首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

文字の大きさ
上 下
128 / 339
第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】

迂回は有能指揮官じゃないとダメ

しおりを挟む
 1553年11月末日夕刻
 本隊激戦場より南方半里
 原虎胤
(初代鬼美濃。 前から欲しいと思っていた赤備えを勝手に真似して喜んでいる可愛いおっさん)


 倒し甲斐のない奴らじゃった。
 横撃を食らわしたら一瞬で潰走した。大胡の真似をして、騎馬だけの編成にしたのが拙かったのじゃろう。

 防御が成っとらん。騎馬は機動力が命じゃろうに。そのまま向かってくるとか、まるで素人じゃ。
 生け捕りにした者に聞くと、編成されてからまだ間もないということだから無理もないかの。

 儂とてこの備えを任されて未だ1月。普通ならば、とても運用など出来ぬ。

 しかし、先にこの騎馬隊を練成していた者が優秀であった。
 その者は今、儂の隣で副官をしておる。

「虎胤様。残敵はいかがなさいますか?」

「放っておけ。次の戦場が待っている。あと何刻かかるか……」

「四半刻で敵本隊の右翼に出られます」

 冬木|梨花(りか)という17の女子(おなご)がその副官じゃ。華蔵寺公園出身で武器周旋方の冬木殿の養子といのことだ。
 儂が舌を巻くくらい手際が良い。

 戦はどれだけ正確に指令が出せるかで決まる。その統制を見事に取っていく。
 更には数にも明るい。この地形は全て距離や地形まで頭の中で諳んじることが出来るという。

 女子にしておくのは勿体ない、と言うたら、

「ここ大胡では漢も女子も関係ございませぬ。
 それを出来る者がその仕事をする、
 これが掟です」

 と凛々しい顔で言いおった。

 なるほど。
 こういった若者を華蔵寺にて育成しておるのか。
 頼もしいぞ。

 浄土宗の教え通り、衆上皆平らかであるべき。
 やはりここが儂の居場所かのう?

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1553年11月末日夕刻
 上泉城北門前
 笠原信為
(伊豆衆の生き残りを率いて奮戦する奇襲が得意な山育ち)


「笠原様。仕寄り準備が出来ました」

 馬周りの者が伝えてきた。
 上泉城。
 あの上泉信綱の城だ。綱成様を討ち取った剛の者と聞く。兵法けんじゅつにも長けていると。

 しかし城主は今、大胡の本陣に居ると確たる情報ではないが、知らせが来ている。
 何れにせよ、儂のすることは、城に「ひと当て」することで敵の抵抗の具合を確かめ、その後2000で落とせそうなれば攻城に入る。

 我攻めは気が進まぬが、この城は小さい。詰めている兵も200程度であろう。

 南東西を断崖に囲まれている堅城に見えるが、弱点の北側の防備が問題だ。一重の空堀しかないが、鉄砲の充実している大胡兵が籠っているとなると、幅15間(30m)の空堀と、そこに架かる橋を渡るのは困難だ。

 しかし……
 橋が上に折れ曲がって持ち上げられ通れないようになっている!

 堀も薬研堀。
 坂の斜面の底には、逆茂木や鉄でできた棘が植えてある。

 やはり無理か?

 一当てすら危険やもしれぬ。切り倒した木を渡し、そこを渡ることになるが、矢盾を持ちながら丸太の上を移動など出来はしない。

 矢で何とか出来るものでもない。
 火矢も届かぬ。

 無理に仕寄って、無駄に兵を損なうなど以ての外。
 既に儂ら伊豆衆は半数を失っておる。
 ここで大損害を被ってはもう未来永劫、立ち直れぬであろう。

「仕寄りはあきらめる。
 手筈通り、小数にて散開。
 東を目指す。
 大胡城大手門前にて集合。
 素ッ破の奇襲に気をつけよ」

 先ほどの物見の報告では2つの崖に縄が張り巡らされていたということだが、今回は鉄線を切る道具を用意してきた。

 遅くとも慎重に進もう。
 高々、50町だ。

 林野での動きは伊豆で慣れている。
 日が暮れるまでには大胡に到着するであろう。

 ……しかしなぜであろう?

 張り巡らされた綱のその多くが、南北ではなく東西に延びていたというが……

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版

カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。 そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。 勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か? いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。 史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。 運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。 もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。 明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。 結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。 この話はそんな奇妙なコメディである。 設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。 特に序盤は有名武将は登場しません。 不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

処理中です...