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第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】
迂回は有能指揮官じゃないとダメ
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1553年11月末日夕刻
本隊激戦場より南方半里
原虎胤
(初代鬼美濃。 前から欲しいと思っていた赤備えを勝手に真似して喜んでいる可愛いおっさん)
倒し甲斐のない奴らじゃった。
横撃を食らわしたら一瞬で潰走した。大胡の真似をして、騎馬だけの編成にしたのが拙かったのじゃろう。
防御が成っとらん。騎馬は機動力が命じゃろうに。そのまま向かってくるとか、まるで素人じゃ。
生け捕りにした者に聞くと、編成されてからまだ間もないということだから無理もないかの。
儂とてこの備えを任されて未だ1月。普通ならば、とても運用など出来ぬ。
しかし、先にこの騎馬隊を練成していた者が優秀であった。
その者は今、儂の隣で副官をしておる。
「虎胤様。残敵はいかがなさいますか?」
「放っておけ。次の戦場が待っている。あと何刻かかるか……」
「四半刻で敵本隊の右翼に出られます」
冬木|梨花(りか)という17の女子(おなご)がその副官じゃ。華蔵寺公園出身で武器周旋方の冬木殿の養子といのことだ。
儂が舌を巻くくらい手際が良い。
戦はどれだけ正確に指令が出せるかで決まる。その統制を見事に取っていく。
更には数にも明るい。この地形は全て距離や地形まで頭の中で諳んじることが出来るという。
女子にしておくのは勿体ない、と言うたら、
「ここ大胡では漢も女子も関係ございませぬ。
それを出来る者がその仕事をする、
これが掟です」
と凛々しい顔で言いおった。
なるほど。
こういった若者を華蔵寺にて育成しておるのか。
頼もしいぞ。
浄土宗の教え通り、衆上皆平らかであるべき。
やはりここが儂の居場所かのう?
◇ ◇ ◇ ◇
1553年11月末日夕刻
上泉城北門前
笠原信為
(伊豆衆の生き残りを率いて奮戦する奇襲が得意な山育ち)
「笠原様。仕寄り準備が出来ました」
馬周りの者が伝えてきた。
上泉城。
あの上泉信綱の城だ。綱成様を討ち取った剛の者と聞く。兵法にも長けていると。
しかし城主は今、大胡の本陣に居ると確たる情報ではないが、知らせが来ている。
何れにせよ、儂のすることは、城に「ひと当て」することで敵の抵抗の具合を確かめ、その後2000で落とせそうなれば攻城に入る。
我攻めは気が進まぬが、この城は小さい。詰めている兵も200程度であろう。
南東西を断崖に囲まれている堅城に見えるが、弱点の北側の防備が問題だ。一重の空堀しかないが、鉄砲の充実している大胡兵が籠っているとなると、幅15間(30m)の空堀と、そこに架かる橋を渡るのは困難だ。
しかし……
橋が上に折れ曲がって持ち上げられ通れないようになっている!
堀も薬研堀。
坂の斜面の底には、逆茂木や鉄でできた棘が植えてある。
やはり無理か?
一当てすら危険やもしれぬ。切り倒した木を渡し、そこを渡ることになるが、矢盾を持ちながら丸太の上を移動など出来はしない。
矢で何とか出来るものでもない。
火矢も届かぬ。
無理に仕寄って、無駄に兵を損なうなど以ての外。
既に儂ら伊豆衆は半数を失っておる。
ここで大損害を被ってはもう未来永劫、立ち直れぬであろう。
「仕寄りはあきらめる。
手筈通り、小数にて散開。
東を目指す。
大胡城大手門前にて集合。
素ッ破の奇襲に気をつけよ」
先ほどの物見の報告では2つの崖に縄が張り巡らされていたということだが、今回は鉄線を切る道具を用意してきた。
遅くとも慎重に進もう。
高々、50町だ。
林野での動きは伊豆で慣れている。
日が暮れるまでには大胡に到着するであろう。
……しかしなぜであろう?
張り巡らされた綱のその多くが、南北ではなく東西に延びていたというが……
本隊激戦場より南方半里
原虎胤
(初代鬼美濃。 前から欲しいと思っていた赤備えを勝手に真似して喜んでいる可愛いおっさん)
倒し甲斐のない奴らじゃった。
横撃を食らわしたら一瞬で潰走した。大胡の真似をして、騎馬だけの編成にしたのが拙かったのじゃろう。
防御が成っとらん。騎馬は機動力が命じゃろうに。そのまま向かってくるとか、まるで素人じゃ。
生け捕りにした者に聞くと、編成されてからまだ間もないということだから無理もないかの。
儂とてこの備えを任されて未だ1月。普通ならば、とても運用など出来ぬ。
しかし、先にこの騎馬隊を練成していた者が優秀であった。
その者は今、儂の隣で副官をしておる。
「虎胤様。残敵はいかがなさいますか?」
「放っておけ。次の戦場が待っている。あと何刻かかるか……」
「四半刻で敵本隊の右翼に出られます」
冬木|梨花(りか)という17の女子(おなご)がその副官じゃ。華蔵寺公園出身で武器周旋方の冬木殿の養子といのことだ。
儂が舌を巻くくらい手際が良い。
戦はどれだけ正確に指令が出せるかで決まる。その統制を見事に取っていく。
更には数にも明るい。この地形は全て距離や地形まで頭の中で諳んじることが出来るという。
女子にしておくのは勿体ない、と言うたら、
「ここ大胡では漢も女子も関係ございませぬ。
それを出来る者がその仕事をする、
これが掟です」
と凛々しい顔で言いおった。
なるほど。
こういった若者を華蔵寺にて育成しておるのか。
頼もしいぞ。
浄土宗の教え通り、衆上皆平らかであるべき。
やはりここが儂の居場所かのう?
◇ ◇ ◇ ◇
1553年11月末日夕刻
上泉城北門前
笠原信為
(伊豆衆の生き残りを率いて奮戦する奇襲が得意な山育ち)
「笠原様。仕寄り準備が出来ました」
馬周りの者が伝えてきた。
上泉城。
あの上泉信綱の城だ。綱成様を討ち取った剛の者と聞く。兵法にも長けていると。
しかし城主は今、大胡の本陣に居ると確たる情報ではないが、知らせが来ている。
何れにせよ、儂のすることは、城に「ひと当て」することで敵の抵抗の具合を確かめ、その後2000で落とせそうなれば攻城に入る。
我攻めは気が進まぬが、この城は小さい。詰めている兵も200程度であろう。
南東西を断崖に囲まれている堅城に見えるが、弱点の北側の防備が問題だ。一重の空堀しかないが、鉄砲の充実している大胡兵が籠っているとなると、幅15間(30m)の空堀と、そこに架かる橋を渡るのは困難だ。
しかし……
橋が上に折れ曲がって持ち上げられ通れないようになっている!
堀も薬研堀。
坂の斜面の底には、逆茂木や鉄でできた棘が植えてある。
やはり無理か?
一当てすら危険やもしれぬ。切り倒した木を渡し、そこを渡ることになるが、矢盾を持ちながら丸太の上を移動など出来はしない。
矢で何とか出来るものでもない。
火矢も届かぬ。
無理に仕寄って、無駄に兵を損なうなど以ての外。
既に儂ら伊豆衆は半数を失っておる。
ここで大損害を被ってはもう未来永劫、立ち直れぬであろう。
「仕寄りはあきらめる。
手筈通り、小数にて散開。
東を目指す。
大胡城大手門前にて集合。
素ッ破の奇襲に気をつけよ」
先ほどの物見の報告では2つの崖に縄が張り巡らされていたということだが、今回は鉄線を切る道具を用意してきた。
遅くとも慎重に進もう。
高々、50町だ。
林野での動きは伊豆で慣れている。
日が暮れるまでには大胡に到着するであろう。
……しかしなぜであろう?
張り巡らされた綱のその多くが、南北ではなく東西に延びていたというが……
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