首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第5章:人材スカウト大事です

やっぱり上田城、作りたいよね

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 1547年7月下旬
 上野国大胡城下寄合所
 真田幸綱
(大胡に仕官したけど上田にどうしても帰りたい素ッ破の親玉)

 
 ふぅ。

 人にものを教えるとは、こんなにも難しいとは思わなんだ。殿から仰せつかった親衛隊訓練兵への戦指揮や調略など。
 それから調略については儂もいろいろやってきたから、家臣一同に教えてくれと言われ、輪講と称して東雲殿や瀬川殿と入れ替わり教える立場になる。

 しかし、東雲殿や瀬川殿の話は、儂にとっても初めて聞くことばかりじゃ。
 嬉しいのう。

「それで、折り入って話ってなぁに?」

 殿がいつものように明るい笑顔で聞いてくる。
 言い辛い……

「素ッ破の者が、最近頓に信濃の事を報告してくるのですじゃ。それに寄りますれば……」
「佐久の事? 例えば依田さん?」

 ご存じであったか。
 殿の見立て、いつもながら感服する。まだ報告が上がっておらぬであろうに。

「はい。
 依田一族の笠原殿が佐久の志賀城で包囲されておりまする。
 上州富岡の高田様を通じて、上杉憲当のりまさ殿へしきりに援軍の要請をしております」

 殿は珍しく髷を弄らず、顎を捻りしかめっ面をして上を向いている。
 儂がこれからいう事を先に考えているのであろう。

「……やはり故郷は大事だよね。帰りたい?」
「……はっ。」
「佐久には親戚お友達は?」
「だいぶ……」

「だよね~。
 信…晴信ちゃんは敗者には厳しんだよね。男は鉱山送り、女は……飯盛り女?
 人身売買かぁ」

 確かに殿の言うとおり、晴信殿の軍勢には奴隷を売り買いする商人が後を付いていくとの噂がある。

 高値で売り買いされているようだ。鉱山に送られたものは、多分二度と帰ってこれないだろう。

「辛いね。助けに行きたい? そして故郷を奪還したい?」

「……」

 儂は言葉が出なんだ。無理と決まっている。
 今の山内上杉家は川越の戦を境に、崩壊に向かっている。だからこそ晴信殿に臣従して、あわよくば上田に返り咲こうとしていた。あの悲惨な敗者を見て見ぬふりをして……

 それを殿に留められた。というよりも儂自身が決めたのじゃ。
 あのような悪になれんと。然らばここにいるべきと。


「悪には悪で対抗することも必要だよね。でもそれは今ではないと思うんだ。
 あと……」

 悪とは何を?

「1年、できれば3年待ってくれれば、晴信ちゃんに一泡吹かせることはできると思うんだ。けど、それでも上田は孤立するよ……」

 それはわかっている。

 じゃが、このままではずっと上田には帰れんのではないのか? 仮に帰ったとして、態勢を整えている間もなく踏みつぶされるのが落ち。

 それでも帰りたいんじゃ。
 我が息子たち、家臣どもの息子たちを、上田原を駆けさせたい。

「晴信ちゃんを倒す。これしかない」
「!では暗殺を!?」

 素ッ破を使うおつもりか?

「いあいあ。
 それは悪い子ちゃんポイントが……げふん、悪名付きすぎ。
 戦場で倒す」

 そうなると非常に難しい。
 戦の隙をついての襲撃は、戦そのものがうまくいかねば事は運ばぬ。

 川越の戦の時は、夜戦でしかも戦働きの得意な風魔だからできたこと。

 それに氏康も戦上手。上手く嵌まった。それでも朝定様を討ち取れず、自害を許した。

「あのね。ここだけの話にしてくれる?」

 儂は頷いた。

「種子島って知っている? 今ね、これ大量に作る準備をしてるんだ。これがまたすごい威力で、50間先の鎧武者を軽々と倒しちゃうんだ~。
 今、試作品を作り中~」

 50間!

 素ッ破で襲撃するにしても、20間程度まで奥深くへと忍び込まねばなるまい。遠矢でも当てられるが、鎧は貫けぬ。

「これも時間とともに改良を加えるけどね。欠点があってまだ斬首作戦……ああ、晴信ちゃん襲撃だけど、それには使えないなぁ。
 だから最低3年。1年じゃあ、危険すぎるね。そのころになると多分、村上さんちとガチで決戦するんじゃない? 
 そこを狙った方がいいよ~」

 儂は大急ぎで頭を廻らしたが、結論はだせなんだ。

「暫し考えさせていただきたい」
「いいよいいよ~。でも7月末には結論出してね。多分それまでには陣触れ出るから。その時に出陣するのなら準備早くしないとね。僕の手が届く範囲の人は何とかしてあげたいな」
 
 にこにこする殿を見ているはずの儂の眼は、まったく違う光景を見て、泳いでいたに違いない。

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