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第6章:陰謀するよ
ついに元服
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1548年7月下旬
上野国箕輪城大広間
長野業政
(周旋の才がある豪族。という事にしておこう)
先ほど大胡松風丸に烏帽子を被せ、諱を授けた。
これより大胡倉之介政賢と名乗る。
儂の政の字を与えたわけではない。実父、永野秀政から取るという。
世がどちらを信じるかはどうでもよいことだ。関東管領が憲政ではなくなった(憲当になったからな)から、そちらとの変な勘繰りが出ないことが重要じゃ。
阿呆が移るわい。
「さあ。皆の衆。政賢殿の祝いの酒、心行くまでいただこうぞ!」
これは外交の場だ。気は抜けぬ。
まずはここに来ておらんものは儂にも敵対している者、小幡と安中じゃ。他の者が北条にどれだけ傾いているか。もしくは調略を始める者すら出てこよう。
さて儂はどう立ち回ろうかの。
「政賢殿。元服の儀、おめでとうござる。これからも良しなに。ささ一献」
「ありがたき幸せ。然れども手前、下戸にて一口飲むだけでも寝てしまい申す。それでは皆様に申し訳絶たず。某の分も貴殿がお楽しみくだされ。ささ、ご一献」
うまい返しじゃの。
酒を次々に飲まされ乱れる者が多い上州。この外交の戦場で、それは討ち死にじゃ。それがわかっておるのう。
無礼講になってきた。皆が個別に酌をしに動き回っている。
さて決戦が始まったか。儂も腰を上げるか。
「政賢殿。此度はめでたいの。これからの益々の活躍、期待いたしまする」
「やあ。これは業政殿。那波城の事と言い、烏帽子親を引き受けていただいた件。生涯恩に着まする。これからもなにとぞ良しなに」
本当に卒のない受け答えじゃ。
これで真14か?
川越で負傷、そのまま箕輪で息を引き取った長子の吉業が元服の時は殆ど喋れず、無様に中座したが。儂も同じようなものじゃった。
「利根の兵糧入れ阻止は、旨く行っておるそうじゃの」
「はい。業政殿が許可を出していただいたお陰で、上首尾に運んでおりまする」
「それにしても利根の河船衆を動かせたのは大きい。どのような手を使ったのじゃ?」
「それは秘密にございまする。然る御仁が合力してくださった、とだけ申しあげておきます」
微妙な言い回しで、含みを持たせるのがうまい。誰も奥深さを感じさせる。
じゃが、それが相手の不安を膨らませることは知っておるのか?
「しかし、烏帽子親殿にそれはなかろうと思いますれば、ここだけの話……
由良に手を貸していただいたのでござる」
政賢は膝附でにじり寄り、ひそひそ声で教えてきた。
これもうまい話しかけじゃな。悪い気はせぬ。
それにしても、よう横瀬を(いやもう由良か)動かせたの。同盟でも結んだかと、諧謔で言うてみたが。
「幸運にも相成り申した。未だ片務ですが。これは西上野衆を束ねる業政殿に相談すべきであったか。申し訳ござりませぬ」
それはどうでもよい。
片務というのは由良が攻められたら後詰に出るが、大胡が攻められても後詰は出さぬということか。これまた由良が日和っておるの。
じゃがこれは大きい。
同盟は同盟じゃ。国衆は由良が反北条とみるだろう。それが国衆が北条へ靡くのをどれだけ阻止するか?
余り期待せずに心に留めておこう。
「時に政賢殿。縁組の話は既に来ておりますかの?」
探りを入れてみたが、妙な反応があった。身体をもじもじさせながら、小さな声で
「未だ某、賢者の道を……(謙信じゃあないからいいのかなぁ)。
未だ考えておりませぬ。まずは基礎を固め、それからでござる」
女子が弱点か?
これも心にとどめておこうか。
上野国箕輪城大広間
長野業政
(周旋の才がある豪族。という事にしておこう)
先ほど大胡松風丸に烏帽子を被せ、諱を授けた。
これより大胡倉之介政賢と名乗る。
儂の政の字を与えたわけではない。実父、永野秀政から取るという。
世がどちらを信じるかはどうでもよいことだ。関東管領が憲政ではなくなった(憲当になったからな)から、そちらとの変な勘繰りが出ないことが重要じゃ。
阿呆が移るわい。
「さあ。皆の衆。政賢殿の祝いの酒、心行くまでいただこうぞ!」
これは外交の場だ。気は抜けぬ。
まずはここに来ておらんものは儂にも敵対している者、小幡と安中じゃ。他の者が北条にどれだけ傾いているか。もしくは調略を始める者すら出てこよう。
さて儂はどう立ち回ろうかの。
「政賢殿。元服の儀、おめでとうござる。これからも良しなに。ささ一献」
「ありがたき幸せ。然れども手前、下戸にて一口飲むだけでも寝てしまい申す。それでは皆様に申し訳絶たず。某の分も貴殿がお楽しみくだされ。ささ、ご一献」
うまい返しじゃの。
酒を次々に飲まされ乱れる者が多い上州。この外交の戦場で、それは討ち死にじゃ。それがわかっておるのう。
無礼講になってきた。皆が個別に酌をしに動き回っている。
さて決戦が始まったか。儂も腰を上げるか。
「政賢殿。此度はめでたいの。これからの益々の活躍、期待いたしまする」
「やあ。これは業政殿。那波城の事と言い、烏帽子親を引き受けていただいた件。生涯恩に着まする。これからもなにとぞ良しなに」
本当に卒のない受け答えじゃ。
これで真14か?
川越で負傷、そのまま箕輪で息を引き取った長子の吉業が元服の時は殆ど喋れず、無様に中座したが。儂も同じようなものじゃった。
「利根の兵糧入れ阻止は、旨く行っておるそうじゃの」
「はい。業政殿が許可を出していただいたお陰で、上首尾に運んでおりまする」
「それにしても利根の河船衆を動かせたのは大きい。どのような手を使ったのじゃ?」
「それは秘密にございまする。然る御仁が合力してくださった、とだけ申しあげておきます」
微妙な言い回しで、含みを持たせるのがうまい。誰も奥深さを感じさせる。
じゃが、それが相手の不安を膨らませることは知っておるのか?
「しかし、烏帽子親殿にそれはなかろうと思いますれば、ここだけの話……
由良に手を貸していただいたのでござる」
政賢は膝附でにじり寄り、ひそひそ声で教えてきた。
これもうまい話しかけじゃな。悪い気はせぬ。
それにしても、よう横瀬を(いやもう由良か)動かせたの。同盟でも結んだかと、諧謔で言うてみたが。
「幸運にも相成り申した。未だ片務ですが。これは西上野衆を束ねる業政殿に相談すべきであったか。申し訳ござりませぬ」
それはどうでもよい。
片務というのは由良が攻められたら後詰に出るが、大胡が攻められても後詰は出さぬということか。これまた由良が日和っておるの。
じゃがこれは大きい。
同盟は同盟じゃ。国衆は由良が反北条とみるだろう。それが国衆が北条へ靡くのをどれだけ阻止するか?
余り期待せずに心に留めておこう。
「時に政賢殿。縁組の話は既に来ておりますかの?」
探りを入れてみたが、妙な反応があった。身体をもじもじさせながら、小さな声で
「未だ某、賢者の道を……(謙信じゃあないからいいのかなぁ)。
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これも心にとどめておこうか。
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