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第6章:陰謀するよ
上州の黄斑(虎)
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1548年7月上旬
上野国那波城北1里山内上杉勢本陣
長野業政
(SLGなどでは大分パラメータの高い白髭爺さん。だが実態は……)
末期的じゃな、関東管領家は。
真面な戦はもうできんかもしれん。
西上野衆の旗頭としてここにいる国衆を指揮しているが、那波城を落とせとの管領殿の下令に従おうとするものがどれだけいるか。
大体、農繁期が始まる時期に攻略を発令するとは! これ以上収穫が減っては家臣団を維持できぬわ。
それを
「我攻めならすぐであろう!」
と言い放つ管領殿。
那波がこの時期に謀反したのは、農繁期前であることくらい分からんのか。そしてそれを止めるはずの、家宰である足利長尾は遠すぎて何もできん。だから小幡と安中の専横を許すことになる。
「せめて7月、夏まで待ってくだされ」
という願いが聞き届けられたのが、幸いじゃったが……
既にあの二人、どうも心中が怪しいの。もう上杉管領家に見切りをつけていると見た。
しかし、あの2人の手勢が合わせて1200。
管領直参が小田井原で大きな痛手を負ったため、今回は国衆のみの出陣であるからこれが欠けるのは痛い。
儂と厩橋、白井長尾、合わせて2500。
それと大胡が800出してきた。
良く出せたの。大分軍備を増強したか。
あとは惣社が400で、総勢ほぼ5000。
そのうちの1200じゃから大きな比率じゃ。
「北武蔵からの物見が帰ってきました」
「通せ」
密かに北条方の後詰を警戒して出していた者だ。
「北条方の後詰。本条城に終結後、1日前に出立いたしました。
その数5000!」
「なんと!」
「3000程度ではなかったのか!?」
「本腰じゃのう」
諸将が口々に思いを発する。
ちと後詰が多いの。
野戦はしたくない。
あちらと違い烏合の衆に近い我が軍勢。川越の二の舞よ。
今回はもっとひどい。誰が寝返るかわからん。それも野戦中に寝返られたら目も当てられん。金山崩れは経験したくはない。
「それでいかがなさる。業政殿」
安中の爺がわざとらしく言う。
嬉しそうじゃの。眼が帰りたがっておるわい。
「仕方なかろうて。ここで決戦はできぬ。それは皆の衆の総意じゃろう?」
総撤退を号令しようとしたその直前、
「しばしお時間を。某に策がありまする」
声をあげたのは末席の床几に座っている大胡松風丸であった。
今年で14。
既に川越で初陣を済ませた。そこで大いに働き、皆の者も一目置き始めている。
「松風丸殿。如何様な策ですかな?」
儂は小僧に対するにしては丁寧な口調で応じた。これも雑多な国衆を纏めるために必要な事。
「ありがたき幸せ。
ここは2段階で攻めるべきかと。此度は青田刈りをして退き、秋の収穫時期にまた攻め寄せましょう。さすれば兵糧も尽きましょう」
「そのような事をしても、北条がすぐに兵糧入れをするわい」
小幡が即座に否定する。
「それを商人と河船衆を使い、妨害いたしまする。許可が下りればすぐにでも実施できます」
ほう。
聞くところによれば、那波が大胡の物流を桃ノ木川下流で止めているそうだな。
それをさらに南で、仕返すか。
「そう呑気に待たせてくれんのではないのかの?
特に平井の上様が」
今度は安中か。
小幡と2人、もう北条とみてよいな。
(沼田)白井と(前橋西)惣社・和田は困惑している。厩橋は孫であるから松風丸の肩を持つじゃろう。
しかし安中の言っていることは正鵠を射ている。管領殿は儂らがここで退けば、何を言うても怒り狂うであろう。
じゃが松風丸の策を言い訳にすれば、ここを退く理由になる。
「ここは一旦退き、管領殿には秋口に再度攻めると進言することで、無駄な兵糧を使わずに済む。それと同時に大胡勢には手数をかけるが、兵糧入れを邪魔する。
そのように儂からご報告するのでは如何?」
安中と小幡が、わざとらしくそっぽを向き、
「儂は反対じゃった、とお伝えくだされ。大胡の若侍が臆病で、退かざるをえなんだと」
これだ。
己が安寧しか考えておらぬ。内心は、絶対に戦いたくない。直ぐに退きたいが、すべてを押し付ける悪役をこさえて、自分の立場を確保する。
これでは誰が率いても勝てる戦も勝てんわい。儂も一度は真面な兵力を率いて戦いたいわ。
それができなければ、せめて真面な主君が欲しいぞ!
さすれば、悪鬼の如く戦って見せる。
上野国那波城北1里山内上杉勢本陣
長野業政
(SLGなどでは大分パラメータの高い白髭爺さん。だが実態は……)
末期的じゃな、関東管領家は。
真面な戦はもうできんかもしれん。
西上野衆の旗頭としてここにいる国衆を指揮しているが、那波城を落とせとの管領殿の下令に従おうとするものがどれだけいるか。
大体、農繁期が始まる時期に攻略を発令するとは! これ以上収穫が減っては家臣団を維持できぬわ。
それを
「我攻めならすぐであろう!」
と言い放つ管領殿。
那波がこの時期に謀反したのは、農繁期前であることくらい分からんのか。そしてそれを止めるはずの、家宰である足利長尾は遠すぎて何もできん。だから小幡と安中の専横を許すことになる。
「せめて7月、夏まで待ってくだされ」
という願いが聞き届けられたのが、幸いじゃったが……
既にあの二人、どうも心中が怪しいの。もう上杉管領家に見切りをつけていると見た。
しかし、あの2人の手勢が合わせて1200。
管領直参が小田井原で大きな痛手を負ったため、今回は国衆のみの出陣であるからこれが欠けるのは痛い。
儂と厩橋、白井長尾、合わせて2500。
それと大胡が800出してきた。
良く出せたの。大分軍備を増強したか。
あとは惣社が400で、総勢ほぼ5000。
そのうちの1200じゃから大きな比率じゃ。
「北武蔵からの物見が帰ってきました」
「通せ」
密かに北条方の後詰を警戒して出していた者だ。
「北条方の後詰。本条城に終結後、1日前に出立いたしました。
その数5000!」
「なんと!」
「3000程度ではなかったのか!?」
「本腰じゃのう」
諸将が口々に思いを発する。
ちと後詰が多いの。
野戦はしたくない。
あちらと違い烏合の衆に近い我が軍勢。川越の二の舞よ。
今回はもっとひどい。誰が寝返るかわからん。それも野戦中に寝返られたら目も当てられん。金山崩れは経験したくはない。
「それでいかがなさる。業政殿」
安中の爺がわざとらしく言う。
嬉しそうじゃの。眼が帰りたがっておるわい。
「仕方なかろうて。ここで決戦はできぬ。それは皆の衆の総意じゃろう?」
総撤退を号令しようとしたその直前、
「しばしお時間を。某に策がありまする」
声をあげたのは末席の床几に座っている大胡松風丸であった。
今年で14。
既に川越で初陣を済ませた。そこで大いに働き、皆の者も一目置き始めている。
「松風丸殿。如何様な策ですかな?」
儂は小僧に対するにしては丁寧な口調で応じた。これも雑多な国衆を纏めるために必要な事。
「ありがたき幸せ。
ここは2段階で攻めるべきかと。此度は青田刈りをして退き、秋の収穫時期にまた攻め寄せましょう。さすれば兵糧も尽きましょう」
「そのような事をしても、北条がすぐに兵糧入れをするわい」
小幡が即座に否定する。
「それを商人と河船衆を使い、妨害いたしまする。許可が下りればすぐにでも実施できます」
ほう。
聞くところによれば、那波が大胡の物流を桃ノ木川下流で止めているそうだな。
それをさらに南で、仕返すか。
「そう呑気に待たせてくれんのではないのかの?
特に平井の上様が」
今度は安中か。
小幡と2人、もう北条とみてよいな。
(沼田)白井と(前橋西)惣社・和田は困惑している。厩橋は孫であるから松風丸の肩を持つじゃろう。
しかし安中の言っていることは正鵠を射ている。管領殿は儂らがここで退けば、何を言うても怒り狂うであろう。
じゃが松風丸の策を言い訳にすれば、ここを退く理由になる。
「ここは一旦退き、管領殿には秋口に再度攻めると進言することで、無駄な兵糧を使わずに済む。それと同時に大胡勢には手数をかけるが、兵糧入れを邪魔する。
そのように儂からご報告するのでは如何?」
安中と小幡が、わざとらしくそっぽを向き、
「儂は反対じゃった、とお伝えくだされ。大胡の若侍が臆病で、退かざるをえなんだと」
これだ。
己が安寧しか考えておらぬ。内心は、絶対に戦いたくない。直ぐに退きたいが、すべてを押し付ける悪役をこさえて、自分の立場を確保する。
これでは誰が率いても勝てる戦も勝てんわい。儂も一度は真面な兵力を率いて戦いたいわ。
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