首取り物語~北条・武田・上杉の草刈り場でざまぁする~リアルな戦場好き必見!

👼天のまにまに

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第3章:初陣だよ

あいつ、いつかざまぁしてやる!

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 1546年4月中旬
 武蔵国川越城東20町古河公方本陣
 上杉朝定ともさだ
(坂東の名家の若き当主。案外真面まともという設定)


 成程、小さい。
 目の前で頭を下げ座っている童、大胡松風丸。
 12になるとか。
 その割には体躯が小さい。

 ちゃんと食っているかと問いたい気もするが、憲政殿の家臣、失礼に当たるやもしれぬ。

 問題はそのつむりの中身だ。一体いかにしてあのような酒や石鹼などの特産品を生み出したのか。

「ほう。これはまたきついのに円やかなる味わい。
 良い酒じゃ」

 古河公方、足利晴氏様が目を細めて呟く。その隣に座り憮然とした様子で焼酎をグビッと飲んでいる上杉憲政殿。

 私はこの者を好きとは言えぬ。
 どうも眼が冷たいのだ。
 色々と悪いうわさも聞いているが、小田原から北上し我が軍勢と合戦に及んでいる後北条氏。これを打ち払うためには手を組まねばならなかった。

 そうしてこの川越城を囲んでいる。
 ここは陣幕の中。
 皆、床几に座り、この松風丸の運んできた焼酎に舌鼓を打っている。

 3勢力の首脳が一同に会するのは戦場でどうかとも思うが、たまの気晴らしもかねての評定という触れ込みだ。
 早い話が飲みたいだけであろう、ご両人。

 それと……

「その方、松風丸と言うたな? 
 この焼酎、その方が作ったとのもっぱらの噂。
 誠か?」

 古河公方晴氏様は今年で38になられる。どうも中身のない話が多い。
 此度の松風丸への呼び出しも、単なる余興として思いついたらしい。今年12の元服もしていない国衆の当主本人が来ることもなかろう。

 憲政殿に松風丸当人を寄こすようにとご下令したのだ。憲政殿はいやいやであったが従った。この松風丸を寵愛して居るようには見えぬが、何かがあるのか?

「いいえ。某ではござらぬ。
 幼少期に育てていただきました厩橋の町にて様々な工夫をいたす者がおり、その者を支援して作らせました」

 なかなかしっかりとした受け答え。
 それを見る憲政殿は、益々嫌な顔になりそっぽを向きながら盃を傾けている。

「そうであるか。
 人を使いこなすのも大事な才。見事じゃ」

 鷹揚に声をかけるが、次の言葉に本心が表れていた。

「そこでの。
 儂もこの焼酎とやら、領国にて作ってみたいと思っての。
 その者を寄こさぬか? 
 悪いようにはせぬ」
 
 まったく!
 この焼酎で大胡の家が、どれだけの収入を得ているか分かっておるのか? 
 此度の長対陣にも米銭を収めており、私にも矢銭を寄こしてきた。

 少しばかりの見返りとして領地に、今後のお味方への荷駄の輸送の仮陣屋を懸ける許可をと申してきた。

 その元手を取り上げようとなさる。
 ただ、酒が飲みたいという欲にて!

 松風丸は下を向いたままなので表情はわからぬが、12にもなれば家臣に言われなくとも、無体なことを言われているのはわかるであろう。

 どう切り抜けるか見たい気もするが、ここは助け舟を出そう。

「あいや、お待ちくだされ。公方様。元服もまだの童をもてあそんではなりませぬ。
 公方様に置かれては酒屋のような下賤のことに手を染めるのは恐れ多い。
 これ、松風丸とやら。
 公方様に置かれてはこの焼酎をお気に入りじゃ。古河までしょっちゅう届けよ」

 し~んと、静まり返ってしまった。
 わざと面白くない洒落をついたが、これで気がそがれたじゃろう。

「そのようなことより、折角来たのじゃ。武勲を立てて見せい! 
 小さき童なれど、わが山内上杉家の家臣であろうが」

「これは異なことを。
 大胡勢、僅か200余りと聞き及びまする。しかも酒を運びに来ただけとお伺いいたした。そのようなものに大事な総がかりの戦の一翼を任せるとは憲政殿らしくな……」

 口の中の苦虫を吐き出すようにこれまた無体な言い様に、ついつい反論してしまった。しかしそれを遮るように

「大胡の備えを囮に、総掛かりの戦を有利に運べるではないか。公方様も毎日酒が飲めるようになる。良いことずくめじゃ」

 !!

 周りの重臣は止めぬのか!?
 山内上杉家の長尾殿、安中殿、小幡殿は困ったような表情だが口を挟まぬ。公方様の重臣は酒に気を取られている晴氏様を止められないでいる。
 このような事が陣幕の外に漏れ聞こえては士気にかかわる!

 何を考えておる、この2人は!!

「某は納っと……」

 立ち上がり叫ぼうとした私の袖を左から家宰の難波田がグッと引っ張り、無言でその言葉を諫めた。

 私の暴発を防いでくれたか。

「某も見とうござるなぁ。この知恵のまわりそうな童が、いかなる戦をするか。気になりまする」

 公方様も難波田のその一言で、その気になった。

「なるほどそれは興味深いの。では、来る総掛かりの戦評定には松風、そなたも顔を見せい」
「は、確かに承りました」
「下がってよいぞ」

 なんということ。
 ここまで腐っておるのか、我が勢力は。
 長い権勢が血を濁したのか……
 私もその一員だが。

 暗澹たる思いが酒を不味くした。

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