首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

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第4章:初戦闘だよ~

やるっきゃないのう、皆の衆【最初の大規模戦闘】

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 1546年4月20日巳の刻(午前9時)
 武蔵国川越城南方1里(40町=4km)
 上泉秀胤
(いつも何かを勉強している勉強家)


 早朝に山内上杉勢1万3000は川越城を包囲するために陣を張っていた、城から南西の小高い丘から降りる。

 南西半里(2km)に布陣する北条氏康率いる8000を目指し、鶴翼の陣にて前進していく。北条軍は魚鱗の陣に陣を組みなおし迎え撃つ態勢である。

 我が大胡勢は……
 鶴翼の陣の最左翼(東端)だ。

 鶴翼の陣は兵数の多い側が、少ない側を包囲撃滅する陣。
 対する魚鱗の陣は、精鋭の先鋒を先駆けとして、敵方の中心に攻撃を集中して、主力を撃破することを目的としている。

 そして大胡勢は最左翼から、敵方右翼の南を回り込み敵後方に出る事が評定で決められた。
 勿論、だれでもわかることだが敵陣奥まで深く進むことで、ほとんどお味方から分断・孤立する。

「ここまで来たら覚悟を決めるしかないのう、各々方!」

 後藤殿が、片手で朱槍を地に突き立てるようにして仁王立ちをする。
 ご自慢の鐘馗髭が逆立つのが見える。

 他の方々も、武者震いをするもの。
 北条方をねめつけるもの。
 顔を両手で引っぱたくもの。
 それぞれの方法で気合を入れている。

「だいじょぶだから~。気合を入れてもいいけど、せめて1刻はその気合を持たせてね~」

 殿の気の抜けた言葉が、皆の肩の余分な力が抜けてちょうどよい緊張を纏っている。

「さて、これからの方針を説明しますね~」

 皆が殿の言葉を、固唾を飲んで待っている。
 某も一言も聞き逃さないように身構える。

「今、物見をしている人が戻ったら敵の小荷駄を狙います!……
 と、見せかけて~、
 南西に駆け抜けますね~♪ 
 だから今までの訓練を存分に発揮して、駆けましょ~ね」

 足は全く動かさず手だけで走る真似をしている殿。必死で走ると必ず転ぶから政影殿にいつも止められている。
 今は、政影殿が背負っている背負子しょいこの上に立って北条勢の布陣を背伸びして眺めている。

「殿! 物見の者が戻ってまいりました!」

 大胡是政殿の配下の者が警備を解いて物見を招き入れる。

「北条方小荷駄。富士見野方面、約1里に集結中。北条方の後備えとの距離半里」

「ありがとね! これ少しだけどお仲間に何か食べさせてあげてね~」

 殿が物見に出ていた山家の長をねぎらい、小粒金の袋を差し出す。

 あまり興味がなさそうでもあるが、仲間に何かを食べさせることを考えたのかおずおずと手を出して受け取り懐にしまった。

 単なる物見に対して小粒金一掴みとは? 
 殿の感覚がわからない。

「それで、風魔には邪魔されなかった?」
「へい。1人も影が見えなかったですな。お味方と北条軍の近辺に伏せているやもしれませんな」

 殿は少し考えた後、山家の長に

「無理のない程度に、風魔の居場所を探ってくれる? 無理しないでね、くれぐれもね」

 いつもより真面目な様子で殿が仰った。諜報部隊がいなくなるのが一番痛いから、とのこと。

「さて。
 それじゃあ出陣の合図あったら、お仁王さんの備えから出立しましょ~。
 それに先行して物見を立ててね。たねちゃんそこんとこよろぴく」

 某は先に選定しておいた目先の利く兵を10名に指図をした。

 この者たちは軽装で、なめし革の胴着と小手、まむし除けの藍染めの脚絆きゃはん。そして殿が作らせた合羽という麻で作ったみののようなものを羽織っている。
 頭には、上に草を括り付けるための網を付けた菅笠をかぶる。

 この合羽は深緑色に染められており、この季節の風景に溶け込みやすい。この10名の行動が大胡勢の死命を制する。

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