首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

文字の大きさ
上 下
124 / 339
第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】

おつむのライトな武将は使いよう

しおりを挟む
 1553年11月下旬巳の刻(午前10時)
 上野国上泉城南西10町(1km)
 官兵衛
(朱槍(仁王丸という名前の30kg以上ある槍)を持てるはずもない小兵の槍持ち)


「おらおらおら~~~~! 
 かかってこんかい!!」


 相変わらず旦那の声はでけえや。これだと北条氏康にも聞こえるんでないか?

 北条の先鋒は西2町の所をこちらへ向かってくる。その後ろに次鋒、その後ろに多分本陣だろうな。
 ここからだと判らんがな。

 多分、普通だったら先鋒から本陣まで3町ってところだろうが、この場所じゃあ長蛇になっちまうから、倍の6町か?

 それに北からのからっ風が音を流しちまうから、微かに聞こえれば御の字だ。

 まだこの時期にしちゃあ風が弱い。
 この雄叫びは北条の士気を落とすためにやっている。

 矢を交わしたり干戈を交えたりするよりも、遥かに効率的に敵の戦力を削れると殿は仰っていた。

 言葉合戦の威力はすごいぜ。
 普通なら士気を保つために先鋒が突入してくるのだろうが、昨日の大敗北で物見を出したり使い番を出したりして、そろりそろりと進軍しているのだろう。

 さすが坂東の雄だな。
 無茶はしない。


「がははは~~~!!
 やっぱり臆病者じゃの~~~。
 玉縄のもんもいるんか!? お前らの大将は儂と20合も槍合わせ出来なんだぞ~~~!!
 大将がそのくらいじゃ。お前らには儂に向かってくる根性はないであろう!!
 北条の精鋭が聞いて呆れるわ!!!!」

 おいおい旦那。
 それいっちゃあ、敵の最精鋭の士気が上がっちまうじゃねえか。

 旦那に言葉合戦はあまり任せられんな。

 !

 そうか。今度はセリフを書いて渡すか?

 ……でも旦那のことだから、読み飛ばして適当に吠えるのが目に見える……


 自由奔放、
 大胆不敵、
 猪突猛進、
 単純明快、
 明朗会計だからな、
 旦那は。

 ?

 最後の言葉、なんだ?
 なぜ出てきた?

 まあいいか。

 旦那が自分で名付けた槍の「大車輪」という技、ただ単に槍をぶん回すだけだが、それを敵にこれ見よがしに披露している。

 いや、それは敵が来てからにしてくれよ。
 無駄な体力使うんじゃねえよ。

 もっとも旦那の体力は無尽蔵だからな。
 気にせんでええか。

「旦那。そろそろ半町くらい後退しましょう」

「おう!! 
 あまりここにいてもしょうがねえな」

 旦那が後退するために振り向いた時。
 南から凄まじい大音響が響いた! 
 北風である空っ風の風上に届く音だ。

 始めて聞いたぜ。雷様の太鼓が鳴っている。

 間をあけて2回目。
 その間にぱちぱちという音も聞こえている。

 これは……
 多分那波城の大筒が攻撃をしていている音だ。

 こんなにデカい音なのか?
 敵に気取られないように配慮してか、大筒の発射音は単発射撃の時しか聞いたことなかったが。

 これで敵は城が爆発して落城したと勘違いする……はず……

「がはははははは!!!!
 おう! 北条の奴ら!
 今頃、那波の城を囲んでいるお味方は総崩れじゃ!!
 さっさと助けに行かんかい!!
 薄情もんじゃの~~~!!!!!」

 あちゃ~。それ言っちゃいけないって。
 作戦が完全に崩れたな。
 これからどう転ぶんじゃろうか。もう俺には想像もつかん。あとは殿さん次第じゃな。

 旦那の尻ぬぐい、よろしく頼んますぜ、殿さん。俺は殿さんのいる本陣へ事情を知らせるべく使い番を走らせた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 北条本陣
 大道寺盛昌
(頑張り屋だけど抜けている宿老)


 この平坦な道は驚くほど歩きやすい。騎乗していてもそれ程揺れがない。

 今、殿が乗せられている車(住民が大胡車と言っていた)で動いても、がたがたした揺れがほとんど無い。

 殿の下令により1刻前に、粥を食べ終わって準備万端であった本陣を進め、昨日大胡に痛撃を食らった場所を通過し、前方に単独で陣を張っている大胡の先鋒、後藤透徹の陣前に止まった。

「いかがいたしますか、殿」

 殿は周りのお味方の兵に気取られないようにほろのついた馬車おおごぐるまに、上半身を起こし座っておられる。

 そして大胡勢を見た。
 その前には殿の乗馬と同じ毛色の馬に乗った同じ甲冑の影武者がいる。
 その影武者には3つのことを指示した。

「普段の殿らしく胸を張ること。今の真似をするな」

 今までは訓練だ。
 同じ仕草をせよと3年間ずっと言い付け、練習してきたのはこの時のため。

「何があっても逃げるな」

 この男、少々臆病なところがある。周りを馬廻りで固めるから安心せよと言うた。

「お前に戦況を報告するから頷き、それらしく何かを指示しろ」

 口を動かさねば遠くにいる間者に気取られてしまう。そろそろ馬周りには口止めせねば陣内に噂が立つやもしれぬな。

 物見の言葉と各備えへの指令は直接使い番と言葉を交わさないと齟齬そごが生じる恐れがある。

「あそこで踊っている狒々ひひは捨ておけ」

「は。して、次は如何様な采配を」

「半数も物見が帰っておらぬようでは、実際に一番の難所、桃ノ木川の渡しまで行くしかなかろう。午の刻(正午)になるまでには着くようにせよ。
 飛砲は後どのくらいで着く? 」

 飛砲は既に分解してやはり町から徴発した車にて本隊の後、後備えに守られながら運ばれてきている。

 この道が大胡の首を絞めるの。やはり領国の道はあまり整備してはいかぬ。
 儂は未の刻(午後1時)になる前には着くと殿に伝えた。

 ◇ ◇ ◇ ◇

「このまま前進し川の手前にて陣形を整える。
 横陣だ。
 後備えは飛砲が届き次第、北へ向かい上泉城を囲め。そう後備えの(笠原)信為に伝えよ。もし銃撃が盛んなれば小勢に分かれ、大胡城を急襲せよと。
 あの者が好きな急襲じゃ。うまくやれと申し伝えよ。
 先鋒は(富永)直勝の備え。左翼は……」

 まだまだ殿の頭は冴えておる。
 弱っているのは体のみ。

 大胡政賢、心してかからねばならぬ敵じゃがまだ若い。
 悪手あくしゅを打つのを待ち受け、それに付け込むこと、殿の右に出る者はいなかろう。
 儂がしっかりと知らせと下令を取りまとめねば。


 その時。

 落雷のような音が遠くで聞こえた。
 ここではそれほど大きくは聞こえぬが、南の方角から聞こえたという事は那波城に動きがあったか?

 城が爆破された音か?
 それとも長綱様の軍に何かがあったのか?

「……今頃、那波の城を囲んでいるお味方は総崩れじゃ! さっさと助けに行かんかい!! 薄情もんじゃの~~~!!!!」

 前方で意味なく槍を振り回している狒々がわめいているが、あれは言葉合戦か。
 信じるに値せぬ。


「盛昌。
 大至急、長綱叔父の軍へ使い番を。
 何かが起きた。
 探らせよ。
 必ず複数行かせよ。
 悪い予感がする」

 儂とは反対に殿は不審がっている。

 殿の直観はいつも鋭い。迷わず指示を出し、時間をずらせて違う道を通って向かわせた。

 長綱様に限って大きな問題は起きないかと思うが、寄せ集めの軍だ。

 何が起こるか分からない。慎重を期して作戦を遂行していこう。

しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版

カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。 そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。 勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か? いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。 史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。 運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。 もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。 明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。 結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。 この話はそんな奇妙なコメディである。 設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。 特に序盤は有名武将は登場しません。 不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

処理中です...