首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第17章:同盟しようよ

ラッキーガールvsラッキーガイ

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 1555年12月下旬
 尾張国津島の町
 長野政影
(政賢の側使え)


 夜になっても喧騒が止まず、色々な店からの明かりと匂いが立ち込める津島の歓楽筋を歩いている。

 同道者は殿と某、上泉殿と石堂殿。

 清州城を後にして、この津島から海路にて品川・江戸湾・利根川を使い那波に戻る予定だ。殿と某は2週間前、猛毒に冒された筈であるが既に体力も戻り、いつもと同じような行動ができる。

 不思議な事だ。

「鉄砲隊諸君は楽しんでいるかなぁ♪」

 関ケ原の退き口では20名の鉄砲名人の奮戦により大垣城からの迎えが来るまで走り通せた。六角の兵が何故美濃の奥深くに押し入ったのかは不明であるが、糸を引いているのは堺であろう。

 いくら仲が悪いとはいえ、それは斉藤道三殿との外交関係。
 一色殿との仲はこれからのはずだ。

 甲賀も30名以上の草を放って各所に伏せていたらしい。鉄砲隊もこれにやられたものが半数に上る。無傷で居られたものは2名のみ。
 再び鉄砲を握れるものはどれだけいようか? 

 手負いを含めて10名が残ったが、実戦に参加できないものは教練所の教官となる予定だ。

「此方の小屋が賭博場にて。まずは掃除をして参ります」

 石堂殿が配下に目配せをして賭博場の内外に不審な者、不審な仕掛けがないことを確認した。

 中木戸を潜り中に入ると、そこには鉄砲隊の敗残兵が壁際に屍をさらしていた。
 どうやら全騎撃破されたらしい。

 彼らの視線が集まる先には、殿と同じ黒で統一されている上着が詰襟段袋、下が胡服の様な動きやすい袴(殿の言葉でズボン)に身を包んだ少女が2人。

 狙撃弓兵の蘭と詩歌だ。
 この2人はまだ生き残っているらしい。

 というか、2人の前には木札が山を作っていた。
 その向こうには、既にさらし一つになっている男が3人、顎から汗を垂らしながらサイコロの行方を追っている。

 小屋の中は冬にもかかわらず、熱気でむんむんしている。
 サイコロが止まり賽の目を呼びあげる胴元の声。

「四六の丁!」

 歓声を上げ片手の拳を勢いよく上げる蘭と、そのお付き合いで軽く腕を上げる詩歌。
 その向こうで上がる野太い悲鳴。
 向こうから全ての木札がザラザラッと音を立てて娘2人の前に押し寄せてくる。

「くぅ。こうなったらとことんやってやるぜ! 
 おい、これ木札に替えてくんな!」

 1人の体躯の良い男が、座っている後ろに置いてあった細長い袋の中から鉄砲を出して胴元に差し出す。

 自分の鉄砲をカタに借りた木札を全て張り、

「最後の勝負だ! 付き合ってもらうぜ!!」

 我を忘れているらしい。侍らしいが、このように頭に血が上るような様では碌な働きは出来まい。
 直ぐに言葉合戦の餌食となろう。

 賽の目は案の定、無情な結果を出し、男は顔を青くして地べたに這いつくばってしまった。

「そこのお侍。いつもそんなについていないのかい?」

 蘭が声を掛ける。

「うるせえ!
 これでもな。博打以外は滅法ついているんだ! 失敗しても必ずそれが良い方に転んでいく。その分博打の時の運が全くないのが確認できた! 
 それが今日の収穫だ!!」

 悔し紛れか、負け犬の遠吠えの様な捨て台詞を残して立ち去ろうとする。

「ねえねえ。そこの30がらみの強面のおにーさん。
 僕と勝負しない? 勝てたら鉄砲買い取って返してあげる。その代わり……」

 殿がその男に声を掛ける。

「君が負けたら鉄砲の業、見せて~」

 男は「本気か?」という顔をしつつも腕をまくるしぐさをしようとして、自分が素っ裸なので袖がないのに気づいてばつの悪そうな顔を一瞬見せたが、その勝負を受ける旨殿に伝えた。

「じゃあ、蘭ちゃん。僕の代わりにやってね。僕、今は運がないかもだから」

 何の気まぐれか殿が仕切った勝負に、この場にいた皆が注目をする。
 某は小さい声で殿に真意を伺った。

「それはね。
 あの男の右頬。是政中隊よりも腫れていない? きっと毎日練習しているよ。相当な鉄砲上手なんでしょうねぇ」
 と、同じく小さな声で教えていただけた。

 成程。
 鉄砲の撃ち手を少しでも確保する事は、今の大胡の最優先事項の一つでもある。
 
「ピンゾロの丁!!」

 非情にも本日は男の張った逆の方に、全ての賽の目が出ているらしい。蛸や烏賊の様に、またもや地べたに平たくなっている。
 最後までついていない男だ。

「まあ自分の鉄砲使わないと本来の技を見られないだろうから、服と一緒に取り返しておくね。それを持って、浜辺で撃ってみよ~♪」

 蘭と詩歌の勝銭の半分は胴元に渡し、皆に一杯奢ってやってと二人に言い残して殿は浜辺に向かった。

「じゃあ、殆ど見えない薄暗い明りの中、30間の距離で鎧櫃よろいびつを打ち抜けるか見せてね。
 たのしみ~」

 これを当てられる大胡の兵は、今左肩を負傷している網走殿くらいだろう。殿は大胡最高の狙撃手を越えられるか試しているのか?
 それは無理というもの。
 そのような人物がそこいらに、ごろごろ転がっている筈が……

 あった。

 ぱああああぁん!!!!

「どうでい!!
 多分真ん中右寄り2寸に命中しているぜ。
 調べてみろよ」

 石堂殿がかぶりを縦に振り、その通りに当たっていると視認したことを殿に伝える。

「すっご~い!!
 おじさん、天才級のスナイパーだねぇ。実は東郷公爵とか言わない?
 8888ぱちぱちぱちぱち!!!!」

「あたりめえじゃねえか。さっきも言ったろう?
 俺はは無敵の運を持っているんだぜ」

 どうだと言わんばかりに、右手でバンッとその胸を叩いた。

「いいねえいいねえ。
 すかうとしちゃおうかなぁ。おじさん、今、ふりー……じゃなかった、どこにも出仕していないの?
 こんなとこで油を売っているってことは」

「それはな。これから織田様に仕官を申し出ようとしたのだが……」
「だが?」

 男はばつが悪そうに答えた。

「服を真面まともな奴に替えようとして……」

「賭博やっちゃったんだ。出来心ってやつね。自分の運が賭博には無いって知っていたのに」

「そうなのだ。もしやうまくいけば? と思ってしまったのが運の尽き」

 確かに運の尽きだ。
 もう織田殿へは仕官できまい。

 大体、厳しい信長殿が博打で大事な鉄砲をってしまうようなこの男を許すことはあるまい。

「困っているのかぁ。じゃあ、僕ん来ない? 結構沢山火薬あるし鉄砲隊もいっぱいいるし、お仲間出来ると思うよ~
 どうどう??」

 殿の小さい体躯とそれに似合わない傾いた衣装とを見比べているのであろう。
 戸惑いの色を見せた。

「お主の名は何と申す?」

 見かねた某が、戸惑っている男の背を押す言葉をかけた。

「うむ。
 儂は甲賀の出で、滝川彦右衛門、字を一益という。
 まあ甲賀はおん出されたんじゃがな」

 甲賀と聞いて石堂殿が身構えるが、男の開けっ広げな様に攻撃の気を収めた。

 殿はと言うと……

「まだまだの効果あるの??
 まさかね~、でもまた「えすえすあーる」引いちゃったよ。もうダイス補正効果ないはずなんだけど。もしや、このおじさんの運?
 まあ、そういうこともあるかも~♪」

 殿は某に向けて「ぴいすさいん」というものを、相好を崩しつつ胸を張って見せつけてきた。

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