首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第6章:陰謀するよ

不運を人のせいにしちゃあいけないよ

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 1547年12月中旬
 上野国那波郡那波城
(現伊勢崎市南部名和小学校付近)
 那波宗俊
(正史では国衆ながら筋を通した人なのでは? この作品では根暗な僻み屋)


 目の前の囲炉裏に掛けている鍋から、味噌の良い匂いが流れてくる。娘が買うてきた鯉を煮て鯉こくを作っている。

「はい。できましたよ。お父様」

 娘の幸が汁の入った椀を、箸とともに渡してきた。
 一口すする。

 旨い。

 冬の鯉は脂がのっていて腹に貯まる。身体も温まってきた。

「旨いの。どこの鯉じゃ?」
「朝、華蔵寺の方から来る魚屋ぼてふりから買いました。
 ため池で蚕の蛹を餌に肥え太らせているそう……」

 途端に飯が不味くなる。

 あの大胡だ。
 6年前の小柴長光の裏切りによって起きた金山崩れ。あれで儂ら那波氏は大損害を受けた。

 なんとか難を逃れたが、その後横瀬に赤石城を取られそうになり城を焼き払って逃げた。城は廃城とされたが、未だ城跡の東は横瀬に支配されている。

 儂は那波城に閉塞させられ、それまであった2万石以上の領地も1万8千石に減った。家臣を養うために年貢を6割にしたら逃散が起こり、どうやら大胡に逃げ込んだらしい。

 聞くところによると討ち死にした大胡行茂・修茂親子の後を襲い、厩橋長野が一族から幼い童を押し込んだ。


 その後あれよあれよという間に大胡が発展していき、年貢も4割と信じられぬ程軽くなった大胡へと那波の領民が逃げ込んだようだ。
 管領殿にも後押しされて、まさに儂と正反対じゃ。


 川越の戦は上野勢が大敗した。
 じゃが大胡の松風じゃったな、あ奴は囮にもかかわらず大活躍しその後の松山城防衛にも活躍した。そこでも人気取りか、水米酒を大盤振る舞いして仁将」「名将」ともてはやされている。

 川越の戦には出陣が長引き、儂の那波は兵糧が持たず半年もせずに陣を引き払わせていただいた。今では南の八斗島の渡しで取る河関からの収入で生きながらえている。

 桃ノ木川を行き来している小舟が大胡の荷を載せ行き交う。それに満載された高価な積荷。これらを襲い略奪する誘惑に抗う毎日じゃ。

 このままではじり貧。

 儂は今、ある人物を待っている。
 今後の那波の運命を左右する話を持ってくるはず。箸をおき、娘に旨かった有難うと言い、居間に向かった。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 翌日
 那波城応接間
 成田泰季
(成田長泰の弟。成田家の軍事を受け持つ。力に頼る傾向がある。野村萬斎の父である!)


 松田様に氏康様の下令を伝えられた。
「山内上杉家の家臣団を調略せよ」

 何故? と思うた。
 儂の本分は戦場での戦働きだ。そのような腹芸ができるわけがない。
 そう申し上げたら、お主が適任じゃと言われた。

 なぜ故? 
 再度のその問いに対し、女子じゃ。数珠つなぎをせよ」と。そこまで言われてもようわからん。

 すると松田殿がいうた。
「この世は男の家系だけではない。女子の繋がりがあろう。それを手繰れ」
 とのこと。

 ようやっとわかった。

 この話、兄の長泰に行かずに儂に来たという事は、上杉方の小幡と那波と縁戚関係を持っているからか。


 それぞれ嫁を送り込んでいる。その二家を起点として調略を掛けよと。小幡と那波にその縁戚で調略させていく。
 儂ごときでうまくいくかはわからぬが……


 そして今、目の前に義弟にあたる那波宗俊がいる。

「宗俊殿、春は元気かの」

 嫁いだ妹の春の消息を尋ねた。宗俊は囲炉裏に小枝を割ってくべながら答えた。

「元気じゃが。儂のほうが元気がない」

 下の話かと思うたがそうではないらしい。どうも米銭が足りないようだ。はて。この様子で謀反は難しいか……

「毎年、如何程足りんのかの。少々なら用立てるが」

 恩を売る程度では動かぬかの。どうしたらよいか。

「お主は昨年、北条方へ寝返ったはず。なぜ今頃危険を冒してまでここに来る?
 調略か?
 じゃが儂の領地は上野じゃ。北条の最前線はお主らの忍城と松山城じゃろう?
 遠すぎるわ。なかなか寝返えられんわい」

 その時、女子の声がした。

「お父様。麦湯をお持ちしました」

 中に入ってきたのは、宗俊と春の娘、幸だった。なかなかの美貌を持つ女子に育ったの。

「幸はいくつになった?」
「今年で17になりまする」
「ほう」

 幸は麦湯を2杯おいて出て行った。

「これじゃ!」

 思わず膝を叩く。儂は今思いついた宗俊に策を伝えた。
 本条城の本庄実忠は女子好きじゃ。これに幸を嫁がせる。本領安堵とともに嫁入りを条件で調略する。

 深谷の上杉家は弱腰。北条の勢力に挟まれればすぐに音を上げる。これで那波までの通路が完成する。小幡への調略条件も良くなる。

 しかし宗俊が乗るかどうかだが……
 それを伝えると、北の方をねめつけてからこう言うた。

「任せておけ。その代わり大胡はもらう」

 その目に暗い影を落としていることに不安を覚えたが、

「助けがいるなら何でも申せ。直ぐに助け舟を出すぞ」

 儂にはこの程度しか声を掛けられなんだ。

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