごの口を塞ぐ。
 そして右の腕で抜き身の疋田刀を心の臓まで押し込む。
 人生の最後で、抜き身を女子に刺しながら脇腹を刺されるという体験はしたくないな。

 女子には迷惑をかけた。
 そう言おうとした時、
「どうしてくれるんだい。御足が貰えないじゃないか!」
 なかなか度胸が据わっている……

「その者の懐に入っていよう」

「そういう問題じゃないのさ。こう見えてもね、この仕事に誇りを持っているんだよっ! やることやってからじゃないと銭は貰いたくないのさ。
 それともなにかい? 
 あんたが代わりに仕事相手になってくれるのかい?」

 何だか偉いのか、狂うておるのかわからぬ奴だ。
 とりあえず退散しよう。

 この世は狂うておる。
 人斬りを続ける儂も狂うておるが……
 せめて部下にだけは早く辞めてもらい、平穏な日常というものを味合わせてやりたい。


「隊長。手筈通り城から追討の兵が出て参りました。奇襲の準備は出来ておりまする」

 女子に迷惑賃として僅かながら銭を与えて小屋から外に出ると、分隊長が小声で配備完了の報告をしてきた。

 城下町からこちらへ下ってくる道の左右に、部下18名が隠れている。
 儂と分隊長は道の真ん中で50名以上の追討の兵を見据えた。
 分隊長は公園で指南した武芸に秀でた元親衛隊の者。

 身のこなしも秀でていたため抜刀隊改め、疋田隊に引き抜いた。
(どうも刀の名前と言い、隊の名前と言い、殿の悪い癖だ。勝手に名前を付けて喜んでいる)

「おいっ! 
 いたぞ! 
 あ奴武田の者ではない! 
 囲め!!」

 こ奴ら武田の兵ではないな。
 武田に降った三田の兵だ。

 悪いが「全ての」武士に消えてもらう。
 日ノ本のために戦う「軍人」にならぬ者は要らぬ。
 それが大胡の方針だ。

 一応、勧告はしておこうか。

「三田の者。大胡に来ぬか。
 さすれば長生きでき必要なれば安寧な生活を約束しよう」

 満月に近い月光に照らされ、少なからぬ足軽が徒武者と足軽小頭の顔を伺うのが見て取れた。

「ぬかせっ! 
 お主ら、儂の3人の息子を全て川に追い詰めてなぶり者にした大胡に降るような性根しょうねを儂は持ち合わせておらぬ!
 覚悟いたせ!」

 顔に長き人生を刻んだ皴を月光に曝し、所々抜けた歯を剝きながら喚き散らす。

 もう当主を始めとして一族が族滅したか。哀れとは思うが、お前らのお蔭でどれだけの民が苦痛を味わったか。

 手槍をこちらへ向けて周りの足軽に命令を下すほんの一瞬前、小頭の太刀が徒武者の太股を薙ぎ払った。

「グッ! 何をする!」

 徒武者はそれ以上の言葉を言う前に、周りを取り囲んだ足軽に太刀で膾にされた。

 いよいよこの時が来たか。
 足軽の反乱。
 もうこの噂を流せば武蔵から相模、下総の民は大胡へ雪崩をうつ。

 目に前で自分たちのやったことに高揚感と開放感、そして少しばかりの不安を顔色に出しつつ小躍りしている三田の足軽たち、いや民を見つめていた。

 さあ、ここからは素ッ破の役目だ。
 儂らはもっともっと同じことを起こさせるため次の現場を探そう。


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