首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

文字の大きさ
上 下
65 / 339
第7章:最初の首取りです!

戦を究める人

しおりを挟む
 1548年8月30日午の刻(午前11時)
 赤石砦東方雑木林
 上泉伊勢守信綱
(政賢に夢の中の戦場へ引きずり込まれた哀れな剣聖です)


 夢を見ているようだ。
 自分の人生が違う方向に捻じ曲げられた気がする。
 しかし、悪い気はしない。これも道を究めるというものだろう。

 6年前までは、剣の奥義を極めたい。
 そのためには諸国の強者の剣技と試合わせ、弟子も取り多くの者に己が剣術を伝授する。だからいつかは出奔せねばならぬと思うていた。

 先の大胡の殿が若殿と一緒に討ち死に為された時が潮時かとも思った。
 だが自分の至らなさから逃げる気かと自問し、悶々とした毎日を過ごす儂の前に奇妙な童が表れた。剣術は全くできず。
 足腰もふにゃふにゃでよく転ぶ。

 しかし剣の太刀筋を理解し説明できる。
 戦場での剣。
 槍。
 弓の使い方、長所短所を的確に言い当てる。
 頭だけ別の生き物の様だ。
 儂は次第にその童に魅入られるのを感じた。

 大胡松風丸、いや大胡政賢、我が殿だ。
 儂の人生を捻じ曲げたお人の名前だ。


「お師匠。そろそろ潮時かと」

 弟子の神後が声を掛けてきた。
 意識を引き戻された。

 いかぬ。
 戦場で呆けていては皆に示しがつかぬ。

 砦の矢倉から火矢が放たれた。
 突入の合図だ。

「皆の者。心は落ちついているか? 
 深呼吸せよ。丹田に気を溜めよ」

 皆が大きく息を吸い、そして吐いた。

「よし! 参る!」

 ここは南からの侵入を針金で防いでいる松林の中。
 下生えに隠れていた儂らが立ち上がると、目の前1町にて激戦が繰り広げられていた。

 那波勢400と是政隊200。
 その脇を固める招集兵200。

 招集兵は時折弩弓を射かける。

 もう双方、幾人もの脱落者が足元に転がっている。
 那波勢が圧倒的に多い。
 このままでも押し切れると思うが、それだけでは戦には勝てぬ。儂の指揮する斬込隊50は、手槍を脇に掻い込みひたすら駆けた。

 あと10間の所まで来てやっと敵が気付く。

「敵方50! 右手後方より奇襲っ!! 
 槍衾やりぶすま急げぇ~!!」

 もう遅い。
 長柄が揃うまでにはたどり着く。
 那波宗俊の首まであと3間。

「上泉伊勢守信綱! 推して参る!! 那波殿お覚悟!!!!」

 儂の戦道が始まった。
 極めるまで止まらない。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日同刻
 赤石砦東正面
 大胡是政
(最大火力を誇る部隊も弾が尽きれば走るだけという部隊を率いる足の速い人です)


 那波勢が崩壊した。

 俺の隊と死闘を繰り広げている時に、東より上泉殿の無傷の斬込隊が突っ込んだ。完全に士気が崩壊した。既に敗勢濃厚だった上に奇襲を喰らい、逃げ惑う敵兵。
 その背後を容赦なく追撃する。

 大将那波宗俊殿は落馬後、姿が見えぬ。

 まあいい、捨て置いて先に進撃しよう。もう兵たちは体力が残っていない。だが戦う必要はない。

 このまま一直線に敵本陣の東へ向かう。
 ただそれだけだ。


 殿から
「戦は気合! 
 気合だ~気合いだ~~! 
 気合負けした方が負け~。
 だから相手の士気を砕けば、どんなに大軍でも烏合の衆で~す♪」
 と言われた。

 なるほど。

 川越の時のお味方がそうであった。
 今も、我が隊よりも人数は多いにもかかわらず逃げ散っていく那波勢。今度、皆で気合の入れ方を、どこぞの寺に指南してもらおう。



 地図です
 https://kakuyomu.jp/users/pon_zu/news/16816927861987210207

 ◇ ◇ ◇ ◇

 同日未の刻(午後2時)
 垪和左衛門太夫
(今回もまた本陣を薄くしてしまう、おつむのちょっと足りないかもしれない武将です)


 右翼が崩れた。
 宗茂の奴、焦りすぎたか? 
 高々2~300の敵に700が追い散らされておる。

 もう那波一郡、奴では支えられぬの。あれでは。

 その東門から出た兵300以上が南下してくる。これに当てるのは……本陣の500か?
 いや、目の前で敵の主力と思われる、あの巨体の武者が猛威を振るっている。

 成田の軍勢が殆ど千切れた。大将の泰季殿も行方知れず。

 敵は、もう本陣目の前まで来ている。ここで本陣1000から兵を出すのはまずかろう。

 既に予備として控えていた500は前備えに手当してしまった。
 後備え500を差し向ける。

 前方より
「垪和左衛門太夫! その首、おいていけ~~~~!!!!」
 と、大音声で叫ぶ巨躯の鎧武者が近づいてくる。

 槍の一振りで複数の足軽が吹っ飛ぶ。もう矢が残っていないのが口惜しい。誰か止める豪の者はいないのか??

「殿! 某が参る! 御免!!」

 馬周りの者の中で一番の手練れが馬に飛び乗りそのまま突進する。

 巨躯の武者に、槍をつけようとしたその時、巨躯に似合わない軽業で身をかわし、そのまま槍を振り回し、あろうことか馬周りの強者を馬ごと吹っ飛ばした!

「まだまだ、物足りぬわ~~。
 もっと強い奴はおらんか~? 
 北条も大したことないの~~~~!!」

 本陣も委縮し始めた。
 人は超人的な者には原初的な恐れを抱く。

 まずい。
 崩れる!

「殿! 
 左手より、左翼戻ってまいります!! 
 助かった!!」

 目を凝らすと左翼700がこちらの窮状にいたたまれず命令無視をしてまで駆けつけてきた。

 儂の失策じゃ。
 もっと早く引かせればよかったか?

 じゃが、新手の出現に敵の士気も衰えたと見た。

「支えよ~~~~っ!
 力の限り支えよ~~~!!
 左手より新手1000が横槍をつけるまで支えよ~~~~!」

 力の限り叫んでいた。
 このまま前面の敵が崩れれば勝ちじゃ。全てが取り戻せる。


 そう思うた……


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

国虎の楽隠居への野望・十七ヶ国版

カバタ山
ファンタジー
信長以前の戦国時代の畿内。 そこでは「両細川の乱」と呼ばれる、細川京兆家を巡る同族の血で血を洗う争いが続いていた。 勝者は細川 氏綱か? それとも三好 長慶か? いや、本当の勝者は陸の孤島とも言われる土佐国安芸の地に生を受けた現代からの転生者であった。 史実通りならば土佐の出来人、長宗我部 元親に踏み台とされる武将「安芸 国虎」。 運命に立ち向かわんと足掻いた結果、土佐は勿論西日本を席巻する勢力へと成り上がる。 もう一人の転生者、安田 親信がその偉業を裏から支えていた。 明日にも楽隠居をしたいと借金返済のために商いに精を出す安芸 国虎と、安芸 国虎に天下を取らせたいと暗躍する安田 親信。 結果、多くの人を巻き込み、人生を狂わせ、後へは引けない所へ引き摺られていく。 この話はそんな奇妙なコメディである。 設定はガバガバです。間違って書いている箇所もあるかも知れません。 特に序盤は有名武将は登場しません。 不定期更新。合間に書く作品なので更新は遅いです。

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

【完結】サキュバスでもいいの?

月狂 紫乃/月狂 四郎
恋愛
【第18回恋愛小説大賞参加作品】 勇者のもとへハニートラップ要員として送り込まれたサキュバスのメルがイケメン魔王のゾルムディアと勇者アルフォンソ・ツクモの間で揺れる話です。

グライフトゥルム戦記~微笑みの軍師マティアスの救国戦略~

愛山雄町
ファンタジー
 エンデラント大陸最古の王国、グライフトゥルム王国の英雄の一人である、マティアス・フォン・ラウシェンバッハは転生者である。  彼は類い稀なる知力と予知能力を持つと言われるほどの先見性から、“知将マティアス”や“千里眼のマティアス”と呼ばれることになる。  彼は大陸最強の軍事国家ゾルダート帝国や狂信的な宗教国家レヒト法国の侵略に対し、優柔不断な国王や獅子身中の虫である大貴族の有形無形の妨害にあいながらも、旧態依然とした王国軍の近代化を図りつつ、敵国に対して謀略を仕掛け、危機的な状況を回避する。  しかし、宿敵である帝国には軍事と政治の天才が生まれ、更に謎の暗殺者集団“夜(ナハト)”や目的のためなら手段を選ばぬ魔導師集団“真理の探究者”など一筋縄ではいかぬ敵たちが次々と現れる。  そんな敵たちとの死闘に際しても、絶対の自信の表れとも言える余裕の笑みを浮かべながら策を献じたことから、“微笑みの軍師”とも呼ばれていた。  しかし、マティアスは日本での記憶を持った一般人に過ぎなかった。彼は情報分析とプレゼンテーション能力こそ、この世界の人間より優れていたものの、軍事に関する知識は小説や映画などから得たレベルのものしか持っていなかった。  更に彼は生まれつき身体が弱く、武術も魔導の才もないというハンディキャップを抱えていた。また、日本で得た知識を使った技術革新も、世界を崩壊させる危険な技術として封じられてしまう。  彼の代名詞である“微笑み”も単に苦し紛れの策に対する苦笑に過ぎなかった。  マティアスは愛する家族や仲間を守るため、大賢者とその配下の凄腕間者集団の力を借りつつ、優秀な友人たちと力を合わせて強大な敵と戦うことを決意する。  彼は情報の重要性を誰よりも重視し、巧みに情報を利用した謀略で敵を混乱させ、更に戦場では敵の意表を突く戦術を駆使して勝利に貢献していく……。 ■■■  あらすじにある通り、主人公にあるのは日本で得た中途半端な知識のみで、チートに類する卓越した能力はありません。基本的には政略・謀略・軍略といったシリアスな話が主となる予定で、恋愛要素は少なめ、ハーレム要素はもちろんありません。前半は裏方に徹して情報収集や情報操作を行うため、主人公が出てくる戦闘シーンはほとんどありません。 ■■■  小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも掲載しております。

記憶なし、魔力ゼロのおっさんファンタジー

コーヒー微糖派
ファンタジー
 勇者と魔王の戦いの舞台となっていた、"ルクガイア王国"  その戦いは多くの犠牲を払った激戦の末に勇者達、人類の勝利となった。  そんなところに現れた一人の中年男性。  記憶もなく、魔力もゼロ。  自分の名前も分からないおっさんとその仲間たちが織り成すファンタジー……っぽい物語。  記憶喪失だが、腕っぷしだけは強い中年主人公。同じく魔力ゼロとなってしまった元魔法使い。時々訪れる恋模様。やたらと癖の強い盗賊団を始めとする人々と紡がれる絆。  その先に待っているのは"失われた過去"か、"新たなる未来"か。 ◆◆◆  元々は私が昔に自作ゲームのシナリオとして考えていたものを文章に起こしたものです。  小説完全初心者ですが、よろしくお願いします。 ※なお、この物語に出てくる格闘用語についてはあくまでフィクションです。 表紙画像は草食動物様に作成していただきました。この場を借りて感謝いたします。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

処理中です...