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第8章:嫁取り物語~
いよいよモテキ?
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1549年1月16日
上野国大胡城
智円(少しだけ明るくなってきた?外交担当)
今宵もまた昨夜に引き続き、今後の方針を決める会議。
殿の隣には縦長の和紙に
「目指せ。二枚舌外交」
と書かれた物が吊るしてある。
「殿、二枚舌外交は危険ではござらぬか?」
何度も殿に問うてきた、当たり前の事を再び秀胤殿が口に出す。
現在、殿に縁談が舞い込んでいる。
それも二つ!
一つは箕輪長野氏から。
もう一つはこともあろうに、
北条氏康からだ!
殿の実力を知って戦うよりも懐柔に来たのであろう。
それと同時に同盟……
いいや臣従に近い条件での和睦を結ぶこととなろう。仮の条件として、上野国の旗頭の地位を約束するという。
普通の国衆ならば、北条家臣の娘を氏康の養子とした嫁であろうと舞い上がって縁談を進めるであろう。
しかし殿は一切、北条に膝を屈する気はないと宣言している。その上で北条に受けるとの返事を出そうとしているのだ。
「返事を出してその後、どういたす所存であろうか?」
「半年、引き伸ばす」
「それは聞き申した。軍備が整うまで時間を稼ぐとも」
使者が来るたび、言い訳を伝えて輿入れを伸ばす。もちろん同盟は組まず、臣従もしないで時間を稼ぐのだ。
「しかし、それでは北条家臣が怒り狂うでありましょう。世間も大胡は信用おけぬと。縁の薄い由良などの心は離れていきまする」
秀胤殿が極めて常識的な発言をする。
これが一番殿に聞かせたい、普通の者の考え方だ。
「それに嫁入りする覚悟ができた女子はいかがなさる? 半年も待たされて、もはや傷物とみなされるやも」
これを聞くと殿は、
「うううううう」と唸って、髷をちぎりそうになるまで引っ張る。
「お嫁さんは業政ちゃんか、由良くんのとこから取るのが定石!
でもね……どうしても時間稼ぎしたい!
あと2年、せめて1年、半年でもいい!
1年後なら天候も味方すると思う!」
鉄砲隊の事を言っているのであろう。あと2年もすれば全兵への訓練配備が整う。兵も2000近くを運用できよう。
「本当にお嫁さんに来てもらって、臣従や~だよっ、っていうのは?」
「無理です!」
「ですよね~」
大体、縁組にて他勢力との結びつきを強めることもできるが、それが外交の幅を狭める事にもなる。
「殿、今一度確認いたしたい。殿はなぜ北条に楯突きたいのでござるか? そして関東管領家と縁切りするお気持ちはございまするか?」
殿は顎を捻じり天井を向いてしばし考えた後、
「北条に取り込まれると、多分、北からと西からの侵入者との狭間で良いように使われ、摺りつぶされる。ここは草刈り場だからねぇ」
北とは越後の長尾の事か?
昨年末、晴景殿に代わり守護代となった長尾景虎殿か?
大層な戦上手とか。
西はもちろん武田晴信殿でござろう。
こちらも戦上手。
「では、長尾殿と武田殿に臣従することもござらぬな」
「うん。それもない! 同じことです~」
拳を握り、はっきりと断言する殿。
「では、管領の上杉家とはいかがなさる?」
一瞬の溜めをおいてから、殿は立ち上がり、
「この上野国から追い出しちゃう!!
のだのだのだ~~~。
できればこの世からも追い出せるといいなぁ~、なんちゃって。
ちょっとだけ本気デス!」
追い出すか!
首を取れば後顧の憂いはないが、逆賊となろう。
かといって主人風を吹れても困る。未だ、主従の関係は崩れておらず、それに縛られている豪族国衆が多い。
外交がしにくい。
「そのためにも時間が欲しいし、東の守りも捨てがたい。でも、西上野の要、業政ちゃんも押さえておきたい~」
「それはわがままと申すもの」
(レアコレクターの血が……ハーレムのゆめがぁああ)
何かの妄想をしているらしい殿。
外交は戦争の一形態、外交の延長が戦争とも言っていた殿が、何を迷っていらっしゃる。
「然らば、時間が稼げれば、北条の嫁を取るという選択肢はなくなりまするな」
「……そうなるねぇ。しくしく。初のモテキかと思ったのに……」
拙僧は問題を絞っていった。
「時間が欲しい。
これを解決する方法を考えること。それから西と東、どちらを優先的に守るか。どちらが大胡にとって戦力となるか?
でござるな」
「あ~、あとね。
そこから外交、調略がしやすい方ね。特にあいつを追い出す布石となる方」
戯れていても頭はしっかり動いていらっしゃる。ゴロゴロと畳の上を転がりながらも真面目に答える殿。
安心した。
その時、秀胤殿が発言した。
「既に上野の国衆は管領家から心が離れて、北条方に靡くのは時間の問題なのでは? ではその者たちに上杉殿を追い出していただくのでしょうか?
その時わが大胡はどうすればよいかという事でござるな?」
「そうそう~。たねちゃん切れるね~♪
北条に寝返らないようにするよりも中立を保って、管領が出て行ったら上野を乗っ取っちゃう。
これがもくひょ~。
そのための布石がお嫁さんなのです!」
だんだんわかってきた。
時間を稼いで、できるだけ他の国衆の手で上杉を放逐し、その後上野の国衆を糾合する。
そのためには求心力のある西の長野業政、東の由良成繁を押さえたい。このどちらかを姻戚関係として引き入れる。
由良は縁が薄いからこちらを優先したいが、業政殿がどう動くかという事であろう。
では……
「時間稼ぎは拙僧が何とか致す。殿は業政殿と膝詰めにて腹を割ってお話いたせばいかが?」
「それしかないよね~。で、時間稼ぎのあてはあるのん?」
拙僧は力を込めて言う。
「是。里見を動かし申す」
上野国大胡城
智円(少しだけ明るくなってきた?外交担当)
今宵もまた昨夜に引き続き、今後の方針を決める会議。
殿の隣には縦長の和紙に
「目指せ。二枚舌外交」
と書かれた物が吊るしてある。
「殿、二枚舌外交は危険ではござらぬか?」
何度も殿に問うてきた、当たり前の事を再び秀胤殿が口に出す。
現在、殿に縁談が舞い込んでいる。
それも二つ!
一つは箕輪長野氏から。
もう一つはこともあろうに、
北条氏康からだ!
殿の実力を知って戦うよりも懐柔に来たのであろう。
それと同時に同盟……
いいや臣従に近い条件での和睦を結ぶこととなろう。仮の条件として、上野国の旗頭の地位を約束するという。
普通の国衆ならば、北条家臣の娘を氏康の養子とした嫁であろうと舞い上がって縁談を進めるであろう。
しかし殿は一切、北条に膝を屈する気はないと宣言している。その上で北条に受けるとの返事を出そうとしているのだ。
「返事を出してその後、どういたす所存であろうか?」
「半年、引き伸ばす」
「それは聞き申した。軍備が整うまで時間を稼ぐとも」
使者が来るたび、言い訳を伝えて輿入れを伸ばす。もちろん同盟は組まず、臣従もしないで時間を稼ぐのだ。
「しかし、それでは北条家臣が怒り狂うでありましょう。世間も大胡は信用おけぬと。縁の薄い由良などの心は離れていきまする」
秀胤殿が極めて常識的な発言をする。
これが一番殿に聞かせたい、普通の者の考え方だ。
「それに嫁入りする覚悟ができた女子はいかがなさる? 半年も待たされて、もはや傷物とみなされるやも」
これを聞くと殿は、
「うううううう」と唸って、髷をちぎりそうになるまで引っ張る。
「お嫁さんは業政ちゃんか、由良くんのとこから取るのが定石!
でもね……どうしても時間稼ぎしたい!
あと2年、せめて1年、半年でもいい!
1年後なら天候も味方すると思う!」
鉄砲隊の事を言っているのであろう。あと2年もすれば全兵への訓練配備が整う。兵も2000近くを運用できよう。
「本当にお嫁さんに来てもらって、臣従や~だよっ、っていうのは?」
「無理です!」
「ですよね~」
大体、縁組にて他勢力との結びつきを強めることもできるが、それが外交の幅を狭める事にもなる。
「殿、今一度確認いたしたい。殿はなぜ北条に楯突きたいのでござるか? そして関東管領家と縁切りするお気持ちはございまするか?」
殿は顎を捻じり天井を向いてしばし考えた後、
「北条に取り込まれると、多分、北からと西からの侵入者との狭間で良いように使われ、摺りつぶされる。ここは草刈り場だからねぇ」
北とは越後の長尾の事か?
昨年末、晴景殿に代わり守護代となった長尾景虎殿か?
大層な戦上手とか。
西はもちろん武田晴信殿でござろう。
こちらも戦上手。
「では、長尾殿と武田殿に臣従することもござらぬな」
「うん。それもない! 同じことです~」
拳を握り、はっきりと断言する殿。
「では、管領の上杉家とはいかがなさる?」
一瞬の溜めをおいてから、殿は立ち上がり、
「この上野国から追い出しちゃう!!
のだのだのだ~~~。
できればこの世からも追い出せるといいなぁ~、なんちゃって。
ちょっとだけ本気デス!」
追い出すか!
首を取れば後顧の憂いはないが、逆賊となろう。
かといって主人風を吹れても困る。未だ、主従の関係は崩れておらず、それに縛られている豪族国衆が多い。
外交がしにくい。
「そのためにも時間が欲しいし、東の守りも捨てがたい。でも、西上野の要、業政ちゃんも押さえておきたい~」
「それはわがままと申すもの」
(レアコレクターの血が……ハーレムのゆめがぁああ)
何かの妄想をしているらしい殿。
外交は戦争の一形態、外交の延長が戦争とも言っていた殿が、何を迷っていらっしゃる。
「然らば、時間が稼げれば、北条の嫁を取るという選択肢はなくなりまするな」
「……そうなるねぇ。しくしく。初のモテキかと思ったのに……」
拙僧は問題を絞っていった。
「時間が欲しい。
これを解決する方法を考えること。それから西と東、どちらを優先的に守るか。どちらが大胡にとって戦力となるか?
でござるな」
「あ~、あとね。
そこから外交、調略がしやすい方ね。特にあいつを追い出す布石となる方」
戯れていても頭はしっかり動いていらっしゃる。ゴロゴロと畳の上を転がりながらも真面目に答える殿。
安心した。
その時、秀胤殿が発言した。
「既に上野の国衆は管領家から心が離れて、北条方に靡くのは時間の問題なのでは? ではその者たちに上杉殿を追い出していただくのでしょうか?
その時わが大胡はどうすればよいかという事でござるな?」
「そうそう~。たねちゃん切れるね~♪
北条に寝返らないようにするよりも中立を保って、管領が出て行ったら上野を乗っ取っちゃう。
これがもくひょ~。
そのための布石がお嫁さんなのです!」
だんだんわかってきた。
時間を稼いで、できるだけ他の国衆の手で上杉を放逐し、その後上野の国衆を糾合する。
そのためには求心力のある西の長野業政、東の由良成繁を押さえたい。このどちらかを姻戚関係として引き入れる。
由良は縁が薄いからこちらを優先したいが、業政殿がどう動くかという事であろう。
では……
「時間稼ぎは拙僧が何とか致す。殿は業政殿と膝詰めにて腹を割ってお話いたせばいかが?」
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