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第16章:黒幕は堺!
ワレ奇襲ニセイコウセリ
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1555年11月下旬
近江国関ケ原不破の関跡
神屋紹策
(博多の大商人・銀山掘って荒稼ぎ)
「神屋さん。会談はうまくいきましたな。元々、合意はできませんよ。
あの蔵田屋さんの顔を見ましたか? 既にあきんどの顔ではないですな。
あきんどは儲けてなんぼ。大胡様に毒気を抜かれたというか、踊らされ己の本分を履き違えておられる。
お人よしにはその身代、大きすぎますな。削って差し上げましょう。
……ところで、神屋さんはあの御仁、大胡政賢という御方、如何見ました?」
宗久さんの言うことは納得がいくが、大胡様の見識は私の心を抉った。
海の向こうで何が起きているのか?
それを知りたくなった。
今の交易の範囲では見えてこない商いの真の姿。これを確とした視点で観る人物。私は自分の小ささに赤面しそうになると共に、大胡様に強烈に引かれる物を感じた。
が、ここでそれを明かすには神屋の立ち位置が許さない。
「そうですね。銭の力をお大名にしてはよくご存じの珍しいお方。
ですが、この大勢を引っ繰り返すだけの方策を持っているのかわかりません。武力や権力などの力技でひっくり返せると思うているのでしたら、とんだ紛い物ですな」
適当に答えておいた。
すると、宗久さんはフフンと鼻を鳴らし、恐るべきことを言った。
「大胡殿も今頃、何処かの手の者に周りを囲まれ、首を上げられているかもしれませぬな。はははは」
なんと。刺客を雇ったのか?
そこまでする必要はあるのか?
銭の力で何とかするのが商人ではないのか?
それにこの場所にて襲うとなれば、我らが疑われまいか?
そう疑問を投げると、宗久さんはこう言った。
「なに。すぐそこのおバカなお大名が怒って甲賀を動かしただけですよ。三好などと手を組むからこうなるのです」
三好様と仲の悪い六角様か?
私も汚いことをいろいろとやってきたが、ここまで直接的な攻撃はしたことがない。
納屋さんとは距離を置こう。こちらが何をされるかわからない。また逆に大胡殿からの仕返しが怖い。
その時、納屋さんの手代が近づいてきた。
「旦那様。犬が一匹、こちらへ近づいてきます。なにやら首に巻物の様なものをつけておりまする」
その犬は一行の前に止まり、腰を下ろし大人しく座っていた。
恐る恐る手代が首輪を外し、そこに吊るしてあった竹筒の中から文を取り出し宗久さんに手渡した。
「大胡様からの文ですな。なになに?
『此度は立派なご挨拶、痛み入ります。とっても素敵なお客さんが来たようで、取り合えずお礼の先渡しを致しますので宜しくご査収ください。なおこの手紙を読んでいる者は自動的に大怪我する……』。
なんだ、これは??」
宗久さんが読み終え、その文を持った手を下ろした途端、今まで大人しく座っていた黒犬が、宗久さんへ向けて飛び掛かった。
そして文を持っていた左腕に噛みついた!!
噛みついたのは一瞬であったが、宗久さんの悲鳴は関ケ原の隅々まで聞こえたに違いない。
これが大胡の戦犬か?
転げまわる宗久さんから思わず後退り、後にしてきた会談場所付近にいるであろう大胡殿の笑い転げている姿が頭を過り、恐怖の色で染まっている筈の己が眼で見やった。
近江国関ケ原不破の関跡
神屋紹策
(博多の大商人・銀山掘って荒稼ぎ)
「神屋さん。会談はうまくいきましたな。元々、合意はできませんよ。
あの蔵田屋さんの顔を見ましたか? 既にあきんどの顔ではないですな。
あきんどは儲けてなんぼ。大胡様に毒気を抜かれたというか、踊らされ己の本分を履き違えておられる。
お人よしにはその身代、大きすぎますな。削って差し上げましょう。
……ところで、神屋さんはあの御仁、大胡政賢という御方、如何見ました?」
宗久さんの言うことは納得がいくが、大胡様の見識は私の心を抉った。
海の向こうで何が起きているのか?
それを知りたくなった。
今の交易の範囲では見えてこない商いの真の姿。これを確とした視点で観る人物。私は自分の小ささに赤面しそうになると共に、大胡様に強烈に引かれる物を感じた。
が、ここでそれを明かすには神屋の立ち位置が許さない。
「そうですね。銭の力をお大名にしてはよくご存じの珍しいお方。
ですが、この大勢を引っ繰り返すだけの方策を持っているのかわかりません。武力や権力などの力技でひっくり返せると思うているのでしたら、とんだ紛い物ですな」
適当に答えておいた。
すると、宗久さんはフフンと鼻を鳴らし、恐るべきことを言った。
「大胡殿も今頃、何処かの手の者に周りを囲まれ、首を上げられているかもしれませぬな。はははは」
なんと。刺客を雇ったのか?
そこまでする必要はあるのか?
銭の力で何とかするのが商人ではないのか?
それにこの場所にて襲うとなれば、我らが疑われまいか?
そう疑問を投げると、宗久さんはこう言った。
「なに。すぐそこのおバカなお大名が怒って甲賀を動かしただけですよ。三好などと手を組むからこうなるのです」
三好様と仲の悪い六角様か?
私も汚いことをいろいろとやってきたが、ここまで直接的な攻撃はしたことがない。
納屋さんとは距離を置こう。こちらが何をされるかわからない。また逆に大胡殿からの仕返しが怖い。
その時、納屋さんの手代が近づいてきた。
「旦那様。犬が一匹、こちらへ近づいてきます。なにやら首に巻物の様なものをつけておりまする」
その犬は一行の前に止まり、腰を下ろし大人しく座っていた。
恐る恐る手代が首輪を外し、そこに吊るしてあった竹筒の中から文を取り出し宗久さんに手渡した。
「大胡様からの文ですな。なになに?
『此度は立派なご挨拶、痛み入ります。とっても素敵なお客さんが来たようで、取り合えずお礼の先渡しを致しますので宜しくご査収ください。なおこの手紙を読んでいる者は自動的に大怪我する……』。
なんだ、これは??」
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そして文を持っていた左腕に噛みついた!!
噛みついたのは一瞬であったが、宗久さんの悲鳴は関ケ原の隅々まで聞こえたに違いない。
これが大胡の戦犬か?
転げまわる宗久さんから思わず後退り、後にしてきた会談場所付近にいるであろう大胡殿の笑い転げている姿が頭を過り、恐怖の色で染まっている筈の己が眼で見やった。
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