首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

文字の大きさ
上 下
173 / 339
第18話:留守を狙われた!

策に溺れちゃうよ~

しおりを挟む

 1556年1月6日
 武蔵国品川北西8町(800m)
 武田別動隊信繁本陣
 武田信繁
(武田副将・品川攻囲戦大将・晴信のデキる弟)


「して、やはり里見は動かぬと?」

「はっ。江戸湾の封鎖はするが退き陣が難しいため、品川南と湊内への上陸は叶わぬと」

 江戸にいる里見義堯殿に3たび使いを送り、海側から上陸して敵守備隊への牽制を要請したが、言を左右にされ使者は追い返された。

 表裏比興の行いをする。
 これで美味しい所だけ持っていくことをすれば、さぞや兄者が怒り狂うであろう。

 最近、兄者は怒りっぽうなってきた。
 大胡に戦わずして負けたからだ。

 孫子の兵法を体現していると自認している兄者にとって、孫子の極意「戦わずして勝つ」に嵌ったのが、余程悔しかったのであろう。

 今回も里見に虚仮にされれば、完全に敵と認識しよう。
 柔軟性に欠けてきた。
 ご自身も苦しいのであろう。
 堺に囚われ戦略の幅が、極度に狭くなったことで苦悩されている様に見える。

「4度目の使者を送れ。此度は文をしたためてもらえ」

 使者を江戸城へ送り返す。
 せめてこのくらいの事をせねば里見に侮られよう。

「里見も虚仮にしおって! 今にその江戸城から、追い出してくれよう!」

 (保科)正俊が吼えている。

 いつもは虎昌と一緒になって吼えまくっているが戦場では慎重、必要な時に勇猛果敢、得難い勇将だ。

「それよりもあの品川の防壁。北西大手門と東の搦め手門だけであるが、見たこともない凹凸のない城壁。あれは危険でありましょう。
 あの上から鉄砲や大筒にて狙われたら、如何様なる仕寄りでも大損害を被りまするな」

 (内藤)昌豊が話を本筋に戻して、重要な点を絞っていく。
 脂ののり切っているよき武将じゃな。

「問題は法華宗徒が高尾の指示にどれだけ従うかでしょう。三ツ者の知らせによれば法華宗徒兵200は、湊の南に備えられている2つの堡塁に100ずつ配備されているとのこと。
 後、未確認ながら50程度が北東部にいるとの情報もある。これらを当てにしての作戦は危険ではありまするが、もしここで動きがあればその後の攻略口を新たに決めねばなりませぬな。
 しかし、その時にすぐ対応するのは時期を失しましょう故、ある程度の決め事は必要かと」

 (馬場)信春。
 たしか40を越したか。

 これからの武田を担うべき武将だな。
 よう作戦を考えおる。

「既に里見のお陰で城攻めを3日も遅らせ申した。これ以上待つは、御屋形様の動きとの連携が崩れまする。里見の助力は期待せず、わが方独力にて我攻め致しましょう。今宵が三ツ者の手によって法華宗徒との繋ぎを持ってくる期限。
 これを見て明日にでも攻めることを進言いたしまする」

 軍師の(山本)勘助が儂に目配せをして決を求める。


「では、明日をもって総がかりとする。主攻正面は東搦め手門。此処を破り、街を分断。その後、大手門を開け放ち主力を突入させる。
 搦め手門は保科殿、仁科殿、市川殿ら1500。
 大手門は内藤殿、馬場殿、小宮山殿ら1500。
 南方への囮部隊は伊賀者に任せる」

 皆が盃を交わし、土器かわらけを地面に叩きつけた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1556年1月6日
 品川湊南堡塁東
 東鬼坊願尤
(法華宗徒僧兵東堡塁頭目)


「で、結局御山みのぶさんは傍観せよと? 
 折角入り込めたんじゃからひと暴れするつもりじゃったが、それは為らぬか」

 相棒の庵甚が愚痴る。
 ここ品川に傭兵として雇われたのは鈴木屋の手配であった。

 飯も酒も食い放題とか魅力的じゃったからもっと集まるかと思いきや、儂らのような半端者しか集まらんかった。

 それはそうよ。
 この品川、いつ攻められるかわからんぞ。
 武田と里見と今川の約定にて自治を勝ち取ったものの、その後大胡が事実上支配することになって、その3大名の怒りを買うのは当たり前よ。

 それで大胡は兵を派遣して大々的な砦
 ……ああもうこれは城じゃな……
 を作り始めた。

 駐屯する兵は800というからすごいものよ。
 それに加えての儂ら法華宗の衆徒で構成される部隊(大胡じゃこう言うらしいの)を作った。しかしそりゃ、儂らの身元が分からんから信用おけねえだろ。
 だから一番敵が来そうにないところ。

 この海に面して建てられた1間程の高さがある2つの矢倉を中心とした堡塁が配置場所じゃ。こちらが内応してへ攻め入ろうとしても、街の中央に総予備の200名が陣取っている。
 一応、ここも重要なんじゃろうが、危険なのは北と東の堡塁と壁に配備されている大胡兵じゃろう。

 ようわからんが元旦の騒ぎに紛れ、身延山からの使いが忍んできて繋ぎを付けてきた。

 それによれば「里見が動かぬ」という。
 よって3日後に逃げるための小舟を寄こすという。

 まあ、どうでもいいけどよ。
 
「3日間、何してるかだな。期待はされておらんじゃろうが、そのうち大胡が援軍を要請してくるんじゃあねえか?
 そんときはどうするよ」

 難しいとこじゃな。
 一応給金は前払いで半額貰っているが、残りの半額を貰いたくとも品川が落ちちまえば貰えない。
 でも、それのために命を懸けるほどの銭じゃねえから、ここはお山のいう事を聞くか??


「一応な、お山の命令は聞くようにするか。じゃが好機があれば、戦う覚悟はしとくのに越したことないじゃろうて」

「好機っていうと、武田を助けて内応か?」

 儂はこうべを横に振り、こう言った。

「そりゃあ、どっちでも有利な方よ。当たり前じゃねぇか。
 その方が褒美を貰い損ねることはないじゃろう?」

 周りにいた仲間も
「そうじゃ、そうじゃ」と、
 同意する。

 まあ、儂たちはこんなもんよ。
 流れの僧兵じゃい。
 文句あっか?


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版

カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。 そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。 勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か? いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。 史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。 運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。 もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。 明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。 結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。 この話はそんな奇妙なコメディである。 設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。 特に序盤は有名武将は登場しません。 不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

処理中です...