首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第5章:人材スカウト大事です

スーパードクター参上!

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 1546年1月中旬
 上野国大胡城応接の間
 永田徳本
(正史でもトクホンの名前は商品で耳にしたことはあるかと。戦国時代の医学の天才とも言われる。平等主義の尊敬するべき人)


 何から話し出そうか。

 目の前の若侍、歳は12と聞く。栄養が不足しているのか? この歳にしては体躯が小さすぎる。
 国衆の当主ともなれば、食べ物に不足することはなかろう。食い物に好き嫌いが多いのか?

 表情はよい。
 顔色も申し分ない。

 少し落ち着きがないのか、癖なのか髷を触ったり左の人差し指で肘をつくために作ったであろう台をトントンと叩いている。

 これは考えに集中している時の癖であろう。これをできなくなると人は全く考えをまとめられなくなるという。周りの者はそれを直そうとしなかったのは正解であろう。

「よくきたね~。トクホンチー〇リスペクト!
 あ、こっちの話ね。で、来てくれた理由は、あの或粉保流アルコホル?」

 それは誰でもわかるであろう。今、金瘡医や湯治場で、密かに囁かれている噂。傷を負っても膿が出にくい薬、或粉保流アルコール。それを塗ると今までの治りに比べ遥かに早く、そして元に戻りやすいと……

 儂の経験では、ヨモギの湿布で大分膿まずに治すことができる。だが、深い傷、特に刺し傷についてにほとんど効果はない。それを何とかできないか今色々と試している。

 そんな時、大胡からその或粉保流アルコールが流通しているのではとの噂を耳にした。駄目で元々と、訪れることにした。

 そういえば、数年前厩橋の長野様より、本草の書を写本させていただきたいとの願いがあり、お貸ししたことがある。
 聞くところによるとその写本は松風丸という方の依頼で為されたという。

 その方が今、大胡の領主となられている。目の前の御方がそうだ。

「先の本草の書。お役に立ちましたかな?」

「あああああ。忘れていた~~~~、ごめんなちゃい。
 先に言うべきでした~。ありがとうございました!」

 床に額がつくくらいの礼をされた。
 こちらが恐れ多くて引いてしまう。

「うちの御家老ちゃんが、体の弱い奥さんに薬湯を飲ませるのが生きがいなんです。だからものすごく感謝していますっ! 
 そんで、不愛想な御家老ちゃんがそれからにこにこしていて、家中みんな感謝してま~す」

 またぺこり。
 なにか想像していた領主とは違った。

 菊蔵さんの様子を伺ったことによる偏見が大きかったのか、もっと厳しく凛々しい国衆かと思っていた。

「それは重畳。こちらも甲斐がありまする」

「で? 
 或粉保流アルコール、ほしい?」

 真っ直ぐすぎる問いかけ。まだ若いせいか、それとも気質なのか。領主がこのように軽々では如何なものかと、不審に思う。

「それを作る処方をお伺いしてもよろしいのでしょうか?」

「う~ん。教えてあげる……と言いたいんだけどね。さすがにそれは国衆として無理だなぁ。
 その代わり……」

「?」

「うちで預かっている子たちの中から、一人弟子入りさせてもらえる? 
 菊蔵さんという子なんだけどね。何やっても他の子に追いつけないとちょっと悩んでいるみたいでね~。何とかしてやりたいんですぅ。
 菊蔵さんは真面目なので、ゆっくりやれば自分のペー……速さでやっていけば多分いい仕事すると思うんですよね♪
 お願いできない??
 お願いしますよ~。
 お願い!
 ここが菊蔵さんの人生の分かれ目だと思うんだ!!
 このと~り」

 また頭を下げられた。

 そうか、きちんと菊蔵さんを見ていたのか。

 殿に会ったなら菊蔵さんのことについて何かできないか、殿の御ためにという気持ちが強すぎるのだから、それを緩めてほしいと言おう、そんなことを考えていた。

 聞くところによると、同じように浮浪の子らがもう100人以上引き取られて、学び働いているという。

 強制的に、もしくは洗脳されてそのようにされていると思っていたが……

 100名もの子ら、一人一人を見ていたのか。

 なんという……

「頭をお上げくだされ。そのままではお話ができませぬ。」
「でも、トクホン様がいいよって言ってくれるまで頭下げている!」

 子供のような方だな。
 この方が8歳で領主を継ぎ、家臣をまとめ大々的な開発を行い戦で大活躍をされ、そして或粉保流を開発した。

 奇跡の逸材だな、と思った。

 儂の事を名医とか奇跡の医者と呼ぶ者もいるが、儂はただ研究し、それを経験として確かめているだけ。
 なにも新しいことはやっておらぬ。

「で、どなの? 
 どなの? 
 頼みまする~」

「……よろしいでしょう。菊蔵さんを引き取りましょう。その方があの子のためになりそうです」

「ほんとっ? やった~~~!
 でね、或粉保流のことなんだけど、作り方は簡単だからすぐ教えられるけど、扱いは秘密にしたい気持ちはやっぱりあるんだけど、徳本先生が使うのならもうどんどん教えちゃうよ!
 その代わり」

 やはり何か代償があるのだろう。ここに移り住めとか。
 それは断ろう。

「世の中の助かるのに助からない人、救えるのに救えない人、少なくしてよ。皆の笑顔が好きなんだぁ」

 !!!!

 この方は、何を言い出すのか? それはこの戦の世にある国衆の言葉ではないのでは? 敵をも救ってしまうではないか! そのものがまた復讐のため戦場に出てくる!

「それはまた、理想を語りますな」

「甘いかな。きちんと計算しているんだけど」

 眼が怖い光を放った。

 そうか、敵の国衆・土豪・大名を敵に回してでも、その支配されている者を味方にすると? 

 はかり知れぬ、そして遥かな高みを見ているのかもしれぬ。


「今ね。極秘裏に……と言っても僕だけで考えているだけなんだけどね。傷が膿んじゃっても治せる薬を作れないか考えているんだ。
 わくわく」

 この方と話していると、何度、驚かされるのだろう。

 膿んだらしまいじゃ。それが治ること、ヨモギ程度では治まらない。特に夏ではすぐに腐れる。

「菊ちゃんと一緒に作ってほしいんだ。
 その名もペニシリ~ン。
 江戸時代にも作れたんだからこの時代でも、18番やっこ~あり! 
 と叫んじゃお~!」
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