首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第4章:初戦闘だよ~

相模の獅子が吼える!

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 1546年4月20日申の刻(午後4時)
 武蔵国川越城南方2里狭山砂窪中間地点
 北条氏康
(絶頂期の相模の獅子)


 予想よりも損害が大きかった。
 山内上杉勢に一当てした後、後退する予定はうまくいったが、回り込んだ寡兵により火の手を上げられた。
 小荷駄が危ぶまれたため、慌てた後備えが弓兵を100ほど手当したが見事に撃退された。

 危うく全軍、裏崩れする所であった。後方の備えの士気が落ちると危険だ。
 手当が難しい上、前方で果敢に戦っている兵が不安になり潰走することが多い。

 折角、今川との手打ちが無事終わり乾坤一擲の戦の態勢ができたのだ。鎌倉公方(足利晴氏)への調略でこちらを舐めて掛かるように仕向けた。案の定、本隊が接近すると憲政が突っかけてきた。
 ここまでは儂の想定通りに進んでいる。

 あとは今夜の夜襲の如何にかかっている。
 もう川越城の長綱叔父上(後の幻庵)、大道寺と網成には繋ぎは付いている。扇ケ谷を滅ぼす何重もの策・あぎとが締まりつつある。

 だが最後まで気は抜けぬ。闇の中での行軍は危険だ。早々に陣を砂窪方面に展開せねば。

「あの後備えを翻弄した一隊はどこの国衆じゃ?」
「はっ。先ほど打ち捨てられた幟を確認したところ、西上野大胡氏の手勢と確認いたしました」
「大胡……新田金山で当主が親子ともども討ち死にした国衆か?」
「はっ。現在は厩橋長野家の一族より養子として松風丸という12の童が入り、当主となっておりまする」

 12か……
 よほど秀でた後見がついているのだろう。
 あの方面の調略は松田に任せているが今はそれどころではない。
 後で聞いておくか。

「して、憲政の陣は何処か分かったか?」
「はっ。戦勝に酔ってか、事もあろうに、丘に戻らず低地にて兵を休めておりまする」
「痴れ者が。夜討ちがあるなど想像もできぬのか。少々、分進合撃する手はずの備え、攻める方角を直さねばならぬな。それと扇ケ谷はどうじゃ」

 別の使い番が答える。

「現在、川越城北10町まで南下しておりまする」

 これはまずいな。
 余り近いと、川越城を打って出る時の開門が気取られてしまう。
 なぜ昼間の陣から前進したのじゃ。

「風魔からの繋ぎは?」
「ありませぬ。敵陣深く潜入している模様」

 こちらも想定通りにはいかぬ。ただ、風魔の埋伏はうまくいっているようだな。

 戦は失策が少ないほうが勝つ。こちらよりも敵が多く失策をすれば勝てる。
 今のところ、敵の失策が多い。

 自信を持て!
 ここが先途ぞ。

 ◇ ◇ ◇ ◇

 1546年4月20日戌の刻(午後8時)
 武蔵国川越城北方10町
 扇ケ谷上杉朝定
(太田資正を後備えにしているおバカさん……)


 昼間の総掛かりは勝利に終わった。

 敵北条氏康の軍勢8000は、潰走とまではいかぬが遠くまで後退したとのこと。
 増援に出していた難波田が帰ってきて報告した。

 どうやら囮にしたはずの大胡松風丸の寡兵が、敵陣後方を横断したために北条方の後備えが崩れたようだ。

 あの童は内政だけでなく戦も人一倍こなすのか。興味が出てきた。

「難波田。あの松風丸の戦、どう見る?」

 難波田はにやりと笑い

「あれは、ずいぶんと家臣に慕われておりますな。敵中横断など儂の備えでもビビりますじゃ」

 そういえば代替わりしてからまだ5年か。それで家臣を掌握しているとは。

「あの者にはだれが後見しているのだ?」
「おりませぬな。遠目で見ている限り、指揮をしているのはあの童です」

 信じられぬ。
 百戦錬磨の難波田が舌を巻くほどの戦上手なのか?

「それから戦が終わった後、松風殿から使者が届きました。手紙がこれに」

 封書が手渡された。

『風魔に注意されたし。
 また今宵は夜討ちもあり得るやも。
 陣を下げるのが得策かと』

 管領に何を指図するか!と、憲政殿なら怒り捨て置くであろうが先の話の後では捨てておけぬ話じゃ。

「難波田。川越城から討って出る可能性は?」
「氏康本隊との繋ぎがとれていればあり得るでしょう」
「その際の手当は?」
「開門が見えるところまで前進いたしましょう」
 
 そのように手配する指示をした後、まさかと思うが公方様と憲政殿に夜襲の可能性があると使いを送ろう。

 ほかに何か忘れた気がするが、思い出せずに仮眠を取ることにした。

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