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第4章:初戦闘だよ~
1:5で勝利 ♪
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1546年4月21日午の刻(午前11時)
大胡是政陣南東4町:垪和勢本陣
垪和左衛門太夫
(北条先手衆、伊豆衆半数を指揮)
お味方大勝利の余勢を駆って、敗走する敵を追撃するように仰せつかった。
3刻程、兵を休めた後、松山城に向けて出立した。此度の戦において、儂の軍勢が一番功を上げていない。
といっても、此度は「首は討ち捨てにせよ」との命が出ており、感状などは期待できないが。
ただ、儂ら伊豆衆は坂東に来てから、どこの領地をもらうかまだ決まっておらぬ。
「できれば此度の追撃戦で松山城を」
と思わざるを得ない。
無理はできぬが、眼前の敵の殿200が隘路(通れるところが狭くなる要衝)に布陣するも、回り込めば包囲できる。
特に右手の雑木林、長柄は無理でも太刀を佩いただけの雑兵が通り抜けて向こうの背後に出れば、一気に崩れるだろう。
正面は一当たりして様子を見ればよい。
「物見は帰ったか?」
「いえ。まだでございまする」
おかしい。
もう半刻も過ぎている。
大した距離でもない。
討ち取られたか?
もう一度物見を出そうと指図をしようとした時、敵陣より大声の罵詈雑言が聞こえてきた。
「垪和勢は宿無しと聞く!
伊豆から追い出されて、いいように使われ、すり減らされて終わりかのう!
可哀そうに!!」
ガハハハ!!
「今頃、北条の本陣は大宴会じゃのう!!
垪和の者は除け者だなあ~~!!
可哀そうにのう!!」
わっはははっはは!!!
「聞けば、 此度の戦では垪和の者は、味方の後ろでぶるぶる震えていて手柄が全くなかったそうな!!
不憫じゃのう!!!」
ひ~ひひひ!!!!
「おお、それでこの松山城を取りたいと焦ってここまで来たのか!?
さもしいの!!!!」
わ~はっはっはっ!!!!!!
言葉合戦で負ければ戦は半ば負け。既に配下の者は、怒り心頭に達している。儂も気分が悪いわ。
とりあえず朝定の最後を大声で揶揄ったが、殆ど効いておらぬようじゃ。益々、罵詈雑言がひどくなる。
もう配下を押さえられぬ。
一当てするか。
◇ ◇ ◇ ◇
何をやっておる!
先ほど儂の命が届いた戸田隊200。
弓兵を先頭に前進。弓で制圧しつつ長柄が前進。無難な攻めだが。
隘路を左右に横断した幅1間ほどの水路。
それに沿って街道の左右に、小木を根元から切り枝を鋭く切り取ったものをこちらへ向けて固定している。
そのため中央の幅10間程度の狭い場所で長柄で競り合うことになった。
敵は旗を増やし偽計を謀っていた。実際は50人程度だろう。
長柄の数にして3倍とみて、強引に押し込んでいる。
敵の長柄は、なかなかしぶとい。
こちらの方が手負いが増えている。時折、がくんと膝をついて倒れるものがいる。何が起きている?
それでも開戦から四半刻も過ぎないうちに、敵の長柄隊右翼が崩れた。後退する敵に戸田の大声を合図に追撃が始まる。
その後ろに控えた第二陣も隘路に突入した。右手の雑木林にも右翼100が侵入していった。こうなるともう総攻めになるしかない。儂の本陣も前に進めた。
第二陣までがすべて隘路を抜けたとき、右手の雑木林から数十名の敵勢が立ち上がり長槍を振りかざし、あろうことか投擲した。
それも三投も。
桶側胴は脇が弱い。
右からの投げ槍に襲われた第二陣は崩れた。それ以前にも密かに弓を使っての狙撃をしていたようだ。これで多くの指揮官を失った第二陣は壊乱した。
その奥に突入していた戸田勢は孤立した。
動揺する戸田勢の正面右翼から大音声の鬨の声とともに70余りの敵兵が突入してきた。
先頭の2名の武者が長大な手槍で味方の兵をなぎ倒している。
隘路の向こうに突っ込んだ500ほどがほぼ無力化された。これは右翼が横槍を入れるにしても、成功の見込みがない。
戻したいが、間に合うかどうか……
◇ ◇ ◇ ◇
儂も焼きが回ったわ。右に注意を逸らされすぎていた。
左の湿地に今まではなかった足場が渡されていた。
それを渡って仰々しい甲冑を着こんで大盾を振りかざした50人ほどの一団が横一列で近づいてくることに気づくのが遅れた。
「左、敵徒武者らしき備え50! 接近!!」
「左翼迎え撃て!」
50余りの弓兵が連射するも、盾に突き刺さるか鎧に刺さるのみ。貫通はしていないようだ。150ほどの左翼が正面から長柄を突きだす。
しかし、こちらの長柄を大盾に体重を載せ地面に圧迫して前進。そのまま厚手の段ビラで長柄足軽をぶち倒して、更に前進してくる。
瞬く間に左翼が壊乱した。
もう儂の本陣まですぐだ。長柄を左に向けるには遅いか?
遅いと思いつつも方向転換の下知をしたのがまずかった。雑木林での戦闘に勝ったらしい敵左翼が、右手から攻め寄せる気配を見せた。
唯一の予備、後備えの100をこれに充てる。
左手がまた壊乱した。
並足だが敵の鎧徒武者の集団が、ついに儂の本陣5間まで到達。
旗本が応戦するが、敵は槍を払ったのち大盾を捨てて、背から小ぶりな弩弓を降ろし、それを構えて斉射しながら突っ込んでくる。
射た後弩弓も捨て去り、頑丈な大太刀を振り回す巨躯の鎧武者集団。
これはかなわんわい。
悔しいが、ここは総退却しかないな。
愛馬の首を廻らし、儂は引き鐘を鳴らさせた。
大胡是政陣南東4町:垪和勢本陣
垪和左衛門太夫
(北条先手衆、伊豆衆半数を指揮)
お味方大勝利の余勢を駆って、敗走する敵を追撃するように仰せつかった。
3刻程、兵を休めた後、松山城に向けて出立した。此度の戦において、儂の軍勢が一番功を上げていない。
といっても、此度は「首は討ち捨てにせよ」との命が出ており、感状などは期待できないが。
ただ、儂ら伊豆衆は坂東に来てから、どこの領地をもらうかまだ決まっておらぬ。
「できれば此度の追撃戦で松山城を」
と思わざるを得ない。
無理はできぬが、眼前の敵の殿200が隘路(通れるところが狭くなる要衝)に布陣するも、回り込めば包囲できる。
特に右手の雑木林、長柄は無理でも太刀を佩いただけの雑兵が通り抜けて向こうの背後に出れば、一気に崩れるだろう。
正面は一当たりして様子を見ればよい。
「物見は帰ったか?」
「いえ。まだでございまする」
おかしい。
もう半刻も過ぎている。
大した距離でもない。
討ち取られたか?
もう一度物見を出そうと指図をしようとした時、敵陣より大声の罵詈雑言が聞こえてきた。
「垪和勢は宿無しと聞く!
伊豆から追い出されて、いいように使われ、すり減らされて終わりかのう!
可哀そうに!!」
ガハハハ!!
「今頃、北条の本陣は大宴会じゃのう!!
垪和の者は除け者だなあ~~!!
可哀そうにのう!!」
わっはははっはは!!!
「聞けば、 此度の戦では垪和の者は、味方の後ろでぶるぶる震えていて手柄が全くなかったそうな!!
不憫じゃのう!!!」
ひ~ひひひ!!!!
「おお、それでこの松山城を取りたいと焦ってここまで来たのか!?
さもしいの!!!!」
わ~はっはっはっ!!!!!!
言葉合戦で負ければ戦は半ば負け。既に配下の者は、怒り心頭に達している。儂も気分が悪いわ。
とりあえず朝定の最後を大声で揶揄ったが、殆ど効いておらぬようじゃ。益々、罵詈雑言がひどくなる。
もう配下を押さえられぬ。
一当てするか。
◇ ◇ ◇ ◇
何をやっておる!
先ほど儂の命が届いた戸田隊200。
弓兵を先頭に前進。弓で制圧しつつ長柄が前進。無難な攻めだが。
隘路を左右に横断した幅1間ほどの水路。
それに沿って街道の左右に、小木を根元から切り枝を鋭く切り取ったものをこちらへ向けて固定している。
そのため中央の幅10間程度の狭い場所で長柄で競り合うことになった。
敵は旗を増やし偽計を謀っていた。実際は50人程度だろう。
長柄の数にして3倍とみて、強引に押し込んでいる。
敵の長柄は、なかなかしぶとい。
こちらの方が手負いが増えている。時折、がくんと膝をついて倒れるものがいる。何が起きている?
それでも開戦から四半刻も過ぎないうちに、敵の長柄隊右翼が崩れた。後退する敵に戸田の大声を合図に追撃が始まる。
その後ろに控えた第二陣も隘路に突入した。右手の雑木林にも右翼100が侵入していった。こうなるともう総攻めになるしかない。儂の本陣も前に進めた。
第二陣までがすべて隘路を抜けたとき、右手の雑木林から数十名の敵勢が立ち上がり長槍を振りかざし、あろうことか投擲した。
それも三投も。
桶側胴は脇が弱い。
右からの投げ槍に襲われた第二陣は崩れた。それ以前にも密かに弓を使っての狙撃をしていたようだ。これで多くの指揮官を失った第二陣は壊乱した。
その奥に突入していた戸田勢は孤立した。
動揺する戸田勢の正面右翼から大音声の鬨の声とともに70余りの敵兵が突入してきた。
先頭の2名の武者が長大な手槍で味方の兵をなぎ倒している。
隘路の向こうに突っ込んだ500ほどがほぼ無力化された。これは右翼が横槍を入れるにしても、成功の見込みがない。
戻したいが、間に合うかどうか……
◇ ◇ ◇ ◇
儂も焼きが回ったわ。右に注意を逸らされすぎていた。
左の湿地に今まではなかった足場が渡されていた。
それを渡って仰々しい甲冑を着こんで大盾を振りかざした50人ほどの一団が横一列で近づいてくることに気づくのが遅れた。
「左、敵徒武者らしき備え50! 接近!!」
「左翼迎え撃て!」
50余りの弓兵が連射するも、盾に突き刺さるか鎧に刺さるのみ。貫通はしていないようだ。150ほどの左翼が正面から長柄を突きだす。
しかし、こちらの長柄を大盾に体重を載せ地面に圧迫して前進。そのまま厚手の段ビラで長柄足軽をぶち倒して、更に前進してくる。
瞬く間に左翼が壊乱した。
もう儂の本陣まですぐだ。長柄を左に向けるには遅いか?
遅いと思いつつも方向転換の下知をしたのがまずかった。雑木林での戦闘に勝ったらしい敵左翼が、右手から攻め寄せる気配を見せた。
唯一の予備、後備えの100をこれに充てる。
左手がまた壊乱した。
並足だが敵の鎧徒武者の集団が、ついに儂の本陣5間まで到達。
旗本が応戦するが、敵は槍を払ったのち大盾を捨てて、背から小ぶりな弩弓を降ろし、それを構えて斉射しながら突っ込んでくる。
射た後弩弓も捨て去り、頑丈な大太刀を振り回す巨躯の鎧武者集団。
これはかなわんわい。
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