首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第19章:激戦!【品川包囲戦】

「こんな時のために作っておきました」

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 1556年1月8日寅の刻(午前4時)
 品川湊東側御殿山防壁
 揚羽あげは
(優秀な伊賀者下忍)


 私の背中の上で音もなくもがいていた体が力を失い、手足をだらんと下へ降ろした。
 中に頑丈な縄を仕込んである手ぬぐいを相手の首から外し、手早く人間であったモノを物陰へと運んでいく。

 上野の箕輪衆に埋められていた草2名が煙硝置き場の小屋に入り、火薬に入った樽を2つずつ抱えて出てきた。私は指示された導火線と呼ばれる火縄を手に取り、周りに視線を配りながら後を追った。

 本来ならばここを爆破したいが、火薬の使い方が分からない。

 もし失敗すればこれ以上の潜伏が出来なくなる。
 ここ以外にも多数の火薬蔵があるのだ。
 それにその役目は他の者の役目だ。

 東の防壁を巡回している兵は殺すわけにはいかない。
 ここに細工をしたことがばれては元も子もない。

 巡回の兵の気を引きその間に「火薬を仕掛ける」。

 この2人は1年前から火薬の係となり、それなりに扱いに長けている。
 この壁を作る際、人足に法華宗徒に扮した草を紛れ込ませて夜中にこの四角い焼き物(煉瓦というらしい)を外せるように仕掛けをした。

 その奥に空洞があり、火薬を詰め込めるようになっているという。

「おにいさん。
 ちょっと遊んでおくれ?
 銭おくれよ」

 私は見回りの兵に物陰から小さな声を掛ける。

「ん!? 
 何奴! 
 女子は皆、逃げたはず。
 怪しい奴じゃ」

「そんなこと言わないでよ。
 もう幾人もの大胡の人と遊んでいるよ。
 皆内緒にしてくれた。
 飯も銭もくれたよ」

 見回りの兵は周りを見回し、それから私へ向かって近寄りつつ話しかけてくる。

 もう目が色狂いになっている。

「お、おう。
 幾らじゃ? 
 あまり多くは出せぬぞ」

「いっぱい出さぬというて、前のお客はいっぱい出していたよ。
 色々と。
 フフフ」

 かかった。

 そのまま茂みへと誘い込み、体を重ねつつ眠り薬を嗅がせながら「おとす」
(作者注:柔道の絞め技がかかった)。

 そのまま良い夢を見て、朝が来てもぐっすりと眠っている所を、見つかりどやされるのであろう。

 尤も朝の寒気で冷たくなっていなければだが。

 2人の草は作業を終え、そ知らぬふりをして兵の寝所となっている長屋へ帰って行った。

 私は警戒が薄いであろう
「北側」へと足音を忍ばせて向かう。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 北西側大手門
 冬木梨花
(孤独な品川駐屯兵団副官)


「政綱様。今から気を張りつめていると、これからの踏ん張りどころで集中力が切れてしまいます。少しでも仮眠を取ってください」


 いらいらとした表情で、大手門上の防壁を東西に行きつ戻りつしている政綱様に
 声を掛ける。

 気持ちはわかる。
 初めての大仕事。

 失敗は許されないと思っているのでしょう。
 800人の生死を預かれば……
 いえ、もう578人ですが、20歳はたちになったばかりの者にとっては重責過ぎる。

 馬鹿殿であれば普通に眠っているのでしょうけれど。

「しかし、あの様を見ろよ! 
 間断なく竹束を持ってきては積み重ねていく。これでは朝には竹束の山がそこら中にできて、大筒ですら敗れぬ陣が出来てしまうぞ」

 防壁から外、10間付近に間断なく火矢で明かりを灯しているのだけれど、その近くに暗闇から次から次へと竹束が積み上げられていく。

 これでは政綱様の言う通り、明け方からあると思われる総掛かりで苦戦するのは眼に見えている。


「では、進言いたします。
 私が冬木兵器方長官に願い出て、優秀な技師長に指示して作らせた狙撃用大型弩弓を使用しましょう。1基しかございませんし、そう何度も使用はできませんが、これにて火矢を放ち、あの竹束を燃やす事が出来ましょう」

 義父にはあまり迷惑はかけたくないけれど、申し出たら喜んで願いを聞いてくれた。

「もっと甘えてくれんか? なにか困っていることはないのか。儂も父親らしきことを何かしたいと思うている」
 と言ってくださった。

 だけれども、お名前を頂いただけでも十分に幸せ。あの一族から抜け出せたこと、一生涯感謝したいと思う。
 あの山賊のような国衆の集団、村上一族で異色の者であった父は策を弄する卑怯者として放逐された。

 名誉を挽回するために立て籠った砥石城にて策を用いて武田勢を撃退。
 しかしその際に、流れ矢に当たり絶命してしまった。

 泣き続けている私を矢沢様が上野に連れて来て下さった。
 そしてあの苗字とお別れできた。

 もう信濃へは帰らぬ。
 かかわらない。
 闇夜のような国へ帰ること、考えたくもない。

「あれか。あれなら届くと思うが火矢は使えるのか? 
 相当矢が重くなるだろう」

「はい。射程が短くなりますが火矢に油を仕込ませる程度は出来ます。この季節の乾いた竹ならば燃え上がりましょう。ただし10射以上は厳しいかと。
 素材が持ちません」

 真田の里からついて来たという真田一族の中で手先が器用で工夫が得意な者を技師長として採用して以来、様々な兵器が完成した。

 これもその一つだ。

「火薬は詰められるのか? 敵の目の前で弾けさせれば士気も下がるだろう」

「そこまではまだ。導火線の工夫が出来ていないとのこと」

 この政綱様。
 矢沢様の甥ですが似て非なる方。
 矢沢様よりも勇猛果敢で配下に慕われる才がある。
 あとは柔軟な発想と臨機応変な対応力ですね。
 これは経験を積まないと難しい。

 あとは周りの者の意見をどう聞いて扱うか。
 今は側近が私だけしかいないけれど、これから多くの部下を持つでしょう。
 その時にその人たちを使いこなせるかで、武将としての真価が問われるでしょうね。


「よしっ! 
 その手で行こう。
 竹束を一掃したら寝るとするか。
 冬木殿、助かる。
 これからも助言、頼む」

 ……うまく成長する人なのでしょう。
 幸綱様の御子なのですから。

 その後、弩弓から放たれる火矢にて、全ての竹束の山が燃えて消えていった。


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