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第15章:修学旅行の気分?で上洛
朽木谷で決闘
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1555年11月中旬
近江国朽木谷
長野政影
(政賢の側使え。結構剣の達人)
「そこまで!」
伊勢守殿の竹刀が一瞬早く小手に決まる。相対していた将軍家兵法指南役、吉岡直光殿は竹刀を地に落とし、悔しそうに右腕を抑えている。
「上泉殿、天晴である。流石は剣聖と謳われる塚原卜伝に次の剣聖と称えられた者じゃ。見事、直光の小太刀を見切った。儂等何度試合うても、いなされて懐に入られてしまう」
将軍、足利義輝が床几に腰を下ろし、手を叩いて嬉しそうに試合を終わった二人に声を掛けた。
「恐れながら申し上げます。吉岡殿の小太刀、此度は某が用意した袋竹刀を使っていただきました故、慣れの分某が有利であったまでにて。それを勘案すれば真剣ならば相打ちかと思いまする」
伊勢守殿は尤もらしく謙遜をするが、普通に使いそうな木剣と同じ重さ均一な釣り合いに仕上げられている。
しかも吉岡流は小太刀を主に使う。
殆ど不利は感じぬであろう。
だが、ここで敵を作っても面白くない。
弟子であり親衛隊の隊長を務める宮川殿が直光殿に、大胡の特産である打ち身薬『大胡散薬』の入った袋を頭を下げて手渡している。
「公方様。今一度試合わせて頂けませぬか? 次は弟子同士にて。太刀筋を見極めさせて頂きたく」
「直光、控えよ!」
非常識な申し出に、義輝様が窘めたが、
「此方こそ今一度小太刀の妙技を傍から見とうござりまする。
某からもお願い申し上げまする」
伊勢守殿は申し出に快く答える。義輝様は念を押すように吉岡殿を諫めた。
「上泉殿がこう申して居る。努々恨むなどあってはならぬぞ。もし弟子も負けたとしても其方の名声には傷をつけさせぬ。ここは人払いしてある故。
のう、大胡殿」
将軍足利義輝の斜め前に腰かけている政賢様に声をかけている。
義輝様は隣に床几を用意してくださられたが、将軍家の隣など滅相もないと殿は下座の端の方に床几を移動していた。
他の観覧者は居らぬにもかかわらず、その行いを見て「隙が無いわ。大したものよ」と小声で殿の外交の一端を褒めておられた。
結局、罠であったか。
「然らば……、武蔵、いつも練っているあの剣を見せよ」
伊勢守殿は、宮川殿に「あれ」を見せよと指示をした。
「お師匠、まだあれは完成しておらず、しかも戦場用に練成しておりまする。
とても今回のような試合では……」
「なんのことじゃ? その剣、見とうなったぞ。
見せて貰おうか、大胡家の新型剣術の威力とやらを。
勝負は気にするな。上泉殿がそこまで申すのじゃ。珍しいものであろうの?」
あれよあれよと言う間に事が運んでしまい宮川殿は逃げ場を失い、
ままよ!!
との様子にて同期の者が運んできた竹刀を手にし、試合の行われる庭の中央に進み出た。そして公方様への礼に続き、既に用意を終え待っている吉岡流の高弟へ向かって一礼し、手に持つ「2本の竹刀」を構えた。
右手に小太刀を模した短い竹刀。
左手には普通の長さの竹刀を持つ。
右手は前に突き出し相手に切っ先を向けている。
左手は上段に振り上げ威嚇する。
初見では、多分右の小手を狙われるであろう構えだ。
宮川殿は色々な構えを研究しているが、現在はこの型を個人戦での基本としているのであろう。
「ほほう。これは二刀使いか、初めて見る。
聞いたことはあるが、大した使い手がいないと。上泉殿の弟子なれば、相当な使い手であろう。見ものじゃの」
「ご関心召されて何より。勝ち負けではなく、そのことが何より嬉しく思いまする」
殿が御愛想をつく姿は何とも珍しいというか意外だ。常に如何様なる相手に対しても、堂々と渡り合ってきた。例え相手が将軍家であろうとも、この様な低姿勢、思いもよらなんだ。
だからあれだけ嫌がっていたのか。
結局、こうで在らねば世間を敵に回す。まだまだ、その様な時世だと仰っていた。
両者、気合のぶつけ合いから始まった。
2間の距離を挟み火花が散る。
細かい砂利が撒かれた平たい庭を滑るように両者が近づき、間合いが1間を過ぎた途端に素早い動きとなり、両者踏み込む。
一瞬で勝負が決まった。
吉岡殿の高弟は小太刀で右小手を取ると見せかけ、一端引こうとした。宮川殿の間合いを知りたかったのであろうか。
左手の上段に振り上げた竹刀を受けるか流すかをしない限り勝てない。 よって中途半端な踏み込みで終わった。
しかし宮川殿は、右手首を返すことで小手を難なく防ぎ、同時に容赦なく踏み込み逆袈裟斬り。
上背の差を見事に利用した。
あっけなく勝負がついた。
「これも見事!
あの左手上段は間が取り難いであろう。双方とも、良いものを見せてくれた。礼を言うぞ」
両者は膝をついて一礼。
脇の控え場所へ向かう。
吉岡側は悔しそうであるが、勝負は水物。
何時、立場が逆転するか知れたものではない。
勝てるときに勝つ。それが勝負というもの。
この様な試合では分からない物が戦であると今では知っている。
「大胡殿。楽しめた。満足じゃ。では、場を変えて仕切り直しで話し合おうぞ」
義輝様は側仕えに指示を出し、別間にて二人にて話をするそうだ。
某は控えの間で待機することになった。
近江国朽木谷
長野政影
(政賢の側使え。結構剣の達人)
「そこまで!」
伊勢守殿の竹刀が一瞬早く小手に決まる。相対していた将軍家兵法指南役、吉岡直光殿は竹刀を地に落とし、悔しそうに右腕を抑えている。
「上泉殿、天晴である。流石は剣聖と謳われる塚原卜伝に次の剣聖と称えられた者じゃ。見事、直光の小太刀を見切った。儂等何度試合うても、いなされて懐に入られてしまう」
将軍、足利義輝が床几に腰を下ろし、手を叩いて嬉しそうに試合を終わった二人に声を掛けた。
「恐れながら申し上げます。吉岡殿の小太刀、此度は某が用意した袋竹刀を使っていただきました故、慣れの分某が有利であったまでにて。それを勘案すれば真剣ならば相打ちかと思いまする」
伊勢守殿は尤もらしく謙遜をするが、普通に使いそうな木剣と同じ重さ均一な釣り合いに仕上げられている。
しかも吉岡流は小太刀を主に使う。
殆ど不利は感じぬであろう。
だが、ここで敵を作っても面白くない。
弟子であり親衛隊の隊長を務める宮川殿が直光殿に、大胡の特産である打ち身薬『大胡散薬』の入った袋を頭を下げて手渡している。
「公方様。今一度試合わせて頂けませぬか? 次は弟子同士にて。太刀筋を見極めさせて頂きたく」
「直光、控えよ!」
非常識な申し出に、義輝様が窘めたが、
「此方こそ今一度小太刀の妙技を傍から見とうござりまする。
某からもお願い申し上げまする」
伊勢守殿は申し出に快く答える。義輝様は念を押すように吉岡殿を諫めた。
「上泉殿がこう申して居る。努々恨むなどあってはならぬぞ。もし弟子も負けたとしても其方の名声には傷をつけさせぬ。ここは人払いしてある故。
のう、大胡殿」
将軍足利義輝の斜め前に腰かけている政賢様に声をかけている。
義輝様は隣に床几を用意してくださられたが、将軍家の隣など滅相もないと殿は下座の端の方に床几を移動していた。
他の観覧者は居らぬにもかかわらず、その行いを見て「隙が無いわ。大したものよ」と小声で殿の外交の一端を褒めておられた。
結局、罠であったか。
「然らば……、武蔵、いつも練っているあの剣を見せよ」
伊勢守殿は、宮川殿に「あれ」を見せよと指示をした。
「お師匠、まだあれは完成しておらず、しかも戦場用に練成しておりまする。
とても今回のような試合では……」
「なんのことじゃ? その剣、見とうなったぞ。
見せて貰おうか、大胡家の新型剣術の威力とやらを。
勝負は気にするな。上泉殿がそこまで申すのじゃ。珍しいものであろうの?」
あれよあれよと言う間に事が運んでしまい宮川殿は逃げ場を失い、
ままよ!!
との様子にて同期の者が運んできた竹刀を手にし、試合の行われる庭の中央に進み出た。そして公方様への礼に続き、既に用意を終え待っている吉岡流の高弟へ向かって一礼し、手に持つ「2本の竹刀」を構えた。
右手に小太刀を模した短い竹刀。
左手には普通の長さの竹刀を持つ。
右手は前に突き出し相手に切っ先を向けている。
左手は上段に振り上げ威嚇する。
初見では、多分右の小手を狙われるであろう構えだ。
宮川殿は色々な構えを研究しているが、現在はこの型を個人戦での基本としているのであろう。
「ほほう。これは二刀使いか、初めて見る。
聞いたことはあるが、大した使い手がいないと。上泉殿の弟子なれば、相当な使い手であろう。見ものじゃの」
「ご関心召されて何より。勝ち負けではなく、そのことが何より嬉しく思いまする」
殿が御愛想をつく姿は何とも珍しいというか意外だ。常に如何様なる相手に対しても、堂々と渡り合ってきた。例え相手が将軍家であろうとも、この様な低姿勢、思いもよらなんだ。
だからあれだけ嫌がっていたのか。
結局、こうで在らねば世間を敵に回す。まだまだ、その様な時世だと仰っていた。
両者、気合のぶつけ合いから始まった。
2間の距離を挟み火花が散る。
細かい砂利が撒かれた平たい庭を滑るように両者が近づき、間合いが1間を過ぎた途端に素早い動きとなり、両者踏み込む。
一瞬で勝負が決まった。
吉岡殿の高弟は小太刀で右小手を取ると見せかけ、一端引こうとした。宮川殿の間合いを知りたかったのであろうか。
左手の上段に振り上げた竹刀を受けるか流すかをしない限り勝てない。 よって中途半端な踏み込みで終わった。
しかし宮川殿は、右手首を返すことで小手を難なく防ぎ、同時に容赦なく踏み込み逆袈裟斬り。
上背の差を見事に利用した。
あっけなく勝負がついた。
「これも見事!
あの左手上段は間が取り難いであろう。双方とも、良いものを見せてくれた。礼を言うぞ」
両者は膝をついて一礼。
脇の控え場所へ向かう。
吉岡側は悔しそうであるが、勝負は水物。
何時、立場が逆転するか知れたものではない。
勝てるときに勝つ。それが勝負というもの。
この様な試合では分からない物が戦であると今では知っている。
「大胡殿。楽しめた。満足じゃ。では、場を変えて仕切り直しで話し合おうぞ」
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某は控えの間で待機することになった。
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