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第15章:修学旅行の気分?で上洛
実質的な天下人は欲がない
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1555年11月中旬
摂津国芥川山城
三好長慶(事実上の天下人)
この男か。
北条氏康を敗死させた、いや首を獲った者は。最近では京雀が「首取り大胡」と呼んでいるそうだ。
化け物のような大男の武将と、塚原卜伝に次の剣聖と称えられている剣豪武将の上泉信綱、さらにはあの有名な鬼美濃・原虎胤まで配下に持つという。
しかも鉄砲を大量に使い、大筒を使用して城に寄せてくる1万の敵を薙ぎ払ったという。
坂東に人を入れたが、
「そのような恐ろしいことはなかった」
「すごい雷鳴と共に人が一瞬で万の兵が千切れでいた」
などと、真逆の噂が流れ交っていた。
事実として言えることは、大胡が川越城以北を領有する事となり、石高にして50万石を超える大大名となり、坂東の勢力図が全く変わってしまったこと。
これは大きい。
遠く離れていても日ノ本は地続き。京との間にいる武田今川は後背を脅かされ、上洛は容易ではなくなった。
三好に取り好都合である。
その渦を巻き起こした者が目の前に座っている。
信じられぬことではあるが、兵や住民に対しては気さくを通り越した態度で接する様、「まるで童の如く奇矯な」御仁とも聞く。
はて、どれがこの者の本性であるか?
本日はそれを伺い知る事も楽しみのひとつじゃ。
「ようこそ我が城へお越しくださった。
左中弁殿。歓待いたしますぞ」
筑前守であるこの儂よりも官位が高いとは、相当帝に気に入られたと見える。
「今を時めく三好様にお呼び頂き恐悦至極。
今宵お伺いすること、何よりも楽しみにしておりました」
「それは有難し。
此度の上洛は帝への拝謁と将軍家へのご挨拶ですかな? つい先ほどまで朽木に居らしたとか聞き及んでおりますが」
少し厭味ったらしく言ってみたが、柳に風と受け流している。
どうせあの兵法好きの公方に上泉の剣でも見せてきたのだろう。
「此度は将軍家にお願いがあって朽木へ行って参りました」
「ほほう。それはお伺いしても?」
左中弁は太政官の行政を取る者。
今では単なる飾りじゃが、武官とは別の事をしに来たか?
「はい。我が大胡家が代々お世話になっており申した山内上杉家の当主上杉憲当様が出家なさり、関東管領の職が宙に浮きました。これを是非にも長尾景虎殿にとのお願いにて」
なんと。
自分で欲するのではなく、隣の有力大名に就任してほしいと。欲がないのか、はたまた深慮遠謀か。
その説明を聞き終えたが……
多分、是には裏があろう。
まだわからぬが、相当腹黒いと見た。
「そしてもう一つ。京に市を立てる故、その保護をお願いいたしてきました」
話を聞いてみたが、それがどうして堺の商人への出城になると?
不審に思っている儂に先手を取るように先をつづけた。
「出城を敢えて攻めさせまする。それを大義名分として開戦できると思い申した。
そこで……」
小男は儂を絡めとるような視線を向けてきた。
「それを支持する西国商人側に立つ勢力を炙り出し、それを成敗する切っ掛けに成るかと。その成敗は某である必要は御座らぬ」
ほほう。
そう来たか。
儂に細川を叩けと。
そのために既に公方を抑えたか。潜在的な敵、つまり公方を支持する諸勢力のみを叩けると。公方の動きを期待して起った者の梯子を外す餌としたか。
しかし、それを三好にさせるということは、この畿内が如何になることがこの者の望みか? 最低限、畿内が混乱しておれば坂東と東海は中央からの支援は受けにくい。
そこを叩くのか?
「左中弁殿は三好の手助けをしていただけると?? それは有難きお気持ち、感謝いたしまする。が、辞退させていただきまする。某は人に踊らされることに慣れておりませぬ故」
威を張り、小男のこちらを縛り付ける風の視線を、儂の視線で切り裂くような気を放った。
「はは。これは失礼致した。某に他意は御座らぬ。
わが大胡は例え天下の、いや唐天竺の南蛮の兵が押し寄せてもそれを叩き、己が道を征き申す。
この道中、滅ぶまで止めませぬ。これは大胡領民、全ての総意でござる」
これは……狂うておるのか?
戦勝続きで舞い上がっているのか?
しかしこの目は冷静そのもの。
じゃがこの畿内をほぼ手中に収めている儂を見る目、その突き刺すような視線を儂が宣戦布告と受け止め、
追討を‥‥
成程。
狙いはどちらかというと、儂を追討させることか?
西国商人共と敵対させ両者を疲弊、己が敵を弱める。
こ奴、とんだ策士だわ。
それならば……
「これは御見それし申した。左中弁殿は恐れ知らず、噂に違わない剛の者と納得致し申した。然らば、この三好に何をお望みか?
その市とやらを守ればよいのでありましょうか?」
儂は水を向けた。
ここからはどれだけ相手から条件を引き出す戦となろう。
「話は聞いていただけるのでござるな。
有難し。
大胡の求めるものはただ一つ。大胡より幾度か荷物を運び入れる道を手配していただくことでござる。その後は如何様な態度でも構いませぬ。出来得れば、敵対はしてもらいたくは御座りませぬが」
……それだけなのか?
いったい何を考えておる?
外交には自信があるが、
全く見当がつかぬ。
改めてこの小男の目を見る。
そこには満足であるとの光を見て取れた。
摂津国芥川山城
三好長慶(事実上の天下人)
この男か。
北条氏康を敗死させた、いや首を獲った者は。最近では京雀が「首取り大胡」と呼んでいるそうだ。
化け物のような大男の武将と、塚原卜伝に次の剣聖と称えられている剣豪武将の上泉信綱、さらにはあの有名な鬼美濃・原虎胤まで配下に持つという。
しかも鉄砲を大量に使い、大筒を使用して城に寄せてくる1万の敵を薙ぎ払ったという。
坂東に人を入れたが、
「そのような恐ろしいことはなかった」
「すごい雷鳴と共に人が一瞬で万の兵が千切れでいた」
などと、真逆の噂が流れ交っていた。
事実として言えることは、大胡が川越城以北を領有する事となり、石高にして50万石を超える大大名となり、坂東の勢力図が全く変わってしまったこと。
これは大きい。
遠く離れていても日ノ本は地続き。京との間にいる武田今川は後背を脅かされ、上洛は容易ではなくなった。
三好に取り好都合である。
その渦を巻き起こした者が目の前に座っている。
信じられぬことではあるが、兵や住民に対しては気さくを通り越した態度で接する様、「まるで童の如く奇矯な」御仁とも聞く。
はて、どれがこの者の本性であるか?
本日はそれを伺い知る事も楽しみのひとつじゃ。
「ようこそ我が城へお越しくださった。
左中弁殿。歓待いたしますぞ」
筑前守であるこの儂よりも官位が高いとは、相当帝に気に入られたと見える。
「今を時めく三好様にお呼び頂き恐悦至極。
今宵お伺いすること、何よりも楽しみにしておりました」
「それは有難し。
此度の上洛は帝への拝謁と将軍家へのご挨拶ですかな? つい先ほどまで朽木に居らしたとか聞き及んでおりますが」
少し厭味ったらしく言ってみたが、柳に風と受け流している。
どうせあの兵法好きの公方に上泉の剣でも見せてきたのだろう。
「此度は将軍家にお願いがあって朽木へ行って参りました」
「ほほう。それはお伺いしても?」
左中弁は太政官の行政を取る者。
今では単なる飾りじゃが、武官とは別の事をしに来たか?
「はい。我が大胡家が代々お世話になっており申した山内上杉家の当主上杉憲当様が出家なさり、関東管領の職が宙に浮きました。これを是非にも長尾景虎殿にとのお願いにて」
なんと。
自分で欲するのではなく、隣の有力大名に就任してほしいと。欲がないのか、はたまた深慮遠謀か。
その説明を聞き終えたが……
多分、是には裏があろう。
まだわからぬが、相当腹黒いと見た。
「そしてもう一つ。京に市を立てる故、その保護をお願いいたしてきました」
話を聞いてみたが、それがどうして堺の商人への出城になると?
不審に思っている儂に先手を取るように先をつづけた。
「出城を敢えて攻めさせまする。それを大義名分として開戦できると思い申した。
そこで……」
小男は儂を絡めとるような視線を向けてきた。
「それを支持する西国商人側に立つ勢力を炙り出し、それを成敗する切っ掛けに成るかと。その成敗は某である必要は御座らぬ」
ほほう。
そう来たか。
儂に細川を叩けと。
そのために既に公方を抑えたか。潜在的な敵、つまり公方を支持する諸勢力のみを叩けると。公方の動きを期待して起った者の梯子を外す餌としたか。
しかし、それを三好にさせるということは、この畿内が如何になることがこの者の望みか? 最低限、畿内が混乱しておれば坂東と東海は中央からの支援は受けにくい。
そこを叩くのか?
「左中弁殿は三好の手助けをしていただけると?? それは有難きお気持ち、感謝いたしまする。が、辞退させていただきまする。某は人に踊らされることに慣れておりませぬ故」
威を張り、小男のこちらを縛り付ける風の視線を、儂の視線で切り裂くような気を放った。
「はは。これは失礼致した。某に他意は御座らぬ。
わが大胡は例え天下の、いや唐天竺の南蛮の兵が押し寄せてもそれを叩き、己が道を征き申す。
この道中、滅ぶまで止めませぬ。これは大胡領民、全ての総意でござる」
これは……狂うておるのか?
戦勝続きで舞い上がっているのか?
しかしこの目は冷静そのもの。
じゃがこの畿内をほぼ手中に収めている儂を見る目、その突き刺すような視線を儂が宣戦布告と受け止め、
追討を‥‥
成程。
狙いはどちらかというと、儂を追討させることか?
西国商人共と敵対させ両者を疲弊、己が敵を弱める。
こ奴、とんだ策士だわ。
それならば……
「これは御見それし申した。左中弁殿は恐れ知らず、噂に違わない剛の者と納得致し申した。然らば、この三好に何をお望みか?
その市とやらを守ればよいのでありましょうか?」
儂は水を向けた。
ここからはどれだけ相手から条件を引き出す戦となろう。
「話は聞いていただけるのでござるな。
有難し。
大胡の求めるものはただ一つ。大胡より幾度か荷物を運び入れる道を手配していただくことでござる。その後は如何様な態度でも構いませぬ。出来得れば、敵対はしてもらいたくは御座りませぬが」
……それだけなのか?
いったい何を考えておる?
外交には自信があるが、
全く見当がつかぬ。
改めてこの小男の目を見る。
そこには満足であるとの光を見て取れた。
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