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第5章:人材スカウト大事です
孤児たち:平助
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1546年4月下旬
華蔵寺公園訓練所
平助
(剣の才能と男気があるリーダー格の青年。後に剣豪のような名前を付けられて遊ばれる)
「それまでっ!」
疋田先生が稽古終了を告げる。
皆、尻もちをついて、ぜえぜえ浅い息をしている。
毎日の事だが、疋田先生のしごきはきつい。
最後は4名の訓練生が束になって、掛かるのだが袋竹刀すべて空を切り、体のどこかしらに疋田先生の袋竹刀が叩き込まれる。
だが、その疋田先生も、上泉様の前では赤子同然だそうだ。どれだけ上泉様は強いのだろう?
いつも見て見たいと思うが、まだ早いとの一言。
「明日から私は御用にて当分相手ができない。よってこれから伊勢守様の剣技を見せていただく。しっかり心に刻むように」
おおっ!
と、皆、喜びの声を上げる。俺もうれしいが、それよりも明日から訓練ができない? だが御用とは?
「訓練はこれから伊勢守様より指針を示していただく。それを自分なりに考え実行に移すように」
訓練についてはこれから楽しみだという事はわかった。しかし、明日から何があるのだろう?
「疋田先生。明日から何があるのでしょうか?」
思い切って聞いてみた。
「……貴様らは大胡に絶対の忠誠を誓うものであるな?」
はいっ!
と、いつもの数倍の大きな声を皆発する。
「よし、こちらに近寄れ。実はな、これから出陣なのだ。松風様の初陣だ。周到な準備をせねばならぬ」
!!!!
松風様の初陣!
我らの恩人、神にも近しいお方。
その晴れの舞台。
雄姿を見たい。
お守りしたい。
その一手となりたい。
「某。必ずや殿のお役に立ちます。お傍に!」
某も某も、と声は続く。
だが、
「控えよ! 私に向かい4人がかりで一筋も太刀を入れられん奴らを連れてはいけぬ」
皆、何も言い返せない。
でもそれは先生が強すぎるせいで……
「先生! 命に代えてでも殿をお守りいたす所存。ですからこの身はどうなっても構いませぬ。連れていってくださいますよう、殿に!」
皆口々に粘るが先生は相手にせず、身なりを整えていた。
するとそこへ遠くから、大きい、そして底抜けに明るい声が聞こえてきた。
殿だ。
聞き間違えることなどあり得ない
「やっほ~。みんな、げんき~~?
上泉大大大先生を連れてきたよ~。
皆で剣を教えてもらお~よ~。ワクワク!」
ここにいる訓練生は皆、賢祥様に助けられ、ここ大胡の龍造寺や公園で過ごす者たちだ。
いつかはこの身で恩返しをと思っている者しかここにはいない。
武術は疋田先生、読み書きは賢祥様のご子息賢慮様が、算術はたまに瀬川様が見てくださっている。
そのうち戦の事についても先生を用意してくださるとのこと。
殿の後ろから、気配を絶つような歩き方で付いてくる上泉様。これから武技を見せていただけるという。
「まずは今からやることができる人は、無条件で召し抱えちゃうからよ~く見ていてね~」
おお、と、歓声を上げる皆。そんなに簡単ではないことはわかるが、何をするのだろう?
すると殿の後ろから付いてきていた弓兵が5名。上泉様から5間の所に並び、構えている。驚く暇もなく、殿の声が聞こえる。
「じゃ、いっつしょーたぁーいむ! がんがんいきましょ~」
長弓の連射が上泉様に飛ぶ。
どれも正確に狙いがつけられている。
危険だ! 危ない!
しかし!
当たらない?
5本中1本程度は太刀で払い落すが、見切っているようだ!
3連射が終わった。
訓練生が固まっている姿へ向けて、殿が声を掛けてくださる。
「これからね。
結構危険な戦に出るかもしれないんだ~。だからね、みんなには死んでほしくないの。まだ自分の事自分で守れないでしょ?
今回の出陣、最後の切り札伊勢ちゃんの率いる部隊なんだ。今みたいに矢を防ぎながら突進するの。
できれば……」
殿の次の言葉が俺たち訓練生の心を掴む。
「あと5年、いや3年?で、できるようになってよ。そして僕の切り札になってほしいんだ。そのくらいになればそう簡単には死ななくなると思うよん、多分。
だよね伊勢ちゃん♪」
上泉様は頷く。
「待ってるよ。
親衛隊(注)諸君!
戦場で会おう!!」
俺たちは、この日、本当に自分の血潮を捧げることを誓った。
注)ナポレオンの近衛兵の通称
華蔵寺公園訓練所
平助
(剣の才能と男気があるリーダー格の青年。後に剣豪のような名前を付けられて遊ばれる)
「それまでっ!」
疋田先生が稽古終了を告げる。
皆、尻もちをついて、ぜえぜえ浅い息をしている。
毎日の事だが、疋田先生のしごきはきつい。
最後は4名の訓練生が束になって、掛かるのだが袋竹刀すべて空を切り、体のどこかしらに疋田先生の袋竹刀が叩き込まれる。
だが、その疋田先生も、上泉様の前では赤子同然だそうだ。どれだけ上泉様は強いのだろう?
いつも見て見たいと思うが、まだ早いとの一言。
「明日から私は御用にて当分相手ができない。よってこれから伊勢守様の剣技を見せていただく。しっかり心に刻むように」
おおっ!
と、皆、喜びの声を上げる。俺もうれしいが、それよりも明日から訓練ができない? だが御用とは?
「訓練はこれから伊勢守様より指針を示していただく。それを自分なりに考え実行に移すように」
訓練についてはこれから楽しみだという事はわかった。しかし、明日から何があるのだろう?
「疋田先生。明日から何があるのでしょうか?」
思い切って聞いてみた。
「……貴様らは大胡に絶対の忠誠を誓うものであるな?」
はいっ!
と、いつもの数倍の大きな声を皆発する。
「よし、こちらに近寄れ。実はな、これから出陣なのだ。松風様の初陣だ。周到な準備をせねばならぬ」
!!!!
松風様の初陣!
我らの恩人、神にも近しいお方。
その晴れの舞台。
雄姿を見たい。
お守りしたい。
その一手となりたい。
「某。必ずや殿のお役に立ちます。お傍に!」
某も某も、と声は続く。
だが、
「控えよ! 私に向かい4人がかりで一筋も太刀を入れられん奴らを連れてはいけぬ」
皆、何も言い返せない。
でもそれは先生が強すぎるせいで……
「先生! 命に代えてでも殿をお守りいたす所存。ですからこの身はどうなっても構いませぬ。連れていってくださいますよう、殿に!」
皆口々に粘るが先生は相手にせず、身なりを整えていた。
するとそこへ遠くから、大きい、そして底抜けに明るい声が聞こえてきた。
殿だ。
聞き間違えることなどあり得ない
「やっほ~。みんな、げんき~~?
上泉大大大先生を連れてきたよ~。
皆で剣を教えてもらお~よ~。ワクワク!」
ここにいる訓練生は皆、賢祥様に助けられ、ここ大胡の龍造寺や公園で過ごす者たちだ。
いつかはこの身で恩返しをと思っている者しかここにはいない。
武術は疋田先生、読み書きは賢祥様のご子息賢慮様が、算術はたまに瀬川様が見てくださっている。
そのうち戦の事についても先生を用意してくださるとのこと。
殿の後ろから、気配を絶つような歩き方で付いてくる上泉様。これから武技を見せていただけるという。
「まずは今からやることができる人は、無条件で召し抱えちゃうからよ~く見ていてね~」
おお、と、歓声を上げる皆。そんなに簡単ではないことはわかるが、何をするのだろう?
すると殿の後ろから付いてきていた弓兵が5名。上泉様から5間の所に並び、構えている。驚く暇もなく、殿の声が聞こえる。
「じゃ、いっつしょーたぁーいむ! がんがんいきましょ~」
長弓の連射が上泉様に飛ぶ。
どれも正確に狙いがつけられている。
危険だ! 危ない!
しかし!
当たらない?
5本中1本程度は太刀で払い落すが、見切っているようだ!
3連射が終わった。
訓練生が固まっている姿へ向けて、殿が声を掛けてくださる。
「これからね。
結構危険な戦に出るかもしれないんだ~。だからね、みんなには死んでほしくないの。まだ自分の事自分で守れないでしょ?
今回の出陣、最後の切り札伊勢ちゃんの率いる部隊なんだ。今みたいに矢を防ぎながら突進するの。
できれば……」
殿の次の言葉が俺たち訓練生の心を掴む。
「あと5年、いや3年?で、できるようになってよ。そして僕の切り札になってほしいんだ。そのくらいになればそう簡単には死ななくなると思うよん、多分。
だよね伊勢ちゃん♪」
上泉様は頷く。
「待ってるよ。
親衛隊(注)諸君!
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