首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第13章:氏康君、首もらっちゃうよ♪【北条編佳境】

様々な国民模様

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 1553年11月下旬
 華蔵寺公園物資集積所
 冬
(公園育ちの元孤児。女性組の事務方見習い)


 公園の周りの土地いっぱいに、戦で使う物資が積み上げられている。
 米俵を始めとした俵物、いろいろなものが詰まっている樽。武具・矢・弓弦・弾薬の入った革製品。

 これらを運びやすいよう、人数が少なくて済むように四角い板の上に載せてある。これを大胡車に乗せるためにてこを使って持ち上げる。そして南の那波城や東の厩橋城下へ荷として運ばれていく。

 その差配を瀬川様と私がそこかしこを回り、帳面に書かれた数の物資を指示してこなしていく。

 おおよその差配が済んで、瀬川様に一息つこうとお声を掛けていただき休息所に入り座った。本来ならば白湯でも入れて差し上げねばならぬところ。
 しかし奥の竈では数名の女子衆が、所狭しと忙しなく昼餉ひるげの支度をしているため、気が引けるけど座ることにした。

「冬殿。もうほとんど任せても大丈夫なくらい仕事が板についてきたな。
 さすが公園で育った娘じゃ。儂の所へ嫁に来ないか?
 息子が甲斐性なしで困っておっての」

 通り土間の上がりかまちに、瀬川様と間を置いて座っている私に声を掛けてくださった。

 何ということをおっしゃる?
 孤児の私が、それも誰の子かも判らぬ娘を、歴とした武士の家の跡取り息子の嫁とは!

「あのな。うちの殿様は身分など考えるお人かの?
 そうであったら皆が、これほどまでに慕わんじゃろうて。じゃから儂ら家臣もそうであらねばならぬ。身分よりも才能・能力・努力じゃ。これがない者は幾ら身分が高くとも要らぬわい。それが大胡じゃないのか?」

 仰ることは十二分に分かるけど、まさか自分のこととなると「まさか?」ですね。

「お前さんが、その先鞭をつけなさるがよい。儂に似た朴念仁の息子じゃが、きっと良い連れ合いになると請け合うぞ。よく考えておいてくれい。
 儂は本気ぞ」

「……これから戦ですよ。そのようなことは……」

「戦の前じゃから言うたんじゃ。ちょうどよい機会じゃったからな。
 ふぉふぉふぉ」

 どう応すればよいか分からないけれど、今はとりあえず戦に勝つこと。それが殿様に命を救われ、多くの人に育てられた私の恩返し。
 私に出来ることは精一杯しようと、再度誓うのだった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 那波城
 作造
(北武蔵から村ごと移住してきた農民)


 よねが泣いて止めた。
 が、それを振り切って出てきた。

 来年正月には子供が生まれる。
 父無ててなにする気かと必死で引き留められた。

 だが武蔵をあのようにした北条がやってくる。戦ばかりしやがって! 何のために戦するんだ!? 自分たちの欲のためだけで、多くの死人やかたわ者を出しているんじゃねえ!

 大胡の殿様は「俺たちの生活」を守るための戦だとお触れを出した。
 だから皆は安全なところに隠れていて、と。その場所も安全な領地の東に用意してくれた。米を始めとして新しい村のもんはそちらへ向かった。

 だが俺は違う。

 那波城のすぐ北は俺たちの新しい村・田畑がある。
 苦土石灰や腐葉土を入れて、ようやっと稲や麦を植えられるようにまで整えたんだ。

 もう3年だ。
 今年の冬から牛馬の糞を入れて鋤き込められる。これでとんでもなく多くの収穫が出来るそうだ。その田畑を荒らしに来る北条からただ黙って逃げるだと??

 俺には出来ねぇ。

 去年から後備の訓練を受けてきた。この那波城に配属され、ただ火薬を詰めるだけの役目だが、これで北条の奴らを皆殺しにしてやる!

 隣にいる同じところに配属された同じ村の者。こいつと一緒に村を絶対に守ってやる!

 ◇ ◇ ◇ ◇

 八斗島の渡し
 蔵六
(利根川の河船衆)


 関宿からこっちに本拠を移した旦那。
 運が悪かったな。来たそばから舟を北条に持って行かれた。

 まあ、聞くところによると関宿の船も、渡しに都合の良い舟は強引にこっちへ持って来られたが。俺も預けられているこの舟で今、北条方の兵を南から北へと送っている。


「蔵六。蔵六」

 夕刻になり北岸にある船頭溜まりに旦那が顔を出した。腕を引かれて外へ出ると人気のない場所でこう言われた。

「蔵六。これから数日後、もし北で大きな音がし始めたら、川下の方へ一目散に舟を逃がしておくれ」

「?北条方の見張りがいますが。そう簡単には逃げられませんぜ」

「それは心配するなと聞きました。安心して移動してください」

 なんだか見張りは大胡の手の者が倒してくれるらしい。
 戦に巻き込まれるのは真っ平だ。逃げられるのならそれに越したことはない。

 だが何で旦那がそれを知っていて、他の奴らは知らねえんだ?
 それを訊ねると、旦那はこう言った。

「これも保険料のうちだと、大胡のお役人が教えてくれました」

 ああ、大胡はそこまで味方を守るのか。これではどんどん味方する者が増えるな。

「どうやら大胡のお殿様は、3度目の坂東武者地獄をするおつもりらしい」

 旦那がひそひそ声で言った。


 坂東武者地獄。
 最近言われ始めた、那波城落城の時と館林城攻防戦の時の北条方武者を坂東太郎(利根川)に追い詰め虐殺し、坂東太郎の水を血で赤く染めた戦のことだ。

 この3度目が行われるかもしれぬということか。

 ここに残る舟は大方沈められるんじゃろうな。


 怖や怖や。

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