77 / 339
第9章:調略でジワイジワリと
みんなで巡礼だ~
しおりを挟む
1550年5月下旬
武蔵国松山
米(こめではない。お米が食べられる生活を夢見て親がつけてくれた)
櫃に稗があと一握りしか残っていない。
昨年の秋、米がいつもの半分しか取れなかった。その収穫も半分以上が松山に来た新しいお侍さんに持って行かれた。
冬の小麦を植えたけど足軽にとられた村の者が多く、あまりとれなかった。その収穫も残った米と一緒にほとんど別のお侍に持って行かれた。
もう種籾すらない。
わたしらはどう生きろっていうんじゃ。
「米。米をもらってきたぞ!」
夫婦になってまだ半年の作造が勢い込んで家に入ってきた。
「村長さんから借りたのか?」
「いや、村の社に来ている御師さんと赤城神社の御札を配りに来た歩き巫女殿が、皆に御札と米を配ってるんだ!」
手にした麻の袋は2~3升は入っているのか。
重そうだ。
「それでな。これは絶対に秘密じゃが……
赤城神社に参拝すればもっともっと米をくれると! 銭もじゃ。
そして……
上野に移住すれば赤城の麓から八斗島の渡しまでの間のどこでも土地をくれるそうじゃ!
年貢も4割。それ以上は取らぬとのこと。戦にも駆り出されんと!」
興奮して、私の肩をグイッと掴む。
痛い。
本当か?
そんなうまい話、あるわけねえ。
でも、痛いという事は夢じゃない。
「でも、逃散は掟破り。ひどい罰があるんじゃねえか?」
「それがな。笑っちまうじゃねえか。
罰を与える村長まで移住を考えているそうじゃ。皆で赤城神社に参拝する風を装って移住しちまおうと話が盛り上がっておる」
生まれた村を離れたくねぇ。
何処へ行くのかわからん。本当に土地をくれるのか、心配だ。けど、このままここにいてももう食料がねえ。
村の衆全員で行けば怖くねえか……
その日のうちに、うちの家族も行きたいと皆に言うことになった。
◇ ◇ ◇ ◇
1550年10月上旬
信濃国砥石城
矢沢綱頼(暗い戦はやめにしよ~ぜ、真田一族。こっちへ来いヤァ、と政賢)
ひどい戦じゃった。
断崖を登って仕寄りをしてくる武田勢に、煮え湯落石あらゆるものを投げつけ、一方的に勝利した。
人が石ころの様に落ちていき、そして虫けらのように潰れていった。
その後村上殿が2000余りの兵を連れて武田勢の背後より攻撃、こちらも討って出て挟撃したため武田の兵の血が大地を覆った。
討ち取った数、数百。手負いは2000余りに上るらしい。
噂によれば晴信も手傷を負ったそうだ。当分、甲斐より出てこれまい。
兄者が
「戦が終わったら読んでくれい」
と、儂に手渡した手紙を読む。
「勝利より悲惨なものは負け戦しかない。儂らが勝つのは大したことではない。じゃが負けたときはだれも匿ってくれはしない。そんな気持ちで兄弟、戦のない世を作らぬか? 儂らの子ら孫らに上田の野を思うさま駆けさせたいんじゃ」
筆に力が籠った文字を見る。
先に渡した佐久の皆への手紙を見せて家族とともに暮らしたいものがいれば、赤城神社に巡礼の態を装い、少しずつ移動したらどうじゃとも書かれていた。
希望する者は、兵・百姓・職人、あらゆるものになれるという。子らにも習い事を無料でさせるそうじゃ。
こんな夢のような話があるのか?
これを考えつき実行している大胡政賢殿に益々会いたくなった。
まずは、今夜から元志賀城の者のうち、主だったものに手紙を見せてみようか。しかし、儂も仕官するとなれば、手土産が必要。
ここは本腰を入れようか。
まずは自分の決意を確とせねばならぬ。
儂は先祖代々の仏壇の前に座り、眼をつぶった。
武蔵国松山
米(こめではない。お米が食べられる生活を夢見て親がつけてくれた)
櫃に稗があと一握りしか残っていない。
昨年の秋、米がいつもの半分しか取れなかった。その収穫も半分以上が松山に来た新しいお侍さんに持って行かれた。
冬の小麦を植えたけど足軽にとられた村の者が多く、あまりとれなかった。その収穫も残った米と一緒にほとんど別のお侍に持って行かれた。
もう種籾すらない。
わたしらはどう生きろっていうんじゃ。
「米。米をもらってきたぞ!」
夫婦になってまだ半年の作造が勢い込んで家に入ってきた。
「村長さんから借りたのか?」
「いや、村の社に来ている御師さんと赤城神社の御札を配りに来た歩き巫女殿が、皆に御札と米を配ってるんだ!」
手にした麻の袋は2~3升は入っているのか。
重そうだ。
「それでな。これは絶対に秘密じゃが……
赤城神社に参拝すればもっともっと米をくれると! 銭もじゃ。
そして……
上野に移住すれば赤城の麓から八斗島の渡しまでの間のどこでも土地をくれるそうじゃ!
年貢も4割。それ以上は取らぬとのこと。戦にも駆り出されんと!」
興奮して、私の肩をグイッと掴む。
痛い。
本当か?
そんなうまい話、あるわけねえ。
でも、痛いという事は夢じゃない。
「でも、逃散は掟破り。ひどい罰があるんじゃねえか?」
「それがな。笑っちまうじゃねえか。
罰を与える村長まで移住を考えているそうじゃ。皆で赤城神社に参拝する風を装って移住しちまおうと話が盛り上がっておる」
生まれた村を離れたくねぇ。
何処へ行くのかわからん。本当に土地をくれるのか、心配だ。けど、このままここにいてももう食料がねえ。
村の衆全員で行けば怖くねえか……
その日のうちに、うちの家族も行きたいと皆に言うことになった。
◇ ◇ ◇ ◇
1550年10月上旬
信濃国砥石城
矢沢綱頼(暗い戦はやめにしよ~ぜ、真田一族。こっちへ来いヤァ、と政賢)
ひどい戦じゃった。
断崖を登って仕寄りをしてくる武田勢に、煮え湯落石あらゆるものを投げつけ、一方的に勝利した。
人が石ころの様に落ちていき、そして虫けらのように潰れていった。
その後村上殿が2000余りの兵を連れて武田勢の背後より攻撃、こちらも討って出て挟撃したため武田の兵の血が大地を覆った。
討ち取った数、数百。手負いは2000余りに上るらしい。
噂によれば晴信も手傷を負ったそうだ。当分、甲斐より出てこれまい。
兄者が
「戦が終わったら読んでくれい」
と、儂に手渡した手紙を読む。
「勝利より悲惨なものは負け戦しかない。儂らが勝つのは大したことではない。じゃが負けたときはだれも匿ってくれはしない。そんな気持ちで兄弟、戦のない世を作らぬか? 儂らの子ら孫らに上田の野を思うさま駆けさせたいんじゃ」
筆に力が籠った文字を見る。
先に渡した佐久の皆への手紙を見せて家族とともに暮らしたいものがいれば、赤城神社に巡礼の態を装い、少しずつ移動したらどうじゃとも書かれていた。
希望する者は、兵・百姓・職人、あらゆるものになれるという。子らにも習い事を無料でさせるそうじゃ。
こんな夢のような話があるのか?
これを考えつき実行している大胡政賢殿に益々会いたくなった。
まずは、今夜から元志賀城の者のうち、主だったものに手紙を見せてみようか。しかし、儂も仕官するとなれば、手土産が必要。
ここは本腰を入れようか。
まずは自分の決意を確とせねばならぬ。
儂は先祖代々の仏壇の前に座り、眼をつぶった。
0
お気に入りに追加
67
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版
カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。
そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。
勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か?
いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。
史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。
運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。
もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。
明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。
結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。
この話はそんな奇妙なコメディである。
設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。
特に序盤は有名武将は登場しません。
不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
魔法省魔道具研究員クロエ
大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。
その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。
エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。
人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。
大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。
本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。
小説家になろうにも掲載してます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~
愛山雄町
ファンタジー
エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。
彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。
彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。
しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。
そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。
しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。
更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。
彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。
マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。
彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。
■■■
あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
だってお義姉様が
砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。
ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると……
他サイトでも掲載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる