首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第6章:陰謀するよ

小さい国衆は大変なんです

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 1548年4月下旬
 上野国国峰城(現富岡市)
 安中長繁
(大分年を取った爺)


「来たか?」

 目の前で真新しい座布団に座っている小幡憲重が、鍋のおっきりこみほうとうを口に入れながら儂に問う。

「来た。そちらもか?」

 調略のことだ。

 儂もあつものをふがふが言いながら食べつつ答える。
 ここ西上野は米がほとんどとれぬ。よって粉ものをよく食する。山の幸をぶっ込んで食べるため出汁がよう出て旨い。

「ああ。しかも北条のみならず武田からも来ておる」
「ふむ。やはり管領家はもういかぬの。頭が軽すぎたわい。儂らの失策じゃ」

 ここの所、管領の阿呆が益々ひどくなっておる。この時期に誰が我攻めなどするか! これで北条になびくものが増えよう。

「それでお主は北条に行くのか?それとも武田か?」

 ここ小幡の国峰城は武田の信州に近い。逆に北条の版図との間には平井の金山と、その直轄領、さらには倉賀野の旗本がいる。これはなかなかなびくまい。

「武田にはまだいけぬな。晴信が回復するまでは様子見じゃ。だからまずは北条を誘い込んで上杉からの離反の名目を作る」

 小幡は上杉に見切りをつけたか。儂と同じじゃな。
 しからば……

「此度の那波城攻め。応ぜぬと?」
「それは早計。まだ寝返るには手柄がいる。何かを土産とせねばなるまい」

 それはそうだが……

「然れば、我らが2名、途中で引き返し、城攻めができなくするとかは?」
「うむ。今はそのくらいしかないわ」

 あまり見せたくはないが我が失策を見せるしかないの。小幡とは領地が近い。今までも一蓮托生であった。

「長野には調略は効かぬ。これまでのいさかいを思えばな。よって大胡によしみをと思い文を送った。調略の誘いじゃ」

「それは良策ぞ。そこから長野への調略もできるやもしれぬ。松風には大胡を継がせてやった恩がある。この通り、先ほど松風丸からご機嫌伺いと称して座布団を送って来よった。儂が尻を病んでいるのを知っているとはの」

 尻に敷いている、真新しい絹で作った厚手の座布団を指で差す。
 それはどうだか、と思うが、

「それに対する返答の文がこれじゃ」

 懐から手紙を出して手渡した。
 どれどれと、小幡は文を開いた。

「なんじゃあ? これは!!??」

 その文にはたった2文字。
 墨痕鮮やかに

 『やだ』
 と。

「愚弄するにもほどがある! あの童がぁ!」

 これから陣を同じくする者にこれはないだろうと思いつつも、その隠れた意図に気づいたのは幸いじゃった。


「あの童は、いやもう今年には元服かの。
 儂をめたんじゃ。これで儂を悪者あくじゃにさせようと思ったに違いない。那波城攻めができなんだのは安中の爺のせいだとな。然れば儂には出陣するしか手が残されていない」

「……そうとなれば、我攻め前に引き返すか」

「うむ。そのための言い訳として……
 既に北条方へ内通して居る。そして那波城への後詰を増やす事、願い出ているところじゃ」

「なんと。手際がええのう。後詰の大軍が来たので帰るということか」

 儂が頷くのを見た小幡が、

「ではここへ来た目的は儂も一緒に動け、ということか?」

 いま一度ひとたび頷く。
 小幡はしばし考えた後、こう言うた。

「儂も、もう一つの管領家に乗り換えるかの。あ奴はもう使い物にならぬ」

 既に8年前に北条は関東管領の職を古河公方から得ている。儂ら国衆は権威のある、そして勢力の強いものに付くのが処世術じゃ。その中で如何に盤石な地位を作るかが大事。

 此度の乗り換えも、長野より先に北条の馬前に膝を屈する。
 ここが勝負所よ。

「しかし、松風はなぜ上杉家に留まる? 親の恨みがあろうに。長野への義理立てか? 」

 儂だけが知っている。
 親の恨みどころか、「あの阿呆が」刺客しかくを発し、大胡入城の直前に松風を襲わせ、その叔父すらも殺したことを。

 もしや、これにも気づいているのか?
 その差配をしたのが儂だという事にも……

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