首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第17章:同盟しようよ

傾奇き比べから始まる友情【信長登場!】

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 1555年12月下旬
 尾張国清州城
 織田信長(言わずと知れた‥‥)


 ……負けたわ。

 手紙を通しての4年越しの付き合いのある、
 大胡左中弁。

 いよいよ相対しての会談となるに及び、
「余興として傾いた装束にて」
 会談する事を大胡殿が提案してきた。

 俺も興に乗り「応」と返事をし、丸3日も掛け、以前の傾いた装束を上回る物を纏って今、この場にいる。

 しかし、大胡殿の出立は……

 茶筅髷の先端に緑色に染めた毛を繋ぎ合わせたのか? 
 後ろへ女子の髪の長さ位に伸ばし、地の髪も青緑に染めている。所々髪色が、薄くなったり濃くなっている。

 黒地の上着は、筒のような袖の所々に黄金に輝く丸い留め具か?を並べて縫い付けた上着に、毛皮で裏打ちされた陣羽織を羽織る。
 それにも絵がついており、裏地に唐獅子が描かれている。

 下は胡服か? 
 動きやすそうな黒地の袴に、様々な色に染め上げた布で脛の下半分を覆う履物を彩っている。
 陣羽織も絹織物か? 
 膝まである丈長のもので、小さな切れ端を繋ぎ合わせて、一つの模様をなしている。

 極めつけは肩の部分。
 陣羽織に付属するものなのか? 
 黒い厚手のなめし皮を横5寸程度に反らして取り付け、更にその所々に黒い棘を生やしている。左の肩は赤く塗られている。

「これ、官軍の軍服とやんちゃな学生服が基本モデルなんだけど、量産しようにもミシンが無いから出来にゃいんだ。
 だから少数の特殊部隊だけ使う予定~
 肩パットは余興♪」

 全く見たこともない珍妙なる出で立ち!
 誠に天晴れ。
 であると共に、悔しいわ!!
 再戦を約束して、席に着いた。
 
 「では、義親父道三殿を見殺しにせよということか?」

 傾き対決は余興。
 贈答品や交易の礼などもそこそこに切り出す。
 此度は、美濃との同盟関係に口を出して来おった。

「まずは、尾張平定、おめでとうござりまする。今は亡き弾正忠様もお喜びのことと思いまする」

 親父殿の病を得ながらも、曲がりなりにも尾張の安定を保つことが出来たのは、大胡殿が差し向けてくれた甲斐の名医、永田徳本のお陰だ。

 それで稼いだ時間を、弟信勝を担いで反乱を企てる今川に操られた者、そして清州の守護代家(織田信友)共々纏めて蜂起させ、先年安食あじきの戦いで鉄砲の的にしてやった。

 それを救援に来た今川の軍勢も、急いで取って返した先の知多村木砦にて同じく撃破、撃退した。これにより尾張には、俺に明確な敵対勢力はなくなった。

「鉄砲はよい」

 全ては鉄砲のお陰ともいってよい。
 500丁の鉄砲を3年余りの間訓練させ、大胡の「鉄砲操典」を参考に三段撃ちや撃ち手と装填手の組み合わせでの鶴瓶撃ち、そして早合による射撃を出来るようになった。

 その維持費で総兵力は制限せざるを得なかったが、それを逆手にとって兵数で有利と侮る敵を散々に討ち減らすことが出来た。
 後から聞けば、上野那波と桃ノ木川ではこの様な戦をもっと大々的にやったと聞き、大勝に浮かれていた己に赤面した。

 しかし今はこれでよいのだ。
 要するに、よい所は真似し、さらにそれを改良する。それが出来るものが生き残るまでよ。

「大筒もよいですよ」

 政賢殿は「にへら」と笑いながら、
「欲しいなら売りますぜ」
 と言いそうな物言いで水を向けてくる。

 だがこれ以上煙硝を買い付ける余裕はない。
 丁重に断る。

「ところでのぶちゃんさぁ。これから何処が一番の仮想敵国?
 東の今川? 
 北の斎藤? 
 一色? 
 西の本願寺?
 北畠?
 結局、多正面作戦は出来ないから、敵は絞らないと」

 大胡殿は……
 いや、「松でいいよ~」と言うておったが、まだ慣れぬ故、「松風」と呼ぶことにした。すると言動を素にするといい、今の童の様な態になった。
 軽い奴じゃ、と思うたが俺は固いのは大の嫌いじゃ。
 案外、此奴とは馬が合うやもしれぬな。

「松風。そういうお主は誰が主敵なのじゃ?」

 大胡の周りには大大名が多い。
 北条は今川に吸収されたが、武田・里見・長尾という大胡と同等以上の石高を持つ大名に囲まれている。石高だけではないのは承知。だが、その動員力は侮れない。

「ん? 僕の敵?
 それは勿論! 
 さ・か・い!!
 此奴こいつらだけはお尻ぺんぺんしないと、政賢の野望は達成できないのさ~♪」

 松風との手紙のやり取りで恐れ入ったのは、高々10万石の大名のうちから「天下一統をするよ~」とか言い放ち、今では関東管領を追い出して50万石以上の大大名となった。これほど痛快な者はいないであろう。

 だがこれも俺が「真似る」。
 寧ろ俺の方が今度は先を行ける位置にいる。大胡は畿内から「遠すぎる」。
 天下を一統するには、京を抑えることが必須である。

 しかし松風は武田を潰し、美濃の一色を蹴散らし、近江の六角を踏みつぶし、そして三好を畿内から追い出す事をしなければ、天下には指先すら掛けられぬ。
 今はこの者を見習い、利用するに如かず。

「堺が敵か。武田の後ろにいるな、彼奴等。長尾は知らぬが、里見はそろそろ手が伸びる事だろう。今川も自分から擦り寄って行ったわ」

「そりゃあれだけ鉄砲でコテンパンにやられれば、それに対抗したくもなるっしょ。
 でも武田の手前、大胡からは買い付けできない。そうなれば堺しかないからね~。
 国友も堺へ流通するから、大胡うち以外から鉄砲を仕入れるとすれば、ほぼ堺から買うしかないのが現状~」

 俺は頷きながら、季節外れではあるが松風の持ってきた柚子の汁を蜂蜜で味付けした飲み物をひと口、口に含む。
 普通はこれに香りの薄い焼酎を少々混ぜて飲むそうだが、俺も松風も下戸だ。

 これがよい。

「鉄砲があっても煙硝、硝石がなければ意味がないではないか」

「そうそれ。それで堺は鉄砲売った連中から銭を回収しているんだけど……」

「お主がそいつ等の巾着を切り裂き、堺のお荷物になっているな」

 俺の所にも例の危険な債券が回ってきていたが、その後に津島の大橋と土田を通じてその債券に保険をかけた。
 それが回りまわって西国の商人の首を絞めることになった。
 とんだ戦を仕掛けたものよ。

 こそこそと松風に敵対する武田と長尾に支援して暗躍するから、100倍以上に返されて逆恨み(?)しておる。

 松風の言うには、西国の商人は永楽銭だけではなく硝石まで明の密輸商人や南蛮人から買っているという。その莫大な利益を今、対大胡戦争につぎ込みだしたと報告が来ている。

「それで、関ケ原で六角の馬鹿息子に襲われちゃったわけよ。
 危うく死ぬとこでした~、あは」

「そう簡単には死なぬような面をしているの」
 
 六角の馬鹿息子。

 先代の定頼殿と違い家臣をまとめるほどの器量がないとも聞く。
 あるのは得意の弓裁きの腕だけ、とのもっぱらの噂。
 関ケ原から大垣城までの2里、20名の鉄砲名手を使い難を逃れたというが、その鉄砲使いの半数を失ったという。

 兵300と甲賀相手でよく逃げおおせたものよ。
 やはり鉄砲はこれからの戦を支配する。

「じゃあ、話を元に戻すね。
 大胡は堺が裏にいる全ての勢力が敵対関係になるので、この辺りじゃ六角と武田、一向宗の願正寺。それと今川。
 こんな所が敵になります。
 だからのぶちゃんの主敵がこの辺りと被れば、同盟なんか結んじゃってもいいかなぁなんて。その時問題となるのが、斎藤の爺様なんですよね。
 のぶちゃんの義父でしょ?
 のぶちゃんって案外、身内に甘々……げふんげふん、暖かい人だから濃姫さん?  
 奥さん悲しませたくないと思ってね。
 だから『助けるふり』をして、それで諦めれば? 大体あんな奥地の大桑城とか稲葉山城とかまで戦線を伸ばせるの? 輜重が持たないでしょ?
 だから一応ね、うちの外交僧がのぶちゃんの義父さんを説得して尾張に来てもらおうとしたけど、頑固ですねぇあの人。
 空振っちゃった」

 先ほど挨拶をした智円と申したか。面の皮の厚そうな、よい外交坊主だな。

 ……俺とて、義理は果たしたいが現実的にもう遅いとみている。

 義父殿を担いで美濃を我が手中に、と思うていたが既に美濃の国衆の心は義父殿から離れ義龍に向いている。せめて帰蝶のために出陣、とも考えて居ったから渡りに船であろう。

 今暫し、我慢じゃ。
 じゃが、あとで必ずや美濃は切り取る。それが義父殿への手向けじゃ。

「是非もなし。5年でよいのだな。一色義龍との不可侵の約定。
 当たり前じゃが、義父殿が討ち死にして直ぐ正式にはまずいぞ。
 密約にしてくれ」

「りょ~か~い。既にそういうことで義龍君と話付けてきたよん。でね、これからが本筋!」

 大胡と織田の同盟か。

 織田の行く末を左右する重要な岐路じゃな。
 俺は残りの果実汁をゴクリと飲み干した。

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