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第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】
北条のすべてを賭ける!
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1553年11月末日申の刻(午後4時)
本隊決戦場南方半里桃ノ木川西岸
原虎胤
(初代鬼美濃……って、二代目があの人になるとは限らない)
「伝令ですね。通りなさい」
副官の梨花が使い番を通す。
「申し上げます。政賢様より至急。一端南で待機。できる限り残敵を本陣へ行かせないように。
とのことです」
なぜだ?
もう目の前20町に、北条の本陣がある。
このまま進めば撃破できよう。残敵など放っておけば良いものを。
何を考えておいでじゃ?
あの若い殿は。
不審に思っておると、梨花が儂に言うた。
「政賢様には何かお考えがおありなのでしょう」
「何を考えておるか、其方には分かるのか?」
「わたくしの思いまするに、ちょうどよい、今よりも確実に北条の息の根を止める時機を見計らっていらっしゃるのかと存じます」
信じておるのじゃな、などと言いそうになったが、女子にそのようなことを言うものではない、と長い人生で教わった。
確かに今突っ込めば本陣に大打撃を与えられるが、上手く大胡の本隊が反撃に移れなければ容易に退かれてしまい厩橋に引き籠られてしまう。
そうすれば長期戦となろう。
北条にも都合が悪いが、大胡領に残敵が徘徊する状況を放っておかれるような殿ではなかろう。
儂は物足りない気もしたが、あの若い殿も信虎様、晴信様に負けず劣らず戦場の風を読むこと大きな才があると感じた。
◇ ◇ ◇ ◇
同日酉の刻(午後5時)
桃ノ木川西方1町北条氏康本陣
北条氏康
(相模の獅子の筈なんだけど脳内と心臓の血管にステントを入れる必要な気が……)
側仕えが持ってきた水に濡れた手拭いで顔を拭き脂汗を落とす。ぼやけていた頭が少しはっきりしてきた。
もう逢魔が時だ。
周りが見えぬのはそのせいだ。儂の意識がぼやけているのは気のせいだろう。まだ判断力は鈍っておらぬ。
昼間の戦いは渡河前の飛砲がものを言い敵の射撃で大損害を出しつつも、中央のみだが向こう岸に竹束と鉄矢盾で簡易な兵30ほどが留まれる場所を作り上げた。
もう少し早くに作り上げられれば左右への広がりを作れたのだが、結局のところあの忌々しい螺旋形の鉄線が移動の邪魔をする。
とは言え無理をして左右に陣を広げたら、それこそ背水の陣じゃ。
それも最悪の陣形の背水じゃな。
とにかく夜になれば狙撃が止む。その間に鉄線を切る。
あの棘棘もゆっくり作業すれば怪我をせずに済む。棘のせいで時間が掛かったのだ。
大胡政賢、厄介な物を次々と作り出すものよ。
飛砲は役に立った。
那波の時に使われたという小さな壕が散見される陣。
(作者注:散兵線に近いこと)
普通に密集している陣よりも遥かに多くの投石が必要であった。狙いが定まるまで数度かかる。狙いが合ったと思うと敵は直ぐに移動する。
その繰り返しで時間が過ぎ去っていく。
明日が本番じゃ。
もう飛砲は使えぬ。
が、戦場に左右の広がりが出る。
包囲殲滅も出来よう。
問題は中央を突破されること。
それから……
遊撃をしている(山中)修理亮の騎馬隊。
これの側撃が出来るか。
大胡への強襲でも良いが騎馬での城攻めは困難。
先ほど上泉城へ向かった(笠原)信為から来た使い番によれば、城攻めを諦め大胡を突くために山野を駆けるという。
大胡まで高々1里半足らずであるが、これだけ本城に近い、それも決戦をする準備をしていた場所じゃ。
多くの仕掛けがしてあろう。
ゆっくりとでもよい。
夜の行動は危険でもあるが、朝日が見える頃に大胡城前に出ていれば、こちらの勝利は揺るがぬ。
笠原の伊豆衆は山林での戦は慣れている。
明日の決戦場になるであろう、川から3町ほどの所にある物見櫓。
その手前は隘路じゃ。
(作者注:細い通行地帯のこと。作品の場合は左右を鉄線などで通行不能にした雑木林により200m程度に絞られた地帯)
混乱は必至。
相手の出方にもよるが横陣しかできまい。
この場所には8000の兵がいるが、これ以上頭数が居ても狭くて却って混乱するばかり。
いても戦に投入できぬ兵は迂回させるしかない。
小手先勝負は無しの数任せの押し潰し。
隙間を作り、そこへ今日温存していた中央に配置する精鋭、復讐に燃えた玉縄衆に突っ込ませる。
そして敵の本陣を崩す。
飛砲もここに集中砲火じゃ。
ここにすべてを集約させる。
北条のすべてを!
本隊決戦場南方半里桃ノ木川西岸
原虎胤
(初代鬼美濃……って、二代目があの人になるとは限らない)
「伝令ですね。通りなさい」
副官の梨花が使い番を通す。
「申し上げます。政賢様より至急。一端南で待機。できる限り残敵を本陣へ行かせないように。
とのことです」
なぜだ?
もう目の前20町に、北条の本陣がある。
このまま進めば撃破できよう。残敵など放っておけば良いものを。
何を考えておいでじゃ?
あの若い殿は。
不審に思っておると、梨花が儂に言うた。
「政賢様には何かお考えがおありなのでしょう」
「何を考えておるか、其方には分かるのか?」
「わたくしの思いまするに、ちょうどよい、今よりも確実に北条の息の根を止める時機を見計らっていらっしゃるのかと存じます」
信じておるのじゃな、などと言いそうになったが、女子にそのようなことを言うものではない、と長い人生で教わった。
確かに今突っ込めば本陣に大打撃を与えられるが、上手く大胡の本隊が反撃に移れなければ容易に退かれてしまい厩橋に引き籠られてしまう。
そうすれば長期戦となろう。
北条にも都合が悪いが、大胡領に残敵が徘徊する状況を放っておかれるような殿ではなかろう。
儂は物足りない気もしたが、あの若い殿も信虎様、晴信様に負けず劣らず戦場の風を読むこと大きな才があると感じた。
◇ ◇ ◇ ◇
同日酉の刻(午後5時)
桃ノ木川西方1町北条氏康本陣
北条氏康
(相模の獅子の筈なんだけど脳内と心臓の血管にステントを入れる必要な気が……)
側仕えが持ってきた水に濡れた手拭いで顔を拭き脂汗を落とす。ぼやけていた頭が少しはっきりしてきた。
もう逢魔が時だ。
周りが見えぬのはそのせいだ。儂の意識がぼやけているのは気のせいだろう。まだ判断力は鈍っておらぬ。
昼間の戦いは渡河前の飛砲がものを言い敵の射撃で大損害を出しつつも、中央のみだが向こう岸に竹束と鉄矢盾で簡易な兵30ほどが留まれる場所を作り上げた。
もう少し早くに作り上げられれば左右への広がりを作れたのだが、結局のところあの忌々しい螺旋形の鉄線が移動の邪魔をする。
とは言え無理をして左右に陣を広げたら、それこそ背水の陣じゃ。
それも最悪の陣形の背水じゃな。
とにかく夜になれば狙撃が止む。その間に鉄線を切る。
あの棘棘もゆっくり作業すれば怪我をせずに済む。棘のせいで時間が掛かったのだ。
大胡政賢、厄介な物を次々と作り出すものよ。
飛砲は役に立った。
那波の時に使われたという小さな壕が散見される陣。
(作者注:散兵線に近いこと)
普通に密集している陣よりも遥かに多くの投石が必要であった。狙いが定まるまで数度かかる。狙いが合ったと思うと敵は直ぐに移動する。
その繰り返しで時間が過ぎ去っていく。
明日が本番じゃ。
もう飛砲は使えぬ。
が、戦場に左右の広がりが出る。
包囲殲滅も出来よう。
問題は中央を突破されること。
それから……
遊撃をしている(山中)修理亮の騎馬隊。
これの側撃が出来るか。
大胡への強襲でも良いが騎馬での城攻めは困難。
先ほど上泉城へ向かった(笠原)信為から来た使い番によれば、城攻めを諦め大胡を突くために山野を駆けるという。
大胡まで高々1里半足らずであるが、これだけ本城に近い、それも決戦をする準備をしていた場所じゃ。
多くの仕掛けがしてあろう。
ゆっくりとでもよい。
夜の行動は危険でもあるが、朝日が見える頃に大胡城前に出ていれば、こちらの勝利は揺るがぬ。
笠原の伊豆衆は山林での戦は慣れている。
明日の決戦場になるであろう、川から3町ほどの所にある物見櫓。
その手前は隘路じゃ。
(作者注:細い通行地帯のこと。作品の場合は左右を鉄線などで通行不能にした雑木林により200m程度に絞られた地帯)
混乱は必至。
相手の出方にもよるが横陣しかできまい。
この場所には8000の兵がいるが、これ以上頭数が居ても狭くて却って混乱するばかり。
いても戦に投入できぬ兵は迂回させるしかない。
小手先勝負は無しの数任せの押し潰し。
隙間を作り、そこへ今日温存していた中央に配置する精鋭、復讐に燃えた玉縄衆に突っ込ませる。
そして敵の本陣を崩す。
飛砲もここに集中砲火じゃ。
ここにすべてを集約させる。
北条のすべてを!
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