首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第5章:人材スカウト大事です

遊びをせんとや生まれけむ~

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 1547年4月29日
 大胡城下旅籠貴志権
 義衛門
(手代の話を聞き流したのを後悔している、実は野望があったりする商人)


 大旦那様は旅籠に帰ってから、ずっと腕を組んで考えていらっしゃる。松風丸様との会談で、大変な商談を持ち掛けられたためだ。

 生糸の独占販売権
 織物産業の改革
 干し椎茸の独占販売権
 高級磁器の販売網開拓
 素早い情報の共有
 米穀の共同交易
 焼酎の委託製造販売権
 改良され効率の良い荷駄器具の貸与
 或粉保流の極秘販売

 これらの提案を受けたのに対して松風様は、

「御用商人じゃなくて、同じことを望む友達になってくれる~?  一緒にたのしも~♪」
 と、それだけを要求として出してきた。

 小さいとき手代の伝兵衛が、「えれえ童だぁ」と言っていた気がするが、初めてお会いして痛感した。

「もっと早くに面会しておくべきだった」と。

「義衛門さん。詮無きことであるが、今少し早くお会いできればよかったな。お前を責める気はない。ただこのままでは梁田屋さんにすべて持っていかれる」

「ですが、あちらの条件は、一緒にたのしもうよ、という漠然としたものです。あいまいな条件ならば、その時の都合によって……」

 すると大旦那様は、急に怒ったようにおっしゃった。

「あきんどは信用が第一であるな? 友達の意味、一緒に遊ぼうという意味。これが大事だよ。その友達は盟友という意味だと私は捉えた。
 そして……」

 私は次の蔵田屋の方針を、聞き漏らさまいと身構えた。

「天下を明るくする、平穏にする。働いただけ幸せになる世。これを実現するため、一緒に汗を流す仲間にならないかと持ち掛けられたわけです。
 総取りか、はたまた一切手を出せず、悔しい思いをすることになるか。総取りは嬉しいが、他の大店・商人司殿には総すかんを頂けるね、間違えなく」

「では。蔵田屋の存続をあの少身の国衆に掛けると?」

「義衛門さんは1度しか会う機会がなかったようですが、これから越後の動乱、まずは長尾景虎様が収めることになりますね。戦の守護神がついていらっしゃる。
 しかし……商いは一切ご興味を示さない。だからこそ御用商人として甘い汁が吸える、越後にて大身になれる、と思っていました。
 ですが……ここへ来て迷いが生じました。松風様に比べるとあまりにも意識が……低い。景虎様は目の前の戦の事しかお考えでない。そこに全ての人生を懸けていらっしゃる。
 それがどうです? 松風丸様は……」

 大旦那様はいつもより饒舌になっておられる。

「天下国家を語っている。
 もしそれが建前であったとしても、その行いが百姓ひゃくせい、全ての者の安寧に寄与することをしていらっしゃるし、これからもするでしょう。
 どちらに付けば蔵田屋の将来、いや、後世の日ノ本の経世済民に寄与できるか、それで蔵田屋の子々孫々が繫栄していけるか、もう見えているのですが……」

 大旦那様は商人あきんどの魂『稼ぐ』という事を超えて、後世のことを考えていらっしゃる。

 しかし、松風丸様を選ぶとしたら、殆ど全ての商人を敵にするかもしれぬ。

 それだけの意味があるのか?
 いや、もっと他の方法があるのでは?

 ……経験の少ない私にも、先ほど別れ際に松風丸様が口ずさんでいた和歌を聞いて、思いついたことがある。

「大旦那様。
 松風丸様が帰り際に口ずさんでいた今様いまようをお聞きになりましたか?」

「いや。聞こえませんでした。なんの今様ですか?」

 私は真似て諳んじて見た。


 「遊びをせんとや生まれけむ 
 戯れせんとや生まれけん」


「……『梁塵秘抄』ですか。それで?」
「私の拙い思い付きですが、皆さまでお遊びなさればよろしいのではないですか?   1人で遊んでいても詰まりますまい」

 大旦那様は一瞬、私の顔をまじまじとご覧になり、

「義衛門さんや。そなたも大分人が練れてきたようですね。私は気づきませんでした。そうですね。皆で遊べばよい、ですか。
 よし、決めました。
 義衛門さん、あなたはこれから大胡番として働いてもらいます。私は各地の大店に繋ぎを付けて、この大商いにご一緒する人はいないか、一緒に平和な世で商いをしたい方を探しましょう!
 まずは会津の梁田屋さんに……」

 これは大変だ。
 一番重要なのは、要である大胡の殿との交渉になる。それを私にやれと? 恐れ多いと共に、これからが私の正念場であり、檜舞台であると心が勇んだ。

 それにしても松風丸様は明るい方だ。周りを朗らかにしてくださる。
 ついつい乗せられている私を感じていた。自分がニヤリと笑っているのに気が付いた。

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