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第18話:留守を狙われた!
こんくりいと。使えるの?【大規模防衛戦】
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1555年12月下旬
武蔵国品川
長野業政(大胡副将・憲政という呪いから解放された黄斑)
「ですからここは狭隘地にて、如何に街道とて油断は禁物。この塚森に敵が埋伏して居れば一方的に叩かれまする。故に軽騎兵を2組周囲に放ち……」
周囲で槌音が鳴りやまぬ土木工事現場で、配下の真田政綱殿にその副官である冬木梨花殿が地形図を基に、戦場での立ち回り方について棒で地面に地図を書いて講釈をしている。
この公園出の優秀な女子、役目は済んだとばかりに殿が原殿の騎兵隊から引き抜き、新しく編成された品川守備隊主力中隊の副官としてここに配属されてきた。
齢20にして、ここまで戦場を熟知しているとは恐れ入る。
なぜ其処まで戦を知悉しているか聞いてみたが
「亡き父が、然る大名にて仕えていた折色々と教わりました」
とのこと。
その後、公園に拾われてきたそうな。
色々と訳アリのようじゃが、既に素ッ破が素性を調べているであろう。安心して仕事を任せられる。
「長野様。そろそろ防御設備の巡回の用意が整ってございまする。何時でもお声をお掛け下され」
黒鍬衆を束ねる利根石斎が声を掛けてきた。
大胡が手に入れた領土が広大なため他にも火急に普請をせねばならぬ所があるが、殿が一番重点を置かれているのがここ品川である。
法華宗徒の武装兵が200程度しか集まらなかったため大胡の兵で守備隊を編成、品川の商人たちに雇われた形で守備に就くことになると共に、防塁の建設を始めた。
よって副将である儂の目で出来を確かめに来た。
防御に当たる兵は新たに編成された増強中隊で、練成を兼ねて真田政綱殿に任されている。
軍の人事会議で決められた。
真田幸綱殿がまだ危ういと反対したが、本人の熱意とこの優秀な副官を付けることで渋々同意した。
じゃが殿は、この品川の混成部隊全体を統括するのは難しいと見て、品川守備隊の司令官は、今まで大胡城の城代を務めていた老練の大胡道定殿を当てた。
「道定殿。これはまた堅固な作りに成りつつありまするな。たった8か月でここまで為すとは、真に感嘆いたしまする」
儂は防塁を巡りながら品川司令官の大胡道定殿に、その手際を称える言葉を送った。
「有難き御言葉。感謝いたす。儂の生き甲斐は薬を作り、そして配ることでしてな。その膨大な量を、如何様に手順良く素早く仕上げるかを毎日工夫しておりましての。
それぞれの工程ごとに班を作りその班対抗にて毎日競争しておりまして、その日の酒代を賭けておりまする。故にそれは皆の者、真剣に工夫致しておる故、その手を使い此処の普請も火急に行われているという仕様。
倅の小言から始まった事ではあるが、此処で役に立とうとは。ははは」
道定殿は頭を掻きながら照れ笑いをする。
そういう手があったのか。この年になっても知らぬものが多くあるな。
道定殿も58。
その歳でそのような工夫が出来ようとは、儂も歳の所為にしてはいかぬな。
「この場所は砲台ですがまだ大筒ができておらず、空き地となって居ります。
今、利根川を使って1欣半砲4門が(12ポンド砲。コルベット艦=哨戒艦の主砲程度)こちらへ向かっておるはず。それが設置できれば大分防御力が増しますが、まだ8門しか配備されておりませぬ。一気に輸送できれば良いのですが、何分今は河の水深が浅く」
大筒は重い。
その移動は現在大胡車で行っているが、普通の道ではまだ長距離の行軍に堪えられぬ。
もう少し車軸と軸受けの工夫が必要との事。大胡車に変えて専用の砲車も開発中だという。
尤もここまでの陸路は武田と里見の領地で塞がれている。
里見の動向も怪しいので少数に分け河船を2隻使い、水中に吊るして運ぶのであるが、秋から渇水期に入り、それも厳しくなってきた。
「この防壁が「こんくりいと」と申すものですかな。石垣と違い登るには苦労しそうじゃな。相当多く梯子を用意するしかなさそうじゃ。飛砲では壊せぬであろう」
和田が大胡領になったことにより石炭生産が急激に増えてきている。また秩父が領土になったおかげで肥料になる苦土石灰を含め、石灰が入手しやすくなった。
これにて
「せめんと」が作られ、
それを基にして
「こんくりいと」が
作れるようになった。
此処は川砂利が取れないため、海の砂を使っている。殿の言うにはこの海の塩が、支柱となる鉄棒を錆びさせるという。
此度は1~2年持てばよいとの事。火急普請のため仕方ない。
また改めて作り直すことになる。
「こんくりいと」の防壁は、北西から延びる品川道が町へと繋がっている出入り口を大手門とし、東側海側の開けた箇所に搦め手門に相当する門の左右に作った。
幅にして合わせて、6間(12m)程度であろうか。
品川は三角州の端に位置している為、目黒川さえ渡河不能にすれば半島の様になり、品川の町東にある御殿山の砦跡を中心とした城塞として仕上げることが出来た。
周りは平地にして小さな砦も多いが基本、孤立している。
守備するのは誠に苦労する場所だ。
しかしそれを補うために多数の鉄砲と大筒の火力と「こんくりいと」と煉瓦の壁、そして川を閉鎖している無数の鉄杭と、それを繋げる針金で防御力を上げている。
「この3町四方の町に兵1200は少々多すぎまするな。実際に防がねばならない正面は6町、1間に4人とは真豪勢でござる。それが全て鉄砲隊とは!
攻め寄せる敵が哀れでございましょう」
「ご油断召されるな。ここを攻めるには陸からとは限りませぬ。当たりの舟は全てこちらへ引き上げたが、どこからか集めてきて川の向かい側南の放棄した街より兵を上陸させること必定。そちらの手配は?」
「現在幅4間深さ2間の堀を掘っていますが、これがまた地面が砂で柔らかくあったり、硬くであったりと捗がいきませぬ。
よって堡塁を2か所作り、そこからの射撃で河の真ん中に張った浮きの付いた縄で、そこを越えようとしている敵を撃破する手はずでございます」
ふむ。
万全の防備には、あと半年は掛るか?
そのように思った時、
「申し上げます。出浦様からの伝令にてこの書状が」
受け取った儂は武田との戦の時がいよいよ来たかと思うと共に、殿が不在の今、副将である儂がここにいる不利を悟った。
武田め。
狙いすまして動いたか?
後詰をどこへ送るか誰が決めるのだ?
一応、第3位の序列で幸綱殿に自動的に指揮権は移るであろうが、実際に高等指揮での指揮系統変更はしたことがない。
直ぐに返事を書く。
「真田殿に後詰の指揮を任せる。どこへ兵を派遣するかはお任せいたすとの書状。確実に届けさせよ」
この場にいた素ッ破3名に厳命した。
問題は里見じゃな。あれが同時に攻めて来ると完全に防御できる事能わずという結論が参謀方の評定で出た。
殿はご自分がいらっしゃる事を前提で3種類の作戦案を立てたが、この上洛時を狙った武田・里見連合軍への対応策を立てる事は放棄された。
考えても無駄だと考えたらしい。
だから越後に行くと仰っていた。
「儂らはここで品川を死守じゃ。ここはもう逃げられぬのう。江戸湾は抑えられていると考えたほうが良い。里見の房総水軍は圧倒的だ」
「それはいけませぬ。できうる限りの住民と兵を逃がさねば。殿も死守せよとは申されませなんだ」
お優しい殿の事。
死守はもってのほかというじゃろうが、ここを落とされれば取り返すのは困難の極み。
できることはすべてやらねば。こうなるとあの「こんくり」の防壁、却って邪魔じゃな。もし攻めることになるとえらいことになる。
武蔵国品川
長野業政(大胡副将・憲政という呪いから解放された黄斑)
「ですからここは狭隘地にて、如何に街道とて油断は禁物。この塚森に敵が埋伏して居れば一方的に叩かれまする。故に軽騎兵を2組周囲に放ち……」
周囲で槌音が鳴りやまぬ土木工事現場で、配下の真田政綱殿にその副官である冬木梨花殿が地形図を基に、戦場での立ち回り方について棒で地面に地図を書いて講釈をしている。
この公園出の優秀な女子、役目は済んだとばかりに殿が原殿の騎兵隊から引き抜き、新しく編成された品川守備隊主力中隊の副官としてここに配属されてきた。
齢20にして、ここまで戦場を熟知しているとは恐れ入る。
なぜ其処まで戦を知悉しているか聞いてみたが
「亡き父が、然る大名にて仕えていた折色々と教わりました」
とのこと。
その後、公園に拾われてきたそうな。
色々と訳アリのようじゃが、既に素ッ破が素性を調べているであろう。安心して仕事を任せられる。
「長野様。そろそろ防御設備の巡回の用意が整ってございまする。何時でもお声をお掛け下され」
黒鍬衆を束ねる利根石斎が声を掛けてきた。
大胡が手に入れた領土が広大なため他にも火急に普請をせねばならぬ所があるが、殿が一番重点を置かれているのがここ品川である。
法華宗徒の武装兵が200程度しか集まらなかったため大胡の兵で守備隊を編成、品川の商人たちに雇われた形で守備に就くことになると共に、防塁の建設を始めた。
よって副将である儂の目で出来を確かめに来た。
防御に当たる兵は新たに編成された増強中隊で、練成を兼ねて真田政綱殿に任されている。
軍の人事会議で決められた。
真田幸綱殿がまだ危ういと反対したが、本人の熱意とこの優秀な副官を付けることで渋々同意した。
じゃが殿は、この品川の混成部隊全体を統括するのは難しいと見て、品川守備隊の司令官は、今まで大胡城の城代を務めていた老練の大胡道定殿を当てた。
「道定殿。これはまた堅固な作りに成りつつありまするな。たった8か月でここまで為すとは、真に感嘆いたしまする」
儂は防塁を巡りながら品川司令官の大胡道定殿に、その手際を称える言葉を送った。
「有難き御言葉。感謝いたす。儂の生き甲斐は薬を作り、そして配ることでしてな。その膨大な量を、如何様に手順良く素早く仕上げるかを毎日工夫しておりましての。
それぞれの工程ごとに班を作りその班対抗にて毎日競争しておりまして、その日の酒代を賭けておりまする。故にそれは皆の者、真剣に工夫致しておる故、その手を使い此処の普請も火急に行われているという仕様。
倅の小言から始まった事ではあるが、此処で役に立とうとは。ははは」
道定殿は頭を掻きながら照れ笑いをする。
そういう手があったのか。この年になっても知らぬものが多くあるな。
道定殿も58。
その歳でそのような工夫が出来ようとは、儂も歳の所為にしてはいかぬな。
「この場所は砲台ですがまだ大筒ができておらず、空き地となって居ります。
今、利根川を使って1欣半砲4門が(12ポンド砲。コルベット艦=哨戒艦の主砲程度)こちらへ向かっておるはず。それが設置できれば大分防御力が増しますが、まだ8門しか配備されておりませぬ。一気に輸送できれば良いのですが、何分今は河の水深が浅く」
大筒は重い。
その移動は現在大胡車で行っているが、普通の道ではまだ長距離の行軍に堪えられぬ。
もう少し車軸と軸受けの工夫が必要との事。大胡車に変えて専用の砲車も開発中だという。
尤もここまでの陸路は武田と里見の領地で塞がれている。
里見の動向も怪しいので少数に分け河船を2隻使い、水中に吊るして運ぶのであるが、秋から渇水期に入り、それも厳しくなってきた。
「この防壁が「こんくりいと」と申すものですかな。石垣と違い登るには苦労しそうじゃな。相当多く梯子を用意するしかなさそうじゃ。飛砲では壊せぬであろう」
和田が大胡領になったことにより石炭生産が急激に増えてきている。また秩父が領土になったおかげで肥料になる苦土石灰を含め、石灰が入手しやすくなった。
これにて
「せめんと」が作られ、
それを基にして
「こんくりいと」が
作れるようになった。
此処は川砂利が取れないため、海の砂を使っている。殿の言うにはこの海の塩が、支柱となる鉄棒を錆びさせるという。
此度は1~2年持てばよいとの事。火急普請のため仕方ない。
また改めて作り直すことになる。
「こんくりいと」の防壁は、北西から延びる品川道が町へと繋がっている出入り口を大手門とし、東側海側の開けた箇所に搦め手門に相当する門の左右に作った。
幅にして合わせて、6間(12m)程度であろうか。
品川は三角州の端に位置している為、目黒川さえ渡河不能にすれば半島の様になり、品川の町東にある御殿山の砦跡を中心とした城塞として仕上げることが出来た。
周りは平地にして小さな砦も多いが基本、孤立している。
守備するのは誠に苦労する場所だ。
しかしそれを補うために多数の鉄砲と大筒の火力と「こんくりいと」と煉瓦の壁、そして川を閉鎖している無数の鉄杭と、それを繋げる針金で防御力を上げている。
「この3町四方の町に兵1200は少々多すぎまするな。実際に防がねばならない正面は6町、1間に4人とは真豪勢でござる。それが全て鉄砲隊とは!
攻め寄せる敵が哀れでございましょう」
「ご油断召されるな。ここを攻めるには陸からとは限りませぬ。当たりの舟は全てこちらへ引き上げたが、どこからか集めてきて川の向かい側南の放棄した街より兵を上陸させること必定。そちらの手配は?」
「現在幅4間深さ2間の堀を掘っていますが、これがまた地面が砂で柔らかくあったり、硬くであったりと捗がいきませぬ。
よって堡塁を2か所作り、そこからの射撃で河の真ん中に張った浮きの付いた縄で、そこを越えようとしている敵を撃破する手はずでございます」
ふむ。
万全の防備には、あと半年は掛るか?
そのように思った時、
「申し上げます。出浦様からの伝令にてこの書状が」
受け取った儂は武田との戦の時がいよいよ来たかと思うと共に、殿が不在の今、副将である儂がここにいる不利を悟った。
武田め。
狙いすまして動いたか?
後詰をどこへ送るか誰が決めるのだ?
一応、第3位の序列で幸綱殿に自動的に指揮権は移るであろうが、実際に高等指揮での指揮系統変更はしたことがない。
直ぐに返事を書く。
「真田殿に後詰の指揮を任せる。どこへ兵を派遣するかはお任せいたすとの書状。確実に届けさせよ」
この場にいた素ッ破3名に厳命した。
問題は里見じゃな。あれが同時に攻めて来ると完全に防御できる事能わずという結論が参謀方の評定で出た。
殿はご自分がいらっしゃる事を前提で3種類の作戦案を立てたが、この上洛時を狙った武田・里見連合軍への対応策を立てる事は放棄された。
考えても無駄だと考えたらしい。
だから越後に行くと仰っていた。
「儂らはここで品川を死守じゃ。ここはもう逃げられぬのう。江戸湾は抑えられていると考えたほうが良い。里見の房総水軍は圧倒的だ」
「それはいけませぬ。できうる限りの住民と兵を逃がさねば。殿も死守せよとは申されませなんだ」
お優しい殿の事。
死守はもってのほかというじゃろうが、ここを落とされれば取り返すのは困難の極み。
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