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第15章:修学旅行の気分?で上洛
法師温泉で作戦会議
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1555年10月上旬
上野国法師温泉
長野政影
(政賢のお守り役)
「ど~お? 政影くん。
今度、おまっちゃんと2人でここの温泉に長逗留してしっぽりと過ごすのは~?
はにいむうん!」
殿がニタニタしながら某を揶揄う。
今年8月、某は祐筆のまつ殿と祝言を上げた。
その……なんだ。
同じ部屋にて仕事をしておると気になっていかぬ。
おまつ殿も少々ではあろうが、某に気が……気のせいかと思っていた。しかしその状況に気づいた殿と楓様が半ば強引に事を進め、気が付いたら夫婦になっていた。楓様に言わせれば、おまつ殿もまんざらではないとの事。
ホッとするとともに、殿の囃し立てには閉口している。
「相思相愛。恋愛結婚! 羨ましくもあるけど、これからが大変だよ。相手の欠点が徐々に……あ痛っ! もうっ、かえでちゃん痛いなぁ」
などと、事あるごとに囃し立ててくる。
殿はちゃぷちゃぷと湯を掻きまわしたり、両手で掬ったりしながら皆と話している。
今度、ここに一軒宿屋を作ろうとの話だ。現在は川原に近い場所に石で囲った簡素な湯殿があるだけだ。
それに宿坊を設けて長逗留も可能にするという。この清水峠を越す際のひと時の癒しとなろうということだ。
この露天の湯には今、
殿と某、
伊勢守様、
磐梯屋藤兵衛の4名で入り
体をほぐしている。
この後、随行者が順に入湯することになっている。
「殿。此度の上洛。相当な危険が在りまする。
我らも心して掛かりますが、殿に置かれては保身に十分にお気を配りますよう家臣一同お願い申し上げまする。
既に大胡は様々な敵を作っておりますれば、何時如何なる場所にて襲撃の手が襲い掛かるやもしれませぬ」
伊勢守殿が真剣な口調にてお諫めする。
最近は殿も以前とは違い保身にも気を配り、配下の側仕えを手練れの者に替え、御庭番、鬼喰ひ役を配置した。
武田とその同盟国である今川の領土を通らず上洛するには、どうしても越後を通らねばならない。
それに合わせ、上杉家放逐をどう思うか定かならぬ景虎殿との膝詰め談判もせねばということで、越後へ向かっている。
もしやとは思うが、事と次第によっては越後を通ることはできぬかもしれぬ。
去年大胡に大損害を与えられた堺・西国商人とは、戦はないがほぼ冷戦状態。彼奴らの手がこちらの手より長く素早いとなれば、そのまま生きては帰れまい。
此度の上洛の随行は以下のようになる。
・側仕え筆頭の某他、側仕え2名。
・磐梯屋一行5名。
・護衛筆頭の上泉伊勢守殿、護衛に親衛隊から宮川殿他12名。
・鉄砲得手の者20名。それに弾薬詰め役を兼ねる輜重隊員20名。
・こんぱうんどぼうの名手の女子2名と、素ッ破である女官2名。
・鬼喰ひ兼轡持ち、槍持ちなど6名。
・石堂殿と配下4名。
・そして50名に及ぶ各分野の修行予定者と、人材勧誘係。
総勢126名となった。
50万石の大大名としては少ない方であるが戦闘力では引けはとらぬはず。他にも、前後左右に配下の素ッ破20名以上が警戒に当たる。
お湯を掌で作った水鉄砲で皆に引っ掛けながら遊んでいた殿は、伊勢守殿の言葉におおきく頷き勢いよく立ち上がり、脇を流れる谷へ向かって指を指して叫んだ。
「では、いざ越後へ参る!」
「殿、そちらは大胡ですが……」
殿は湯当たりしたのか目眩がしたらしく湯に当たったのか、ふらふらと腰から湯にまた逆戻りして皆を慌てさせた。
このドジさで、どれだけ皆が明るく過ごせるか。
深刻な時ほど思い知らされたが……
手がかかるのは某が引き受けよう。
大胡は明るくあらねば大胡ではない。
上野国法師温泉
長野政影
(政賢のお守り役)
「ど~お? 政影くん。
今度、おまっちゃんと2人でここの温泉に長逗留してしっぽりと過ごすのは~?
はにいむうん!」
殿がニタニタしながら某を揶揄う。
今年8月、某は祐筆のまつ殿と祝言を上げた。
その……なんだ。
同じ部屋にて仕事をしておると気になっていかぬ。
おまつ殿も少々ではあろうが、某に気が……気のせいかと思っていた。しかしその状況に気づいた殿と楓様が半ば強引に事を進め、気が付いたら夫婦になっていた。楓様に言わせれば、おまつ殿もまんざらではないとの事。
ホッとするとともに、殿の囃し立てには閉口している。
「相思相愛。恋愛結婚! 羨ましくもあるけど、これからが大変だよ。相手の欠点が徐々に……あ痛っ! もうっ、かえでちゃん痛いなぁ」
などと、事あるごとに囃し立ててくる。
殿はちゃぷちゃぷと湯を掻きまわしたり、両手で掬ったりしながら皆と話している。
今度、ここに一軒宿屋を作ろうとの話だ。現在は川原に近い場所に石で囲った簡素な湯殿があるだけだ。
それに宿坊を設けて長逗留も可能にするという。この清水峠を越す際のひと時の癒しとなろうということだ。
この露天の湯には今、
殿と某、
伊勢守様、
磐梯屋藤兵衛の4名で入り
体をほぐしている。
この後、随行者が順に入湯することになっている。
「殿。此度の上洛。相当な危険が在りまする。
我らも心して掛かりますが、殿に置かれては保身に十分にお気を配りますよう家臣一同お願い申し上げまする。
既に大胡は様々な敵を作っておりますれば、何時如何なる場所にて襲撃の手が襲い掛かるやもしれませぬ」
伊勢守殿が真剣な口調にてお諫めする。
最近は殿も以前とは違い保身にも気を配り、配下の側仕えを手練れの者に替え、御庭番、鬼喰ひ役を配置した。
武田とその同盟国である今川の領土を通らず上洛するには、どうしても越後を通らねばならない。
それに合わせ、上杉家放逐をどう思うか定かならぬ景虎殿との膝詰め談判もせねばということで、越後へ向かっている。
もしやとは思うが、事と次第によっては越後を通ることはできぬかもしれぬ。
去年大胡に大損害を与えられた堺・西国商人とは、戦はないがほぼ冷戦状態。彼奴らの手がこちらの手より長く素早いとなれば、そのまま生きては帰れまい。
此度の上洛の随行は以下のようになる。
・側仕え筆頭の某他、側仕え2名。
・磐梯屋一行5名。
・護衛筆頭の上泉伊勢守殿、護衛に親衛隊から宮川殿他12名。
・鉄砲得手の者20名。それに弾薬詰め役を兼ねる輜重隊員20名。
・こんぱうんどぼうの名手の女子2名と、素ッ破である女官2名。
・鬼喰ひ兼轡持ち、槍持ちなど6名。
・石堂殿と配下4名。
・そして50名に及ぶ各分野の修行予定者と、人材勧誘係。
総勢126名となった。
50万石の大大名としては少ない方であるが戦闘力では引けはとらぬはず。他にも、前後左右に配下の素ッ破20名以上が警戒に当たる。
お湯を掌で作った水鉄砲で皆に引っ掛けながら遊んでいた殿は、伊勢守殿の言葉におおきく頷き勢いよく立ち上がり、脇を流れる谷へ向かって指を指して叫んだ。
「では、いざ越後へ参る!」
「殿、そちらは大胡ですが……」
殿は湯当たりしたのか目眩がしたらしく湯に当たったのか、ふらふらと腰から湯にまた逆戻りして皆を慌てさせた。
このドジさで、どれだけ皆が明るく過ごせるか。
深刻な時ほど思い知らされたが……
手がかかるのは某が引き受けよう。
大胡は明るくあらねば大胡ではない。
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