首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第17章:同盟しようよ

外交とは外套の下にナイフ

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 1555年12月下旬
 尾張国清州城
 沢彦宗恩
(臨済宗の高僧・織田家の相談役。外交僧としては立派)


「今頃、2人の英傑の会談が最高潮にあるのでしょうな。こちらも話題を本筋へと踏み込みましょうぞ」

 目の前の若い、まだ学徒のようにも見える如何にも切れ者という風体の天台僧侶が切り出した。それでも三十路は過ぎているのであろうか、経験は申し分がなさそうじゃな。それでも儂よりも一回りは若い。
 どのような話をしてくるのか楽しみじゃ。

「妙心寺43世、快川紹喜禅師から南禅寺前の楽市の件。宜しく差配して頂きたいとのことづけ頂いて来申した」

 先に手渡された快川殿からの書状には、大胡主導にて臨済宗総本山南禅寺の門前に大規模な楽市を作るとの事。

 これを成り立たせる為に東国からの荷を長良川を中心とした水運にて、東海道まで流し込むための南禅寺前まで通じる交通路を確保してほしいとの頼み。
 臨済宗派の栄華は乱世になり霧消したが、銭に執着した者が少なくなったことは良い事であろう。

 だが、この世を成り立たせるものが銭である風潮が、徐々にではあるが広まってきていたのは認めねばならぬ。その中にあって、銭の入るあての少ない臨済の伽藍は焼けたまま放置されている。
 出来得れば、これを再建させ臨済義玄師から栄西禅師に伝わる教えを世に広める思いもある。義兄弟である快川殿から頼まれれば否やはない。

「それはお任せいただきたい。上総介様には拙僧から進言させていただく。して、その見返りは?」

「三河・遠江・駿河を差し上げると」

 何を言うておる?

 ……切り取り次第ということか? 
 馬鹿にするにもほどがある。

「と、相手が吃驚びっくりする様に申してから、話を切り出せと我が殿からの指図にて。
 失礼。この様な左中弁様には拙僧、未だなかなか慣れませぬ」

 慣れないか。

 それはお互いさまじゃな。信長様とは長い付き合いじゃが、いつも人を驚かせて喜ぶ癖が抜けない。

 同類じゃやな。
 この二人も長い付き合いになるのか?
 いや、両雄並び立たずであろうか。今は手を組むであろうが、いずれそのうち……

「今川を挟撃するも、大胡は伊豆しか取らぬ、ということであろうか?」

「如何にも。政賢様は何よりも海が欲しいとの事。上野に生まれた者にとって、海には特別な思い入れがござりまする。そこには夢があると」

 そのような幼い夢を公言しても誰も信じぬであろう。が、あの奇天烈な行動をして世間を騒がせている出世頭の言うことじゃ。何か裏があるのであろうが、今はそこまで考える必要はない。

「では、海に出る湊が欲しいと?
 品川ですかな」

「それは何としても確保したいと。そこから海路で畿内までの交通を確保できれば文句はないと。あとは片手間に坂東を平定しようかな、と申しておりました」

 片手間と来たか。
 そして坂東のみで満足するとして、あくまでもその態で天下を望まぬと? それでもその内畿内へ進出するのであろうから、その時目の前に立ちふさがるのは織田家ということになろうな。

「武田と里見はいかがなさるかな? 
 尾張にはそちらへ割ける兵はないが」

「いえ。それはいり要り申さぬ。必要なのは、同時に戦を起こす事。
 武田と今川、双方同時に戦となればお互いに援軍は出せず正面からぶつかれまする。今ならば、鉄砲の有利さに物を言わせられるかと」

 織田はまだ尾張を統一したばかり。
 大胡も50万石に増えてから1年しかたたぬであろう。
 軍備が整わぬ。兵の数は増やせても装備と訓練が追い付かぬ。

 今、仮に戦になったら、例えば大胡が武田と里見・長尾に攻められることになった時、織田は今川を敵に回して戦いを始められるか?

 無理であろう。
 そう言おうとした。

「これはまだ内密でお願いしたい。大胡は既に越後の長尾家と同盟を結んで居り申す。故に武田が里見と組んで大胡を攻撃すれば、北部信濃に越後の兵がなだれ込みまする」

 素早い。

 どのように口説いたかわからぬが、あの偏屈で通っている義の好きな御仁を動かすとは。これで堺がいなければ、大胡の大勝利間違いなしじゃな。
 ここは織田の方針「堺方に寝返る」こと、まだ時が来ていないのか?
 それとも今を置いて他日はないのか?

 判断に迷う所。

 大分材料は出尽くしたから、大胡殿がいる間に上総介様には決断してもらわねば。
 同盟してからでは名声に傷がつく。

「して、禅師から見て、信長様はどの程度の器でござろうか?」

 これはまた難しい問いをするものよ。

「主を値踏みするのは不敬ではあるが、その器、少なくとも鎌倉殿(源頼朝)程はありましょうか。
 左中弁様は如何ほどにて?」

 目の前の怜悧な外交僧は真面目な顔をして言いおった。

「政賢様は有史以来、比較できる者は見当たりませぬな。若輩者ながら拙僧はそう見ており申す」

 その言、取るに値せぬ内容であったが、この怜悧な知性溢れんばかりの僧侶を完全に掌中に入れるだけの実力があるのだけは分かった。

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