首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第12章:高度成長します!

いよいよ鉄砲が活躍する世に

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 1553年9月下旬
 上野国安中城
 智円
(やっぱり頭が固い……ってこの当時はどうなんだろ?)


「で、布施の戦い? 
 怪獣大戦争はどうなったの? 
 結局」

「痛み分けと言ってよろしいかと」

 殿は新たに改築された安中城の物見櫓から西、信濃の方を見て拙僧に尋ねている。
 この櫓が一番風通しが良く、涼しいから登っているらしい。今も襟をパタパタして胸元へ風を送っている。

 安中城は先の戦後、箕輪長野が接収。
 西の備えとして西の松井田城と共に堅城として生まれ変わりつつある。

「これで村上君は完全に信濃から追い出された感じ?」

「当人自身は諦めておりませぬので、これからも戦は続きましょう。また此度は、景虎殿が意地になってしまうような戦の結果にて」

「どゆこと?」

 拙僧は、掻い摘んで戦の流れを説明した。
 越後の兵を借りた村上義清は5月、八幡の戦いで勝利、その余勢を駆り本城である葛尾城を奪還した。

 しかし7月から8月にかけて、武田晴信自身が軍を再編し進軍したことにより、続々と善光寺平南部の国衆が寝返り、9月再び景虎自身が出陣、布施の地で両者相まみえた。

 晴信は景虎の退路を断とうと、北にある荒砥城を奇襲。

 景虎は決戦を挑もうとして近づいたものの、1町以上の距離からの種子島の連続射撃により馬が驚き落馬。

 幸い大きな怪我はなかったものの、慎重を期して撤退。
 晴信も決戦を回避したことにより両者痛み分けに終わった。

「……そっか、晴信ちゃん。
 鉄砲フリークになっちゃったのね。
 長篠どうなるんだろ??
 何丁くらい使っていたか分かる?」

「確たる数は分かりませぬが、100丁には届かぬのは確かかと」

「信州は音が籠るからね~。きっと大きな音だったんじゃない? 
 狭い谷だともっとすごいと思うよ。晴信ちゃんはうまく使ったね。
 ラッキーだぁ!」

 善光寺平はまだ広いほうだ。

 だが平地で使用するよりも大きな音が響くであろう。兵は肝が据わっているであろうが、臆病な馬が驚いたか。

 大胡の馬はもう訓練で慣れているが、火薬の入手が困難な他の大名では訓練の頻度はそう上げられまい。

 馬を慣れさせるのも一苦労であろう。

「大胡にとって、とりあえずあまり影響はないね~。
 鉄砲関係はまた考えないと……シクシク。アドバンテージが少なくなっちゃった。問題は今年また怪獣が山越えて上野に襲来するかだけど、どう思う?」

 景虎殿自身が越山するかどうかか。
 本人が来なくても誰かを総大将にしての越山もあり得る。

 兵の損害はほとんどないはず。
 問題は兵の疲労と兵糧だな。春日山の蔵田屋からの情報によれば、兵糧は余裕があるはずとのこと。

 清水峠の越山となると、まだまだ整備が為されていない山道である。
 山に雪が積もり始めるのは11月中旬頃。今からではよほど強行軍せねば沼田まで来れまい。

 長岡付近の国衆を動員して強行することもあるかもしれぬが、と申し上げた。

「じゃあ。今年の秋冬の上野は僕にお任せ、と怪物君にお手紙出しておこうかな。
 おちゃけも添えてね。あと絵」

 酒はいいが、あの春画は頂けぬ。

 衆道しゅどう(男色)は武士の嗜みと言う者もいるが、人本来の生き方ではないと拙僧は思うが。

 時代が代われば、そのような事も変わるものなのか?

 しかし、拙僧は1000年経っても仏の教えは変わらぬと思う。

 (作者の主観ですが、
 日本は世界的に見て、性に関しては寛容な時代が長かったと思っています。
 明治維新から逆行したと思う)

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1553年9月下旬
 甲斐国躑躅が崎館
 春日虎綱(高坂昌信)
(武田第2期四天王の筈……)


 信州善光寺平・布施における戦についての論功行賞が終わった。儂が新たに率いることになった種子島70を持つ200の備え。

 「此度の戦において決定的な働きをした殊勲甲である」
 と、
 御屋形様から皆に告げられた時は、皆から意外とも不満ともつかぬざわめきが起きた。

 それはそうであろう。
 儂も未だに信じられぬ。
 儂の備えが
「ただの一人も討ち取っていない」
 にもかかわらず、結局のところ越後勢を退けることになったのだから。

 お味方の騎馬も幾頭か騒ぎ、落馬した者もいた。まだ種子島の訓練がほとんど出来ておらぬ。

 つい最近70丁が揃ったこともあるが、煙硝があまりにも高価で、満足に訓練が出来ておらぬ。無事に発砲できたことでも良しとせねばならぬ。

 そんな状態であるから、甲府に在中する兵馬以外は慣らすことなど出来ておらぬ。
 景虎の乗馬が竿立ちしたことも偶然であろう。
 また、なぜ騎乗が得意と聞く景虎が落馬したのかも疑問が残る。

「虎綱は残れ。話がある」

 散会した後、御屋形様が儂に声を掛けてきた。
 別室にて種子島の様子を尋ねられた。

 まだ射撃するのが精一杯で、狙い撃ちができるまでに兵を練るのは遠い先の事と申し上げた。

「煙硝が問題か……」

 結局、そこに行き着く。
 もし十分な訓練ができれば、相当な攻撃力が出る事は間違いのない事。

 あとは連射速度を何とかせねば、敵に肉薄されれば兵が、すぐに逃げ出すであろう。

 兵も徴兵した農民兵では如何ともし難い。専門の兵が毎日でも訓練せねば統制が取れぬであろう。

 そのようなことを御屋形様に申し述べた。

「此度のような音だけによる効果は次には期待できぬか。されば実際に射撃で幾人も倒さねば意味が無くなろう」

「はっ」

「その方を佐久小諸城代に任ぜようと思って居ったが、ここ甲府にて種子島を使えるようにせよ。
 あと1月で100丁まで増やす。煙硝もできるだけ手配する。また根来から鉄砲上手を幾名か雇う。的に当たるようにいたせ。
 それから実際の戦での問題を書き示し、儂に寄こせ」

 大きく頷き、部屋を後にした。
 これから毎日頭が休む時はなくなりそうじゃ。


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