首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第11章:逆転だぁ!

ドラゴン襲来

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 1552年1月上旬
 上野国緑埜みどの郡平井金山城(現藤岡市南部)
 温井ぬくい孝昌
(古参の憲政直臣)


「後詰はまだか!?
 越後は? 
 足利は??
 白井はどうじゃ!!??」

 今日も関東管領様は吠えていらっしゃる。側近としてお仕えして、はや10有余年。戦場でもお傍に侍り護衛をしておったが、このところ益々癇癪が酷くなっておられる。
 酒量も増え、ほぼ毎日日中も常時酔っ払っておられる。

「残念ながら。
 関東管領様。そろそろここ平井を退転する際の御動座先を決めねばなりませぬ。某が考えますに白井長尾か足利長尾が……」

 がつっ。

 管領様が投げつけてきた盃が儂の額に当たった。額から流れてきた液体は酒ではなく血の味がする。黙って畳に転がっている盃を拾う。

 そこへ火急の知らせ。

「上様! 御岳城が落ちましてござります!!
 それを聞いた倉賀野16騎が、すべて北条方に寝返りましてございます!
 北条勢は余勢を駆って鬼石方面より北上中!
 さらに安中と小幡が西から進軍を始めました!!」

 これはもういかぬ。
 儂は進言をした。

「関東管領様。
 もう退転しかございませぬ。
 それとも北条へ投降いたしまするか? 
 退転先は白井(沼田南)長尾がよろしいかと。
 吾妻川と利根川が要害となっており、北条を寄せ付けますまい。
 あとは大胡が……」

「ええい! 
 大胡は嫌じゃ。
 絶対に行かぬ。
 白井に行くぞ! 
 供をいたせ! 
 旗本にもそう伝えよ!」

「それが旗本のほとんどが既に退散しておりまする。お供できる者は50名いるかどうか」

 儂もその50名には入らぬ。手土産を持って北条へ行くか。怒り狂っている馬鹿殿を尻目に「若殿」の部屋に赴く。

 温井孝昌。上杉家の世継ぎ龍若丸を連れ、北条方に寝返る。龍若丸の消息は今のところ不明。

 上杉憲当。
 北上野の白井長尾家に身を寄せる。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1552年1月下旬
 越後国春日山城
 直江景綱
(景虎の懐刀)


 頭を下げる儂の前に殿が座る。護摩を焚いたらしい残り香が、ふわっと微かに漂った。

「関東管領様は平井を退転なされたか」

「北上野の白井へと居を移されたと、軒猿の早便にて」

「雪の中ご苦労じゃったと伝えてくれ」

 殿は、床下にいるものへ聞こえるように言った。
 小姓が殿の手に盃を持たせ、酌を始めた。

 少し酒量を減らして頂かねば。
 体に障る。

 いくら言うても聞いてくださらぬ。
 まだ判断体力とも支障はないため仕方ないが、それも若いからじゃ。こうも常時飲まれては早死になさることに。

 折角この越後がまとまったのじゃ。そう簡単に身罷られては家臣領民が困る。

「先程、毘沙門天様の啓示を見た。儂が平井に関東管領様をお戻しして、坂東の武者共が再び憲当様の御前にひれ伏すさまを」

 またか。

 皆はこの啓示を有難がり、その進むべき道は神の啓示、だから義は我にあり、必ずや勝利は我が手に。
 と、盲信している。

 今までそれで勝ってきた。
 確かに天啓を得たかのような戦いぶりは
「軍神」
「越後の龍」
 と呼ぶに違わぬ。

 だが戦は戦場だけでは決まらぬ。
 これを言っても聞かぬのは、一度も負けたことがないからだ。

 確かに負けねばよい。

 が、戦をしていないときに敵は何もしないわけではない。商いに口を出し、家臣の内紛を煽り、外交調略でどんどん攻めてくる。戦は昔から変わらぬものよ。

「雪が解けたら越山する」

「お待ちくだされ。まだほとんど準備ができておりませぬ。
 戦備えは何とか致しまするが、土地勘のある者、現在の情勢、調略、すべてがまだ」

「5000も連れていけばよかろう。白井の長尾と親戚である者を選べ。それで事足りる。あとは大胡じゃ」

 大胡?

 あの大胡、北条と敵対しているはずの大胡であるが、なぜ関東管領殿を助けぬ。

「大胡は管領殿に嫌われておるらしい。いくら忠勤に励んでも無視され、此度もお役に立てぬと申しておった」

 大胡は毎月、御用商人蔵田屋を通して焼酎などを贈ってくる。殿はそれを愛飲されており、なかなかに好意的である。

 儂らにも見せてくださらぬが、贈答の際、桐の箱に特別製の肴と共に文が入っているらしい。

 どのような文なのかはおっしゃられぬ。

 しかし、ちらっ見えたとき『文ではなく』のようにも見えた。

「大胡は儂が越山すれば共に謀反者を攻めるという。
 安中と小幡だけは許さぬとも申して居る。最初に裏切った那波は既に誅殺した。後は首謀者のあの者だと。長野一族は救ってくれとも」

 なにやら言いくるめられている気もするが、実際の情勢には合っている。さらに言えば大胡は跡を継いだ政賢殿がまだ負けたことがない。
 そればかりか寡兵で北条の大軍を3度に渡り退けた。
 敵士分には厳しいが、足軽雑兵・領民には寛大で大変慕われていると聞く。

 まさに殿の好みの国衆であろう。
 好意をもって当然だ。

「4月になったら、出陣だ。手配せよ」

 黙って頭を下げる。
 本来ならば、景信様を旗頭に宇佐美殿あたりを付けて越山させれば済むもの。今回は北上野の豪族と近しい、越後の国衆からの要請もある。
 だからご自身で動くのであろう。

 しかし、腰の軽いのは殿の良いところでもあり、危なっかしいところでもある。儂らが周りを支えるしかあるまいな。

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