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第4章:初戦闘だよ~
大胡は敗走しましぇん。既定のコースです
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1546年4月21日午の刻(午前11時)
武蔵国松山城南方30町(3km)新江川・市野川合流地点
長野政影
(松風用指揮戦闘車両です)
前方に流れる新江川を、多分最後であろうお味方の兵が渡ってきた。殆どの兵が装備を捨てて、重い足取りで松山城を目指す。
上野勢は、さらに8里以上の道のりを踏破せねばならぬ。
扇ケ谷上杉家の本拠、松山城が見える地点まで来てようやっと後ろから北条が追ってくる恐怖から逃れることができたようだ。
ここに仮陣屋と補給処を作る差配をした殿の先見性に尊崇の念を改めて胸に刻みこんだ。荷駄隊の佐竹殿の配下が集積しておいた米を炊いている。
荷駄隊は昨日のうちにここまで後退し米の炊き出しと飲水の配布、糒をできる限り多くの兵に手渡している。
昨日の昼間の戦さで入間川まで撤退したのち、だれも我が大胡勢の消息と命令・布陣を確認しなかった。
無視するというよりも気にもしなかったのであろう。もしくは朝とは全く違う右翼におり旗差し物が全くなく、ひっそりと休憩しているからなのか?
本陣との距離が遠かったこともあろう。いずれにしてもお味方の気の緩みが甚だしい。大胡勢は密かに陣を払った。
「もう十分働いたよね。御恩分は返したと思うよ。サビ残はブラックだいみょ~」と、殿は無断の撤退を全く気にしていなかった。
一応、松山城まで後退し、焼酎や兵糧を取りに行き他陣に届けるとの知らせを本陣へと使い番を走らせている。遠目で酒樽が積み重ねてあるのは誰にでも見えるであろうから不審に思うものはいない。
大胡勢は未の刻(午後1時)には入間川まで到達し、酉の刻(午後5時)にはそこを出立。戌の刻(午後10時)頃には、先だって設営した補給処に帰陣した。
街道には、道に沿って刺された竹に白い布が括り付けられ、夜間行軍を助けていた。
それから寅の刻(午前4時)まで休息を取り、夜戦の結果を待っていた。勿論、お味方勝利の際には祝いの酒を持って行くわけだ。
そして実際は殿のお見立て通り、お味方の大惨敗との報がもたらされる。改めて敗残兵の収容の準備を始め今に至る。
「さて。たねちゃん。
そろそろしのちゃんの備えを先陣で、伏撃地点まで前進しようか。
みんな休めたかな~?」
皆、代わる代わる休息を取り、もう一戦を行う準備をしていた。
「全員、準備が終了しておりまする。いつでもご下知を下され!」
上泉秀胤殿が勢いよくお応えする。
「では、全員出発してちょうだいね」
事前に指図された作戦では、新江川より南東3町の右手、小さな湿地を避けてこちらに伸びる街道を、左手の雑木林にて東雲殿の備え50が伏撃。
街道上、新江川の畔には後藤殿の備え50が伏せている。
その前方、雑木林と湿地の間で街道上の小さな隘路となっている地点に、大胡是政殿の50。
是政殿の備えには、多数の「扇ケ谷上杉家の旗差し物」が立てられている。松山城の城代と交渉して借りたものだ。
普通なら旗差し物を貸し出すなど考えられぬ。
どうやら大敗北を喫し難波田殿も討ち死したことにより、冷静な判断が下せなくなっているのだろう。
そのお陰で南からは200以上の備えが隘路に布陣しているように見える。追っ手が最初から大迂回しなければ策が嵌まるやもしれぬが……
いや、殿を信じよう。
「見えたね~追っ手。あの家紋は誰~?」
「はっ。垪和左衛門太夫配下。戸田頼母200」
秀胤殿、相当家紋を調べたらしい。
いつもながらの勉強家ぶり、恐れ入る。
「いいねいいねぇ。あてずっぽに準備した割には当たったね。これで言葉合戦、勝ったな! 先おめ」
「殿。それも旗を立てる台詞と伺いましたが……」
殿は「おぅふ」と唸りながらも気を取り直し、上にあげていた右手を前方に振り下ろし前進の合図をする。
「ぱんつぁ~ふぉ~♪」
まったく意味が分からず。
とりあえず、秀胤殿が各備えに使い番を走らせる。
武蔵国松山城南方30町(3km)新江川・市野川合流地点
長野政影
(松風用指揮戦闘車両です)
前方に流れる新江川を、多分最後であろうお味方の兵が渡ってきた。殆どの兵が装備を捨てて、重い足取りで松山城を目指す。
上野勢は、さらに8里以上の道のりを踏破せねばならぬ。
扇ケ谷上杉家の本拠、松山城が見える地点まで来てようやっと後ろから北条が追ってくる恐怖から逃れることができたようだ。
ここに仮陣屋と補給処を作る差配をした殿の先見性に尊崇の念を改めて胸に刻みこんだ。荷駄隊の佐竹殿の配下が集積しておいた米を炊いている。
荷駄隊は昨日のうちにここまで後退し米の炊き出しと飲水の配布、糒をできる限り多くの兵に手渡している。
昨日の昼間の戦さで入間川まで撤退したのち、だれも我が大胡勢の消息と命令・布陣を確認しなかった。
無視するというよりも気にもしなかったのであろう。もしくは朝とは全く違う右翼におり旗差し物が全くなく、ひっそりと休憩しているからなのか?
本陣との距離が遠かったこともあろう。いずれにしてもお味方の気の緩みが甚だしい。大胡勢は密かに陣を払った。
「もう十分働いたよね。御恩分は返したと思うよ。サビ残はブラックだいみょ~」と、殿は無断の撤退を全く気にしていなかった。
一応、松山城まで後退し、焼酎や兵糧を取りに行き他陣に届けるとの知らせを本陣へと使い番を走らせている。遠目で酒樽が積み重ねてあるのは誰にでも見えるであろうから不審に思うものはいない。
大胡勢は未の刻(午後1時)には入間川まで到達し、酉の刻(午後5時)にはそこを出立。戌の刻(午後10時)頃には、先だって設営した補給処に帰陣した。
街道には、道に沿って刺された竹に白い布が括り付けられ、夜間行軍を助けていた。
それから寅の刻(午前4時)まで休息を取り、夜戦の結果を待っていた。勿論、お味方勝利の際には祝いの酒を持って行くわけだ。
そして実際は殿のお見立て通り、お味方の大惨敗との報がもたらされる。改めて敗残兵の収容の準備を始め今に至る。
「さて。たねちゃん。
そろそろしのちゃんの備えを先陣で、伏撃地点まで前進しようか。
みんな休めたかな~?」
皆、代わる代わる休息を取り、もう一戦を行う準備をしていた。
「全員、準備が終了しておりまする。いつでもご下知を下され!」
上泉秀胤殿が勢いよくお応えする。
「では、全員出発してちょうだいね」
事前に指図された作戦では、新江川より南東3町の右手、小さな湿地を避けてこちらに伸びる街道を、左手の雑木林にて東雲殿の備え50が伏撃。
街道上、新江川の畔には後藤殿の備え50が伏せている。
その前方、雑木林と湿地の間で街道上の小さな隘路となっている地点に、大胡是政殿の50。
是政殿の備えには、多数の「扇ケ谷上杉家の旗差し物」が立てられている。松山城の城代と交渉して借りたものだ。
普通なら旗差し物を貸し出すなど考えられぬ。
どうやら大敗北を喫し難波田殿も討ち死したことにより、冷静な判断が下せなくなっているのだろう。
そのお陰で南からは200以上の備えが隘路に布陣しているように見える。追っ手が最初から大迂回しなければ策が嵌まるやもしれぬが……
いや、殿を信じよう。
「見えたね~追っ手。あの家紋は誰~?」
「はっ。垪和左衛門太夫配下。戸田頼母200」
秀胤殿、相当家紋を調べたらしい。
いつもながらの勉強家ぶり、恐れ入る。
「いいねいいねぇ。あてずっぽに準備した割には当たったね。これで言葉合戦、勝ったな! 先おめ」
「殿。それも旗を立てる台詞と伺いましたが……」
殿は「おぅふ」と唸りながらも気を取り直し、上にあげていた右手を前方に振り下ろし前進の合図をする。
「ぱんつぁ~ふぉ~♪」
まったく意味が分からず。
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