首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第12章:高度成長します!

これは難しい問題だ

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 1553年8月上旬
 上野国華蔵寺神仏習合道場
 智円
(やっぱりどこまで行っても真面目な僧侶)


作麼生そもさん!!」

「説破!」

「畜生を食すると地獄に落つると決めたのは誰か?」

「釈尊なり」

「釈尊は肉を食さねば飢えて死ぬるときも食さぬのか」

「是。畜生道に落ちる事は死ぬより辛き事!」

 こりゃダメだ、という顔を殿がなされ、引き下がった。

 先ほども赤城神社に来ている伊勢神宮の祭司とも話したが、有史以来、みかどが何度も殺生禁止令と肉食禁止令を出していることを挙げ、肉食や家畜の飼育に関する許可はできぬと申しておった。

 東国では割と肉食については大らかではあるが、寺社では厳しく見ている宗派もある。

 拙僧も肉食については否定的である。
 己自身も食う気にならぬ。

 しかし殿の言葉には一理あると思う。
 この道場前に集まっているサンカや河原者、無宿者、浮浪者などをおとしめているのは、主に「穢れた職業に就いているから」が理由である。

 牛馬の死骸処理、それに伴う革加工職人も囚人の世話や汚物処理、そのような皆が嫌がる仕事をしている者がなぜ卑しめられる? 
 と殿から言われ、その仕事の上に自分の生活が成り立っていることに気付かされた。そしてその者たちを貶めていることに己が加担していることにも。

 殿の思惑はこうだ。

 少しでも食肉や牛馬の死骸への忌避を軽くして、それをきっかけとしてこれらの生きるために仕事をして、他の者の役に立っている者の地位を上げたい。

 その第一歩として殿に対して理解のある華蔵寺に集まる宗教関係者と折衝をしていたのであるが……

 全く話を聞いてもらえなかったが。

「やっぱり、難しいなぁ。
 1000年以上の歴史を変えるのは難しい。
 大体、僕も肉食自体は日本人に合っていないと思うからなぁ。
 自分がこんなだから推しが弱くなる」

「殿はご自分ではあまり肉は食しませぬな。お嫌いなのか?」

「頭が受け付けないんで~す。身体は多分受け付けるけど、これ食べちゃうといろいろ問題が……、とかね」

 よく分からないまま次の話へ移っていった。


「しょうがないや。次善の策。まずは牛乳と卵。これだけでも流通させよう。十分、鮮度を保つのと卵は加熱して食べるように指導してね。
 あとは革製品加工業者の育成補助金。それと比叡山とかは肉を食べる破戒僧が多いそうだからお布施かな。
 銭でほっぺをぶっ叩く!」

 ここに集まった襤褸を着た河原者たちに、段々と皆の考えを変えていくことを誓い、殿は解散させた。


「この人たち見ても心動かさない人って宗教者なの?
 僕は認めたくないなぁ。何か代案出してから反対してよね!!」

 あとは庭師や絵師、井戸掘り、猿楽・狂言者を贔屓ひいきにして、どんどん重用していこうなどと言いながら道場を後にした。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1553年8月中旬
 上野国吾妻郡群馬鉄山
 宮代武蔵
(18歳の男児にしては初心なのか?)


 盛大な盆踊り会場だ。

 鉱山は収穫の祭りの代わりに、落盤などで死んだ者の霊と一緒に過ごす盆が盛大な祭りとして行われる。
 筑前三池で流行り出した「炭坑節」なる歌を誰かが持ち込み、それが流行り出して今では皆総出で櫓の周りで踊る。

 櫓の上には女子衆の中でも飛び切りの別嬪べっぴんで踊りの上手い者が踊る。

 大胡で家臣の方々が雅な舞を舞う練習をしていたことを見慣れていた俺にとっては、違う世界に来た心地だ。

 俺はこっちの方がいい。
 芸も大事なんだろうが失われた人を鎮魂をする方が、遥かに大事なんではないか? 

 少なくとも、俺たち『人を殺す』仕事をする者はその気持ち、忘れてはいけないと思うのだが。

「どうです? お城代様。お楽しみになられていますかい?」

 俺の座っている桟敷さじきに鉱山奉行を兼ねている村長むらおさが銚子を持ってやってきた。
 俺に酌をしながら、この鉱山の様子を教えてくれる。

「この村はほんの10年前まで、なぁんにもない山村でした。
 山で取れるキノコや川魚などの乾物くらいしか売れるものがなかったんで。
 それが大胡のお殿様が磐梯屋さんを通して、鉄鉱石を掘る道具と鉱山に明るい人を貸してくんなさった。
 そこから一気に人が増え、今では5000人を超える大集落になりました。
 ありがたいことでごぜえます」

 やはりこのような山奥にも、政賢様の御威光が人々を明るく照らしているのだな。

 俺にも何かできないか?

村長むらおさ。何か困ったことはないか? 
 けが人が多いとか。
 山賊が出るとか」

「う~ん、思いつきませぬなぁ……
 おお、あった!」

「何に困っている? 某にできることか?」

 村長は何か言い辛いことを言うように小さな声で、

「……女子……」

「ん? 聞き取れなかった。今一度言ってくれ」

「女子が足りませぬっ! 
 男衆ばっかりで毎日、悶々としておりまするっ!! 
 皆、それで喧嘩っ早くなり!!!! 
 争いが絶えませぬぅ~」

 そういうことか……

 それは鉱山で働く女子は少なくて当たり前か。
 よし、俺が何とかしよう!

 ……思いつかなかったら……白井の真田様にお伺いを立てよう……


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