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第7章:最初の首取りです!
法則は破るのが楽しい
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1548年8月30日午の刻(午前11時)
赤石砦南方4町北条方本陣
垪和左衛門太夫
(なんだかおかしいぞ大胡の奴らは。と思い始めた先手衆大将)
総掛かりの法螺貝を鳴らして四半刻(30分)。まだ長柄での激突が始まっていない。
弓合わせでこちらが押されている。
だが、弓兵もこちらが700と多いはずだ。南正面には400もの弓兵を配備した。ここにいる大胡はせいぜい1000。そのうち弓兵は200もいればいいほうだ。
弓兵の養成には時間がかかる。一人前に射撃ができるようになるまで1年。速射や狙い撃ちができるようになるには数年はかかる。
一昨年の川越と松山の戦では150しか実戦に参加していない。
その時にも弓兵はいなかった。弩弓を少しばかり使っていたようだが、弓兵をそう多く用意すれば、長柄での近接戦で押し込まれるのは見えている。
そこまで馬鹿ではないはずだが……
しかし!
目の前に繰り広げられているのは何なのだ? 1町の距離での弓合わせ、先鋒の成田には200の弓兵がいる。それが押されている。押されるというよりも見る見るうちに撃ち減らされていく。
矢盾を並べ、その陰に隠れつつ、時折立ち上がり狙いをつけて矢を放つ。しかし敵はその立ち上がって狙いをつけている間に、矢の雨を降らせてくる。
そんな敵の攻撃に手傷を負うものが続出している。
先ほど使い番を走らせ、こちらも矢の雨を降らせよと伝えたがすぐに戻ってきて「既に矢が尽きてきました。矢を送られたし」とぬかしおった。
矢を何本用意したのだ!?
一人30本以上用意するのが攻城の常。
それを言うたら「もう25本以上使った」とのこと。
弓弦も切れていると。
これ以上は、半里後方の小荷駄から持ってこねばならぬ。
ううむ。
それに比べ大胡の矢の雨は益々激しくなっておる。
一体何本用意したのだ?
敵の弓兵は矢盾に隠れて殆ど身をさらさない。
どうやら弩弓を使っているようだが、弩弓はこれほど連射ができようはずがない。これは大量の弩弓を用意しているか、弓弦を引く役のものを用意しているか。こちらが1本矢を放つ間に敵は2~3本放っている。
もう軽く100本を消費しているはず。
そろそろ仕寄る頃合いか。
矢盾を吹き飛ばした大型の弩弓も、先鋒が「あれが当たると兵が委縮します!」と言うておったが、当たらなければどうということはない。
すこし損害が出ようとも、間合いが遠い時から散開すれば関係ない。
こちらは数で圧倒すればよい。
松山の時のような伏兵はできぬ。前面にしか敵がおらぬとわかっている戦場。長柄で勝負をつける。
気になるのは松山でやられた長柄の列の合間から放つ弩弓への対策が奏功するか。
それから、あの不気味な盾と段びらを装備した備えがどこで出てくるか。
これは注意せねばならん。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
赤石砦東部正面
是政隊弩弓小隊背後
大胡是政
(ランチェスターの法則を平気で無視する大胡指揮官)
矢盾の列、ほんの少しの隙間から弩弓を放つ。しかし兵が弩弓を保持しているわけではない。角度をつけた台座に次々と配置。敵弓兵が姿を見せたときに合わせて引き金を落とした後、すぐに新しい弩弓に入れ替える。
その後ろでは臨時に招集した「農民兵」が弩弓に矢を番えている。
狙いはあらかじめ地面に差している目印を使い、おおよその距離を測り角度を決めている。
盲撃ちだ。
矢は前にいる常備兵1人に付き500本用意した。
この正面だけで10万本だ!
鏃は鉄の大量生産で何とかなった。
しかし問題は矢の本体である細竹の大量入手だった。いくら長弓より矢の長さが短いとはいえ、30万本以上の数。しかしこれはサンカの手を借りて時間をかけ、それこそ日ノ本中の竹藪から取ってきた。
これを轆轤式の工作機械で加工する仕組みを、武具周旋方の活躍で完成させたのだ。鏃の接合も爹児で補強したので短時間で済んだ。
北条方は短期決戦を考えているであろうから、それほど多くの矢を持ってくるとは思えない。すでに手持ちの矢が尽きている頃だろう。
そろそろ仕掛けてくるはずだ。
来た。
矢盾に隠れて仕寄ってくる。矢盾は思ったより少ない。
いいぞ。
「よし、手順通り、訓練通り。
敵方を針山に変え血の河を作れ!」
兵はあらかじめ、声を出さないように訓練してある。
親指を上に突き立てる、応という意思を示してくる。
さむずあっぷ、と言うそうだ。
振り返り矢倉に上を見ると、殿も同じように手で合図している。
あと少しだ。
敵は大型の弩弓を恐れて、早めに立ち上がり突進してくるだろう。
こちらはあらかじめ「全ての」弩弓、4000丁を東に向けて配置し、いつでも放てるように準備するだけだ。20間まで仕寄った敵方中央(東に配置された)先鋒250が立ち上がり、一斉に突撃してくる。
北の200も同様に迫ってくるが、こちらは足元に凸凹と撒き菱が所々に散在している為、動きは鈍くなるはずだ。
南の那波本陣は矢倉への牽制で突出できずにいる。
殿の計算通りだ。
もう敵は5間先までに迫っている。
そろそろ行くぞ!
「是政隊!
敵東部正面中央、全力射撃!
放て~~~~っ!!!!」
某の合図とともに弓4000本が、敵兵250へ目掛けて飛ぶ。
5間(10m)ならばそれほど拡散しない。そして桶側胴の薄い部分なら、焼きを入れた鉄でも貫通する。
一瞬後に、目の前前列敵兵たちが殆ど、針山になって倒れる。
後ろを走って来た敵兵は眼を丸くして驚いた後、恐怖にひきつった顔になるのが見えた。
俺は大きく息を吸い、力の限り叫んだ。
「是政隊!
目標、
東で恐怖に駆られている敵。
突貫~~~~っ!
前へっ!!!!」
今度こそ、常備兵200が長柄を持って立ち上がり、敵に向かい突進した。
東部方面戦力比
200(常備兵)+200(招集兵)vs700
戦闘後
200+200vs450
赤石砦南方4町北条方本陣
垪和左衛門太夫
(なんだかおかしいぞ大胡の奴らは。と思い始めた先手衆大将)
総掛かりの法螺貝を鳴らして四半刻(30分)。まだ長柄での激突が始まっていない。
弓合わせでこちらが押されている。
だが、弓兵もこちらが700と多いはずだ。南正面には400もの弓兵を配備した。ここにいる大胡はせいぜい1000。そのうち弓兵は200もいればいいほうだ。
弓兵の養成には時間がかかる。一人前に射撃ができるようになるまで1年。速射や狙い撃ちができるようになるには数年はかかる。
一昨年の川越と松山の戦では150しか実戦に参加していない。
その時にも弓兵はいなかった。弩弓を少しばかり使っていたようだが、弓兵をそう多く用意すれば、長柄での近接戦で押し込まれるのは見えている。
そこまで馬鹿ではないはずだが……
しかし!
目の前に繰り広げられているのは何なのだ? 1町の距離での弓合わせ、先鋒の成田には200の弓兵がいる。それが押されている。押されるというよりも見る見るうちに撃ち減らされていく。
矢盾を並べ、その陰に隠れつつ、時折立ち上がり狙いをつけて矢を放つ。しかし敵はその立ち上がって狙いをつけている間に、矢の雨を降らせてくる。
そんな敵の攻撃に手傷を負うものが続出している。
先ほど使い番を走らせ、こちらも矢の雨を降らせよと伝えたがすぐに戻ってきて「既に矢が尽きてきました。矢を送られたし」とぬかしおった。
矢を何本用意したのだ!?
一人30本以上用意するのが攻城の常。
それを言うたら「もう25本以上使った」とのこと。
弓弦も切れていると。
これ以上は、半里後方の小荷駄から持ってこねばならぬ。
ううむ。
それに比べ大胡の矢の雨は益々激しくなっておる。
一体何本用意したのだ?
敵の弓兵は矢盾に隠れて殆ど身をさらさない。
どうやら弩弓を使っているようだが、弩弓はこれほど連射ができようはずがない。これは大量の弩弓を用意しているか、弓弦を引く役のものを用意しているか。こちらが1本矢を放つ間に敵は2~3本放っている。
もう軽く100本を消費しているはず。
そろそろ仕寄る頃合いか。
矢盾を吹き飛ばした大型の弩弓も、先鋒が「あれが当たると兵が委縮します!」と言うておったが、当たらなければどうということはない。
すこし損害が出ようとも、間合いが遠い時から散開すれば関係ない。
こちらは数で圧倒すればよい。
松山の時のような伏兵はできぬ。前面にしか敵がおらぬとわかっている戦場。長柄で勝負をつける。
気になるのは松山でやられた長柄の列の合間から放つ弩弓への対策が奏功するか。
それから、あの不気味な盾と段びらを装備した備えがどこで出てくるか。
これは注意せねばならん。
◇ ◇ ◇ ◇
同日同刻
赤石砦東部正面
是政隊弩弓小隊背後
大胡是政
(ランチェスターの法則を平気で無視する大胡指揮官)
矢盾の列、ほんの少しの隙間から弩弓を放つ。しかし兵が弩弓を保持しているわけではない。角度をつけた台座に次々と配置。敵弓兵が姿を見せたときに合わせて引き金を落とした後、すぐに新しい弩弓に入れ替える。
その後ろでは臨時に招集した「農民兵」が弩弓に矢を番えている。
狙いはあらかじめ地面に差している目印を使い、おおよその距離を測り角度を決めている。
盲撃ちだ。
矢は前にいる常備兵1人に付き500本用意した。
この正面だけで10万本だ!
鏃は鉄の大量生産で何とかなった。
しかし問題は矢の本体である細竹の大量入手だった。いくら長弓より矢の長さが短いとはいえ、30万本以上の数。しかしこれはサンカの手を借りて時間をかけ、それこそ日ノ本中の竹藪から取ってきた。
これを轆轤式の工作機械で加工する仕組みを、武具周旋方の活躍で完成させたのだ。鏃の接合も爹児で補強したので短時間で済んだ。
北条方は短期決戦を考えているであろうから、それほど多くの矢を持ってくるとは思えない。すでに手持ちの矢が尽きている頃だろう。
そろそろ仕掛けてくるはずだ。
来た。
矢盾に隠れて仕寄ってくる。矢盾は思ったより少ない。
いいぞ。
「よし、手順通り、訓練通り。
敵方を針山に変え血の河を作れ!」
兵はあらかじめ、声を出さないように訓練してある。
親指を上に突き立てる、応という意思を示してくる。
さむずあっぷ、と言うそうだ。
振り返り矢倉に上を見ると、殿も同じように手で合図している。
あと少しだ。
敵は大型の弩弓を恐れて、早めに立ち上がり突進してくるだろう。
こちらはあらかじめ「全ての」弩弓、4000丁を東に向けて配置し、いつでも放てるように準備するだけだ。20間まで仕寄った敵方中央(東に配置された)先鋒250が立ち上がり、一斉に突撃してくる。
北の200も同様に迫ってくるが、こちらは足元に凸凹と撒き菱が所々に散在している為、動きは鈍くなるはずだ。
南の那波本陣は矢倉への牽制で突出できずにいる。
殿の計算通りだ。
もう敵は5間先までに迫っている。
そろそろ行くぞ!
「是政隊!
敵東部正面中央、全力射撃!
放て~~~~っ!!!!」
某の合図とともに弓4000本が、敵兵250へ目掛けて飛ぶ。
5間(10m)ならばそれほど拡散しない。そして桶側胴の薄い部分なら、焼きを入れた鉄でも貫通する。
一瞬後に、目の前前列敵兵たちが殆ど、針山になって倒れる。
後ろを走って来た敵兵は眼を丸くして驚いた後、恐怖にひきつった顔になるのが見えた。
俺は大きく息を吸い、力の限り叫んだ。
「是政隊!
目標、
東で恐怖に駆られている敵。
突貫~~~~っ!
前へっ!!!!」
今度こそ、常備兵200が長柄を持って立ち上がり、敵に向かい突進した。
東部方面戦力比
200(常備兵)+200(招集兵)vs700
戦闘後
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