首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第5章:人材スカウト大事です

孤児たち:まつ

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 1543年4月中旬
 華蔵寺公園
 まつ
(公園きっての優秀な女子)


 私は夕日が嫌いでした。
 あの陽が山に落ちていき、落ち際の血が滴るように見えるのが大嫌い。

 父上が戦から戻らなく、家中の者が皆散々になって逃げているうちに野盗に襲われ、母上が乱暴を働かれているのを、お堂の陰に隠れぶるぶる震えながら見ていたのも、夕焼けが周りを染めている頃でした。

 幸い野盗に見つからずに済んだはいいのですが、水すら飲めず戦から逃げ回っていたため、どこにももう逃げる体力も気力も残っていなかったのです。

 ああ、ここで死ぬんだな。
 そう思い、目をつぶろうとした時も、夕日がまぶしかったのを覚えています。

 その翌朝だった? 
 お堂を巡っていたお坊様に握り飯と水をいただいたのは、朝焼けの中でした。

 その後、近くにあったお寺で1月余り休ませていただきました。
 せめてもの恩返しにと、掃除洗濯炊事、そして仏具の整理など全身全霊で働かせていただきました。

 別に、ここにおいていただきたいとか、そのような下心があったわけではないけど。それを見ていたらしい和尚様が、巡礼姿のお坊さんに何かを伝えた後、私を呼びました。

「ここを出て、この方についていけば、そなたの人生に光明が差すかもしれない」
 と言われたのです。

 ああ、ここを追い出されるのか……

 そう思ったけれど抗う気力もありませんでした。
 こうしてお坊様・賢祥さまの後について、大胡の町まで連れてこられたのです。

 来る途中もいくつかのお寺に寄り、私と同じような年ごろの子供を数名引き取り旅をつづけました。

 そして龍蔵寺の境内にほど近い、真新しい建物での生活が始まったのでした。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 ここで私は初めて文字の読み書きと、計算を教えてもらいました。

 出される食べ物も父上母上と暮らしていた時より量もおいしさも比べ物にならないもので、16名の引き取られてきた子らは貪るように毎日食べていたもの。

 私はせめてもと掃除洗濯その他をお手伝いするようになっていきました。


 そんなある日、賢祥様と一緒に一人の子供のお侍様を連れていらっしゃいました。

「やあ。はじめまして~。よく来てくれたね~。ここのご飯はおいし~?」

 とても明るい声で歩いてくると、持っていた籠を振り上げ、

「鯉を獲ってきたから、差し入れね~。たんとお食べよ~♪」

 皆、大騒ぎで感謝を口々に言っていたが、賢祥様の言葉にさらにびっくり。

「このお方は大胡の御殿様で松風丸とおっしゃいます。皆さんをこの大胡に招かれた方ですよ。この方がおられませんでしたならば……」

「おしょさん、それは言わない約束でしょ? 
 ねえねえ。もしよかったら友達になってくれるかな? みんなで楽しく遊ぼうよ。うひ」

 目を輝かせて、踊るように皆の話を聞きに回りだす。

 私は、嬉しそうにしている皆に食べてもらおうと、鯉こくと鯉の洗いを作ろうと台所へ向かいました。
 皆が楽しくしているのを見るのが私の幸せだと思います。
 鯉をさばいていると、あの日の事を忘れるために仕事をしているような気がするので。 皆の笑顔が私の笑顔を引き出して、取り戻してくれることを願って。

 ◇ ◇ ◇ ◇

「鯉の洗いは虫がいるかもしれないから、やめた方がいいかもね~」

 急に後ろから声をかけられました。
 殿さまだ。

 父上の仕えていた殿さまには、声を掛けていただく機会がありませんでした。

 しかし、このように親し気に話すことは無さそうな方に見えました。

 なにか、お返事をしなければならないのでしょうか?

「あ、の…」
「気にしないで。殿さんなんて仕事、ふつ~にやっていれば座ってればいいだけだから、偉いなんてことないから、かしこまらなくてい~んで~す、はい」

 わたしが戸惑って口をパクパクさせているのを見ながら、お道化たようにまくし立てていました。

 殿さまってこんな人が普通なのかな? そうではないのは流石にわかります。


「君は何歳? 
 あ、女性に歳聞くのはご法度だね。ネキが言って……アウアウ、しつれ~だよね~。グーパンものだよね。
 でも君は僕と同じくらいの年? 9歳くらいかな? 僕よりうんと大人っぽいねぇ、尊敬しちゃうなぁ。
 でも、早く大人になっちゃうのはもったいないよ~。もっともっと僕たちは遊ぶ権利があるよね。夢を見る権利もあるよ!
 だから今は食べて寝て遊んで勉きょ~して眠る~。そしてまたみんなとにっこり笑えるように今頑張ろうって思っているんだ……
 あれ? 
 なんでこんなこと言っているんだろ、僕は~? あはは」

 じゃあね~、っと後ろを振り向きつつ手を振りながら外へ出ようとして、殿さまは柱に顔をぶつけてくらくらしながら出て行きました。

 いったい、なんだったのだろう?

 知らないうちに大嫌いな夕日は落ちて、気づくと暗い景色の中に竈の火だけが暖かく周りを照らしていました。
 まるで松風様が灯していったように……

 これが松風様との出会いでした。
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